作品タイトル不明
707:レベル40のテイムモンスター
全員のレベルアップを確認し、差し当たっての目標を達成したことに安堵する。
ルミナとセイランのレベル40の達成――目前の目標であったとはいえ、一つクリアすれば多少は肩の荷が下りるというものだ。
他にも諸々、スキルのレベルは上がっているが、やはり目玉となるのはこの二体の強化だろう。
とはいえ、進化にしろレベル50にしろ、大きな節目の前であるため、そこまで大きな成長にはならないのだろうが。
「まず……ルミナは《戦乙女の大加護》と、《大霊撃》か」
どちらも、既存のスキルの強化ということになる。
新たなスキルを取得できなかったことは少々寂しいが、そこは次の成長に期待するべきだろう。
元のスキルがあるため、効果に迷うということはないのは利点とも言える。
「《戦乙女の加護》はいつも助かってはいたが……強化されてどう変わるんだ?」
「純粋に出力が上がるようです。それから、回復効果もあります」
「スキルだから《夜叉業》はすり抜けてくれるのかどうかだな」
自分自身、スキルによる回復であれば通っているため、効果がある可能性は高い。
《夜叉業》を使っている間はどうしても安定性に欠けるし、こういった回復手段が増えることはいいことだろう。
効果があるかどうかは確認しておきたいところだし、次の戦闘で確認しておくこととしよう。
敵からダメージを受けることはないだろうが、《練命剣》でHPを減らしておけば確認は十分に可能だ。
「で、《大霊撃》……正直地味な効果だな」
「そこそこ、相手の魔力を削ってはいましたが、流石に格上相手には厳しいですね」
《霊撃》は相手のMPにもダメージを与えるスキルだった。
その効果自体は良いのだが、公爵級のような格上相手には、多少MPを削ったところで焼け石に水だ。
正直なところ、効果を発揮する相手が限られるスキル、という印象である。
「《大霊撃》に成長したことで、出力が向上しました。これまでよりも多くMPダメージを与えられるようになっています」
「ふむ……確認したいところではあるが、この辺りは魔法を使ってくる敵がいないんだよな」
生憎、この周囲にはワニしかいない。
こいつらは魔法を使ってくることがないため、MPを削ってもその効果を実感することはできないだろう。
正直、《蒐魂剣》を育てるのも【奪魂斬】を使わなければならないため、中々に面倒だ。
「まあ、機会があったら使う程度でいいだろう。格上相手にも効果を発揮できるなら、かなり有用になるだろうしな」
どれだけ強力な悪魔であったとしても、魔力を失えばできることは殆ど無くなるだろう。
それだけで、果たしてどれだけ脅威度が下がることになるか。
尤も、奴らが持っている魔力は膨大だ。数多くの戦闘参加者が一斉に同じ作戦を取るならまだしも、ルミナだけで削り切れるようなものではないだろうが。
無論、それも致し方のない話だ。ワールドクエスト、レイドボス、それらは個人で戦うような相手ではないのだから。
「そしてセイランは、《剛嵐》と《麻痺耐性:中》か」
「クェ!」
水を向けられたセイランは、中々に誇らしげな様子だ。
《麻痺耐性:中》についてはそのまま、『麻痺』の状態異常にかかり辛くなるという効果だろう。
空中で麻痺してしまうとそのまま墜落してしまうし、地味なように見えて意外と重要な成長だと言える。
元々セイランは相手の攻撃を受けないようにしている方ではあったが、それでも体力はそこそこあるため、受け止めるということもたまにある。
そういった時に状態異常にかからないようにするのは重要なことだ。
これまでずっと雷を纏って戦ってきた、その効果があったということなのか――まあ、由来は何でもいい。とにかく、使えるスキルが増えたと考えておけばいいだろう。
「で、《剛嵐》とやらは《纏嵐》が進化したスキルだよな? 何か変わったのか?」
そう問いかける俺に対し、セイランが【アニマルエンパシー】で伝えてきたのは、以前に戦ったワイルドハントとの戦闘のイメージであった。
あの時のワイルドハントは、全身に嵐を纏ってこちらへと襲い掛かってきていた。
防壁のように周囲へと張り巡らせるものと、体に纏わりつかせるようにしてスピードを向上させるもの。
どうやら、セイランはその両方を扱えるようになったということらしい。
「攻防一体の能力だったな。あの真のワイルドハントには……流石に及ばんだろうが、戦えるぐらいにはなってるかもしれんな」
「クェエッ!」
威勢よく声を上げるセイランは、負けるものかと気炎を上げる。
とはいえ、あのワイルドハントは一目見ただけで別格だと分かるような怪物だった。
強さとしては龍王に匹敵するクラス、しかも相手の得意なフィールドはこちらが苦手な空中だ。
マトモに戦っても勝負にはならないだろう。
「いずれまた出会うことがあれば、その時に確かめるのもいいだろうさ。とにかく、応用力が高まったのはいいことだ」
「やっぱり、派手な成長にはなりませんでしたね」
「その分、次がどうなるか楽しみってことだな」
果たして、次なる進化は存在するのか。
或いは、レベル50に大きな成長をすることになるのか。
現状では、それを確かめる術はない。ひたすらに修練を積み重ね、着実に力をつけるのみだ。
どちらにせよ、次の戦いまでにレベル50に到達できるとは考えていない。
それについては次の楽しみに取っておくこととしよう。
「さて、それじゃあ次はシリウスの進化だな。時間は……まだ余裕はあるか」
「私も一応スキルは進化したんだけどね。まあ耐性系だから別にどうでもいいのだけど」
「アリスさんのそれ、毒ですしね。無効にはならないんですか?」
「《超位毒耐性》らしいわよ。一応、自分で毒を撒き散らしても掛からない程度にはなってるみたい」
それは元からそうだった気もするが、まあ自分を巻き込んでも毒にならないなら使い道はあるだろう。
相手が毒を使ってくる場合には、かなり有利に戦うことができるはずだ。
何しろ、相手の毒を気にせず接近することができるのだから。
「とにかく、今は成長を急がにゃならん。フィノの成長武器も、シリウスの進化も――ドラグハルトの野郎には、もう少し大人しくしておいてほしいものだな」
流石に、ブロンディーの奴が手を出していると言っても、その行動を遅らせることはできないだろう。
ドラグハルトはプレイヤーの戦力を募りはしたが、正直なところ戦力として当てにしているようには思えない。
奴は、俺とアルトリウスだけを見ていた。他は考慮に入れる必要もないとばかりに。
プレイヤーの戦力を募る行動など、こちらの戦力を削る程度の目的でしかないだろう。言うだけならタダなうえに、効果があるだろうからな。
「でも、ドラグハルトが動き出したとして、私たちも急いで動いたら意味がないんじゃ?」
「それはその通りだがな。あまり急ぎ過ぎて、奴らよりも先にアルフィニールに手を出したら最悪だ」
何しろ、こちらが囮にされる形になってしまうのだから。
理想はアルフィニールの意識が完全にドラグハルトに向いた状態で、横っ腹に一撃をくれてやる形だが――流石に、そうそう上手くはいかないだろう。
ドラグハルトもアルフィニールも、こちらに対する注意は残したまま戦う筈だ。
「本格的に動くのはアルトリウスから声がかかってからだが、いつ来るかは分からん。来る前にできることをやっておかんとな」
必要なのは、次なる標的だ。
アリスはきょろきょろと周囲を見渡しているが、どうやら近くにはワニの姿は無いようである。
あまり無駄話をしていても時間の無駄だし、さっさとこの場を移動することとしよう。