軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

914:墜ちる天空

放たれる力の余波は、想像を絶するの一言だった。

吹き荒れる魔力の嵐と、衝撃の嵐。けれどそれは、こちらを狙ったものではない。

ただの余波、攻撃を回避したか、或いは相殺したか――何にせよ、今戦っている二体にとっては気にする必要すらない攻撃だった。

けれど、俺たちにすれば死活問題だ。たとえ余波だとしても、直撃すればひとたまりもない。

結果として、俺たちはシリウスを盾にしながら西へと跳ぶことになった。

「シリウス、問題ないか?」

「グルルッ」

先ほどからちょくちょく攻撃を受け止めてはいるものの、シリウスは何とかそれに耐えている。

しかし、シリウスでもダメージを受けるということは、相当な威力がこもっているということだ。

分かってはいたが、防げなければこちらは即死しかねない。

「仕方ないとはいえ、足は遅くなりますね……」

『急ぎ辿り着くべき、ですが……到着したとて、どうするつもりですか?』

「万全な状況であるなら漁夫の利を狙うこともできたが、生憎とそうもいかんだろうな」

本当に死にかけの状況でもない限り、そんなことは狙える筈もない。

残念ながら、結果を見届けることしかできないだろう。

ヴァルフレアが勝利したなら、これまでと変わらない。大公級悪魔に挑み、それを討ち取る方法を模索するだけだ。

だが、もしもドラグハルトが勝利したならば――

(アルトリウスは、金龍王の方に向かっているか? 分からんが……)

あいつなら、万が一の可能性に備えて動いていても不思議ではない。

とはいえ、もしドラグハルトが勝利したとしたら、奴は単独で大公級を討伐したことになる。

それによって得ることができる力は、果たしてどれほどのものになるのだろうか。

――正直、今の 異邦人(プレイヤー) の力で抑えきれるものだとは思えなかった。

「お父様、また来ます!」

「注意しろ、直撃は避けろよ」

まだ距離はあるが、その猛々しい気配を感じ取ることはできる。

圧倒的なまでの魔力の応酬。放たれる力は文字通り天を裂き、地を砕いている。

実際の姿が見えていないため確証はないのだが、両者の力は拮抗しているように思えた。

(ドラグハルトめ、大公と比肩するほどに強くなっているとは……)

以前までのドラグハルトであれば、苦戦は免れないだろうが、大公ほどの絶望感を感じることはなかった。

しかし、今のドラグハルトはそれに匹敵するほどに力を高めている。

その上で、更にヴァルフレアのリソースすらも奪い取ってしまったなら、最早手が付けられなくなってしまうだろう。

そんな状態のドラグハルトを、果たして止めることができるのか。

(クソ、まさか大公側の勝利を望むことになろうとはな)

状況的に、ドラグハルトが勝つことの方が都合が悪い。

まさか、このような展開になるとは考えもしなかった。

今のところ、両者の戦況には差は無いようにも思える。

しかし、実際の戦いを見てみないことには、正確に状況を掴むことはできないだろう。

危険だが、まずは接近しなくてはなるまい。

「シリウス、負担は大きいだろうが急いでくれ。ルミナは回復を切らさないようにな」

「グルッ!」

「はい、体力の状況には常に気を付けますね」

これでシリウスも耐えきれないような威力だったらどうしようもなかったが、今の時点ならばなんとか進めるだろう。

シリウスを前に置いているおかげで視界は悪いが、その向こう側で飛び回る二つの光は目視で捉えることができるようになってきていた。

黄金の光と、漆黒の光。まるで《練命剣》と《奪命剣》のようだと、交錯する光を見ながら益体もない言葉が脳裏を過る。

その激突の瞬間に弾ける魔力だけで、ここまで破壊力を及ぼしてきているのだ。

あの周辺の地上は最早壊滅状態だろう。公爵級も周囲環境に影響を及ぼすものは多かったが、今の戦いは別格だった。

(本当に死にかけだったら挑むべきだが……)

餓狼丸に経験値ジェムを使用しつつ、この先の展開を考える。

餓狼丸を完全解放するためには、一度体力を吸収しきらなければならない。

本来であれば奇襲を仕掛けて仕留めたいところではあるのだが、生憎とそうはいかないだろう。

それに、今の俺は【武具神霊召喚】を発動することはできないし、【武具神霊降臨】は言わずもがなだ。

その状況で相手の防御力を突破するためには、アリスの弱点付与が必要になるだろう。

何にしても、どちらかが死にかけだったとして、速攻で仕留めるということは難しい状況だった。

「見えてきた、けど……先生、あれって」

「……とんでもない、としか言えんな」

黄金と漆黒、その二つの動きが、ある程度詳細に見える距離まで近づいてきた。

二体の悪魔の姿は、龍王にも匹敵するサイズの巨大なドラゴンだ。

ドラグハルトの姿は既にみていたが、ヴァルフレアについても近しい姿であったらしい。

漆黒の、金属質でゴツゴツとした鱗を持つ、巨大なドラゴン。

アルフィニールのような異形とも、あくまでも人間であったエインセルとも違う。正真正銘、力ある怪物。

「大公、ヴァルフレア……」

自分が戦うとして、あれにどうやって対抗するべきか。

あの力は、流石にシリウスでも押さえ込むことはできないだろう。

それどころか、ベルと二体がかりですら厳しい筈だ。

そんな怪物を相手に、ドラグハルトはたった一体で拮抗している。

「ベル、あの戦いをどう見る?」

『互角、ですね。どちらも相応にダメージを負っています。まさか、大公を相手にできるほどに力を高めるとは……』

その戦い目にし、ベルすらも驚愕に言葉を詰まらせている。それほどまでに、二体の力は圧倒的だった。

あれほどの巨体を持つにもかかわらず、戦闘機のようなスピードで空を飛び回る二体のドラゴンは、交錯の度に爪を振るって火花と衝撃を散らす。

ただの物理攻撃ではなく、そこには強力な魔力が込められていた。

あれで攻撃を受ければ、シリウスとて無事では済まないだろう。

(今のは何かしらのスキルではなく、単純な攻撃か……それでその威力とはな)

二体の攻防はそれだけにとどまらず、周囲に展開した魔力により複数の魔法を同時に操っている。

ドラグハルトの魔法は槍のような形状で飛翔し、ヴァルフレアはそれを的確に迎撃しながら爪に魔力を宿らせて発動する。

薙ぎ払った爪の先より放たれた魔力は、遥か先まで飛翔して大地に文字通りの爪痕を残して見せた。

あの威力は、餓狼丸を完全解放していなければ打消すことはできないだろう。

そして――

『……! ブレスが来ます、衝撃に備えて!』

「シリウス!」

二体のドラゴン、その口腔に収束する莫大な魔力。

まるで竜巻のように渦を巻いて収束した力は、一瞬の静止の直後に放たれた。

圧倒的なまでの、魔力の奔流。黄金と漆黒のブレスは、正面からその破壊力を撒き散らし――その余波だけで吹き飛ばされそうになるところを、シリウスの陰に隠れてやり過ごす。

そのシリウスすら、余波に吹き飛ばされぬよう翼を羽ばたかせるので精いっぱいだった。

「拙いな、これ以上は近づけん」

姿は見えるようになったものの、これ以上接近すれば余波だけで吹き飛ばされてしまいかねない。

もっと近づいて隙を突けるようにしたいところだが、今の状態ではそれすらも困難だった。

とにかく、あの二体の攻撃の流れ弾には当たらぬように高度を上げつつ、観察を続ける。

大公級を倒す――その点において、俺たち異邦人とドラグハルトの勢力の利害は一致していた。

だが、それはあくまでも大公を倒すまでの間。

それが過ぎてしまえば、ドラグハルトは俺たちにとって最大の敵と化す。

どちらが残るにせよ、それが最大の脅威となることに変わりはない。

「歯痒いが、見守るしかないか」

横槍を入れる程度の余力すらない。

忸怩たる思いを抱えつつ、俺たちはその戦いを見守り続けるしかなかった。