軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

771:一角の瓦解

レベルアップを含めた大量のアナウンスが流れ、とりあえずは一段落かと息を吐き出す。

とはいえ、だからと言って『はいそうですか』と喜べるような状況でもない。

目の前には、共通の敵を持ちつつも敵であることには変わりない、ドラグハルト達がいるのだから。

(大公のリソースを奪わせないことが目的である以上、本来であれば俺たちだけで大公に勝つことがベストなんだが……)

今回、初めて大公と戦って実感した。奴らは、今のプレイヤーの力だけで倒せるような存在ではない。

アレを正面から打倒するためには、あとどれだけの時間が必要になることか。

しかしながら、ドラグハルト達の力を借りるというのもまた論外だ。

出し抜かれる危険性はいつでもあるし、共同戦線を張ったとしてもある程度はリソースを回収され、奴らの強化に繋がってしまう。

ドラグハルトの目的が金龍王の打破であるならば、大公のリソースを独占できなかったとしても十分に通じる可能性はあるのだから。

しかし――

(ここで斬る、というわけにもいかんか)

ドラグハルト、レヴィスレイト、アルファヴェルム。三体の公爵級悪魔は全てある程度は消耗している。

最も酷いのはアルファヴェルムだろうが、それでも一撃で殺し切れるほど消耗しているわけではない。

餓狼丸の解放は、残り一分を切っている。ただ一撃、全力の攻撃を叩き込んだとしても、その後の戦いには続かない。

素直に、ここは見送るしかないだろう――そう判断し、俺は餓狼丸の解放を解除した。

「実に鋭い牙であったが……ここは収めるか、英雄よ」

「互いに消耗している状態で殺し合って、得をするのはどこのどいつだ?」

「フ、道理よな。しかし改めて、素直に称賛するとしよう。貴公の一閃、実に見事であった」

人の姿に戻っているドラグハルトは、至る所に傷を作って血を流している。

しかしながら、その立ち姿は一切ブレることは無く、堂々とした仁王立ちのまま俺へと真っ直ぐに告げていた。

きちんと防がなければプレイヤーが全滅するほどの魔法を、いくつも正面から受け止めていたのだ。大層なタフネスである。

「礼を言うつもりは無いが、そちらがいなければ勝てなかったことは事実だろう。それについては、こちらも称賛させて貰う」

「クク、悪くない気分であるな。これが達成感というものか」

俺の言葉を受け、ドラグハルトは満足げに笑う。

柄にもないことを言ってしまったが――まあいい、疲れからの気の迷いだ。

何にせよ、大目標を達成することはできた。負けるつもりで戦っていたわけではなかったが、それでも勝利できたことは奇跡に近いだろう。

本来、あの状態となったアルフィニールを倒す手段は無かったはずなのだから。

(攻撃が通じていなかったわけじゃない。だが、準備期間があまりにも足りなかった)

アルフィニールの性質を知る前に戦いが始まり、手探りで情報を集め――結果として、手が足りない状況に陥っていた。

万全の対策と準備を整えた上で戦えば勝てる相手だったかもしれないが、今の状況ではほぼ不可能だっただろう。

アリスには感謝しなくてはなるまい。あの言葉が無ければ、俺も《 不毀の絶剣(デュランダル) 》を吸収しようなどという賭けに出ることは無かった。

まあ、とんでもなく分の悪い賭けだったとはいえ勝利は勝利。ここは喜んでおくとしよう。

そんなことを考えている間に、動いていた気配がこちらに近づいてくる。緋真とアルトリウスが、それぞれ別の方向から集まってきたのだ。

「……竜心公」

「勇者よ。此度は互いに、英雄に救われた形になったな」

「そうですね。不可抗力だったとはいえ、ここまで頼り切りになってしまったのは汗顔の至りです」

「然り。余も、大いに未熟を味わった。故、ここは素直に退散しておくこととしよう――分かっているな、勇者よ?」

「ええ、無論です」

そのやり取りの意図はよく分からなかったが、どうやらアルトリウスとドラグハルトは何らかの共通認識を持っているようだ。

思わず首を傾げるが、今それを聞くことではないだろう。

アルトリウスと言葉を交わしたドラグハルトは、そのまま踵を返して颯爽と去ってゆく。

レヴィスレイトに肩を貸されたアルファヴェルムも付いて行くが、果たしてどのように帰るつもりなのか。

奴らについても気にはなるが、その辺りの情報についてはファムが引っこ抜けば済む話だろう。

「今のやり取りはどういう意味だ?」

「ここは放棄して、さっさと撤退した方が身のためだ、という忠告ですね」

「ここをか?」

アルフィニールが根城としていた都市。

奴の力によって侵食されていたそこは、今や巨大なクレーター状の廃墟と化している。

建物の残骸が地面に埋まっている姿が所々にある程度で、とてもではないが元の姿を想像することすらできない。

都市どころか地面の下まで侵食し、奴の一部になっていたからこその崩壊具合であった。

「……確かに、ここを何とかするぐらいなら、新たな都市を築いた方がよっぽど早いとは思うが」

「ああいえ、それもそうなんですが……この都市の位置の問題です」

「突出し過ぎているって話か」

アルフィニールを倒したことにより、俺たちは戦線を北上させることが可能にはなった。

しかし、ここで素直に北上してしまえば、俺たちは二体の大公に挟まれることになってしまう。

奴らが積極的に攻めてくるかどうかは分からないが、その危険は避けた方が賢明だろう。

そもそも、次はどのように大公と戦うのか、それすら見えていない状況なのだ。

その状況で奴らと戦線を交えるのは自殺行為である。

「既に撤退の指示は出しています。『キャメロット』のメンバーはスクロールで帰還の予定です。クオンさんたちはどうしますか?」

「飛んで帰ってもいいとは思うんだが、スクロールを使うほどか?」

「最悪、エインセルがすぐに攻めてくる可能性も考えています」

アルトリウスの言葉に、思わず眉根を寄せる。

アルフィニールを倒した直後に他の大公が攻めてくるなど、考えたくもない可能性だ。

だが、こちらに打撃を与える手段としては有効と考えられる。

最悪の可能性、とアルトリウスは口にした。であれば、奴がそれを狙ってくる可能性も否めはしない。

「しかし、それはエインセルがアルフィニールの敗北の可能性を考えており、尚且つ救援を出していたパターンですので……流石に、この直後に襲撃を受ける可能性は低いかと」

「……逆に言えば、留まっていれば攻撃を受ける可能性は高まるってことか」

「そうですね。エインセルがこのエリアの確保に動く可能性は否定できないかと」

そうなると非常に厄介だ。そこまで急ぐ必要があるかどうかは微妙なところだが、今の状況では接敵したくはない。

こちらも、さっさと帰還することにしよう。

「ところで、一つ聞いてもいいですか? 先ほどの、アルフィニールに行った攻撃なのですが」

「あ、それは私も聞きたかったです、先生。あれ、何なんですか?」

ここまで話しを聞いていた緋真が、眉根を寄せて声を上げる。

妙に静かだと思ったが、どうやらあの『唯我』のことを考えていたらしい。

そんな緋真の発言に、俺は思わず眼を見開いた。まさか、今の段階でそのような反応を示すとは思わなかったのだ。

「何なのか、か。お前はどう見たんだ?」

「何も分からないです。分からなかったんですよ。何をどうしたらあんな風に斬れるのか、さっぱり掴めませんでした」

「……成程な」

緋真の言葉に、小さく頷く。アルトリウスの方はそもそも何も分かっていない様子であった。

だが、これはかなり驚くべき言葉だ。何しろ、何かがあるということは確信しているのだから。

あの『唯我』――ジジイの剣は、普通に剣を振るっているようにしか見えないものだ。

そういうものであるし、だから俺もジジイと対等に戦えるようになるまで二十年近い時間を要したのだ。

「残念だが、あれを口で説明することはできん。ただ、 中(あた) る剣だから 中(あた) った、というだけだな」

「全然分からないんですけど……」

「だろうな、俺もそうだった」

こればかりは、詳細に説明することはできない。

何故なら、言葉で理解することは、むしろ習得の邪魔になりかねないからだ。

緋真は俺の言葉を納得できずにいる様子だが、これ以上は説明ができないのである。

アルトリウスも納得できなさそうな様子ではあったが、俺がそれ以上説明するつもりが無いことを悟ったのか、嘆息交じりに声を上げた。

「正直よく分かりませんが、あの一撃は他の大公にも有効だと思われます。空間攻撃、および必中属性ということですかね……参考にします」

「参考になるのか? まあ、空間攻撃は通用するんだろうが……」

他の大公がアルフィニールと同じ性質を持っているかどうかは分からないが、根本的には同質の存在だろう。

通じるのであれば、有効な攻撃手段になる筈だ。

今回は余裕がなかったが、次の戦いには準備をして臨めるよう、期待しておくこととしよう。

「ともあれ、流石に疲れた。今回は帰るとするか」

「そうですね……ゆっくり休みましょう」

深く溜め息を吐き出して、インベントリからスクロールを取り出す。

戦果の確認は後に回し、今はゆっくりと休むとしよう。