軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44話 やるじゃん。俺

「さあ張った張った!今日一番の注目カードだよ!なんだか調子の良さそうな我らが期待の星アーケン!対するは、ローズマル家のノエル嬢を口説き落とした成り上がりのハチ。転機が巡れば将来我らの領主様になる可能性もあるのか!?間もなく締め切るよー。1人1万バルまでだよー!」

「こりゃー!訓練場で何しとるか!」

「げっ、まっずい!?」

ローズマル子爵が若手育成のために作り上げた訓練場は今日も活気に満ちているが、今は特に一際騒々しい。室内の一か所に人がどっと集まり、祭り騒ぎ状態。賭博騒ぎまで起きているのだから、もういよいよ収拾が付かない。

2階席からでもその騒がしい声がよく聞こえた。

「盛り上がっていますね。流石にあの2人の対戦ならこうなりますか」

「若く、青く、未熟。しかし、燃ゆる心の火の強さは、やはりこのくらいの歳が一番よのぉ」

将軍の抱いた感想に、自分の少年期を重ねる。たしかに、あの頃が一番人生に純粋な期待を持ち、訓練に励んでいた気がする。

しかし、この二人ほどの完成度には程遠かったのは間違いない。そして何より恐ろしいのは、二人の成長の底が見えないところだった。……若き怪物が集うか。

「アトス、お前の言う通りよ。あの日の完敗を経てまだたったの数日。アーケンの雰囲気ががらりと変わったわい。やはり育成はお前に従うのが正しいみたいじゃ。このくらいの年齢は数日見ないうちに驚く程成長していて羨ましいことよ」

「お褒め頂き光栄ですが、少し違うようですよ」

確かにアーケンは私との戦いを乗り越えて強くなった。それが目的で彼に課題を託した。

けれど、この左目には他のものも見える。

「精霊があの子の周りを飛んでいます。魔獣討伐に赴いた日、あの子の母親が纏っていたものと同じ」

「がっははははは!なんと!この数日で紋章の覚醒があったとは」

「ええ、そのようです。一体何があの子に火をつけたのでしょう」

1の試練を与え10吸収して帰って来た。将軍の血を受け継ぎ、精霊に愛された母の血も覚醒した今、アーケン君に敵はいない。その力、存分に発揮するがいい。

将軍と私はハチ君を盾持ちにスカウトに来たが、今ならわかる。天の本音は、我らを君の元に導きたかったみたいだ。

将軍の後継に、将軍の血を引く子か……。簡単には口外できないことだが、面白いことこの上ない事実。

盾持ちの未来は明るい。

「さて、まだ締め切っていないなら私も1万バルを賭けて来ましょうかね。こんな美味しい賭けは無い」

「がっははははは!真面目なお前が賭け事をやるか。よし、ワシの1万バルも持っていけ」

「オッズが随分とアーケン君に傾いているようですが、1.1倍もつけば十分でしょう。行って参ります」

「アトス!」

「ん?」

少し悪い笑みを浮かべて将軍がこう告げて来た。

「ワシの1万バルはハチに賭けよ」

「……あら、随分とお子さんに厳しい教育ですね。それに意外と勝負師なんですね」

「ふふっ、まあ見ておれ」

やれやれ。

アーケン君を厳しく強く育て上げようとした私に説教しておいて、実は自分が一番厳しいじゃないですか。これがこの人の愛情なんでしょうが。盾持ちになることがあれば地獄を覚悟していおいた方がいいですね。この人の厳しさはこんなもんじゃないですから。

「さてさて」

ハチ君のオッズは5.2倍。同元の利益率10%といったところですか。結構取りますね。

「すみません。ハチ君の勝ちに2万バル。あっ、私と将軍の分です」

将軍のこういう予想って当たるんですよねー。

もちろん乗っからせて頂きます。

――。

すっかり元気になったアーケンから試合を申し込まれた。

簡単な気持ちで受けちゃったけど、なんだか大騒ぎになっちゃった。

柔軟運動をしながら、賭けを主催している人たちに近づいていく。手には1万バルを握り絞めて。

「すまない。ちょっといいか?」

「どうした?ハチ」

「俺も賭けてもいいのか?」

「もちろんさ!おっ、大人しい顔して意外と勝気だねぇ」

「うん、じゃあアーケンに1万バルを」

「っておい!そりゃダメだよ。イカサマじゃないか」

ちっ。錬金術失敗か。

流石にダメらしいので、自分の方に賭けておいた。5倍も付いてるらしく、全然人気無いのな。

結構アウェーな雰囲気を感じるし、何よりも先日の紋章の覚醒を見ちゃったしなぁ。

相手は精霊付きよ?きつくね?

対戦サイドで同じく準備運動をするアーケンの周り、なんか風吹いてんだよね。もともとイケメンな顔が、風が吹くことで髪や服が靡き、揺れ動いて更に格好いい。もう主人公だよね、あれ。

風を起こしているのは間違いなく精霊たち。どのくらい恩恵があるのかはわからないが、最大限に注意が必要だろう。

1万バルをドブに捨ててしまった可能性はあるが、それでも全力で試合させて貰う。

アーケン、お前には強くなって貰う必要があるんだよ。俺を守って貰うためにな!

「ハチ、頼みがある」

「どうした、アーケン」

「今日は全力で来て欲しいべ。そして、いつもみたいにわざと負けないって約束してくれ」

「……わかったよ」

といっても、いつも手なんて抜いちゃいない。最後の最後に勝ちを譲ってはいるが、いつだって全力だった。

木剣を構えるアーケン。たまに視線が俺じゃないとろこを見ているのは、精霊たちとのコンタクトだろう。

すまん。お前んちのパンを結構食べた俺は、いつ覚醒しますか?

「両者前へ。試合は30分の時間制限有り。スキルの使用制限無し。武器、魔道具の使用制限も無しだ。どちらかが降参するか、戦闘不能、または審判の私の判断で勝敗を決定することもある。よろしいかな?」

「オラは構わないっしょ」

「もちろん大丈夫だが、担架を用意しておいてくれ」

「強がるのは結構だが、大口を叩くと後で恥を書くぞ」

審判さん、担架は俺のためだ!早く準備を!

一旦下がって、最終調整に入る。

ウルスの爺さんがくれた手袋をはめる。これで修理スキルを使用しても、修理が発動しなくなる。紋章の力を抑えるための手袋だ。

黒色の繊維は精霊様の毛らしいが、アーケンの家でみた精霊様は白銀の毛を持った小さな狼だった。

もしかしたら、精霊様にもいろんなのがいるのかもしれない。

「ハチのスキルは見たことがないな。楽しみだべっ」

「じゃあ俺にアドバンテージありだな。アーケンのスキルはラン姉さんとの戦いで少し見させて貰った」

「試合開始!」

最後の会話を少しはさんで、すぐに試合開始の号が告げられる。

スキルありの戦いとは言っても、基本的にはいつも通りだ。

身体強化を使用しての組手が基本となる。

今回は制限時間30分という枠がある。アーケンの魔力は6000程と見積もっているので、初めから身体強化を使用しても30分は持つだろう。

つまりこの枠は魔力量が少なく、その代わり無限身体強化ができる長期戦向けの俺にとっては不利にしか働かない。

木剣と体術を織り交ぜたヒットアンドアウェーの戦法がアーケンの得意とする戦い方。そして恐ろしく目が良く、攻撃後に生まれるわずかな隙、そこを狙っての反撃をことごとくいなされる。

始めの5分はそんなやり取りがずっと続いた。ボクシングみたいな採点ルールがあれば、この5分間は100対0の完敗といったところである。

しかし、身体強化をムラなく使えているおかげで、ダメージはそれ程蓄積もしてない。

戦いにおいて、最もやってはいけないことは、身体強化に強弱のムラをつけることだ。

相手の攻撃に驚いて、魔臓から本来供給できる以上の量を供給させる。逆に魔力をケチケチして、しばらく安全そうだからと身体強化を解除する。

これらは魔力消費量を著しく悪くするばかりか、本来受けられる身体強化のメリットを享受できなかったりすることもある。身体強化のスカ乗りなんて呼ばれ方をする。

エアコンを頻繁に切ったりつけたりしたら、余計に電気代がかかるし、部屋が全然暖まんない感覚に近いだろう。

無限身体強化はその点強い。

ずっとムラなく、相手の攻撃を受けようとも乱れることもない。スカ乗りも起こる訳もなし。

しかし、防戦一方では勝ち目がないのも事実。

なんとか切り口を探そうにも……。

アーケンのやつ、やっぱり強くなってる。

体感で魔力量6000くらいだったはずなのに、今受けている攻撃の威力やプレッシャーは魔力8000くらい。姉さんたち程じゃないが、間違いなくクロマグロ級のそれ。一撃一撃が速く、それでいて重い。

……これが紋章の覚醒。

そして俺の勘違いじゃなければ、もう一つ厄介な点がある。

アーケンがこちらに駆け寄ってくる際、追い風が吹くのだ。それは俺にとっては向かい風。

面倒なことに、その風は細かい操作が可能みたいで、目や耳の穴目掛けてフッと吹き付けてくる。小さい精霊どもが何やら援護攻撃をしてくる。

ひゃっ!?ってなるので、地味に面倒だ。

美女から耳フッもまだ味わったことないというのに、精霊にお初を奪われるとは。なんたる屈辱。

「じゃあそろそろ反撃といくぜ」

指から修理スキルの魔力の糸を10本出す。

先日200本程出せることが判明したが、あんなに出しても操作が効かないんが意味がない。

現状不自由なく動かせるのは10本がせいぜいといったところだ。

これさえあれば十分ってか、これが限界。

守りの態勢に入ったアーケンは、こちらのスキルを警戒してのことだろう。いかにも危なそうな攻撃だろう?実はこれ豊饒のスキルで、便利な工具みたいなものなんですよ。

メッキが剝がれる前に、なんとか決着をつけないと。

攻勢に回って、ユラユラと不気味な動きを見せる修理スキルを前面に押し出していく。

いくらアーケンの目が良くても、10本も不規則に動くこのスキルから逃れられるかな?

答えはノーだ。

始め、体を器用に動かして躱していたうちは正解だった。しかし、剣でガードしようとしたのが悪手だった。

こちらはスキル。相手は武器。魔力が剣に巻き付くようにするりとガードを通り抜け、修理スキルがアーケンの体に届く――!

モワッ。

触れるが体内に入ることなく、柔らかい修理スキルはそのままへたり込む。しかし、直後アーケンが目を見開く。

それもそのはず。4本はへたり込んだが、それらはダミー。魔力の性質変化は未だ発展途上。

全部を硬化させて針のように刺すのはあまりに難しく、ほとんどはフェイク。本命の一本は、胸の辺り、両手へと魔力線が伸びていく分岐点の中心を狙って突き刺さった。

勝負あり。

魔力線が絶たれたら、精霊の加護を受けていようが関係ない。どれほどの大物もこれ一発で終了だ。

「……流石はハチ!オラ、こんな攻撃受けたことないべ」

驚きに目を見開いたけれど、直後にアーケンが笑った。

修理スキルを突き刺したところがジュウと音を立てて蒸気が漂う。

たしかラン姉さんたちの戦いでアーケンのスキルを見たことがあった。あの時はまとわりつく氷から回復していたが、まさか体内の魔力線まで回復できるというのか?

今度は向こうのカウンター。反撃の一手に振られた剣が俺の肩に突き刺さる。

身体強化が断たれたとは思えない一撃に、息が止まり、激痛が襲い掛かる。今日初めて受けた効果的な一撃だった。

修理スキルを乱雑に動かし、ブラフにして一旦アーケンを引かせる。

「いててっ……」

魔力線に穴をあけたはず。うーん、なんで効果がない?

「オラのスキルもどうやら覚醒しているみたいだ。まさか魔力線を狙われるなんて思っていもいなかったし、あんな制度で狙われるとも。けれど、更に驚いたのはオラの代謝スキルが体内の魔力線まで回復させてくれたことだべ」

アーケンだけじゃない。俺もかなり驚いている。

持って生まれた逞しい体。将軍顔負けの天賦の戦いの才。その上、紋章の覚醒による魔力量増加と、その気質と相性抜群の自己回復スキル。

……あいつやっぱ、主人公だよね?

肩いってー。数日は左肩あがんないだろうな、これ。

「ハチ、お前になら全力をぶつけてもいい気がするべ。頼む、まだ倒れないでくれよ!」

木剣を引き、目線の高さで床と平行に構えるアーケン。俺との距離は10メートルある。剣の射程ではないはずだし、アーケンのスキルを考えても飛び技なんてない。

けれど、本能が告げていた。

これは何かやばいものが来ると。

慌てて床を殴りつけて、巨大なアスファルトのブロックを急設置した。予想していた通り訓練場はスキルの使用にも耐えられるように基礎の部分がしっかりしており、体を隠すのにちょうどいいブロックが出来上がる。

「なっ!?子爵様が投資して下さった訓練場を故意に壊すとはなんたることか!?」

後から高額請求されそうな怖い声が聞こえて来たが、修理スキルで直す予定なのであんまり騒がないでくれ。

「はあああああ!!」

アーケンの気合と共に剣が突かれる。

身体強化だけでは説明がつかない強烈な一撃は当然俺に届かないが、辺りに巨大な気流を生み出し、渦状となってこちらへ突進してくる。

アスファルトのブロックに身を隠して、風の斬撃から身を守る。

すぐにブロックが崩壊しそうだったが、紋章をの力を弱める手袋を外してブロックに修理スキルを使用していく。崩れた場所からすぐに修理を施して、数秒間続く風の刃が終わるのを何とか凌ぐ。

「くそっ、姉さんたちみたいな力だな」

ふと口にしたことだが、本当にその通りだと思った。姉さんたちも人間の力ってより、ありゃ自然の力だよな。大地を操るカトレア姉さん。氷を操るラン姉さん。

まるで自然の力を味方にしたかのようなこの力に、己の小ささを実感して泣いちゃいそうだ。

大物と小物に与えられたスペックに差がありすぎる!

魔力量だけじゃなく、精霊とかスキルタイプとか!

どこの誰に文句を言ったらいいんだ!出てきやがれ、責任者!!

文句を言っても始まらないことはこの世に生を受けて以来ずっと知っているので、ひたすらに修理スキルで耐え忍いだ。台風がやって来た日の子ネズミたちはこんなひもじい思いをしていたのか。でも俺には修理スキルがある。修理スキルだけは得意なんだ。

止まない雨は無い。止まらない風もない。

ようやく攻撃が止んで、俺はすぐさま行動に出た。

こんな攻撃、2発目なんて使わせねーぞ。本当に死んじまう!

目の前のブロックを自身の身体強化で殴り割る。強烈な音がして、破片がアーケンに向かって飛んでいく。

目くらまし兼遠距離攻撃。さらにはそれに乗じて、まっすぐアーケンに距離を詰める。

やることは同じ。

修理スキル4本をフェイクに本命を差し込む。

「ハチ!あんな攻撃じゃ終わらないと思ってたけど、これじゃああんまりにも芸が無いべ!」

もはや警戒すら必要ないと剣を振りかぶる。

俺のスキルが先に突き刺さり、直後、アーケンの木剣が頭に叩きつけられた。

肩への一撃であの威力。訓練用に作られた木剣はスキルタイプ戦闘のお偉いさんによって強烈な付与魔法がつけられており、かなり頑丈だ。

それが綺麗に俺の頭に叩きつけられた。

勝負あったと思うよな?

「ありゃ?」

「ニッ」

戸惑ったのはアーケン。

笑ったのは俺。

頭に叩きつけられた木剣を押し返して、勢いそのままにアーケンのオデコへと頭突きをお見舞いする。

魔力量を考えても、紋章の覚醒を考慮しても、俺の頭突きがそれほどの威力にはなり得ないはず。

しかし、脳震盪を起こしてアーケンがの足元がふらついた。ここで決めなきゃ勝ちがないので、近いリーチを活かして強烈な肘鉄を顎に叩き込み、最後に脇腹に向けて強烈な回し蹴りを入れてノックアウト。

「はあはあ」

全力で戦って欲しかったんだよな。これくらいやらなきゃ、後で怒られちゃう。

「……はっ、ハチの勝利!」

審判が勝ちを告げて、試合終了となる。

辺りは地獄絵図のように悲鳴が巻き起こる。そういや、オッズはアーケンにかなり偏っていたっけ?

「きつー」

その場に座り込んで、治療を受けているアーケンに視線を送った。結構手痛い一撃だっただろうけど、アーケンの回復力なら一切問題ないはずだ。やれやれ、こんな化け物と試合だなんて、今更に思う。無茶だろ。

俺の勝利のきっかけは、最後の攻防にある。

一度魔力線を傷つけられたが、その覚醒した代謝スキルであの攻撃は問題ないと判断したアーケン。

しかし、俺がやったのは先ほどとは違う。

突き刺した部分は魔臓の近くで魔力線の根本。

全ての魔力を供給する部分に修理スキルを突き刺し、穴はあけなかった。代わりに、魔力線の根元に修理スキルを巻き付けて、強く絞りあげる。

だからアーケンは気づけなかった。傷つけられたわけじゃなく、太い魔力線を絞られて魔力の供給量が劇的に減った。木剣も問題なく振れたが、おそらくかなり弱い身体強化での一撃。俺の頭には軽く小突かれたダメージしか入らなかった。

エアコンは切ったり付けたりしちゃダメって言ったでしょう!!こういうことですよ。

当然身体強化が弱まれば、守りも弱くなる。俺の頭突きと肘鉄、そして最後の回し蹴りも信じられない程ダメージが通ったことだろう。

これが勝ったネタ晴らしだ。

案外やるね俺。自分の柔軟性に自画自賛をして、勝利の余韻に浸る。

「はー、もっと楽な小物とやらせてくれ」

いつも大物に負けてばかりだが、たまにはこうして勝つのも悪くない。

意識を取り戻したアーケンが、まだ体が痛むだろうにこちらに駆け寄って来た。

「……ハチ!お前は最高だべ!オラ、なんで負けたかまだ全然理解できてないべ!でも完敗だ。本気でやってくれて、勝ってくれて、ありがとうな!」

「まあ約束したからな」

それに、1万バルがかかってたんで。金がかかるとは俺は強い。

たしか配当は5万バルくらいになるのか?元手の1万バルを引いて、4万バルの儲け。アーケンの家のパンは安いから2,300個くらいは買えそうだ。

俺はまだアーケンの家のパンを食べて覚醒するルートを諦めちゃいない。小物の欲、海より広く、空より高く。パンを求めし我が足は止まるところを知らず。