軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

976:二振りの刃はここに在りて

降り注ぐ光がすり抜けてゆく。

とはいえ、この攻撃を回避できるのは俺だけであり、緋真はその炎で迎撃する必要があるのだが。

一方、アリスは攻撃に狙われなくなった。どうやら、マレウスは完全解放の効果時間終了まではアリスを無視するつもりであるらしい。

「彼ほどではないとはいえ、貴方のことも評価、そして期待していますから」

「そう、光栄ね。反吐が出るわ」

ここに至っては隠れることが無意味と判断したのか、アリスは既にスキルによる身隠しを使っていない。

故に、堂々と素顔を晒しながら悪態を吐き捨て、相手の顔面へとクロスボウを放つ。

当然のようにその攻撃は星雲によって防がれ――《ブリンクアヴォイド》を使ったアリスは、その内側まで転移した。

彼女の刃は躊躇いなく突き立てられ、しかしそのダメージもノイズと共に消失する。

「無駄ですよ。貴方の攻撃はひ弱すぎます。小細工など、私の身には通用しません」

「そいつは残念だ」

だが、そのアリスが攻撃した隙があれば、俺もマレウスへと接近することは可能だ。

振るうは天狼丸による横薙ぎの一閃。

防御が無意味であることはマレウスも既に理解しており、奴は光に包まれながら瞬間的に転移する。

そして反撃とばかりに頭上から光が放たれるが――それらは全て逸れて虚空を貫いた。

「……ふむ、これも当たりませんか」

もはや無差別爆撃に近い広範囲攻撃。

しかしそれでも、『不羈』を行使する今の俺に命中することは無い。

また、アリスに対してもあえて攻撃を当てないようにしているため、彼女もまた無傷であった。

尤も、緋真は必死に防ぐことになってしまったが。

「クオン、例の軍曹から伝言」

「……!」

そして、攻撃のために接近した、その一瞬。

その僅かな時間を利用して、アリスは端的に言葉を残した。

「『隙を作るから、剣を突き刺せ』――以上」

「……了解」

そのまま、両側に分散しながらマレウスへと向けて走る。

対し、ふわりと宙に浮かび上がったマレウスは、頭上に広がり回転する銀河へとその手を掲げた。

瞬間、その回転がゆっくりと収束を開始する。

「であれば、空間の全てを攻撃で満たせばどうなりますか?」

それは、回避という性質に対し、あまりにも強引に過ぎる解決法であった。

確かに、空間全てを水で満たすように、攻撃によって埋め尽くされれば回避することはできないだろう。

だが、その規模の攻撃を放つためには、相応の溜めが必要になるようだ。

ならば、今は『不羈』の理は必要ないだろう。

「――シリウス、合わせろ!」

強く、どこまでも響き渡るように、その命令を告げる。

それに応えるのは、待っていたと言わんばかりの咆哮だった。

「ォォオオオオオオオオッ!!」

アルトリウスたちを守っていたシリウスは、俺の声に合わせて極限までその魔力を励起させる。

空間を弾けさせるようなその気配は、間違いなく《 不毀の絶剣(デュランダル) 》の放つ空間魔法のそれだ。

それと共に、俺もまた篭手に込められたエルダードラゴンの力を起動する。

バチバチと、スパークして空間を爆ぜさせる強大な力の気配。

そして目を見開き捉えるのは、奴の収束する銀河の中心、その力の収束する一点――

「――『森羅万象・唯我』」

それは俺の理ではない。故に、決して完璧なものではない。

それでも――逃げ回る大公の核を捉えるよりは、遥かに楽な仕事であった。

「シリウス、俺の太刀筋をなぞれッ!」

「グルァアアアッ!!」

斬法――剛の型、中天。

大上段より振り下ろす、白光の一閃。

その一振りは、天に広がる銀河へと縦一筋の傷をつけ――それを上から抉るように、白銀の一閃が空間を断ち割るように駆け抜ける。

刹那、膨大な魔力の鳴動と共に、空に描かれていた銀河の回転が止まった。

「――素晴らしい」

空を見上げ、マレウスは驚嘆と共にそう呟く。

渦を巻く星々、その力を収束させていた一点が破壊されたのだ。

マレウスからすれば、また形成できる程度のものでしかないだろうが、空間を満たす攻撃とやらをすぐに放つことはできないだろう。

そして、今この刹那――マレウスは、全ての攻撃動作を停止している状態にあった。

「待ってたわ、その瞬間を――《月光祭壇:闇月》!」

――光が消える。

天に浮かぶのは、暗い銀色に輝く満月。

それは、月光を目にした敵を強制的に停止する、魔眼の輝き。

完全解放を囮に使ってまでマレウスへと食らいついたアリスは、その瞳を銀色に輝かせながら告げた。

「さっき、毒の攻撃を無効化されたんじゃなく、耐性によってレジストされた。持っている能力が状態異常の無効化じゃないなら、これは通用するでしょう!」

アリスの持つ、《闇月の魔眼》の力。

その性質は、相手の耐性を無視して『放心』のバッドステータスを与えるもの。

故にそのスキルは、あのマレウスのあらゆる動作を、確かに一瞬止めて見せたのだ。

そして――轟くような銃声が、動きの止まった夜空の下に響き渡った。

「っ……!」

攻撃を受けた衝撃に、マレウスの体が揺れて『放心』が解除される。

まんまとしてやられたことを理解してか、その表情は苦いものを交えた笑みへと変わっていた。

遠方より放たれた一発の銃弾は、マレウスの胸を確かに撃ち抜いていたのだ。

「やりますね……まさか、そこから私に一撃を当てる、とは――」

胸を押さえながら、マレウスは再び体にノイズを走らせる。

けれど――ぶれるようなそのエフェクトは、まるで何かに阻害されたかのように消え去り、当然胸の傷は残されたままとなっていた。

その事実に、他ならぬマレウスが驚愕に目を見開く。

「まさか……ここにきて、干渉しますか! 女神、管理者が……!」

『強制停止なんて反則手段を最初に切ったのはそっちだろ。うちの部下たちが世話になった礼だ、女神の石――石碑の欠片の弾丸、しっかり味わえよ若作りのクソババア』

わざわざ拡声器まで使って、軍曹は確かな憤怒を滲ませた声を上げる。

その声を後押しにするように、俺は一直線にマレウスへと向けて駆け抜けた。

森羅万象の理は、再び『不羈』に戻している。

今更反則手段を用いようとしたところで、それが俺に影響を及ぼすことは無い。

「しかし、まだ私は――」

星が動く。崩れようとしていた銀河が、再び回転を開始する。

ただの攻撃が俺に通用しないことは理解しているのだろう、可能な限りの広範囲攻撃を、短時間で放とうとしているのだ。

――刹那、その掲げた腕を、黄金に輝く光の矢が貫いた。

「縫い留めます――緋真姉様!」

「【紅蓮華】――」

遠方より放たれた光の矢は、刻印を輝かせたルミナのもの。

マレウスの手を貫いたそれは、解けて光の鎖となり、奴の腕をその空間に拘束して見せた。

次の瞬間にはヒビが走り始め、数秒で崩壊するであろうそれ。

――その数秒で、俺たちにとっては十分すぎた。

「――《臨界融点》ッ!!」

跳躍し、宙を舞った緋真が振るう紅蓮舞姫。

振るわれた刃より迸る圧縮された炎は、俺たちの道を塞ごうとした星雲をまとめて焼き払う。

己の身すら焦がす炎。それでも、紅の瞳は敵の姿を逃すことなく捉えていた。

「先生ッ!」

歩法・奥伝――虚拍・先陣。

緋真の放った炎を踏み越え、マレウスの姿を完全に視界に捉える。

その刹那に、俺は奴の意識の外側へと足を踏み入れた。

ルミナが稼いだ数秒、緋真が作り上げた道。

それを逃さず、無駄にしないための最後の一歩――

「――受け取れよ、マレウス・チェンバレン」

斬法――剛の型、穿牙。

放つは、右の天狼丸。

白く輝く刃は、流星の如く直線の軌跡を描く。

「貴様が見限った世界からの、贈り物だッ!」

その一閃は、狙い違えることなく、マレウスの胸の中心を貫いた。

逃れ得ぬ衝撃に、マレウスは大きく目を見開いてようやく俺の姿を視認する。

「構成が、維持できない……この、剣は」

「【餓狼呑星】――」

天狼丸から手を放し、餓狼丸を両手に持って強く踏み込む。

黒い炎が燃え上がり、全ての憎悪を喰らって応報の叫びを上げる。

「その妄念、ここで断ち斬るッ!!」

斬法――剛の型、白輝。

そして、全力の踏み込みから放つその一閃は――黒い軌跡を宙に残して、マレウス・チェンバレンの首を斬り飛ばしたのだった。