軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

839:敵の出方は

拠点の確保部隊は、思ったほどは待たされることなく到着した。

どうやら、俺たちが拠点確保の作戦を行っている間には招集していたらしい。

気が早いというべきか、スムーズで助かると言うべきか――何にせよ、あまり待たされなかったことは僥倖だと言える。

拠点防衛を行う『キャメロット』のメンバーと、坑道内の採掘を行う『エレノア商会』のメンバー。

幹部ではない構成員とはいえ、その能力は一流だ。拠点のことについては彼らに任せておけばいいだろう。

俺たちはその間、防衛がてらに周囲で狩りをして、少しでも鍛えておくべきだ。

「……で、狩りに出てくるのはいいんですけど。あんまり東側に行って大丈夫なんですか?」

半眼でそう声を上げる緋真は、緩やかになった山の斜面を振り返り、視線を上げる。

俺たちは山を降り、平地に近い辺りにまで降りてきた。

直線距離ではそれほどではないが、山道であったため降りてくるのにはそれなりに時間を要したものだ。

飛んでいけばすぐに戻れる距離ではあるが、中々に遠く離れた気分になる。

「エインセルのことについては、別に気にせんでもいいだろう」

「刺激しすぎるのはまずいんじゃないんですか?」

「相手の拠点を落とした後だぞ? 既にこれ以上ないほど刺激しているんだから、今更だ」

以前この辺りを訪れた時は、エインセルとの戦いは避けなければならなかった。

だが今は、未だ直接的ではないとはいえ、相手との戦闘状態に入っている。

エインセルから襲撃を受けることすら想定内なのだから、今更刺激するしないなど気にする必要はないだろう。

「エインセルの出方が分からんから警戒する、っていうのはあるがな。だが、分かりやすく反応してくれるならむしろ助かるってもんだ」

「わざわざ防衛部隊を呼んだのに私たちだけで対処するつもりですか、ってことなんですけど?」

「構わんだろう。あそこで戦うよりはリスクが少ない」

一流のプレイヤーが揃っているとはいえ、防衛設備の整っていない拠点だ。

しかも、戦闘には優れない技術者のプレイヤーも多くいる状態である。

その状況で悪魔を迎撃し、尚且つ坑道を防衛するのは中々に難しい。

それならば、俺たちが先に遭遇して迎撃できた方が良いのだ。

「まあ、そうは言っても、エインセルがどの程度素早く動いてくるかは分からんがな」

「とりあえず、ドラグハルト側との戦闘は変わらずの状況みたいだけどね」

ドラグハルトの勢力は、エインセルの勢力と激しい戦闘を続けている。

つまり、拠点を落とされた後も、両勢力は戦いの手を緩めていないのだ。

互いを本気で潰そうとする、その動きは変わることなく継続している。

それはドラグハルトにとっては想定外だったのかどうなのか――ファムであれば掴んでいるのかもしれないが、向こうの状況はまだよく分からない。

(ドラグハルトが追い込まれるようなことがあれば、併せてこちらも対処しなけりゃならんだろうが……)

何にせよ、今は状況の推移を見守るしかない。

エインセルと小競り合いするのはいいが、本格的に戦うのはまだ先だ。

今しばらくは、この膠着状態が続いて欲しいところである。

「ともあれ、エインセルが動きを見せたなら、先んじて俺たちで対処した方が確実だ。だからこそ、しばらくはこうして東側に出て稼ぐわけだな」

「大丈夫なんですかね……まあ、了解ですけど」

緋真は相変わらずの慎重派であるが、戦闘になれば文句も言わず戦うことだろう。

何にしても――

「近づいてくる悪魔も、近辺にいる魔物も、とりあえず倒しておけばいいのさ――《練命剣》、【命輝一陣】」

呟いて、餓狼丸を抜き放ちながら生命力の刃を放つ。

空を奔る黄金の刃は、上方にあった木の枝を斬り飛ばし――そこに掴まっていた青黒い猿の魔物を地面にまで落下させた。

この近辺に生息している魔物で、名前はワイズエイプ・メイガス。

人間とほぼサイズの変わらない猿の魔物で、中々に知能が高く集団戦を得意とする。

特に厄介なのは、個体によって戦い方を変え、道具や魔法も自在に扱うことができる点だ。

コイツはメイガスなので、攻撃魔法を操るタイプであった。

「ギキィ!?」

「こいつら手を変え品を変えで面倒なのよね」

落下してきた猿はセイランが前足で蹴り飛ばして片付ける。

そんな中で頭上から降ってきた声は、いつの間にか木の上に登って別の個体を背後から貫いていたアリスであった。

ちなみに、そのワイズエイプが持っていたのはボーラである。

石と植物の蔓で作られた簡素なものではあるが、命中すると中々に効果的だ。

そんなものでも作れる知能があるというのは中々に面倒である。

この魔物は、こういった簡素な武器だけでなく、罠まで扱うような知能があるのだから。

(……罠か)

高度な道具を扱うという点でエインセルとの共通点を感じたが、生憎と奴はそんな中途半端な知能の持ち主ではない。

互いに罠を張っていることなど前提としたうえでの戦いとなることだろう。

流石に、そう容易く通じるような罠もない筈だ。

「アリス、トラップがあったら――」

「優先して解除でしょ、了解」

ワイズエイプ達が使う罠は簡素なものであるため、複雑な手順を踏まずとも解除できる。

というか、場所さえ分かってしまえば適当に破壊すれば済むだけの話だ。

そのカモフラージュが中々に上手いところが厄介な点ではあるが、アリスのスキルの前ではほぼ隠されていないのと同義だ。

トラップへの対処はアリスに任せつつ、襲ってきた魔物への対処に専念する。

「――《練命剣》、【命輝鎧】」

木々を搔き分け、頭上からこちらに襲い掛かってくるのは、ワイズエイプ・ソルジャー。

木と石で作った手斧と、木製のバックラーのようなものを装備した近接戦闘タイプ。

しかも一応は魔法を使えるため、蛮族のような見た目でありながら魔法戦士という不可思議な魔物であった。

奇襲に気付かれたからこそ前衛を買って出たのだろうが、頭上から来ようと対処は容易い。

打法――天陰。

拳で手斧の一撃を逸らしながら、ワイズエイプの顔面へと拳を叩き込む。

それと共に親指を眼窩へと突き入れ、眼球と脳を破壊しながら地面へと叩き付ける。

一応は頭を踏み砕いて確実にとどめを刺しつつ、俺は首を傾けて狙撃してきた矢の一撃を回避した。

ワイズエイプ・アーチャー。よくもまあ森の素材で作った弓で、そこまで正確な射撃ができるものである。

「ルミナ!」

「はい、私が対処します!」

弓持ちの厄介な点は、きちんとスナイパーとしての動きを心得ているところである。

狙撃をした後はそのポイントに拘泥せず、さっさと移動して次なるポイントを探そうとする。

そのため、地上から追いかけているとまた見失いかねないのだ。

アーチャーの対処はルミナに任せつつ、俺は地上を駆けてきた別の個体、大柄な肉体を持つワイズエイプ・ファイターを相手にする。

こちらは徒手空拳で戦うタイプで、道具を使ってくる連中よりは単純で分かりやすい。

それでもきちんと連携はするため、決して知能が低いわけではないのだが。

「よくもまぁこんな魔物を……『生奪』」

斬法――剛の型、刹火。

大きく振り上げられた拳、その下に潜り込むようにしながら前へと踏み出し、餓狼丸の刃を振るう。

全く同時に放たれた二つの攻撃。しかし、ワイズエイプの攻撃は俺の頭上を貫き――交錯する餓狼丸の刃は、その腕を脇から深く斬り裂いた。

肩の半ばまでを断たれ、ワイズエイプの右腕は動かなくなる。

太い血管を斬られて溢れ出す血は、すぐにでもショック状態に陥りかねない程だ。

それでも、ワイズエイプはこちらの姿を捉えようと視線を向け――

「まあ、緊張感はあって悪くないんだがな」

その時には背後に回り込んでいた俺は、背中からその心臓を貫き、大柄な猿を絶命させた。

倒れるワイズエイプを尻目に血振りをしつつ、周囲の状況を改めて確認。

どうやら、他の獲物は仲間たちによって片付けられつつある状況のようだ。

さて、果たしてこいつらは狩りの標的として有効な相手であるかどうか――正直微妙なところではあるが、経験値と数はそれなりだ。

とりあえず、もう少し平地へと向かいながら、辺りの魔物を確かめてみることとしよう。