軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

791:異形の蟲

突如として現れた、謎の魔物。

それとリンクするように動き出した気配は、木々の間から無数にこちらへと押し寄せてきていた。

その姿はどれも異なっているが、共通点も存在している。

それは、どこか肉感のある昆虫の足のような物体が、折り重なってできた構造体。

最初に遭遇したのは壺のような形状の化け物だったが、現れた化け物たちはどれもこれも統一感のない姿をしていた。

「チッ……! 数が多い!」

個々の能力で見れば強敵であるとは言い難いが、いかんせん数が多い。

途切れることなく木々の間から溢れてくる化け物たちへ、俺たちは途切れることなく刃を振るっていた。

「《オーバーレンジ》、《奪命剣》【咆風呪】!」

広く設置するように【咆風呪】を放って化け物共の体力を減らしつつ、こちらへと近づいてきた個体を斬り伏せる。

大きさは基本的に中型犬程度までなのだが、浮いていたり地を這っていたりと統一感はない。

こいつらに統一された要素があるとすれば、それは折り重なる肉の隙間から黄色い瞳が覗いていること、そしてそれを見ると理由もない強烈な嫌悪感に襲われることだろう。

この嫌悪感を避ける術は無く、目を合わせた時点で意識に刷り込まれるように感じてしまう。

これは非常に厄介で、意識の何割かを無理矢理奪われてしまうのだ。

「アリス! 詳細は分かったか!?」

「全然分からないわね……名前は『鎖された蟲の残骸』と『鎖された蟲の末端』。歩いてるのが残骸で、浮いてるのが末端よ! それぐらいしか読み取れない!」

「鎖された蟲……?」

詳細は不明だが、先程のルミナの話からして、この時の綻びに封じられている存在か何かだろうか。

といっても、封じられた怪物という程度しか情報が無いため、何も分からないことに変わりはないのだが。

これまでの魔物の命名規則とは異なる、奇妙な名前。

それが余計に、この魔物が異端の存在であることを指し示しているかのようだった。

「……仕方ない、詳細は後か。『生奪』!」

打法――槌脚。

こちらへと飛び掛かろうと身を屈めた残骸に接近し、振り下ろした足で叩き潰す。

それと共に横薙ぎに払った一閃で、浮かび上がっていた末端の二体を斬り裂いた。

やたらと重い感触ではあるが、強化すれば十分に斬れる程度の強度。

この数の多さに比すると厄介なタフさではあったが、片付けるのに苦労するというほどではなかった。

(数は多いが、十分に拮抗できてはいる。このまま波が収まるまで片付けていれば――)

頭上から落下してきた末端を半身になって躱しつつ、蹴り飛ばして距離を開ける。

地面を這う残骸たちは体勢が低いため斬り辛いが、掬うように刃を振るえば斬れないことは無かった。

溢れる怪物の群れを片付けつつ、仲間たちの状況を確認し――俺は、思わず眼を剥いた。

頑丈極まりないはずのシリウスのHPが、目に見えて削られていたのだ。

「ルミナ、シリウスの援護を!」

「っ!? はい!」

不要だと思われていたシリウスへの援護要請に、ルミナは一瞬呆気にとられた様子であったが、すぐに状況を察知してシリウスの傍へと移動した。

それと共に俺もシリウスの状況を確認し、事態を把握する。

どうやらこの化け物共は、接触することで相手のHPを吸収する能力があるようなのだ。

(《奪命剣》のような、ダメージに比例した吸収ではなく……常時一定割合の体力吸収か!)

一体一体の吸収量は大したことは無いだろうが、集まれば非常に危険だ。

小回りの利かないシリウスの場合、どうしても接触を避けられないタイミングができてしまうため、こうして少しずつ体力を削られてしまうのだろう。

珍しい、シリウスにとっては苦手とするような敵であった。

とはいえ、吸収量は一定であるようで、非常に高いHPを持つシリウスからすればそれほど大きなダメージではない。回復魔法で十分に賄いきれる程度の消耗だろう。

「《オーバーレンジ》、『命呪閃』!」

斬法――剛の型、輪旋。

餓狼丸の一閃と共に、生命力の刃を大きく押し広げる。

その軌跡に巻き込まれた蟲たちは、重いその身を真っ二つに斬り裂かれて赤黒い煙へと還ってゆく。

しかし蟲達がそれに怯むことは無く、俺の身へと取り付こうと煙を吹き消しながら飛び掛かってきた。

歩法――間碧。

流石に、多数の敵を同時に相手にはしていられない。

しかしながら、効率よく片付けていかなければあっという間に敵に埋め尽くされてしまうだろう。

こいつらの最も危険な点は、この数であると断言できる。

絶える様子もなく出現し続ける群れが相手では、少しでも効率が下がれば押し潰されてしまうだろう。

素早く、効率的に、群れが途切れるまで戦い続けなければならないのだ。

「――『生奪』」

斬法――柔の型、零絶。

身を躱した動きと共に刃を触れさせ、踏み込みと共にその身を両断する。

内側にある瞳を見ないようにするのが何とも面倒だが、冷静な判断力を奪われるわけにはいかない。

果たしてあれは、アリスの持っているような魔眼の類なのだろうか。

相手に強い嫌悪感を抱かせる魔眼など、人が持っていても邪魔にしかならないだろうが。

「つくづく、意味の分からん生き物だ……!」

【咆風呪】を抜けてきた蟲達は、揃ってHPを削られている。

そこに放たれる緋真やセイランの魔法は、こちらまで迫ってくる個体のHPを一撃で仕留められる圏内まで削ってくれているのだ。

斬法――剛の型、刹火。

しかし、それだけ体力を削られながらも、蟲達は恐れる様子もなく襲い掛かってくる。

生存本能も恐怖の感情もない。ただ機械的に襲い掛かるそれは、生物としてどこか歪であった。

残骸、末端――であれば、その大元である『鎖された蟲』とは一体何か。

その答えは出ぬままに、蟲達による襲撃は収束を迎えようとしていた。

「……ふぅ」

赤黒い煙と化した蟲達は、何の素材も落とす様子はない。

森はまるで何事もなかったかのように元の様子を取り戻し――取り残されたかのような心境で、俺たちは刃を握ったままその場に立ち尽くしていた。

『《HP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《オーバーレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

『《天与の肉体》のスキルレベルが上昇しました』

インフォメーションによって戦闘が終了したことは悟るが、気は抜けないままに周囲の状況を探り続ける。

幸い、この近くにあの蟲達の気配は無く、しばらくは今の襲撃は起きそうにない様子だった。

「……とりあえず、全員無事だな?」

「はい……何だったんですか、今の」

「俺に聞かれてもな。ルミナ、精霊として何か分からないか?」

「すみません、お父様。私にも、何も……恐らく、時の綻びに封じられた怪物の一部なのでしょうけれど」

高位の精霊となったルミナにすら分からないとなると、今の俺たちには一切情報が無いということになる。

まあ、この時の綻びというエリアそのものが謎であるため、致し方のない話なのだが。

「何か知っているとすれば、あの時空の精霊とやらぐらいじゃないの?」

「そうですけど……意思疎通できるんですかね?」

「分からんが、他に当ても無いからな。あいつを探してみるしかないか」

先ほど、このエリアの入口となっていた場所には、既に精霊の気配は無かった。

あの砂時計がどこに行ったのかは分からないが、危険生物が蔓延しているエリアであいつを探さなければならないようだ。

「クエストならクエストと言ってくれればいいんだが……とりあえず、進むしかないか」

一応、スクロールを使えば帰還することは可能だ。

だが、このエリアには確実に何かがある。その正体を探るため、ギリギリまで粘った方がいいだろう。

あの砂時計には一言文句を言いたい気分を抱きつつも、俺たちはこの奇妙なエリアの更に奥へと足を進めることにした。