作品タイトル不明
909:最果てに在りし王 その10
空間を裂いた銀の閃光。それは紛れもなく、シリウスの放った《 不毀の絶剣(デュランダル) 》だ。
後方で安全地帯確保のために控えていたシリウスだったが、ついに前に出ることができるようになったらしい。
エインセルの能力もあり、《不毀》の効果を切らすことができず、MPはどんどん消費してしまう状況にはある。
それでも、今のエインセルの攻撃を相手に一歩も引かずに対応できるのは、他にはない強みであった。
「グルァアアアッ!!」
放たれる砲弾の数々が直撃し、それでもシリウスが怯むことはない。
全て《不毀》の効果によって弾きながら、エインセルの展開した兵器たちをその巨大な爪で薙ぎ払ってゆく。
その破壊力は、頑丈な戦車たちであろうとも一撃で破壊できてしまうほどだ。
その姿を目にして、エインセルは顔を顰めて呟く。
「やはり出てくるか、剣の龍」
どうやら、エインセルもシリウスの性質は警戒していたらしい。
その声と共に砲身を展開し――それとほぼ同時に、俺はエインセルへと肉薄を果たした。
斬法――柔の型、流水。
迎撃のため振るわれた軍刀の一閃を、刀身を搦めて横向きに受け流す。
力強く、隙の少ない、お手本のような一撃だ。故にこそ、受け流すことは不可能ではない。
攻撃を防がれたことを理解して、しかしそれでも、エインセルはシリウスに対する対処を優先した。
展開された大砲より放たれた砲弾がシリウスへと着弾し――その身に、以前にも見たトリモチが付着した。
(そんなもんまで大砲で用意してるのか……!)
シリウスを無力化するために用いられた粘着弾。
ここまで運用してきたが故に、エインセルがシリウスを警戒しているのも当然と言えば当然だった。
体の至るところにトリモチを喰らったシリウスは、どうしても動きが鈍ってしまう。
しかし、その代わりとして得られたのは――ほんの僅かであろうとも、確かなエインセルの隙であった。
歩法・奥伝――虚拍・後陣。
攻撃を受け流され、エインセルが反撃へと転じる刹那。
そのほんの僅かな空隙に、俺は即座に身を沈めた。
「《練命剣》、【命輝練斬】」
白影の性質により、限界まで意識を加速させる。
エインセルの意識が俺を捉えるまでの、ほんの僅かな隙。
そこに至るよりも早く、俺は右手の篭手の能力を発動させた。
本来ならば、もっと攻撃力を上げた上で放つべきだろうが――この隙を、逃すことなどできはしない。
生命力の輝きに、エインセルの瞳がようやくこちらを捉える。
だが、その対処が差し込まれるよりも早く――
模倣――『唯我』。
振るう刃が、まるで吸い込まれるようにエインセルの胸へと突き刺さった。
鎧を貫き、その下の肉を裂き――まるで通じる気配のなかったエインセルの体を、餓狼丸の黒い切っ先が貫く。
しかし、狙うべきはその身ではなく本質。エインセルという存在、その内側に潜む核へと刃を伸ばし――
「っ……!?」
「貴、様ァッ!!」
――その手応えに、俺は目を見開くと共に後方へと跳躍した。
激高したエインセルは、即座にこちらへと向けて兵器を展開し、極大の殺意と共に解き放つ。
俺が一瞬前までいた場所は粉々に砕け散り、俺はその土煙を伝って横合いへと移動した。
それとほぼ同時、攻撃の圧が減ったことを悟ったレヴィスレイトが、巨大な魔力の剣を構築してエインセルへと向けて振り下ろす。
どうやら、本体の剣と連動しているらしく、凄まじい速さで振り下ろされた一閃は、確かにエインセルへと直撃していた。
(それよりも、今の手応えは……)
俺が放った『唯我』の一撃は、確かにエインセルの核を狙っていたはずだった。
避けられる筈がない。『唯我』とはそういう攻撃だ。
だが、今の感覚は――
(防がれた。いや、 庇われた(・・・・) ?)
『唯我』による攻撃は避けることはできないが、防ぐことはできる。
しかし、体内にあるエインセルの核が、防御という選択肢を取ることはできない筈だった。
にもかかわらず、今の一撃は防がれてしまったのだ。
まるで、何者かが今の一撃からエインセルを庇ったかのように。
「……そうなんだろうな」
ここまで来れば、おおよそ察することはできる。
エインセルの内側には、彼の治めていた国の民たちが存在しているのだろう。
そのうちの何者かが、エインセルのことを庇ったのだ。
果たして、奴の内側にはどれだけの人間が存在しているのか。そして、それらに庇われることなくエインセルを斬るためには、どれだけの回数『唯我』を使わなくてはならないのか。
(チッ、八方塞がりか)
今の一撃が当たったであろう存在は、恐らく消滅してしまったことだろう。
エインセルが俺へと向けてきている殺意はそこに起因するものか。
それに関してどうこう言うつもりはないが、このままではエインセルへの攻撃の手立てが消えてしまう。
何とかして、エインセル本体へと攻撃を届かせなければならないのだ。
「シェラート!」
「アンヘルか。そっちもここまで来れたようだな」
「貴方のドラゴンのお陰で。今はみんなで炙ってますけどね」
見れば、トリモチに包まれたシリウスは、緋真を始めとした炎使いによって炙られている状況だった。
あのトリモチは変わらず熱には弱いようで、溶かすことは可能なようであるが、それでも緋真の手が塞がってしまうのは困るところだ。
「それより、今ので仕留められなかったんですか? 貴方なら必殺のタイミングだったと思うけど」
「ああ。どうやら、奴の中にいる存在に庇われたらしい。こうなると、流石に通じる攻撃手段が見つからんな」
正確に言えば、『唯我』は当たりさえすれば通じるのだろう。
だが、奴の中には無数の存在が渦を巻いている。
それらからの干渉を全て避けて攻撃を通すのは、あまり現実的であるとは言い難かった。
「でも、それじゃあどうするんですか?」
「どうもこうもな……手段を探るしかあるまい。それまで、時間を稼ぐのが精々だ」
今の段階だと、解決策が見出せていない。
この状況では、餓狼丸を完全解放させることもできないだろう。
何とかして、奴に刃を届かせる手段を探らなくては。
「まあ、とりあえず――」
「頭脳労働は後ろの連中の担当、ですか」
その辺りの考察は、アルトリウスたちに任せておくこととしよう。
俺たちは、ひたすらにエインセルへと張り付いているべきだ。
いざという時に距離を離されていると、また近付くまでに時間がかかってしまう。
俺はアンヘルと共に並走しつつ、エインセルの方へと向けて再び接近を再開した。
レヴィスレイトの攻撃を受けていたエインセルであるが、俺が土煙から姿を現すと共にすぐさま強い殺気を向けてくる。
また、随分と意識されてしまったものだ。
歩法――陽炎。
こちらへと飛来してきた砲弾を回避しつつ、エインセルへと向けて再び接近していく。
当然のように、前方を塞ぐように現れる戦車であるが、そこはベルの援護によって再び破壊されることとなった。
(……しかし、どうするか)
今の俺は、先ほどまでよりもさらに警戒されてしまっている。
この状況では、普通に攻撃を当てることすら困難だろう。
ましてや『唯我』など、集中する時間すら与えては貰えまい。
仮にエインセルの核へ攻撃を届かせる手段があったとしても、このままでは到底解決には至らないのだ。
エインセルの軍勢は、今も展開され続けている。なるべく早く決着をつけなければ、いずれは物量によって押し潰されてしまうだろう。
その焦りを押し殺すようにしながら、それでも再びエインセルへと向かっていく。
――その裏側で、いくつもの状況が動き始めていることを、俺はまだ感じ取ることができずにいた。