作品タイトル不明
910:最果てに在りし王 その11
戦場全体の動きが変わりつつあることを感じている。
状況は混戦に近い。エインセルの軍勢はどこからでも出現し、そして際限なくその数を増やしていく。
倒してもすぐに復活するのだから、限りなどあるわけがない。
そして、それらを制圧しようと広範囲の攻撃を続けていれば、いずれはこちらが息切れしてしまう。
にもかかわらず、敵の数は増え続けるばかり――こちらが押し切られるのも、時間の問題だと言えるだろう。
「チッ……」
そんな中で、俺は相変わらずエインセルによって目の敵にされている状態だった。
先ほどの『唯我』は、果たしてエインセルの内部にいた何を斬ったのか。
分からないが、それが奴にとっては許し難いことであったようだ。
お陰で、こちらはその攻撃に対処するだけで一苦労である。
歩法――陽炎。
放たれた火砲の攻撃を躱し、エインセルの視線を探る。
奴は、他の攻撃は悉く無視して俺の方へと攻撃を放ってきている状況だ。
奴のHPバーを見ることはできない。故にこそ、他の攻撃が通じているのかどうかも不明だ。
やはり、大公級はこの箱庭のルールとは異なる領域に存在しているのか。
(だが、スキルの効果は効いている。なら、その中に攻略法はあるはず――)
決して乗り越えることのできない試練など、奴らの存在意義に反するのだ。
必ず、どこかに乗り越える道はあるはず。
目を見開き、全てを見通すように意識を加速させ――周囲で、大規模な魔力の励起を感知した。
「っ……!」
「ぬ……!」
敵のものではない。後方をメインに発生したそれは、味方による攻撃だ。
それも、成長武器の解放――各プレイヤーの持つ切り札を、ここで一斉に切ってきたのだ。
状況は分からないが、タイミングを合わせて発動したということは、まず間違いなくアルトリウスの作戦によるものだろう。
(勝負を仕掛けるのか……!)
アルトリウスが何を見出したのか、今の時点では分からない。
だが、単発のものも存在している成長武器の完全解放は、そう安易に切れるような選択肢ではない。
まず間違いなく、アルトリウスには勝利までの道筋が見えているのだろう。
ならば――
「――我が 真銘(な) を告げる」
こちらも、切り札を切るべきだ。
篭手のクールタイム明けは近い。それに合わせ、こちらも最大の火力を発揮できるように準備する。
餓狼丸の胎動にエインセルも気づいたのか、こちらへと迎撃の炎を向け――その体に、軌道を見ることのできなかった矢が突き刺さった。
額に突き刺さった矢に、しかしエインセルはただ仰け反るだけでダメージを受けた様子はない。
「我が爪は天を裂き、我が牙は星を砕く。されど我が渇きは癒されず、天へと吼えて月を食む」
――それでも、解放のための時間を稼ぐには十分だった。
燃え上がる黒い炎が、俺の右腕を侵食する。這い上がるファイアパターンは右の頬を侵食し、刀身と同じ漆黒に染め上げた。
「怨嗟に叫べ――『真打・餓狼丸重國』……!」
漆黒に燃え上がる刀身、その力を発揮できるのは僅か五分だけ。
恐らく、もう一度発動するだけの隙は与えてはくれないだろう。
故に、今この場で仕留め切る。その決意とほぼ同時に、周囲でいくつもの力が炸裂した。
この街を丸ごと滅ぼさんとでも言わんばかりに、解放された成長武器の力が周囲を蹂躙、制圧する。
そのうち、単発の類と思われるものはエインセルにも向けられたが――生憎と、周囲の兵器が吹き飛ぶだけで、エインセル当人には効果が無かったようだ。
歩法――間碧。
一時的に、周囲の圧力が減ったその刹那。
俺は、即座にエインセルへと向けて地を蹴った。
本来であれば、戦場をひっくり返す出力を持つ成長武器の完全解放。
その力を受けておきながら、エインセル当人はまるでダメージを受けた様子はなかった。
本当に、この怪物を倒すことができるのか――その不安を抱かずにはいられない光景。
俺とて、未だ攻略法は見えていない。『唯我』をエインセルの核に当てる方法が無ければ意味はないのだ。
(それでも、信じてみせるとも)
強大な攻撃を受けてたたらを踏んだエインセルは、大きく体勢を崩した状態だ。
その身へと向けて駆け抜けながら、それは最後の切り札を解き放つ。
「――【絶技・三位一体】」
金、黒、蒼――三つの光が混ざり合い、ただ純粋な白い光と化して餓狼丸を包み込む。
それは、《練命剣》、《奪命剣》、《蒐魂剣》の三魔剣が最後の秘奥。
それぞれの最大レベルで得られる奥義、三つを混合した力を持つテクニックだった。
俺は体勢を崩したエインセルへと鎖を伸ばして一気に肉薄し、白く輝く刃にてその首を斬り裂く。
瞬間――エインセルの生命力を喰らった餓狼丸の刃は、更に白い輝きを増した。
「その程度で……!」
「通じないことなど、とうの昔に知っている!」
そう告げながら、周囲に残る魔法の余波を斬り――それにより、更に白い輝きを増してゆく。
三魔剣の最大レベルで得られたテクニックは、簡単に言えば長時間持続する三魔剣と言った効果だった。
しかも、時間経過と敵への攻撃によって効果を増していき、最終的にはその名に恥じぬ威力へと成長する。
だが、その真髄はその効果ではなく、《三魔剣皆伝》を条件として発動させることができる、この【絶技・三位一体】にあった。
一言で言えば、これは三つの最終奥義を同時に発動するテクニックなのだ。
「し……ッ!」
エインセルが召喚した砲身を、餓狼丸の一閃を以て斬り落とす。
解放し、更に【三位一体】を発動した今の状況ならば、頑強な戦車であろうとも両断できる。
そして、それによって吸収した生命力や魔力を、そのまま攻撃力へと変換していくのだ。
恐らくは、オークスの目指した魔剣は最初からこれを見据えていたのだろう。
三つの力を分割するのではなく、一つに束ねること。それこそが、三魔剣の本質であったのだ。
斬法――柔の型、流水・浮羽。
エインセルが反撃に振るった刃、その一撃を受け流しながら勢いに乗る。
そして後ろに回り込みながら刃を振るい、エインセルの鎧を貫いてその身に刃を届かせる。
今の攻撃力ならば、どうやら攻撃を通すこと自体は可能であるらしい。
尤も、次元を断つ刃でなければマトモに通らないことに変わりはないようだが。
それでも、エインセルの生命力を奪うことには成功しているし、多少はダメージが通っているようだ。
(だが……!)
エインセルの振るう横薙ぎの軍刀。
その軌跡をなぞるように、兵器の銃口が現れる。
空間に走る斬撃は刃の軌道だけではなく、まるで俺を籠に閉じ込めるかのように展開されていくのだ。
影を纏うエインセルの軍刀は、それ自体が兵器召喚のキーへと変わっているらしい。
流石に、集中砲火を受けながら反撃を放つのは困難だった。
「――シェラート!」
刹那、長大な大剣が横薙ぎに振るわれ、俺が身を屈めると共に頭上に出現していた兵器を粉砕する。
そのまま振り切られた大剣の一閃はエインセルへと襲い掛かり――奴は、それを平然と素手で受け止めた。
それを見たアンヘルは一瞬で大剣を消して別の武器に切り替え、入れ替わる様に赤黒い炎が放たれる。
龍の爪を模るその一閃はエインセルの身へと突き刺さり――斬り裂くことはできずとも、その獄炎にて燃え上がらせる。
「どこまでも……小賢しいな、下郎共よッ!」
炎に包まれたエインセルは、それを振り払うように軍刀を横薙ぎに振るう。
その身に纏われている黒い影は、まるで燃え上がるかのように沸き立ち、空間に無数の黒い亀裂を走らせた。
「ッ……!」
あまりにも範囲が広すぎる。全てを破壊しきることは不可能だ。
何とかして回避しなければ――そう考えた、その刹那。
「――《エクスチェンジ・カバー》!」
聞き覚えのある声と共に、俺の視界はブレて変化していた。