軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

881:状況推移とベルとの対話

ベルを仲間に加えたことで、状況は効率化した。

問題となっていたのは敵のワイバーンから姿を捕捉されることであり、ベルによってその対策を講じることができたのだ。

流石に、エインセル側もこの異常については気が付いているだろう。

だが、こちらが姿を消して接近している、という手段にまで気づかれている様子はない。

目撃者を全て消しているのが功を奏しているのだろう。

(とはいえ……全てが思い通りとも言い難いか)

ここしばらく、エインセルの輸送部隊とは遭遇できなくなってしまっている。

恐らくではあるが、エインセルは一時的に、輸送をストップさせているのだろう。

あまり有効な手であるとは言えないが、無駄に被害を増やすよりは、一度待機させて対策を考えているといったところか。

エインセルがただ無策に動いたり、手を拱いたままでいるということもないだろうし、いずれは何らかの手段を取ってくるに違いない。

こちらも、それに対する対応策を取るべき――なのかもしれないが。

「……そろそろ、潮時かもしれんな」

「輸送部隊の襲撃が、ですか?」

「さっきから、全然見つかっていないものね」

地上へと降り、休憩していた俺たち。

そんな折のぽつりとした呟きを聞き取り、緋真とアリスは同調するように声を上げた。

どうやら二人とも同じ懸念を抱いていたらしく、既にこの作戦が意味を成さなくなっていると感じているらしい。

相変わらず、エインセルの動きは対応が早い。有効な対策は打てていないとはいえ、同じ手をいつまでも使える相手ではないだろう。

「アルトリウスたちの準備も遠からず終わるだろうし、この作戦もそろそろ終わりかもしれんな」

「まあ、仕方ないんじゃないですかね。街に引きこもらせてるだけでも、それなりに目的は果たせてますし」

「破壊できないのは残念だけど、まあ仕方ないんじゃない?」

エインセルの懐にダメージは与えられていないものの、物資の輸送の邪魔は成功している。

そういう意味では、全くの無駄ではないだろう。

まあ、時間を置いていれば何らかの対策を打ちながら輸送を再開するだろうし、これ以上の作戦継続はあまりメリットを感じない。

そもそも、こちらはなるべくベルという手札を隠したいところなのだ。

であれば、ベルの存在が露見するような動きはそろそろ避けるべきだろう。

「となると、アルトリウスたちの準備が終わるまでは、このエリアを離れた方がいいかもしれんな」

『それは……』

「不満か、ベル?」

声を上げかけたベルにそう問いかければ、彼女は視線を伏せて沈黙する。

エインセルを怨敵と定めるベルにとっては、奴の邪魔をできなくなることが不満なのだろう。

しかし、奴と戦うに当たって、ベルという手札を隠しておいた方が俺たちにとっては有利に働く。

ここは従っておいて貰いたいところだが――

「ふぅ……まあ、ちょうどいいタイミングか。ベル、少し腹を割って話さんか?」

『話、ですか? それは構いませんが……』

「これから共に戦うにしても、今のままだとあまり意識も共有できていないからな。戦い方はそれなりに分かったが、後は意識の統一をしておくべきだろう」

小さく溜め息を吐き出しつつ、その場に腰を下ろす。

緋真たちもそれに倣い――困惑した様子で、ベルもその場に伏せた。

だが、それでも第五段階の真龍、体はかなりデカい。思わず苦笑を零しつつ、俺はベルへと告げた。

「……済まんが、サイズを下げてくれるか。流石に、話しづらいんでな」

『む、承知しました』

俺の言葉に頷き、ベルは《変化》を使用して体のサイズを縮める。

それでもそれなりの大きさではあったが、あまり見上げずに話をすることはできるだろう。

「さて……別に、そう畏まった話をしようってわけじゃない。改めて確認したいんだが、アンタは俺たち異邦人がどういった存在であるかは知っているんだよな?」

『ええ、この箱庭とは異なる地より訪れた者達、悪魔の敵対者であると』

「高位の真龍となると、箱庭のことは知っているのね」

感心した様子でアリスは頷く。

正直なところ、この場にいるメンバーでそれを知っていることが最も不思議なのは彼女である。

やたらと大きな話に巻き込んでしまったものだが――まあ、今更ではあるか。

「俺たちの世界のことや、そこでの戦いのことは聞いていないか?」

『悪魔に相当する存在を退けた、という程度は聞いています』

「詳細まで行くと、龍王クラスじゃないと伝わってない感じなんですかね?」

「まあ、あまり周知されてもどうかという話ではあるからな」

龍王にしろ、高位の悪魔にしろ、何故か俺やジジイのことをやたらと良く知っていた。

悪魔は間違いなくマレウスの仕業であるのだが、女神サイドは果たしてどこからどう伝わっているのか。

確かめたい気持ちもあるが、どうにも藪蛇な気がしてならない。

「まあざっくりと言うと、俺たちの箱庭で、悪魔……MALICEと戦っていたのが俺だ。こちらでの活動は、その実績を買われている部分がある」

「いや、実質的に私たちの世界のMALICEを壊滅させたのって先生じゃないですか」

「アレを俺というのは無理があるだろう。正確には軍曹の部隊、その中でも特にジジイだ」

『貴方が……貴方の世界の?』

驚いた様子で、ベルが俺の姿を凝視する。

確かに、最終局面まで辿り着いたことは否定しないが、連中にとどめを刺したのはジジイだ。

俺の手が無かったとしても、ジジイは成し遂げてみせたことだろう。

だが一方で、俺の刃がMALICEに届くものであったことは否定する気はない。

「満足いく結果であったか、と聞かれれば否だ。だが……俺たちは確かに、MALICEの手から世界を護った。その事実は受け止めている」

『異邦人たちの中に、そのような存在がいることは白龍王様より聞いていました。しかし、それが貴方だったとは』

「戦果は戦果だが、自慢するようなもんでもないからな。まあともあれ……悪魔というのは、俺にとっても因縁の相手だということだ」

確かに、この世界におけるMALICEは、俺たちの世界に現れたものとは別だろう。

だが、その根本は同じものであるし、何よりもこちらにはその首魁であるマレウスが現れている。

であるならば、この箱庭での戦いは、かつての戦いの延長線上にあるものだ。

「ベル。俺の目的は、悪魔の――MALICEの首魁たる、マレウス・チェンバレンを殺すことだ。異邦人全体の目的は他にあるが……俺個人は、ただそのために戦っている」

『本気のようですね……その目を見れば分かります。下手な口出しなどできぬほどに、貴方の目は冷たく燃えている』

「アンタがそれを言うか? その点においては、どちらも変わらんだろうよ」

俺と同じように、ベルの瞳の中に燃えているのは、暗い憎悪の炎だ。

白龍王を殺され、しかし共に戦うこともできずに見ていることしかできなかった。

彼女の中にあるのは、己自身の無力に対する怒りも大きいだろう。

――本当に、覚えのある感覚だ。

「俺はあの時、全ての元凶の元まで辿り着いた。だが、最後の最後でしくじり、首級は俺のジジイが挙げた。俺は未だに、俺自身の想いに決着をつけられていない」

『……それは』

「アンタの想い全てに共感できるとは言わない。アンタが抱いた想いはアンタのものだ。だが……それに協力したいと思う程度のシンパシーは抱いているのさ」

共に、MALICEに奪われた者同士。

奴らには必ず、報いを受けさせなければならない。

そうでなければ――この身を焦がす炎は、永遠に消えることは無いだろう。

「ベル。俺は、アンタの復讐に協力しよう。共にエインセルを討ち、白龍王の献身に確かな意味を残そう」

『その代わり……私もまた、貴方の戦争に協力する。我々の間にあるのは、そういう契約ということですね』

ベルの言葉に、しっかりと頷く。

実力的な意味で、ベルが俺の配下となることは無いだろう。戦って負けるつもりは無いが、純粋な能力が上回っていることは間違いない。

だが、彼女は対等な協力関係とはなり得る存在だ。

共に、奪われた者であるが故に――互いが持つ怒りを、否定することはない。

『承知しました、剣士殿。いえ、我が共犯者よ。共に、我らの復讐を成し遂げるとしましょう』

白く美しい龍より放たれる、血腥いその言葉。

あまりにも不釣り合いなそれに、俺は静かに頷いたのだった。