軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

959:真なる白龍

レベルアップに伴い発生した、ベルの能力に対する制限の解除。

それはステータスの制限だけではなく、封印されていた最後のスキルである《ラグナロク》の解放にも繋がった。

何故今唐突にそれが起こったのかと言えば、恐らくはルミナやセイランのレベルがベルに追いついたからだろう。

つまるところ、今のルミナたちのレベルこそが、俺に制御できる上限のレベルだったということだ。

尤も、ベルは真龍であり、必要経験値は他のテイムモンスターよりもかなり多い。

同じレベルであったとしても、ステータス自体はベルの方が圧倒的に高いのだが。

「変わるもんだな……随分と窮屈をさせていたみたいだ」

「彼女はそれを納得済みで契約したのでは?」

「まあ、そうなんだがな」

水蓮の言葉に、軽く肩を竦めてそう返す。

エインセルを倒すという共通の目的の下、俺はベルと契約を交わした。

結果として、彼女をその戦場に連れていくことはできたが、見ての通り万全な状態ではなかったのだ。

ベル自身、中々に歯痒い思いをしていたのではないだろうか。

最後のスキルである《ラグナロク》は、間違いなく切り札と呼べる性能だ。

それを使えていれば、と思うタイミングはいくらでもあったことだろう。

(まあ……エインセルとの戦いで短期決戦を選んだ以上、あの戦いまでに今のレベルへ上げることは無理だっただろうが)

どうしたところで結果論でしかない。ベルに全力を出させてやることはできなかったが、勝てたのだから良しとしておくべきだろう。

ともあれ、その力を解放されたベルは、今や思う存分にその力を振るっていた。

白い翼を羽ばたかせて空を舞い、乱れ飛ぶ光の弾丸と刃でワイバーンたちを翻弄し、撃ち落としている。

中には、地に落ちる前に絶命するワイバーンもいるほどだ。

枷の外れたベルの力は、このレイドの中で最も高いと言っても過言ではないだろう。

とはいえ、まだ先がどれほど長いかはわからないのだ。あまり消耗もさせるべきではないだろう。

「ベル! そろそろ慣らしは済んだか!?」

『――ええ、おおよその勘は取り戻しました。別段、ほとんどのスキルは封印されていたわけではありませんからね』

俺の言葉が届いたのか、ワイバーンたちを撃ち落としたベルはそのままこちらへと戻ってきた。

その動きは実に身軽で、見上げるほどの巨体であることを感じさせないような軽やかさだ。

地上に落ちて絶命していないワイバーンたちは門下生に任せつつ、翼によって舞い上げられた風に目を細めながら、俺は改めてベルの状態を確認する。

「さっきまでの制限はステータスの一割だったか。それなりに感覚のずれはあったか?」

『ええ、多少は。けれど、今の戦いでそれも確認できました』

「そうか。なら、この後の戦いは問題なさそうだな」

流石に、唐突にステータスが伸びれば感覚のずれも出てしまう。

けれど、その調整も今の戦いで完了した。

今のベルは、かつての力を――白龍王の配下であったその力を完全に取り戻したと言えるだろう。

このヴァルフレアのダンジョンにおける魔物が相手であろうとも、決して引けを取ることは無いはずだ。

「強敵も近いんだ、いいタイミングだったな」

「ですね。そろそろ、このエリアも終点が見えてきたみたいですし」

頷いて、緋真は頭上を見上げる。

山の上に聳え立つ長大な塔。その姿は、今や正確に捉えられるほどにまで接近してきていた。

とはいっても、高すぎてその頂上が見えるわけではないのだが。

外壁は白く、特に目立った装飾があるわけでもないシンプルな外観。

けれど、その大きさは巨大極まりなく、高さだけではなく太さもかなりのものであった。

「……やはり、あの中に入るようだな。広さもかなりのものだろう」

「といっても、中がきちんと見た目通りの広さかはわからないですけどね」

「まあ、それもそうなんだがな」

このダンジョンも、ここに至るまでに空間の概念などそこらに放り捨ててしまっている。

あの塔の内部が見た目通りの広さであるかなど、保証することはできないだろう。

ともあれ、あの塔に上る前にまずはその根元に辿り着かなければならない。

「辿り着くための関門――だったんだろうがな」

頭上を見上げ、小さく嘆息する。

先ほどまで空を舞っていたワイバーンたちは、これまでの道筋とは比較にならない数であった。

リザードの群れを相手にした時と同じように、この場所も先へと進むための関門の一つだったのだろう。

しかも、地上の足場はかなり傾斜がきつくなってきており、動き回りづらい状況となっている。

空中戦ならばまだマシなのだろうが、それはそれでワイバーンにとって有利なフィールドだ。

かなり難しい戦いを強いられる場所であったのだが――先ほど、力を取り戻したベルによってほとんどが地に叩き落とされてしまった。

(普通ならばもっと苦戦することが想定されたエリアなんだろうがなぁ……)

俺としても、普通に戦っていればかなり苦戦していただろう。

何だかんだで、消耗させられてしまったであろうことは想像に難くない。

それと比較すれば、ベルのMPが多少削れたことなど大した消費ではないだろう。

とりあえずベルにはMPポーションを投げ渡しつつ、周囲の戦闘状況を確認する。

「落としたワイバーンもそろそろ処理が終わるか」

「これが最後の関門でしょうか?」

「頂上は見えてる。可能性は高いな」

つまり、このエリアの終わりも近いということだ。

さて、果たしてこのエリアの最後に待ち構えているものは何なのか。

まずはあの塔の根元に辿り着き、直に己の目で確かめてみることとしよう。

* * * * *

「……ここが頂上か」

本来であれば、遮るもののなかったであろう山の頂上。

雲は少なく、空は近い。けれど、この場には巨大な塔が聳え立ち、それによって空はかなり遮られている。

それと共に、周囲の雰囲気も変わる。

ここはボス前のエリア。魔物は接近してこず、戦う準備を整えるための場所だ。

俺たちは一度集合して息を整え、アイテムの状況を確かめて――許容範囲内の消耗であることを理解した。

「あの塔、中に入れそうですね」

「ここがボスエリアとなると、倒してあの塔に入るようだな」

「そうなると、塔が最後のエリアかしら?」

「あり得るな。どこまで登ればいいのかはわからんが」

頂上が見えない、天を衝くほどの巨大な塔だ。

これを登っていくというのも、正直勘弁してほしいところである。

ともあれ、今は目の前のボスエリアだ。

どのようなボスが出現するのか――当然ながら、その情報は皆無である。

「ここまで辿り着けたのは俺たちが初めてだろう。つまり、ここから先は完全に未知数。目撃例すらない、前人未踏の領域だ」

これほどのダンジョンだ。ここまで深く潜ってくれば、現れるボスはより驚異的な存在となるだろう。

けれど、それを前にしても、我がクランのメンバーたちは一切恐れることは無かった。

むしろ望むところと言わんばかりに、その表情には力強い笑みが浮かんでいる。

であれば――

「言うべきことは一つだけだ――勝つぞ」

『応ッ!』

鬨の声が上がる。それと共に、俺たちは先へと足を踏み出した。

刹那――塔の前に、一つの影が出現する。

それは、人の姿をした存在。重厚な黒い鎧を身に着けて、その手には巨大な剣を携えている。

だが、それは人間ではなかった。黒い鎧の上に載っているのは、ドラゴンの頭そのものだ。

身長は五メートル近くあるであろうその怪物の名は――

「……『黒竜騎士バオウ』、ね」

その名を呼ばれたからか、バオウはゆっくりと顔を上げ、その剣を掲げる。

それと共に放たれる、肌を叩くような重圧。

思わず口角が吊り上がる気配を感じながら、俺は強く地を蹴った。