軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

928:第四のダンジョン

木造の門を潜り抜けた瞬間、周囲の景色は一変した。

荒涼とした大地と、遮るもののない青空。遠景には岩肌の見える山々が並び、こちらを見下ろしていた。

後方を振り返ってみれば、俺たちが入ってきた門が突拍子もなくぽつりと存在している。

どうやら、戻ることは自由であるらしい。

「ふむ……どことなく、中華っぽいイメージだな」

植生の問題なのか、何となくそちら側の印象を受ける。

四体目の大公はその辺りの存在なのか――まあ、会うこともできないので答え合わせは不可能なのだが。

ともあれ、このエリアの探索を進めないことには始まらない。

だが生憎と、ここは何ら目印のないだだっ広いエリアのようだ。

周囲をきょろきょろと見回して、緋真は困った様子で眉根を寄せる。

「どうしますか、先生? 特に情報もない状態ですけど」

「まあ、それなら適当に進むしかあるまいよ。ただ、固まって動くのは邪魔だから、お前らも適当に散れよ?」

「わかってますよ。獲物の奪い合いになっても面白くない」

俺の指示に、水蓮は軽く肩を竦めながらそう答える。

広いエリアであるとはいえ、一ヶ所に固まっていては効率が悪い。

とっとと分散して、広範囲にわたって探索を行うべきであろう。

これに関しては全員同意のようで、師範代たちをはじめとして各々が三百六十度分散するように行動を開始した。

その背中を見送りつつ、俺たちもまた先へと進む。

「……一応、テイムモンスターは外に出せるようだな」

シリウスを外へと出しながら、小さくそう声を上げる。

発動系のスキルを使えないとなると、テイムモンスターたちは中々に能力を制限されてしまう。

特に、スキルに依存する部分の多いルミナやセイランについては中々に厳しいだろう。

とはいえ、武器を使った戦いや、もともとのフィジカルの高さもあるため、戦うことは可能なはずだ。

逆に、スキルが無くても十分に強いのがシリウスである。フィジカルの性能があまりにも高すぎる上に、その防御力の高さはスキルなしでは攻撃が届かない。

このエリアでは、特に相性がいいと言えるだろう。

「ベルさんは出さないんですか?」

「今回はな。だが、助力が必要になれば呼び出すつもりだ」

ベルを出そうとした場合、どうしてもレイドの形でパーティを組みなおす必要がある。

発動系スキルを使えない状況であるため、それも悪くはないのだが、ベルの方もスキルが使えない状況は戦いづらいだろう。

それに、未だこちらのレベルが足りていないため、ベルの能力を完全には引き出し切れていない。

そろそろ最後のスキルを使わせてやりたいところであるため、自分たちのレベル上げを意識するべきだろう。

(それにしても……よく付いて来てくれたもんだな)

ベルの目的は、大公エインセルを倒すことだった。

その目的を果たした以上、俺との契約は解消していてもおかしくはなかったのだが。

しかし、彼女は今もこうして、俺との契約を維持し続けてくれている。

どうやら、マレウスを倒すまでは協力を続けてくれるらしい。

そういう意味では、ここで表に出しても良かったのかもしれないが……ここは我慢して貰うとしよう。

「それで、ここは武器を持った人間っぽい敵が出現するって話だったが」

「はい。武器の種類は多種多様で、プレイヤーを発見するや否や襲い掛かってくるとか」

「それはいいんだが、人間っぽいってのは何だ?」

「見た目は人型なんですけど、地肌が一切出てないので人間なのかわからない、ってことらしいですね……ああほら、ちょうど来ましたよ」

緋真の言葉と共に、俺もその気配を捉える。

どこから現れたのかは不明だが、無造作に武器を携えた二人の人影が、こちらへと接近してきていた。

初めはゆっくりと、そしてこちらの姿を完全に捉えてからは駆け足で。

片方は直剣を、そしてもう片方は槍を。どちらも赤い飾り布で統一されたそれらの武器は、やはり中華風の意匠が見て取れる。

そして緋真の言う通り、その二人は一切地肌を見せない姿をしていた。

鎧ではなく軽装の衣服、頭には笠をかぶり、そして顔は仮面で隠しているようだ。

灰色の仮面は石でできているのか、のっぺりとしていて装飾は見当たらない。

ただ、僅かに開いた眼の隙間から、ぎらぎらとした殺意が漏れ出ていた。

「ふむ。緋真、槍の方をやれ」

「了解です」

緋真が同意するとともに、タイミングを合わせて地を蹴る。

こうして見る限りでは、どちらも技量としては大差ないようだ。

警戒するほどのレベルでもなさそうだし、ここは緋真に譲っておくこととしよう。

歩法――烈震。

地を蹴り、飛び出す。数メートル程度の距離など、一秒とかからない。

俺たちの即座の接近に、その二体は――確かに、反応して見せた。

「……!」

斬法――柔の型、流水。

俺の頭へと振り下ろされようとしていた剣を、餓狼丸の刀身で流し落とす。

今の俺の速度に対応して見せた――となれば、うちの門下生たち程度の実力はあるだろう。

最初に出てきた敵でさえこれとなれば、中々に期待はできそうだ。

とはいえ――

(達人級と呼ぶには、程遠いな)

攻撃を受け流すついでにその勢いを乗せてやれば、僅かではあるが相手の重心がずれる。

それを制御しきれていない時点で、次の行動に移るには一瞬の隙が生じるだろう。

そして、その時間があるならば――

「しッ!」

返す刀の一撃を叩き込むことなど、あまりにも容易い。

振るった餓狼丸の一撃は相手の脇腹に食い込み――容易く、その肉体を両断した。

鎧でも何でもない、単なる布の服だ。防御力など無きに等しい。

その身を断つことなど、俺にとっては容易に過ぎる。

真っ二つになった死体は赤い血で地面を汚し――しかし次の瞬間には、まるで幻であったかのように消滅した。

「……ふむ」

こちらはともかくとして緋真の方に視線を向ければ、そちらも流水・渡舟によって敵の首を刎ね飛ばしたところであった。

同じように血を吹き上げた死体であるが、同様に何の痕跡も残さずに消滅する。

経験値は入っているようだが、何とも手ごたえの感覚にかける敵であった。

「……緋真、どう思った?」

「これだけだと良くわからないですけど……他のプレイヤーが戦ったら、結構苦労すると思いますよ」

その言葉には同意し、首肯する。

達人には程遠いが、格闘技の有段者程の動きは見て取れた。

俺たちにとっては戦いやすい相手であるが、ほかのプレイヤーにとってはそうもいかないだろう。

それについては俺も同意するところではあるが――

「何というか、俺にはどうも機械的な反応に見えたんだが」

「あー……確かにそれはありましたね。殺気はあるのに意思は感じられないなんて、何か不思議な感じです」

獣が相手ですら、本能的な反応は見て取れる。

だが今の敵は、視界の中に何かがいたから襲い掛かってきた、とでも言うべきか。

何とも機械的な、機能的な反応だ。

「それって、戦うのに何か困るのかしら?」

「困りはしない。殺気しか無かろうとも、どう攻撃してくるかはわかるからな。ただ何というか、歯応えに欠けるんだ」

こちらの行動に対する反応が見えず、何を考えているのかが良くわからない。

それが、何とも不気味だった。

「まあとはいえ、最初に出会った敵でこの実力だ。このまま進んでいけば、もっと高い技量を持った敵が出てくるかもしれん」

「まあ、まだ様子見ですしね。もっと強い敵に期待しましょうか」

「何だかんだ、緋真さんもそっちのタイプよね」

嘆息するアリスの言葉はスルーしつつ、さらに先へと歩を進める。

さて、果たしてこのエリアの性質を把握するに足る情報が出てくるのかどうか。

目星になるものは何も無いし、とりあえず前に進んでみるとするか。