軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

815:再戦

「……わざわざ接触してくるとはな。準備ができたってことか、ロムペリア?」

そこに立っていたのは他でもない、悪魔から人間へと生まれ変わったロムペリアであった。

相変わらず目に毒なその姿は周囲のプレイヤーの視線を集めていたが、生憎と本人の意識が向いているのは俺だけだ。

鋭く研ぎ澄まされたその気配に、俺は目を細めながらそう問いかける。

その言葉に、ロムペリアは軽く溜め息を零しながら答えた。

「正直なところ、まだまだ足りていないわ。私はまだ、自分自身に納得していない。けど――これ以上は、挑むタイミングが無くなりそうだから」

「何か、知っていることでも?」

「単なる予想よ。これからエインセルと戦うのであれば、後はなし崩しに全ての状況が動き始めるでしょうから」

当然とばかりに放たれたロムペリアの言葉を、否定することはできなかった。

エインセルとの戦いに、ヴァルフレアが手を出してくるかどうかは分からない。

だが、エインセルとの決着がついた後ですら、ヴァルフレアが黙っているとは考えづらかった。

時間をおいていればこちらが有利になるばかりの戦場で、最後までこちらを放置してくれるとは思えない。

対等な戦いになるなら、MALICEは容赦なく牙を剥いてくることだろう。

「だから、エインセルと戦い始める前。今のタイミングでなければ、存分に戦うなんてできないでしょう?」

「まあ、いつでも挑戦を受けると言った手前、お前さんがいいと言うなら拒むつもりもないんだがな」

苦い表情で頷くロムペリアは、果たしてどの程度の修練を積んできたのか。

ロムペリア自身、まだ己の実力に納得できてはいないのだろう。

そして、今の段階では俺に勝てるとは考えていないようだ。

負けるつもりで挑んでくるのもどうかとは思うが――しかし、言葉を違えるつもりもない。

(それに、この女は勝算一切無しで挑んでくるような奴じゃないだろう)

先ほどの言葉に嘘は無いだろうが、それでも牙は隠している。

たとえほんの僅かであろうとも、勝ち筋があるからこそこうして挑んできたのだろう。

虎視眈々とその隙を狙っているであろう鋭い視線に、戦慄が背筋を駆け登る。

たとえ短い期間であったとしても、コイツは確実に牙を研いできたのだ。

「加減は不要だな」

「ええ、勿論」

俺の言葉に、ロムペリアはむしろ笑みを浮かべながら腕を振るう。

それと共に、周囲に展開されたのは決闘モード用のフィールドだった。

どうやら、プレイヤーが使う機能の一部をロムペリアも扱えるらしい。

この箱庭の外部からやって来た、という意味ではロムペリアも異邦人なのかもしれないが、果たして女神はどのようなシステムを与えたのやら。

「試させて貰うわ。魔剣使い、クオン」

火が弾けるように、ロムペリアの周囲で赤い魔力が活性化する。

それと共に彼女が掲げたのは、手の甲に複雑な紋様の描かれた、黒い手袋であった。

防具の類には見えない。であれば、あれこそがロムペリアの武器なのだろう。

悪魔としての制約から解放され、武装すらも扱えるようになったということか。

(ロムペリアの戦闘は魔法が主体だったが――さて、どう変わっているのかね)

相手の防御力からして、攻撃力の強化は不要だろう。

必要なのは、その魔法に対処するためのスキルだ。

故にこそ、主体とするのは《蒐魂剣》のテクニック――しかしそれは、ロムペリアも承知の上だろう。

「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」

蒼い光を纏い、地を蹴る。

それとほぼ同時に腕を振るったロムペリアは、周囲へと赤い魔力の破片を展開した。

鋭い刃のような特性を持つロムペリアの魔力は、触れるだけでダメージを負うことになる。

しかし、【断魔鎧】を使用している今の俺にはダメージを通すことは無かった。

尤も、その分だけ【断魔鎧】を消耗することにはなるが。

歩法――縮地。

だが、接近のためにダメージを防ぐには十分だ。

目前にまで接近した俺に対し、ロムペリアはその手刀を振るった。

手袋に刻まれた刻印が紅に輝き、宿る魔力は鋭い刃を造り上げる。

魔力を刃として形成する魔法。それは以前のロムペリアも扱っていた代物であるが、その魔力の密度は明らかに段違いであった。

斬法――柔の型、流水。

ロムペリアの放った一閃に、こちらの一閃を合わせて受け流す。

その際、僅かに刃筋を立てはしたものの、それだけでは魔力の刃に一部の損耗もない。

鍛え上げたが故の結果か、その装備の効果か――或いは、両方か。

「――『生魔』」

斬法――剛の型、竹別。

ロムペリアの肩口へと向け、蒼の混じる刃を振り下ろす。

空を裂くその一閃は、ロムペリアが掲げた左手に発生した魔力の盾へと突き刺さり、その防壁を半ばまで斬り裂いて止まる。

瞬間、その破損に応じるように、鋭い魔力の破片が砕けながら飛び散った。

「っ……!」

砕けた魔力の破片には、当然のように攻撃判定が残っている。

威力はそれほど高くは無く、【断魔鎧】に阻まれて消失したが――それでも、【断魔鎧】は大きく消耗することとなった。

咄嗟に距離を取った俺を、ロムペリアは両手に刃を作り上げながら追い縋る。

その顔に浮かべられているのは、策が成功したことに対する会心の笑みだ。

「《練命剣》、【命双刃】」

そのロムペリアを、左手に生命力の刃を作り上げながら迎撃する。

ロムペリアが習得してきたのは、対人戦に特化した攻撃方法だと言っていいだろう。

魔法を破壊されることを前提に、破壊した相手に損傷を与える能力。

俺を倒すという目標、ただそれを目指して作り上げられた戦闘スタイルであった。

「さあ、もっとよ!」

ロムペリアが発した魔力が空中で形を成し、いくつもの刃となって降り注ぐ。

狙いは雑であるため当たることは無いが、厄介なのは落下した刃が破片となって飛び散ることだろう。

周囲を舞う紅の魔力は、俺の行動を著しく制限している。

大きく動けば、【断魔鎧】は消滅して魔力の刃は俺の体を斬り裂くだろう。

「そしてこの距離では、【断魔斬】でまとめて消滅させることもできない、と。よく見ていることだ」

ロムペリアが突き出してきた刃を半身になって躱し、次いで振るってきたもう片方の刃を流水にて受け流す。

魔力によって形作られた刃は伸縮自在で、この距離であろうとも邪魔になることは無い。

そして《蒐魂剣》で破壊しようとすれば破片となって砕け散り、こちらにダメージを与えてくる。

これは素直に称賛せざるを得ないだろう。尤も――

「だが、接近戦は付け焼刃だな」

「――――っ!」

左手の刃で攻撃を受け流した直後に刃を消し、ロムペリアの右腕を掴む。

反射的に身を引こうとしたロムペリアに、俺は即座に手を離し――必要以上の力で腕を引こうとした彼女は、上体が僅かに後ろへと逸れる。

打法――寸哮・衝打。

姿勢を僅かに落としつつ、左の拳を掬い上げるように振るう。

肋骨の下から狙うその打撃に、ロムペリアは咄嗟に腕でガードしようとし――叩き込んだ衝撃が、腕を貫いて体の中にまで浸透する。

「が……ッ!」

衝撃に息が詰まり、ロムペリアは目を見開く。

それでも、咄嗟に後方へと跳んでいたことは流石だろう。

ダメージは受けたものの最低限、戦闘続行は可能な筈だ。

故にこそ、飛び散る魔力が増える前に片を付ける。

歩法――烈震。

地を蹴ると同時、ロムペリアの視線がこちらを向く。

戦慄と共に見開かれたその目は、薄紅色に光を纏い――

「ッ……!?」

思考に靄がかかるような感覚に、唇の端を嚙み千切って意識を保つ。

正体は不明、魔眼の類か。アリスのそれを受けたことが無ければ、抵抗できなかっただろう。

こちらを打倒し得る可能性と言える、確かな牙。それを感じ取りながら、俺の刃はロムペリアの身を貫き――決闘は、俺の勝利として終了となったのだった。