軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

953:削り取る力

トネリュドの巨体が、炎に包まれる。

赤龍王の爪により形作られた小太刀は、ツタの絡み合ったその体を強制的に燃やし、僅かずつではあるが削り取ってゆく。

無論、ボスに相当する怪物であるこの魔物は、状態異常の耐性も高ければ解除されるまでの時間も短い。

この効果を適用できるのも、ほんの僅かな時間だけだ。

けれど――強制的に状態異常を発生させるその効果は、解除された直後であったとしても関係ない。

水蓮は多少無理することになっているが、アイツならば至近距離で相対していても攻撃を対処しきれるだろう。

「それはこちらも、だがな……!」

右手には餓狼丸を、そして左手には龍王の小太刀である灼咆を。

正直、太刀を右手だけで扱うのはそれなりに無茶があるのだが、今はコイツを包む炎を絶やさないことが先決だ。

トネリュドは既にシリウスの拘束から脱し、しかしそれでも追い縋ってくるシリウスに対処しながら暴れ回っている。

あまりにも巨大な体がぶつかり合っているこの場所は、ただ立っているだけでも危険な領域だ。

そのうえ、常に【咆風呪】を満たしているため、視界はひどく悪い。いつこいつらに轢き潰されてもおかしくない状況だった。

かといって、これを止めればツタの切れ端に集団で襲われることになる。

何ともまぁ厄介な戦場であった。

「そら、追加だ――《オーバーレンジ》、《奪命剣》【咆風呪】!」

門下生たちが繋いでくれた【咆風呪】の上から、こちらも同じテクニックを発動する。

攻撃力という点では俺の方が圧倒的に上であり、その効果も高い。

トネリュドのHPを削り続けるという仕事も、こちらの方が上手くこなすことができるだろう。

それに加え――

「これならどうだ、『呪命閃』!」

強く踏み込み、黒く染まり切った餓狼丸を振るう。

放たれた黒い刃の軌跡は暴れ回るトネリュドの体へと突き刺さり、絡み合ったツタの体を斬り裂いた。

生命力を奪われたトネリュドの体は、その傷口から枯れ――徐々に再生し、元通りに修復されていく。

だが、その速度は明らかに、先ほどまでよりも遅くなっていた。

「要するに、常にHPを削り続けるが正解か!」

未だ、トネリュドという魔物の正体について、正しい認識に辿り着けているとは思えない。

だが、コイツの対処としてスリップダメージを与え続けることは正解であるように思えた。

つまるところ、再生の追い付かない速度で常時ダメージを与え続ければよいのだから。

(恐らくだが、小さな生命の集合体。その群体が、一つの魔物を形作っている)

だが、単純に数が集まっているだけということは無いだろう。

個々が弱い生き物であるならば、この状況ではもっと死滅していってもおかしくはない。

ただ単純に集まっているだけではなく、他にも何か仕掛けがある。

それを暴かなければ、正解に辿り着くことはできないだろう。

(『寄生竜樹』、か)

その答えは恐らく、最初に示されたその名前の中にあるのだろう。

寄生生物――であれば、この魔物は一体何に寄生しているのか。

その答えは恐らく、最初に相対していたあの巨木なのだろう。

トレントに寄生し、或いは共生していた。そうであれば、シリウスによってへし折られたブラッドトレントは、果たして今どのような状況になっているのか。

「……確か、取り込んでこの状況になっていたよな」

ブラッドトレントがへし折られたとき、無数のツタがその幹を飲み込んで今のトネリュドの体を作り上げた。

ならば、その幹は今果たしてどのような状態となっているのか。

そして、それはトネリュドにとってどのような役割を果たしているのか。

「《オーバーレンジ》――『呪命衝』!」

斬法――剛の型、穿牙。

振るうのは右手のみ。けれど、全身の回転運動から撃ち放たれた漆黒の槍は、真っすぐとトネリュドの胴体を貫いた。

その切っ先は生命力を奪いながら奥の奥まで潜り込み――異なる手応えの感触が、腕に伝わる。

ツタとは異なる、硬い手応え。やはり、あの幹は今もツタの奥に存在しているらしい。

そして――その刹那、シリウスへと向けられていた筈のトネリュドの意識が、一気にこちらへと傾いた。

「……!?」

歩法――間碧。

降り注ぐツタ、そして唐突に生えてくる根。

それらが一斉に、俺の方へと向かってきたのだ。

咄嗟に攻撃を取り止めて回避に専念しつつ、俺はトネリュドの様子を観察し続ける。

あまり知性を感じない、動物的な反応。だからこそ、今のこの状況がヒントになることは間違いない。

あの内部に取り込まれた、ブラッドトレントの幹。あれこそが、この怪物にとって致命的な要素であるのだと。

(トネリュドの動きは本能的だ。本能で、命の危機を察している。それを受けるわけにはいかないと!)

雨のように降り注ぐツタを紙一重で躱し、斬り裂きながら、塞がりつつある枯れた傷口を観察する。

ただ外側を削るだけでは駄目なのだ。この化け物を殺し切るためには、その奥にある本体を破壊する必要がある。

ならば――

「シリウス、叩き斬れッ!」

「ルォォオオオッ!」

俺の声と共に、シリウスはその尾へと大量の魔力を収束させる。

トネリュドもそれに反応するものの、こちらを脅威と見ているのか、シリウスへの対応は最低限でしかない。

むしろ、シリウスからの追撃が減った分、こちらへの攻勢を強めているほどだ。

顔面を貫こうと迫るツタを斬り払い、足元に感じた違和感に横へと跳躍、一度たりとも足を止めることなく攻撃の嵐を捌き続ける。

この密度では、流石に攻撃に転じることはできない。だが、それでも問題は無いだろう。

――シリウスが攻撃準備を終える、その時間を稼ぐことができたのだから。

「グルァアアッ!!」

裂帛の咆哮と共に、銀色の魔力が解き放たれる。

バチバチとスパークを放ちながら空間を弾けさせ、尾の刃は大きく弧を描きながら振り抜かれる。

その一閃は銀色の軌跡を中空に残しながらトネリュドの胴へと突き刺さり――その一筋の光を残したまま、巨大な群体の体をすり抜けた。

そして、一瞬ののち。白銀の輝きが弾けると共に、トネリュドの体は真っ二つに斬り裂かれた。

『――――ッ!?』

唐突に肉体を破壊された、その事実を受け止めきれず、トネリュドは動きを硬直させる。

群体である以上、真っ二つにされたところで行動に支障などないはずなのに。

だが奴は、唐突に訪れた生命の危機だけを感じ取って混乱し――この場にいるすべてのメンバーは、それを好機と受け止めた。

「そこ、かぁッ!」

「はッはぁ! 燃えやがれェ!」

緋真と戦刃、全身に炎を纏った二人は、躊躇うことなく崩れ落ちた断面へと突撃して、その内部にあったブラッドトレントの幹へと燃え盛る刃を叩きつける。

そして、周りにいるメンバーはその二人の援護に回り、あらゆる攻撃を迎撃する。

更に、攻撃の対象から外れた俺もまた、地に落ちたトネリュドの頭部へと向かって突撃した。

その頭に、命としての意味があるのかは分からない。

だが、本体の攻撃に合流したところで邪魔なだけならば、ここでコイツの動きを止めるべきだ。

「枯れ果てろ――《オーバーレンジ》、《奪命剣》【奪淵冥牙】!」

トネリュドの額に、小さな矢が突き刺さる。

そこに刻まれた紅の印へと、俺は餓狼丸の切っ先を突き込んだ。

そして、それと共に発動するテクニックは、周囲の命を啜って強大な破壊力を発揮する、《奪命剣》における極大のテクニック。

その一撃は、トネリュドの内部で巨大な黒い刃を形成し――

「蛇の開きにしてやるよッ!」

――強引な振り上げと共に、トネリュドの体を頭から引き裂いて見せたのだった。