軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

975:英雄の集い

「ターゲット収束含め、防御スキルを三秒後に起動! それと共に現在の最前線は一時退避! 抜けてきた攻撃は相殺を!」

黄金に輝く聖剣を掲げながら、アルトリウスは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

マレウスとの戦い、その厳しさを甘く見ていたわけではない。

だが、マレウス・チェンバレンはアルトリウスの想像を容易く超えてきたのだ。

(AIの強制停止を無効化できてよかった……アレを止められなければ詰んでいた)

それでも戦線を維持することができているのは、偏にクオンという存在があったからだ。

雨のように降り注ぐ無数の攻撃。まるで冗談のようにそれを躱しながら、彼は迷うことなくマレウスへと向かってゆく。

それに合わせることができるのは、彼の戦い方を完全に理解している緋真だけであった。

「回復、急いで! アイテムを惜しむ必要はない、使い尽くしても構わない! ――パルジファル!」

「 はい(イエス) 、 我が王よ(マイロード) !」

収束する魔力の気配。それを感じ取り、敬称を付ける余裕もなくアルトリウスは即座に温存していた切り札を切る。

爆裂する星の光、そして降り注ぐ流星――それら全てを受け持ったパルジファルは、しかし発動時間の短い無敵化のスキルで攻撃を完全に無効化した。

少しでも判断が遅れていれば、陣は瓦解していたことだろう。冷や汗が流れるのを感じながら、それでもアルトリウスは気丈に笑った。

(今の攻撃を無傷で切り抜けられるのは彼女だけ、他のメンバーでは必ず犠牲者が出る)

それを事実として冷静に受け止めながら、アルトリウスはただひたすらに思考を回す。

剣を振るい、マレウスに突き立てることはできない。それは、既に重々理解しているのだ。

この場における勝ち筋は、クオンという英雄ただ一人だけ。

故に――

(彼は、僕を戦友と呼んでくれた。ならば――その道を造れずして、ここまで来た意味などある筈がない!)

口はひたすらに仲間への指示を、しかしその胸裏では焼け付くほどに心を燃やして。

アルトリウスは、その視線をちらりと己の横へ向けた。

そこにいるのは、長大な狙撃銃を構える壮年の男性――軍曹だった。

普段の軽口など何処にもない、磨き抜かれた刃のような、或いは銃弾の込められた銃のような佇まい。

その身は微動だにすることなく、ただひたすらにマレウスのことを狙っていた。

「――防げ、マリン! 高玉!」

「いやぁ、多段攻撃は苦手なんだって!」

「……外さん」

星の光、そして再びの広範囲攻撃。

最初に飛来した衝撃波をマリンの魔法が無効化し、次いで襲い掛かってきた星々は高玉の放つ矢によって撃ち落とされる。

その僅かな時間が、タンクたちに立て直しの時間を与えて見せた。

(マレウスめ、この状況でもこちらの警戒を外さないとは)

クオンに執心しているマレウス・チェンバレンは、しかしアルトリウスたちへの注意と攻撃を疎かにはしていない。

それは、竜一郎の孫である 竜彦(アルトリウス) がいるからか、或いはかつての部隊を率いた軍曹がいるからか。

完全に注意を逸らしているのであれば、いくらでもやりようはあった。

だが、攻撃の手を緩めてこない現状、手の中にある選択肢はあまりにも少ない。

三体の真龍を防衛に回さなければならない無数の攻撃、攻撃のためではなく場を切り抜けるために切らねばならない成長武器たち――しかし、それでもなお追い詰められていく現状。

通常であれば焦りに支配されかねない状況で、それでもアルトリウスは冷静さを保っていた。

何故なら――

(……正しく、神話の光景だ)

空を埋め尽くす星々、そこから降り注ぐ致死の光――しかし、すり抜けるようにそれを躱しながら進んでゆく刃。

それは、嵐の日に一滴も雨粒に当たらず空の下を走るような絶技であった。

追従する炎の翼は、当たりそうな攻撃は適切に相殺しながらマレウスの動きを阻害し続ける。

白く輝く刃と、黒く炎を上げる刃。その二振りは、マレウスの命脈へと牙を突き立てるため疾走を続けているのだ。

彼らが健在である限り、アルトリウスが折れることは無い。

「っ――軍曹、準備を」

「観測はこちらで続けてる。うちのバカが張り切りすぎて息切れする前に、あのクソアマに一発くれてやろう」

軍曹の傍らでマレウスの動きを観察し続けているランドは、思考も視線も乱すことなくそう告げる。

チャンスはたった一度きり、『エレノア商会』が完成させた銃にも弾にも、予備を用意することはできなかった。

それは魔導銃ではなく、現実世界と同じ仕組みで動く狙撃銃。

十分な精度を維持できる発射回数は少なく、用意した特殊な弾丸も一発限り。

だが、何度も転移を続けるマレウスにそれを命中させるのは至難の業だ。

勝ち筋として見るには、あまりにも細い可能性。

けれど――

「……状況が、動く」

確信を以って、アルトリウスはそう呟いた。

* * * * *

「ふふっ、ふふふふっ! ああ、素晴らしい――こんなに素敵なことは無い!」

哄笑を上げるマレウスに、思わず舌打ちを零しそうになりながらも走り続ける。

気配を捉えているアルトリウスたちは、健在ではあるが少しずつ削られてきている。

今はまだ保っているが、瓦解するのも時間の問題だろう。

そして、あちらからの援護が無くなれば、俺たちもいよいよもって厳しいと言わざるを得ない。

ならば――俺もまた、覚悟を決めるべきだろう。

「――我が 真銘(な) を告げる」

「来ますか……さぁ、魅せてください!」

左手に握る餓狼丸が胎動する。

這い上がる黒い炎は俺の腕から頬までを染め上げ、燃え上がる怨嗟の炎で侵食してゆく。

「我が爪は天を裂き、我が牙は星を砕く。されど我が渇きは癒されず、天へと吼えて月を食む」

用意されたはずのその言葉に、頬を歪めながら同調する。

ああ、天を裂いて星を砕こう。そして、夜空を支配する月すらも喰らって見せよう。

他でもない、この俺自身の手で――この星天を統べる魔女を、斬り裂いて見せる。

「怨嗟に叫べ――『真打・餓狼丸重國』ッ!」

吹き上がる黒炎が、怨嗟の叫びを上げ始める。

まるで俺自身の憎悪に同調するかのように、黒く染まる餓狼丸は業火に燃える。

その殺意を一身に浴びながら、マレウスはそれでも愉しげに笑っていた。

歩法――烈震。

降り注ぐ星の光は、俺の身を捉えることはできない。

けれど、こちらの戦い方を把握しているマレウスは、距離を取るような立ち回りを意識するようになっていた。

今は【三位一体】を使っているため、他のテクニックを併用しての攻撃が行えない。

距離を取られれば戦いづらいことはわかり切っていた。

しかし、そのための援護も少なくなってきている状況、やはり厳しい戦いだが――

「――随分と、クオンにご執心ね」

「っ!?」

流石のマレウスも、その気配に気づくことはできなかったらしい。

マレウスの首に突き刺さったのは、アリスの繰り出した刃の一撃。

そのダメージも、ノイズが走ると共に消え去ってしまったが、それでもアリスの攻撃が命中したという事実には変わらない。

で、あるならば――

「復讐の夜は来た――『 復讐神の宣誓(ソング・オブ・ネメシス) 』」

マレウスの反撃よりも早く、その発動が間に合う。

本来であれば一発たりとも耐えられないであろう星の瞬き。

その直撃を受けながら、しかしアリスは健在であった。

「その能力ですか……種が割れていればそれだけです」

だが、マレウスはこれまでの戦いを見てきた。

故に、初見殺しともいえるアリスの完全解放の効果を把握している。

このままでは、マレウスに対して十分な反撃ダメージを与えることはできないだろう。

残念ながら、マレウスに対しての決定打にはなり得ない――その目的が、ダメージを与えることであったなら。

「さあ、ラストステージよ。三人で行きましょうか」

「付き合いますよ。そのために、ここまで来たんですから」

「酔狂だな、全く」

小さく笑い、マレウスへと駆ける。

目の前に立ちはだかるは、頭上に渦巻く銀河を掲げた魔女。

これが最後の幕となるだろう。その核心と共に、俺は星雲を斬り裂いてマレウスへと距離を詰めたのだった。