軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

725:異形の軍勢

次々と姿を現し始めた、異形の悪魔。

体に起こっている変化はそれぞれが別々で、性能もまたまちまちだ。

一息に殺し切れる程度の性能の個体もいれば、追い詰めるまでに数手必要とするような個体もいる。

どこから差が生まれているのか、分析はしきれていないが――これが、アルフィニールの次なる手ということだろう。

「やってくれる……『生奪』!」

腕が異常に肥大化し、足は獣の四つ足となっている悪魔。

明らかにバランスが悪そうであるが、四つ足であるが故にその重量に耐えられているらしい。

しかし、相変わらずこいつらは妙に体が重い。その重量も武器となっていることが何とも厄介だ。

巨大な拳を振るいこちらへと打ち掛かってくる悪魔だが、四つ足であるが故に腕の重量からのバランスの崩れが起こらない。

斬法――剛の型、刹火。

俺はその一撃を掻い潜るようにしながら肉薄、脇の下へと餓狼丸の刃を通した。

肩を半ばまで断ち斬られ、悪魔の右腕がだらりと下がる。

しかし、それでも怯む様子のない悪魔は、残る左手でこちらを掴もうと振り返り――俺は、それに合わせて悪魔の背後へと回り込んだ。

そして、俺を視界に捉えられず見失った悪魔に対し、背後から心臓を刺し貫く。

「……ったく、切りがないな」

先ほどと比べれば、悪魔の密度自体は落ちている。

しかし、この妙な悪魔たちが次々と出現しているため、進む効率はまるで上がっていない状態だ。

数で押すだけではなく、個々の性能を上げることもできるとは――

「っ……先生! こいつら、融合体なんじゃないですか!?」

「何だと!?」

「少数、三体か四体程度の悪魔を融合させた個体! 小さいから融合の様子を見つけられなかったんです!」

敵を焼き斬りつつ発せられた緋真の言葉に、俺は思わず眼を見開いた。

悪魔の融合、それは先ほども見たアルフィニールの手札の一つだ。

完成した融合体は、少なくとも伯爵級と同等クラスの能力を持つことは分かっている。

融合の完成までは時間がかかり、それまでの間に倒し切れれば大した脅威ではない――それは、確かに事実だろう。

「納得できる分析だ。あれだけの数で融合できるなら、もっと少ない数で融合できたとしても不思議じゃない」

大量の悪魔の融合は、強力な個体の出現に繋がる。

それはそれで、確かな脅威であると言えるだろう――しかしながら、融合には時間がかかるしその巨大さ故に察知は容易だ。

シリウスさえいるならば、対処はそこまで難しくは無いだろう。

だが、少ない個体での融合は厄介だ。個々の戦闘能力は極端に上昇するわけではないのだが、融合を止めることも困難であり、更に足止めを喰らう可能性が高くなってしまう。

どちらの方がより厄介かと考えると、少数の融合の方が俺たちにとっては都合が悪いと言えるだろう。

(やってくれる……!)

既に見せている手札の応用で、俺たちの足を鈍らせて見せたのだ。

確かに、少数での融合は今回初めて見た要素ではあるのだが、アルトリウスならば既にその可能性を予想しているだろう。

これでは、俺たちが望んでいたような新たな情報であるとは言えない。

で、あるならば――この程度、容易に踏み越えなくては、目標に達することなどできるはずもないのだ。

「シリウス、吹き飛ばせ!」

「ガアアアアアアアアアアアッ!!」

俺の号令と共に、シリウスが《ブラストブレス》を放つ。

やれることは多くは無い。こいつらは数が多く、そこそこに強い――何とも面倒なタイプの敵だ。

ここに対処しているのでは手が追い付かなくなる。そのために、まずは広範囲を吹き飛ばさなければ。

拡散するシリウスのブレスは、正面の悪魔たちをまとめて巻き込みながら切り刻む。

ただの悪魔であれば、至近距離で耐えられるはずもない。そして融合体であったとしても、受け止めきれずに後方へと吹き飛ばされる。

横に広がるブレスであるが故、前方にいる悪魔たちはほぼほぼ一掃された状態だ。

「進むぞ!」

「いい加減包囲されますよ、こんなの!」

「承知の上だ。いつでもスクロールは使えるようにしておけよ!」

無茶をしていることは分かっている。それでも、ギリギリまで情報を得ておく必要があるだろう。

ブレスによって薙ぎ払われ、悪魔たちの動きは鈍っている。

そこを狙い撃つように放たれるのは緋真たちの魔法だ。体力を削られ、体勢を崩している融合悪魔たちは、狙い澄ました魔法の連射によってその命を散らした。

(多少は時間を稼げた。だが、今も後方で悪魔の融合は続いているだろう。俺たちだけの戦力では詰め切れるもんじゃない)

俺たちという戦力を読み切った上でその判断を下しているのであれば、アルフィニールは想像を倍するほどに恐ろしい存在だ。

ならば――その手では俺たちを止めきれないということを、真正面から示してやるしかないだろう。

久遠神通流合戦礼法――終の勢、風林火山。

長時間闘い続ける必要はない。ただ、俺たちはお前の喉笛に刃を届かせることができると、それを証明すればいいのだ。

強く地を蹴った俺は、シリウスのブレスを防ぎ切った融合体の首を擦れ違い様に斬り飛ばしつつ、影響の少なかったエリアへと飛び込む。

やるべきは単純だ。できるだけ広範囲に攻撃を撒き散らし、こいつらを削り取りながら先へと進む。

「――《オーバーレンジ》、『破風呪』」

《蒐魂剣》を組み合わせた【咆風呪】を横手に放ち、そいつらの生命力を削りながら魔法の発動を抑える。

それと共に正面の悪魔の群れへと飛び込んだ俺は、刃に生命力を纏わせながら大きく薙ぎ払った。

「『呪命閃』」

斬法――剛の型、扇渉・親骨。

《奪命剣》を付与した【煌命閃】は、体勢を立て直しかけていた悪魔たちをまとめて両断する。

その中には融合体の悪魔も存在していたが、コイツは今の攻撃を防ぎ切れるほどの個体ではなかったようだ。

両断された悪魔が塵と化していく中、俺の頭上を飛び越えていくつもの魔法が悪魔の群れに着弾する。

頭上では精霊たちを召喚したルミナと、亡霊を分身へと変えたセイランが、縦横無尽に飛び回りながら無数の魔法を降り注がせていた。

しかし、その破壊の雨の中でさえ、融合体の悪魔は物ともせずにこちらへと突撃を敢行し――地を蹴るよりも早く、紅の影が首を貫き即死させた。

「今のによく間に合わせたな」

「見てたからね。それより、長くは持たないわよ」

「分かってるさ、だがそれも今じゃない――『命餓一陣』!」

黒を纏う生命力の刃を飛ばし、こちらへと寄ろうとしていた悪魔を牽制しつつ跳躍、動きを止めた悪魔の懐に潜り込む。

そしてこちらに攻撃を放つよりも先に、俺は相手へと肩を密着させた。

打法――破山。

地を揺らすほどの衝撃。それを余すことなく、悪魔の体内へと叩き込む

臓腑をまとめて叩き潰され、融合体の悪魔は動きを止める。

だが、今の感触は――

「……そういうことか」

斬法――剛の型、白輝・逆巻。

衝撃に後退した悪魔へ、神速の振り上げが襲い掛かる。

脇腹より突き刺さったその一閃は、まるで抵抗を受けることなくその身を斜めに両断した。

塵と化して行く身体。しかし、その断面は俺の知る生物のものではなく、雑多に混ぜ合わされたような奇妙な形状をしていた。

「融合途中だったな。本当に、肉体を無理矢理混ぜ合わせているのか」

アルフィニールの能力は未だによく分からない。

だが、この融合は他の悪魔には見られない特徴だ。これは間違いなくアルフィニールによるものだろう。

あの巨大な融合体は外見からしてそうだったが、どうやら悪魔の体を一つの物体として混ぜ合わせることができるようだ。

軟体生物というより、液状にして攪拌しているような様相である。

不気味というより、それは最早冒涜的だった。

「対処法とは言えんな。だが、融合中の悪魔はとにかく防御力が低いと――」

一つ情報を確認し、次なる標的へと視線を向ける。

融合体は融合体でまだまだ謎が多い、それは留意しておくべきことだろう。

餓狼丸を握り締めて足を踏み出し――遠方、アルフィニールが居城としている大都市の上、何かが煌めいたのが目に入った。