作品タイトル不明
878:龍の薫陶
『悪くありません、良く鍛えられていますね』
「グルッ……」
再び北の地に足を踏み入れての戦闘であるが、ベルの戦闘能力はかなりのものであった。
アルトリウスの真龍を見るに、ルミナスドラゴンは穏やかな気質の真龍であると思っていたのだが、ベルは中々に積極的なタイプであった。
回復や補助だけではなく攻撃面にも優れ、更には近接戦闘まで習熟している。
言うなれば、彼女はルミナの戦闘スタイルの発展形だ。ルミナの場合は、そこに召喚を交えた集団戦が含まれて来るのだが、ベルは個として非常に高い能力を有していた。
「能力が制限されているとは思えんな……能力そのものだけでなく、技術もかなりのもんだ」
「あのシリウスと接近戦で劣っていませんからねぇ」
スペックのみで見れば、近接戦闘能力はシリウスの方が高いだろう。
純粋な攻撃力と耐久力に加え、《不毀》という強力極まりない能力を有しているため、シリウスは接近戦特化型の真龍であると言える。
そういう意味では、接近戦におけるベルのスペックはシリウスには及んでいないだろう。
しかしながら、彼女は技術力でそれをカバーしていた。
『ですが、魔力の扱い方が拙いですね。《不毀》を扱いきれていないから、無駄が生じています』
「グルル?」
ベルは、物理と魔法両方に秀でたタイプである。
故に、魔法による補助を含めることで、シリウスと同等レベルに近接戦闘をこなしていたのだ。
その戦闘スタイルは実に巧みであり、シリウスにとっても参考になるものであった。
彼女の言う通り、シリウスは魔法に関する技術はそれほど高くはない。自己強化を行うか、ブレスや《 不毀の絶剣(デュランダル) 》をぶっ放すかのどちらかぐらいだ。
その未熟さを理解したのか、シリウスも素直にベルの助言に耳を傾けているようだった。尤も、悔しげな様子は隠し切れていなかったが。
(思わぬ遭遇だったが、案外いい拾いものだったかもしれないな)
ドラゴンにはドラゴンなりの、力の使い方がある。
それは俺たちには指導できないものであったし、シリウスにとっては良い刺激となることだろう。
しかも、ベル自身の能力も申し分ないレベルだ。
物理的な戦闘の力面で言うと、シリウスも持っている爪や牙の攻撃に加え、《極烈煌刃》というスキルが目に入る。
これは、任意の場所に光の刃を生み出して攻撃するスキルであった。
体から生やして剣のように扱う場合もあれば、体の周りに浮かべて盾のように扱うこともできる。
攻防一体の、便利なスキルであると言えるだろう。
ベルは、このスキルを用いて、シリウスに接近戦の戦い方を教えていたのだ。
(ベルは視野が広い。経験によるものだろうが……視野が狭まりやすいシリウスには、いい刺激になるか)
彼女の視野の広さは、どちらかというと魔法スキルによるものだろう。
本来、ルミナスドラゴンはどちらかというと魔法に秀でている種族だ。
だからこそ、ベルが持っているスキルも、どちらかというと魔法の方が多い傾向にある。
回復、補助魔法の効果および範囲を高める《聖光輪》。
領域内に入った敵にデバフ効果を与える《聖域展開》。
行動制限だけではなく、若干の光属性ダメージまで付与されている《ホーリーハウル》。
そして――発動した瞬間、レイドメンバー全体に継続する防御魔法を付与する《 軍勢の守り手(ヘルヴォル) 》。
特に最後のスキルは、シリウスの《 不毀の絶剣(デュランダル) 》に相当する強力なスキルだろう。
「これだけ魔法に偏ってるのに、接近戦も強いってのはどうなってるんだかな」
これほどの戦闘能力を持っていても、白龍王と共に戦列に並ぶことができなかったのか。
いや、逆に接近戦に秀でていたからこそ、後方支援に徹していた白龍王たちとは足並みを揃えづらかったのか。
或いは――その能力と実力を評価されて、群れの防衛を任されていたのか。
何にせよ、彼女が白龍王と共に戦えなかったからこそ、今こうして俺たちの仲間になってくれているのだが。
《極烈煌刃》によってシリウスの体を真似し、その戦い方を薫陶しているベルは、中々に活き活きとした様子である。
元々、体を動かすのが得意なタイプであるということか。
まあ、泉を護っていた時の陰鬱とした様子よりはよっぽどマシだろう。
『レベルが上昇しました。ステータスポイントを――』
「おっと、戦闘終了か」
ベルの真似をして、シリウスがサイの魔物を真っ二つにする。
その一撃で、どうやら戦闘は終了となった様子であった。
少々レベルも上がり辛くなってきていたが、ある程度は目標を達成できたことであるし、そろそろまたレベル上げ気に集中してもいいかもしれない。
まあ、先程までと同じく、輸送する悪魔たちの襲撃も行いたいところではあるのだが。
そこまで考え、俺はふと思いついたことをベルへと問いかけた。
「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
『はい、何でしょうか?』
さて、果たして俺の思い描いた通りの作戦は成立するのかどうか。
上手く行けば、より効率的に事を運べるようになるだろう。
* * * * *
泉の拠点まで戻って来たところ、既にアルトリウスを始めとした『キャメロット』の面々は揃っていた。
それに加え、一部は『エレノア商会』の生産プレイヤーたちも集まりつつあるらしい。
ちょくちょく顔を見た覚えがあるが、彼らは建設特化の大工たちだ。
どうやら、早速この場所を拠点として造り直すつもりであるらしい。
「ああ、クオンさん。戻りましたか」
「アルトリウス、どんな調子だ?」
商会のメンバーと調整していたらしいアルトリウスは、こちらの姿を捉えて近寄ってくる。
その際、ちらりと視線を上へ――ベルの方へと向けていたが、彼女がそれに反応することは無かった。
まあ、アルトリウスとしても色々と気になるところはあるだろう。
アルトリウス自身ルミナスドラゴンをテイムしているわけだから、その系譜にあるベルのことは気になるはずだ。
「とりあえず、このエリアの拠点化自体は問題ないようです。ただ、気になるのは――」
「白龍王の遺体か。丁重に葬るべきなんだろうが、このエリアの結界を発しているわけだからな」
アルトリウスの言う通り、この場の開発において問題となるのは、白龍王の躯だ。
死して尚放たれているその魔法に依ってこの地は護られ、だからこそ拠点として利用することができるのである。
今の状況では、白龍王の遺体を葬るということはできないのだ。
「そもそも、死してかなりの時間が経っているのに腐敗する様子もない。というか、そもそも破壊が不可能なオブジェクトと化しているようです」
「……遺体を辱める存在が出ないことへの安心はあるが、どうなってるんだかな。女神による介入か?」
『私には分かりかねますが、白龍王様のお体に手を出す不届き者が出ないことは安心しました』
まあ、ベルからすればその程度の話だろう。
こちらからすると、白龍王の守りがいつまで続くのかという懸念があるのだが。
最低限、ここを拠点化するまで続いてくれれば何とかなるが――
「とりあえず、ここで何か手伝うようなことはあるか?」
「いえ、建造自体はこちらで何とかなります。ここさえ完成すれば、エインセルに対して攻めることも可能になりますから、クオンさんの仕事はそこからですね」
「要するに、いつも通りか。まあ……それまでは、思いついたことを試してみるさ」
さて、果たして先程の思い付きは上手く行くのかどうか。
色々とやってくれたエインセルに、こちらからも返してやることができるのか、確かめてみることとしよう。