軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

794:駆除の戦い

「クエストの内容としては……やっぱり、スローター系っぽいですね」

「殲滅か。普段なら歓迎するところではあるんだが……あいつらはそもそも殲滅できるもんなのか?」

エルダードラゴンからクエストを請け負ったはいいものの、内容は随分と難解なものだ。

やることそのものは単純で、ただあの鎖された蟲達を殲滅していけば済む話である。

しかしながら、その殲滅対象はアルフィニールに匹敵するかの如く無尽蔵で、とてもではないが倒し切れるような数ではない。

そのことは緋真も分かっているのか、軽く肩を竦めつつ説明を続けた。

「流石に、あれを倒し切れなんて話にはなってないですよ。倒せた数に応じて報酬が貰える、っていう程度ですね」

「数を稼げと……中々、加減の難しい話だな」

残骸や末端は、おそらくラーネアの系統の中でも最下位に属する存在だろう。

あれはあれでなかなかの強敵であるのだが、果たしてそいつらを倒しているだけでクエストの評価を得られるのかどうか。

クエストの説明文ではそこまでは記載されていないため、奴らだけで高い評価を得られるのかは謎である。

しかし少なくとも、あの程度の雑魚を片付けただけでエルダードラゴンの素材を得られるとは思えなかった。

「なるべく多くを倒し、無理のない程度に新種も見つけて戦う必要があるか」

「大丈夫なの? 話を聞く限りだと、本体はとてもじゃないけど勝てる相手じゃないでしょう」

「それは否定せんよ。流石に、全ての龍王を同時に相手取って相討ちになるような怪物は、今の俺たちには手に余る」

龍王一体だけでも、相手が本気では勝てる保証はない。

それを複数相手にして相討ち――否、状況から見てラーネアの方が優勢だったと思われるため、かの蟲の方が強力だと考えるべきだろう。

とてもではないが、本体は勝てるような相手ではない。そもそも、本体以前に強力な個体が出てくる可能性も高いだろう。

どの程度まで踏み込むかは、判断の難しいところだ。

「とりあえず残骸と末端の強さはある程度把握できている。様子を見ながら、少しずつ踏み込んでみるべきだろうな」

「他にもいろんな個体が出て来そうですしね。っていうか、あれで毛先ってどういう表現なんですかね……?」

「この近辺エリアの魔物と比較しても遜色ない力を持った存在でも、毛筋一本にも満たんというわけだろうさ」

自らの前髪を摘まみ、眺めながら、そう口にする。

毛筋にすら満たぬ毛先と、そこから零れた残骸。鎖された蟲ラーネアにとって、あの個体はその程度の存在でしかないのだろう。

恐らくは、もっと強力な個体が存在している筈だ。それは毛か、或いは爪か――いずれにせよ、それは残骸や末端とは比較にならない怪物なのだろう。

「ともあれ、行ってみるぞ。限界は越えぬよう、注意しながらな」

軽く溜め息を吐きながら、再び時空の精霊が作り出した穴へと足を踏み入れる。

どうやら、この精霊たちはエルダードラゴンの配下であり、彼の意向を受けて行動していたようだ。

エルダードラゴンの住まうあのエリアは時の綻びの更に向こう側であり、時の綻びを通らなければ辿り着けない場所であるらしい。

そのような領域を作り上げられること自体が理解不能であるが、気にするだけ無駄な話だろう。

ともあれ、再び時の綻びへと足を踏み入れ――改めて、この領域の異質さに顔を顰めた。

(説明を聞いた今だと、余計に実感しちまうな、これは)

この場所にあるものは全てが虚像。エルダードラゴンの力によって支えられた、実体のある幻。

これが現実ではないと知って、それでも尚その場にあるようにしか感じ取れないのは、驚嘆すべき事態であった。

だが、知っているが故に違和感は強い。在り得ない存在をその場にあるように感じる――その矛盾が、酷く気味が悪かった。

「ふぅ……行くぞ。どうせ、すぐに向こうから来るだろうからな。シリウス、お前は大きさを抑えておけ。俺たちの盾になる必要はない、自分から攻めろ」

鎖された蟲達は、接触だけで相手のHPを吸収する能力を持っている。

純粋な攻撃力ではダメージを受けずとも、その能力によってダメージを負ってしまうのだ。

それを防ぐためには、そもそもシリウスの的を小さくするしかない。

巨大な姿はリーチも長く強力ではあるが、小回りが利かずに接触を許してしまうことがあるのだ。

そのため、体を小さくして攻撃の隙を少なくしておけば、接触によるダメージを低減できるのである。

流石にゼロとはいかないだろうが、かなりダメージは抑えられるはずだ。

「とりあえず、最初は抑え気味でいいですよね?」

「構わんが、油断はするなよ。あれだけの数がいるとなると、唐突に初見の何かが混じってきてもおかしくは無いからな」

本体と戦うつもりは無いとはいえ、総体を見ると圧倒的な格上だ。注意して戦う必要があるだろう。

その決意と共に綻びの内部へと足を進め――先ほど片付けた筈の気配が、既に戻ってきていることに気が付いた。

恐ろしいことに、あれだけ倒したにもかかわらず、既に補充されてしまったようだ。

(アルフィニールでも再配置にはもう少し時間がかかるだろうに……)

胸中で毒づきつつ、餓狼丸を抜き放つ。

ラーネアは得体の知れない怪物であり、その能力も測ることはできていない。

だが少なくとも、末端の末端を再配置する程度であれば、一時間と経たずに完了させてしまうようだ。

「……来るぞ」

鎖された蟲の一部が、俺たちの気配を捉えて動きを変える。

それはまるで波紋が広がるように周囲へと伝播し――その意識とも呼べぬ本能が、一斉にこちらを捉える。

「……【オリハルコンエッジ】【オリハルコンスキン】【武具神霊召喚】《剣氣収斂》」

背筋を這い上がる怖気に顔を顰めながら、餓狼丸の攻撃力を高める。

木々の間より末端が飛び出してきたのは、それとほぼ同時であった。

斬法――剛の型、刹火。

振るう刃が、宙に浮かぶ末端に埋め込まれた黄色い瞳を捉える。

痛みを覚える様子もない蟲であるが、この黄色い瞳だけは弱点であるらしい。

そこにダメージを与えると動きが鈍るため、追撃も当て易くなるのだ。

どしゃりと地面に落ちる音だけを認識しながら、更に前へと足を踏み出す。

「……《奪命剣》、【刻冥鎧】」

右腕の肘から先を、黒い鎧が覆う。

常に黒いオーラを纏い始めた餓狼丸は、スキルを発動せずとも《奪命剣》の効果を得られるようになる。

僅かな接触でもHPを削り取ってくる敵の群れであるため、回復手段は多いに越したことはないだろう。

「《オーバーレンジ》、《奪命剣》【咆風呪】」

次いで、前方へと大きく広げるように【咆風呪】を配置する。

長持ちさせるように《蒐魂剣》を組み合わせた方がいいのかもしれないが、生憎と鎖された蟲達は魔法を使わない。

組み合わせたとしても、あまり効果は無いだろう。

(残骸はただ直線的に向かってくるだけで脅威ではない。末端は若干ではあるが飛行軌道を変えてくるものの、単調の域を出ない。冷静に対処できている内は脅威ではないが――最下級だからこそ、と考えるべきか)

黄色い瞳を見ないようにしつつ刃を走らせ、地面から喰らいつこうと飛び掛かってきた残骸を斬り伏せる。

本能的に襲い掛かってくる怪物たちは、ただ攻撃を躱しながら刃を振るうだけでいい。

一撃で殺し切れずとも、ルミナやセイランの援護が入れば片付けるには十分だ。

「『生奪』!」

斬法――剛の型、輪旋。

横合いを通り抜けようとした二体の末端を斬り飛ばし、刃を振るう勢いを回転させて蹴りを放つ。

その一撃を受けて吹き飛ばされた残骸は、シリウスの振り下ろした腕に叩き潰されて煙と化した。

それを横目に息を吐き、体を屈め、掬い上げるように一閃を振るう。

地を這う残骸たちは、場所的に斬り辛い。足元から振るうような一閃でなければ、その肉体を捉えることはできないだろう。

半ばまで断たれて仰け反った個体へ、振り上げと共に八相の構えへと転じた刃を振り下ろす。

真っ二つになった個体は地面に転がり、その赤黒い体液を地面に撒き散らして――

(体液――――)

その違和感が、踏み出す足を押し留めた。

鎖された蟲たちは、死ねば何も残さずに赤黒い煙となって消滅する。

だというのに、あの地面に広がっている赤黒い液体は何なのか。

――そこまで考え、俺は己の認識が間違っていることに気が付いた。

「新種の、個体か……ッ!」

俺が斬った残骸はそのまま消滅している。

あの赤黒い液体は、斬られた蟲から流れ出たものではなく、最初からそこに存在していたものだったのだ。

それを理解するのとほぼ同時、赤黒い液体は、膨れ上がりながら覆い被さるようにこちらへと殺到してきたのだった。