軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

071:二度目の進化

戦闘も終わり、回復を行いながら諸々の戦後処理を行っていく。

ルミナの進化は、処理が終わって落ち着いた状態で始めることとしよう。

とりあえず武器の状態を確認する。元々耐久が減りつつあった太刀は、今の戦闘で随分と削られてしまったようだ。

どうやらあの体液は、武器の耐久度を減少させる効果を持っていたらしい。

ということは、やはり蟻酸鉱の腐食とは、相手の武器や防具の耐久を減らす効果を持っているのだろうか。

まあ、今すぐに確認できるわけでもないし、それは気にする必要は無いだろう。

と――武器から視線を戻したその瞬間、緋真が素っ頓狂な声を上げていた。

「あれ!?」

「ん、どうした?」

緋真の方へと視線を向ける。すると、視界に入ったのは舞い散る青い燐光だった。

それは、横たわる巨大な女王蟻の死骸から発せられているもの。

その光の散り方に、俺は確かに見覚えがあった。

「これは……ボスを倒した時の演出か?」

「そう、みたいですね。今のでアイテムが配布されています」

「ボス扱いだったんですね、女王蟻……あの強さにも納得ですよ」

補助に徹していたとはいえ、後衛のシェパードにとってはプレッシャーの強い相手であっただろう。

苦笑しつつインベントリを確認すれば、確かに女王蟻由来と思われる素材が放り込まれていた。

まあ、他のアイテムで枠がかなり圧迫されているため、探すのには少々手間取ったが。

■《素材》群蟻女王の甲殻

重量:8

レアリティ:5

付与効果:腐食耐性

■《素材》群蟻女王の足刃

重量:5

レアリティ:5

付与効果:腐食耐性

■《素材》群蟻女王の体液

重量:1

レアリティ:4

付与効果:腐食

■《素材》群蟻女王の翅

重量:4

レアリティ:6

付与効果:腐食耐性

どうやら、素材一つ一つの大きさもかなりのものであるらしい。

思わぬ収穫であったが、もう一度手に入れてくるには少々厳しいだろう。

女王蟻の出現条件もまだはっきりしていないが、流石にこれ以上は武器が持たない。

まあ、ボス扱いということで素材自体はプレイヤー全員に配布されたわけだし、数はそこそこ確保できているだろう。

「うーむ……こりゃまた、どうしたもんかね」

「量はそこそこありますし、フィノに防具にしてもらっては? どうせ篭手と足甲だけですし」

「この比重なら多少は鎧にしてもいいとは思うんだがな」

女王蟻の甲殻は、大きさの割には軽い素材のようだ。

これで作った防具であるならば、大きさ次第では動きを邪魔することも無いだろう。

まあ、素材自体がかなり頑丈であるため、どう加工するのかは想像もつかないが。

「……ドロップしたアイテムは大体同じようだな」

「僕には翅は出てないですね……まあ、他のは全部出てますし、そこまで差はないか」

とは言っても、この翅の使い道もよく分からんわけだが。

ともあれ、これで取得したアイテムの確認は完了した。

ならば次は――

「よし……じゃあ、お待ちかねの進化と行くか」

「おお! クオンさん、彼女がレベル16になったんですか!」

「今の女王蟻はかなりの経験値になったようだな。さて、普通の進化は……ああ、パーティメンバーの画面でやるのか」

アイコンが点滅しているメニューを開き、情報を確認する。

するとそこには、二種類の進化先を示すウィンドウが表示されていた。

どうやら、ルミナの進化先はここでも分岐するらしい。

■エレメンタル

種別:精霊

属性:光

戦闘位置:地上・空中

特定の属性に特化した性質を持つ中位の精霊。

高い魔法攻撃力を持ち、特に得意とする属性の魔法については他の追随を許さない。

また、親和性の高い属性であれば、他属性の魔法を操ることも可能である。

■ヴァルキリー

種別:精霊・半神

属性:光

戦闘位置:地上・空中

神々の世界を守護する騎士であり、精霊にして半神。

魔法能力の高さに加えて武具を扱う能力を有しており、高い戦闘能力を誇る。

特定の武器の扱いに秀でており、魔法と武器を併用した戦いを得意とする。

「ヴァルキリー……どうやら、これが特殊進化みたいですね」

「私たちで剣術を教えてたから生えたんでしょうか?」

「どっちかと言うと、ウェポンスキルを取得することが条件なんじゃないですかね?」

「ふむ……まあ何にせよ、悩む理由は無いな」

他と比較できるわけでもなし、条件なんぞ考えていても仕方が無いだろう。

ともあれ、進化先がこの二つであるのならば、選ぶものは決まっている。

こいつが何のために、妖精から外れた道を選んだのか。

そして、どうして剣の道を選び、真摯にそれと向き合ってきたのか――その憧れを肯定したのは、他でもない俺自身なのだ。

「選ぶのはヴァルキリーだ。そうだな、ルミナ」

「はい、お父さま。わたしは、そのために頑張ってきました」

「いい返事だ。なら、始めるとしよう」

パーティメニューから、進化先を選択する。

ヴァルキリーの表示を指先で押下した、その瞬間――ルミナは体を丸めるようにしながら、蒼白い輝きに全身を包まれていた。

以前見たものと同じ、進化の輝き。しかし、以前よりもなお大きいそれは、ゆっくりと宙に浮かび上がるようにしながら明滅する。

その光の揺らぎの中、ルミナのシルエットが徐々に大きくなっていくことが見て取れた。

そして、その成長が収まると共に、膨れ上がった光もまた収束してゆく。

その中から現れたのは――俺に向かって跪く、緋真とそれほど変わらぬ年頃の少女の姿だった。

「――ありがとうございます、お父様」

光を反射して輝くプラチナブロンドの髪は長く、背中の中ほどまで届いている。

そして顔を上げたその瞳は明るい翠に輝き、以前よりも更に知性的な光を宿していた。

スプライトであった時のように手足が半透明に揺らいでいるということも無く、こうして見るとただの人間に見えるだろう。

だが一点、明らかに人間とは異なる要素が存在していた。

それは、彼女の背中に展開されている光。黄金の輝きによって幾何学的な紋様を描く、光の翼だった。

初めて目にする光の翼に思わず眼を見開いていると、以前よりも更に発音のしっかりした声で、ルミナは改めて口を開いていた。

「お父様達のおかげで、私はここまで来られました……心よりの感謝を」

「また大袈裟なことを。お前に剣を教えていたのは緋真なんだ、俺のことはあまり気にせんでもいい」

「勿論、緋真姉様にも感謝の念は堪えません。ですが、この道を認めてくださったのは、他でもないお父様ですから」

そう言って、ルミナはゆっくりと立ち上がる。

身長は緋真より若干低い程度か。これだけ成長しているならば、久遠神通流の業を使う上でも不足は無いだろう。

進化によって装備は解除されてしまっており、今のルミナはデフォルトと思われる白いワンピース姿だ。

流石に防具が何もないというのも落ち着かないが、これまで着ていた防具は流石にサイズが合わなくなっているだろう。

「……緋真、お前の装備のお下がりとかはあるか?」

「あー……破損した時用に、一応一つ前の装備は取ってありますから、それを渡しますね」

緋真が予備で持っていた装備を取り出し、俺とトレードで交換する。

それを改めてルミナに渡せば、その姿はあっという間に着物姿へと変化していた。

とはいえ、元々緋真向けに作られていたものだからか、金髪との相性は少々悪い様子だったが。

だがそれでも、佇まいは堂々としたもの。どうやら、和服の着こなしもそこそこになれていたようだ。

「よし、まあ、こんなもんか。武器は後で調達するとして……」

「先生、ルミナちゃんのステータスはどうなったんですか?」

「おっと、そうだったな。見てみるか」

緋真に促され、俺は改めてルミナのステータスを表示する。

そこに記載されていたのは、スプライトの頃からは一新された彼女の能力であった。

■モンスター名:ルミナ

■性別:メス

■種族:ヴァルキリー

■レベル:1

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:25

VIT:18

INT:32

MND:19

AGI:21

DEX:19

■スキル

ウェポンスキル:《刀》

マジックスキル:《光魔法》

スキル:《光属性強化》

《光翼》

《魔法抵抗:大》

《物理抵抗:中》

《MP自動大回復》

《風魔法》

《魔法陣》

《ブースト》

称号スキル:《精霊王の眷属》

能力は全体的に向上していると言っていいだろう。

《光翼》というスキルについては、どうやら以前持っていた《飛翔》から変化したもののようだ。

まあ、字面から見るに、今ルミナの背中で緩やかに羽ばたいているこの光の翼のことだろう。

「ルミナ、その翼は飛べるんだよな? 以前の飛行能力と何か変わっているのか?」

「はい、以前よりもよりスピードが出せるようになっていますし、方向転換なども機敏に行えるようです」

「単純に上位互換って所か。他は……《魔法陣》と《ブースト》とやらが増えているな」

《物理抵抗》に関しても効果が上昇しているようであるが、まあこちらは字面通りだろう。

それよりも、追加された二つのスキルは何なのか――そう考えていたところで、横から緋真が声を上げていた。

「これは……プレイヤーも取れるスキルですね。《魔法陣》は……確か、魔法の効果の拡大だったかと。数が増えたりとか、範囲が増えたりとかですね。で、《ブースト》はMPを消費してSTRとAGIを一時的に上昇させるスキルでしたか」

「ふむ……単純だが、それだけに使い所は多そうだな」

物理と魔法、両面でバランスよく強化されたと言った所だろう。

ヴァルキリーはそのどちらもこなせる種族であるようだし、上手い具合にどちらも使いこなして貰いたい所だ。

手札があるのなら、利用しない手は無いからな。

「聞く限りだと、魔法剣士型って感じですね。僕の知る限り、テイムモンスターの中じゃ珍しいタイプですよ」

「そうなのか?」

「大抵はどちらかに偏ってますからね。と言うか、そもそも人型のテイムモンスター自体が凄く珍しいんですが」

まあ確かに、シェパードの連れているテイムモンスターたちは、全て動物の姿をしている。

他にもいるのかもしれないが、これまで俺が戦ってきた魔物も、悪魔以外は殆ど人の姿をしていない。

探せばどこかにいるのかもしれないが、今の所珍しいというのは否定できないだろう。

「……まあ何にせよ、いい具合に成長できたことは事実だろうさ。帰りがてら、具合を確かめていくとしよう」

「流石に街道沿いで帰りますよ? 装備もそろそろ耐久度が拙いんですから」

緋真の刀は女王蟻を焼き斬るようにしていたおかげか、今回はそれほど耐久度を減らされなかったようではある。

だが、これまでの戦闘でかなり消耗しているのだ。いかに刀の扱いに慣れた緋真とは言え、これ以上長くは持たないだろう。

俺の太刀についても、女王蟻の体液のせいでかなり消耗する結果となってしまった。

あまり余計に戦闘を繰り返していれば、王都に到着する前に刀が折れることになるだろう。

それに、時間もそろそろ厳しい。あまりゆっくりとしていては、イベントの準備に影響が出るだろう。

「……了解だ、さっさと戻るとしよう。シェパード、お前さんもそれで構わないか?」

「ええ、勿論。彼女の進化も見られましたし、目的は全部果たせましたよ」

「妖精の進化としちゃ、参考にならないんじゃないか?」

「ははは……まあ、それは否定しませんけど。でも、精霊のルートがある程度分かったことは事実ですし、大きな収穫ですよ」

まあ、精霊に進化する条件に付いては妖精女王がヒントになるようなことは言っていたし、それについてもシェパードには教えてある。

その辺の考察についてはシェパードたちテイマーが自分で何とかするだろう。

現状、俺はルミナのヴァルキリーへの進化に満足している。他のルートについて研究するつもりは無かった。

軽く肩を竦め、俺は山を下りる街道の方へと向けて歩き出す。

「しばらく外に出る羽目になっちまったが……さて、王都はどんな具合になってるかね」

「大規模クランが次々と進出してるでしょうし、結構様変わりしてそうですねー……人が増えてそうだし、今のうちにエレノアさんに予約しておきましょうか」

「そうだな。頼んだぞ、緋真」

「はいはーい。了解です、先生」

調子のよい様子の緋真には若干呆れつつ、俺は意識をルミナの方へと向ける。

王都を出るころは幼女の姿であった精霊も、今では立派な戦乙女だ。

まるで騎士のように付き従う彼女の姿と、以前の印象との乖離に、俺は苦笑を零していた。