作品タイトル不明
840:変化を待つ
しばらくの間魔物と連戦し、経験値を稼ぐ。
とはいえ、今のレベルになってくると中々レベルが上がることは無く、スキルの成長が精々だった。
無論、いつまでも上がらないというわけではないため、そのうちレベルアップもするだろうが――やはり、強敵と戦わなければ中々経験値も得られないということか。
尤も、今はスキルを成長させたいところでもあるため、スキルレベルだけでも歓迎ではあるのだが。
「《神霊魔法》も47レベルか……50の大台も近いんだがな」
「レベル50になると何かあるんですかね?」
「さてなぁ。レアスキルだとその辺りの情報もないから、単なる希望でしかない」
流石に、レアスキルである《神霊魔法》がこれ以上進化するということは無いだろう。
だが、特化したスキルであるだけに、何かしらのテクニックが出現する可能性には期待したい。
とはいえ、テクニックも全てが使い易いということは無く、ほとんど使っていないテクニックも多いわけだが。
比較的使い易い三魔剣ですら、あまり使っていないテクニックがあるのだ。
魔法系のテクニックが、果たして本当に使えるかどうか、確証は何も無い。
(そもそも独自色が強すぎるんだよな、《神霊魔法》は)
《神霊魔法》――その進化前の《降霊魔法》は、プレイヤーの選択次第でその性質を大きく変える。
というか、普通は《召喚魔法》のような使い方をすることが想定されたスキルであり、武器の強化一本に絞っている俺の方が珍しいタイプだろう。
かなりのデメリットを背負う代わりに得られる、強力な効果。《神霊魔法》は間違いなく強力なスキルの一角だ。
そんなスキルの大台というだけあって、効果には期待したいところである。
「使っている人が少なすぎて、情報が足りないのよね、《神霊魔法》って」
「MP封印のコストが重すぎますからね」
「その辺はやりようがあると思うんだがなぁ」
そんな俺のコメントに、緋真とアリスは溜め息を吐きながら首を横に振っている。
どうやら、普通はそんなデメリットを背負う余裕はないらしい。
まあ、俺もMPの消費には気を遣って戦っているため、その大半が封印されるのが厳しいということは理解できるつもりだ。
その上で、《神霊魔法》は十分すぎるほどに強力なスキルなのだが――まあいい、とにかく情報が無いことに変わりはないのだ。
「ところで、クオン」
「ああ、分かってる」
声量を落とし、鋭く囁くアリスの言葉に、首肯を返す。
――見られている。かなり距離があるため正確な位置は定かではないが、何者かが俺たちのことを監視しているようだ。
詳細は不明、しかし方角は東側。つまり、エインセルの勢力である可能性がある。
どうやら思ったよりも早く、連中は動き始めているようだ。
(思った以上に動きが早い……まさか、このタイミングで既に部隊を展開しているとはな)
しかも、すぐに攻撃を仕掛けてくるわけではなく、偵察に留めてこちらを観察している。
雑に攻撃してくるだけならすぐにでも殲滅してやるところだが、位置を隠して偵察されているとなるとそうもいかない。
こちらが捜索に移ればすぐにでも撤退するだろうし、何かしらの方法で位置を特定できない限りは止めることはできないだろう。
「……厄介だな」
まさか、俺とアリスの二人でも位置を特定できない方法で監視してくるとは。
相手がスナイパーであれば――殺気を込めてこちらを攻撃しようとしたのであれば、即座に位置を把握することができる。
しかし、連中はただこちらを監視しているだけだ。何となくその気配を掴めたとしても、正確な位置まで把握することはできない。
俺の性質を理解しての対策か、はたまた偶然か――何にしろ、今の状況はこちらにとって都合が悪い。
(撤退すべきか? いや――)
ここで拠点まで撤退して守りを固めるべきかとも考えたが、あの拠点では防衛に向かないことは分かり切っている。
であれば、敵を捜索して倒すべきかと問われれば、それも否だ。
捜索する動きを見せれば、監視者はさっさと撤退することだろう。
であれば、どうするべきか――
「……仕方ない、このまま続けるぞ」
「いいのかしら? 色々と知られることになるけど」
「どうせ俺たちの情報なんぞ最初から知られている。新しい手札を見せなければいいだけの話だ」
尤も、《獄卒変生》の習熟が行えないことは残念ではあるが。
まあ、種族スキルにレベルは無いし、経験値を稼ぐ必要が無いことだけは都合が良い。
今できることは、敵に渡す情報を絞りながら、相手の位置を捜索することだ。
敵の位置を把握できさえすれば、一気に潰すことはできる。
それに、最悪発見できなかったとしても、敵に渡す情報は最低限で済むはずだ。
「監視に気付いたとは思われないように、継続して戦う。アリスは可能な限り位置の特定を頼む」
「私は捜索に動いていいのね?」
「お前さんは普段から姿を消しているからな。そこは問題ない」
俺や緋真、ルミナが敵の位置を探そうとすると即座にバレてしまうが、アリスだけはその限りではない。
普段から姿を隠して行動しているアリスは、見えなくなっていたとしても不自然ではないのだ。
可能であれば、その間に敵の位置を特定したいところである。
位置を特定さえできれば、逃がす前に殲滅することは可能だ。
それが、今俺たちにできるベストの選択肢となるだろう。
(とりあえず、状況だけはアルトリウスに送りつけるとして――さて、どうなるかね)
この場に於ける対応はこれで問題ないだろう。
しかし、この後のこととなるとまた別の話だ。エインセルが動き出した以上、こちらも対応を決めなければならない。
動くこと自体は予想していたが、想像以上に動きが早い。
まさか、一日も経たないうちから偵察部隊を送り込んでくるとは。
流石に、攻撃部隊を編成するにはまだまだ時間が足りないだろうが、遠くないうちにその準備も完了することだろう。
そしてそこには、ここで俺たちを観察して得た情報を反映している筈だ。
(俺たちがいる状況で、素直に高い戦力で攻めてくるのか。はたまた、潜入と破壊工作を優先してくるのか。或いは、その両方か)
戦力に対する反撃はまだしも、破壊工作への対策は正直難しい。
その辺については、アルトリウスに対策を願いたいところだ。
とはいえ、ここが動き始めたなら、他の拠点についても攻撃を準備している可能性はある。
あまり、戦力を割ける余裕はないと考えておいた方がいいだろう。
「この拠点をいつまでも防衛し続けるのは無理じゃないのか……?」
ぼやくように呟きながら、監視の方向を見ないように足を進める。
エインセルがこうもあっさりと部隊を動かしてきたということは、それだけ戦力に余裕があるということでもある。
正直、このような場所の拠点を防衛することは困難であるし、エインセルにそれだけの戦力があるならいつまでも守り続けることは不可能だろう。
この拠点の防衛はそこそこにして、もっと何かしらの方法を考えておくべきだろう。
「先生、また猿が来そうですけど?」
「またか。バリエーション豊かだからまだいいけどな」
またもやって来たワイズエイプの群れに嘆息しつつ、戦闘の準備をする。
考えなければならないことが山積みだ。
面倒ではあるが、ともあれ目の前の問題から一つずつ対処していくこととしよう。
まずは、群がってきた魔物の群れを片付けて――悪魔のことについては、状況が進展してからだ。
アリスには負担をかけることになるが、それまではレベリングに勤しむこととしよう。