軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

859:成功と失敗

作戦開始から、現実時間で言うと二日ほど。

俺たちは、エインセルの軍を相手に足止めの作戦を続けることとなった。

俺たちが襲撃を仕掛けていることは連中にとっても完全に既知の情報となり、奴らは当然の如くこちらの襲撃に対する対策を打ってきた。

【咆風呪】の目くらましに対する暗視の準備や、HP吸収に対抗するための回復手段。

これらは《蒐魂剣》を組み合わせることによる魔法発動阻害によってある程度は打ち消せたが、それでも魔法に依らない手段までは抑えることはできない。

【咆風呪】は遠距離からの攻撃を防ぐ効果こそ残ったものの、内部での奇襲という意味では効果が薄れてしまっていた。

また、シリウスの存在に対しても対策を取ってきており、奴らはなるべくシリウスを無視するように動くようになってしまった。

当然、フリーとなったシリウスはそれだけ暴れられるのだが、連中の攻撃もこちらに届きやすくなってしまっている。

シリウスは壁役として優秀ではあるが、ターゲットを自分に集中させるようなスキルは持っていない。

そのため、悪魔たちはやろうと思えばシリウスを無視して動くことが可能なのだ。お陰で、俺たちも多少はダメージを受けてしまっている状況である。

何しろ、連中の標準装備が小型のグレネードランチャーなのだ。スキルで防ぐことが難しい武器であるため、ダメージを完全に抑えるということはできていなかった。

「で……苦労した結果は、ほぼ痛み分けってか」

山の麓へと向かう空路、轟々と響く風の音の中で、小さく呟く。

苦労はしたものの、連中の目を集めるという仕事自体は成功し、軍曹たちの破壊工作はきちんと功を奏した。

生物兵器とも呼べる 戦車(サイ) や 攻撃機(ワイバーン) はともかく、その他の兵器については鹵獲や破壊に成功していた。殆ど取り零すことなく対処しているのは見事の一言である。

しかしながら、全てが完璧とまでは行かず、更には予想外の事態も発生していた。

驚くべきことに、エインセルの軍勢は、こちらと同じようにトンネルを掘って山を越える部隊まで存在していたのだ。

「アリス、見えてるか?」

「ええ、報告の通りね。例の陣地は、兵器についてはほぼ完全武装と見ていい状態よ」

エインセルが行った山越えは、それほど広いトンネルを掘るというものではなかった。

そのため、サイの魔物が通れるようなサイズではなかったものの、解体した兵器は運搬が可能であったらしい。

アルトリウスたちですら気付かないうちに山を越えられ、建造されていた陣地は、兵器については完全武装されている状態であった。

場所が発覚したのは、ワイバーンたちが山を越えて集結しつつあったためであり、あの陣地は既にサイ以外の戦力は終結しつつあるという状況なのだ。

つまり、放置していればこちらの拠点が攻撃を受けてしまう、ということでもある。

「でも、どうするの? 今はまだ有効射程外だから攻撃してきていないけど……」

「そうだな、近付いたら撃ってくるだろう。流石に、あの状態じゃ気付かれずに接近するのは不可能だ」

上空をワイバーンたちが哨戒し、地上にも塹壕や防塁が築かれている状況。

対空兵器まで配備されているため、上空から接近することは難しいだろう。

かと言って地上から接近すれば、地上と空中からの集中砲火を喰らうことになると。

サイがいないだけまだ接近しやすいとも言えるが、あまり良い状況であるとは言えないだろう。

「正直、俺たちだけで何とかできる規模じゃない。アルトリウスたちを含めた対策が必要だ」

ワイバーンが無く、兵器だけであれば何とか対処はできただろう。

戦車が無い状態であれば、防塁や塹壕はシリウスで踏み潰すことができた。

だが、上空からの集中攻撃を受けるとなるとそうも言っていられない。

上空の戦力を何とか抑えた上で、地上から接近して攻略するのが正攻法か。

つまり――

「……あそこだな、合流するぞ」

地上に見えた姿を確認し、セイランを降下させる。

着陸の衝撃を体重移動で殺しつつ地上の走行へと移行する。

その先にいるのは、報告を受けてメンバーを緊急招集したアルトリウスのパーティだ。

セイランを停止させて地面に降り、すぐに彼らの方へと駆け寄ってゆく。

「アルトリウス、状況は?」

「最悪一歩手前……逆に言えば、首の皮一枚繋がった、といったところですね」

俺の問いに答えるアルトリウスの表情は厳しいものだ。

だが、その声の中に焦りはない。どうやら、既に方針は決まっているようだ。

「今のタイミングで気付けていなければ、致命的な状況になっていたかもしれません。ですが、まだ何とかなります」

「他に見落としは無い、と思っていいか?」

「それを含めて調査中ですが、今のところは大丈夫ですね。流石に、いくつもトンネルを掘れるような余裕はないと思いますが……」

断言まではできないようだが、兆候を調べるつもりであれば手段はあるのだろう。

まあ、こちらには口出しできない領域の話であるし、その辺りは任せる他ない。

今必要なのは、いかにしてあの拠点を破壊するかという一点だ。

「他の拠点は一旦置いておくとして……どうやってあそこを攻めるんですか?」

「敵はかなりの防備を揃えています。特に厄介なのは空中の戦力……制空権内に入れば、敵はすぐにでも攻撃を仕掛けてくるでしょう」

緋真の問いに答えたアルトリウスの言葉に、俺も小さく首肯する。

ワイバーンという戦力が追加されたことで、奴らの攻撃可能範囲は大きく広がっている。

残念ながら、その戦力に気付かれぬよう接近することは困難だし、強引に近付くことはほぼほぼ無理だと考えていいだろう。

まあ、俺たちだけであれば多少は手段もあるが、それでも確実性には欠ける。

「制空権の確保――とまでは行かないまでも、敵に有利な状況だけは何とかする必要があります」

「つまり、まずは空中戦か? だが、敵陣には高角砲もあるぞ?」

「ええ、ですので敵の陣地に接近しすぎず、ある程度の範囲までこちらの空中戦力を進出させる必要があります」

プレイヤー側の空中戦力を進出させ、頭上の安全を確保する。

しかし接近しすぎることはできないため、敵陣の頭上への侵入は不可能。

とはいえ、敵のワイバーンも陣内に爆弾を落とすような真似はしないだろうから、接近さえしてしまえば脅威度は低くなるだろう。

まずは空中から接近し、敵の高角砲の範囲外から制空権を確保、その後一気に接近して陣地に攻め入るということか。

「クオンさん、まずは上空の攻撃にメンバーの参加をお願いします」

「ルミナとセイランだな。シリウスはどうする?」

「かなり酷使することになりますが、最初は空中戦を。僕らが接近する段階になりましたら、地上戦への移行をお願いします」

「……まあ、その方が万全だろうな」

シリウスならば、高角砲の範囲に入っても耐えられる。

空中からの強襲は、悪魔にとってもかなりの脅威となるだろう。

その戦力を活かさない手はあるまい。

「戦力の招集はほぼ終わっています。すぐにでも、作戦を開始できるかと思いますが――」

「時間の余裕が無いんだろう? 分かってるさ、こちらもすぐに準備する」

「すみませんが、お願いします。この拠点は絶対に潰さないと」

拠点の方角を睨むアルトリウスの表情は晴れない。

敵が自分たちと同じ手段を用いてきたことに対しての懸念だろうか。

だが、今はまず、目の前の脅威に対処しなくては。

シリウスを見上げれば、こちらの声を聴いていたらしいシリウスはこちらを見下ろしながら小さく頷く。

どうやら、最も危険な任務に飛び込む気は十分であるらしい。

(危険な任務だが、やるしかないか)

この状況で先手を取られるわけにはいかない。

急ぎ、この脅威に対抗することとしよう。