軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

724:奇襲と混戦

「グルルルルルルッ!」

悪魔の群れに囲まれながら、シリウスは当たるを幸いと暴れ回っている。

グレーターデーモンであろうと、その強靭な体の攻撃を防ぎ切ることはできず、また反撃もシリウスにダメージを与えることはできない。

とはいえ、遠くから飛んでくる魔法については多少ダメージを受けているが、魔法耐性と体力が高いためそれも微々たるものだ。

そうしてシリウスが目立って悪魔たちの目を引き付けている中、俺たちは周囲にいる悪魔たちを次々と片付けていった。

(今のところは、個々の戦力が強化されている程度か。その上で数の暴力ができるんだから厄介だな)

最低でもアークデーモンから編成される悪魔の大群。

相変わらず陣形も何もない突撃っぷりではあるのだが、個々の性能が向上しているこの状況は厄介だ。

ただのデーモン程度であれば苦戦しなかったであろう軍勢も、アークデーモン、グレーターデーモンとなれば厳しくなる。

悪魔を生み出すことがアルフィニールの能力であるならば、作り出す悪魔に制限はないということなのか。

「流石に爵位悪魔は生み出せないだろうが、な!」

斬法――剛の型、輪旋。

大きく振り抜いた刃で、体勢を崩していたグレーターデーモンの首を斬り飛ばす。

アークデーモンと違い、肉体を変質させられるグレーターデーモンは多種多様だ。

ものによっては厄介な能力を有している可能性もあるため、早めに潰しておくに限る。

今の俺たちの攻撃力ならば、急所を潰せばグレーターデーモンでも十分に殺し切れるようだ。

(やはり、個体としての性能はエインセルの軍勢には劣るか。奴らだったら、まだ死んではいない筈だ)

グレーターデーモンまで行くと首を斬り落としても死なないことがあるため、油断はできない。

だが、このアルフィニールの悪魔の場合は、そこまでの耐久力は無いようだ。

尤も、それを補って余りある数が存在するため、安心できる要素ではないのだが。

「光よ、降り注げ!」

シリウスの体を盾にしながら上空で立ち回っているルミナは、手を掲げて光の雨を降り注がせる。

地に触れた光はそのまま炸裂し、周囲の悪魔たちへ次々とダメージを与えて行った。

広範囲にダメージを与えていることも良いが、それ以上に敵の体勢を崩してくれる点が非常に助かるのだ。

歩法――縮地。

光の炸裂に押され、つんのめるように体勢を崩したグレーターデーモン。

その脇を潜り抜けるようにしながら、俺は悪魔の首へと刃を差し込んだ。

斬法――剛の型、刹火。

避ける暇も与えはしない。

相手が前傾姿勢になる体重移動を利用した一閃は、一撃でその首を断ち斬る。

塵となって消滅していく悪魔には目もくれず、注意すべきは次なる標的だ。

(少しずつだが、前に進めている。この戦力では、俺たちを留めることはできない――なら、どう出る?)

これまでの経験上、アルフィニールは決して愚かではない。

戦力を過信して座視するという真似はしない筈だ。当然、何かしらの手を打ってくることだろう。

確信、或いは期待――それは、遠くで蠢く影からも明らかだった。

「お父様、融合体の悪魔です!」

「だろうな、まずはそれで来ると思ってたよ」

手札を切るにしても、既に見せた札から使ってくるのは予想していた。

だが生憎と、その手札に対しての対抗手段は心得ているのだ。

つまり――融合が完了しきる前に殺してしまえばいい。

「シリウス!」

「グルァアアッ!」

悪魔たちを取り込み、巨大化していく不気味な肉塊。

それを睨み据えながら、シリウスはその尾に膨大な魔力を蓄えていく。

強靭な前足が踏みしめた大地を砕き、引き絞られた弓を思わせる尾は、収束した魔力を元に強大な破壊力を生成する。

そしてシリウスは、周囲の悪魔たちを巻き込みながら、その尾を力強く振り抜いた。

《 不毀の絶剣(デュランダル) 》――種族の持つ名を冠する、極大の一閃。

「ッ……!」

標的を空間ごと真っ二つにするその一閃は、ズレた空間が元に戻る衝撃と共に悪魔の群れを血煙に変える。

そしてそれは、徐々に巨大化しようとしていた融合体も同じであった。

融合中は戦力も耐久力も万全ではない融合体は、シリウスの振り抜いた軌道から真っ二つにズレ落ち、塵となって消滅していく。

前にも確認した通り、融合体の対処はこれでいいだろう。高火力の遠距離攻撃を常に残しておく必要はあるが、やろうと思えばいくつか手段はある。

「さて……その手は通じんぞ、どうするアルフィニール」

シリウスの一閃によって消し飛んだ敵陣へ、俺たちはそのまま足を踏み入れていく。

広範囲の薙ぎ払いと融合体の対処により、かなりの数の悪魔を一撃で片付けることができたのだ。

悪魔たちが寄ってくる前に、また大きく距離を詰めることができるだろう。

大地を汚した緑が黒く染まり消滅していく中、俺たちは更に先へと足を進め――向けられた鋭い殺気に息を呑んだ。

「っ――」

斬法――柔の型、流水。

風を切る音と、何かが飛来する気配。それに、俺はほぼ反射で刃を合わせた。

眼前に現れたそれは、五指を鋭い刃のような形状に変質させたグレーターデーモン。

攻撃の軌道を逸らされた悪魔は、その凄まじい勢いのまま地面を転がるように吹き飛んでいく。

だが、そいつは地面に爪を突き立て、ギラギラと燃えるような殺気を放ちながら再びこちらへと向けて地を蹴った。

(こいつは――何だ?)

グレーターデーモンではあるだろう。

だが、背中からは虫のような二対の翅が伸び、小刻みに羽ばたいている。

それによって凄まじい加速を得ているようだが、足は異形の四本脚だ。

獣のような前足と、虫のような後ろ足。以前に戦ったことのあるデーモンキメラのようではあるが、何かが違う。

「――『生奪』」

詳しく調べたいところではあるが、生憎のんびりしていると包囲されてしまいかねない。残念だが、速攻で片付けるしかないだろう。

虫の後ろ脚を使って一瞬でこちらに肉薄してきた異形の悪魔は、その爪で俺の心臓を貫こうと手を突き出してくる。

尤も――姿が見えているのであれば、それを捉えることなど難しくはないが。

斬法――剛の型、中天。

何の小細工もない、真正面からの渾身の振り下ろし。

例え爪が伸びていようが、リーチでは餓狼丸の方が圧倒的に上だ。

タイミングを逃すことなく捉えた俺の一閃は、異形の悪魔の頭蓋を唐竹割に断ち割った。

「……重い?」

その手応えに、俺は思わず眉根を寄せる。

頭を上から真っ二つにし、確実に殺すことには成功した。

絶命した悪魔は塵となり消滅していくが、今の手応えには違和感を感じずにはいられなかったのだ。

攻撃の体捌きによるものではない。今の悪魔は、純粋に体重が重かったのだ。

(《抜山蓋世》の効果で、相手の攻撃の重さは感じづらくなっている筈だ。なのに、この手応えは……やはり、ただのグレーターデーモンでも、デーモンキメラでもないな)

ティエルクレスのスキルである《抜山蓋世》は、あらゆるステータス対抗判定にボーナスを与える。

たとえば腕相撲の場合、STRを参照した対抗判定になり、数値が高い方が有利に戦うことができる。

敵との押し合いで力負けが発生するのは、このステータス差による影響なのだ。

ダメージを与える場合でも、敵のVITとの対抗判定が発生していると言えるため、このスキルは想像以上に活きる場面が多いのだ。

逆に、その影響を受けている今の俺は、敵の攻撃の重さを感じ辛くなっている。

力負けをしていないというのに、この重さは――やはり、純粋に重いのだろう。

「……分からんが、どうやらまだ調べる機会はありそうだな」

悪魔の群れの中、点在する建物の屋根の上、所々に異形の姿が見て取れる。

どうやら、これがアルフィニールの次なる手であるようだ。

望んでいた展開に思わず笑みを浮かべつつ、向かってくるそれらへと刃を向けたのだった。