軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

070:女王蟻との死闘

光の尾を引き、ルミナが宙を駆ける。

ルミナの放つ光の弾丸、そして擦れ違いざまに振るわれる光を纏う刃は、執拗に女王蟻の右翅を狙っていた。

だが、女王蟻の注意はルミナに向いてはいない。奴の意識は、ひたすら緋真へと向けられていたのだ。

確かに、有効なダメージを与えられていたのは緋真だけであるが――

「本当に厄介だなこのデカブツは!」

打法――逆打。

先ほど穴を空けた脚関節へと蹴りを叩き込み、その部位を確実にへし折りながら、俺は悪態を吐く。

この蟻の巨体を止めることは難しい。しかし、少しでも動きを止めねば緋真が自由に行動できず、そしてその状態では有効なダメージの蓄積に届かない。

俺はへし折った足の残った部分を鉄棒の要領で体を持ち上げ、姿勢を保ちつつ蟻の背中へと駆け上がっていた。

大きく振動するうえに、つるつるとしてバランスが悪い。できれば頭部の上まで行きたかったが、贅沢は言えないだろう。

「止まれ、化け物が!」

打法――槌脚。

全身の回転運動を、振り下ろす足へと収束させる。

アスファルトすら踏み砕く一撃を受け、女王蟻の体は大きく沈み込んで地面へと叩き付けられていた。

それでもあまり大きなダメージにはなっていない様子だったが、動きを止めるには十分だ。

「《スペルチャージ》、【ファイアボール】――しゃああああッ!」

歩法――烈震。

動きを止めた女王蟻へと、緋真は魔法を放ちながら肉薄する。

蜻蛉の構えに握られた緋真の刀は、炎を吹き散らさんとするかのように女王蟻の顔面へと振り下ろされる。

その一撃は狙い違わず直撃し――しかし、その表皮に僅かな傷を付けるに留まった。

『キィィイイイッ!』

「ッ――【焔一閃】!」

あまり痛痒を受けていなかった女王蟻は、当然とばかりにその強靭な顎で緋真の胴を噛み砕こうと迫る。

だがそれを読んでいた緋真は、即座に 魔導戦技(マギカ・テクニカ) を発動、刃に炎を宿しながら、一気に移動しつつ斬りつけていた。

狙ったのは女王蟻の左足。前肢は持ち上げられていたため狙えなかったが、その一閃は確実に二本目の足を削り取っていた。

(そういや、緋真の 魔導戦技(マギカ・テクニカ) は称号効果で強化されているんだったな)

スキルで火属性を強化して、更に称号による強化を加えているのだ。弱点を突いているようでもあるし、それはよく効くことだろう。

着地しながらその様子を観察していた俺は、すぐさま緋真と交差するように女王蟻へと肉薄していた。

奴の意識はあくまでも緋真に向いている。

体勢を立て直し、体の向きを変えようとして――その瞬間に、俺は己の肩甲骨部分をこいつの腹に押し付けていた。

打法――破山。

踏み込んだ足が、地面を擂鉢状に陥没させる。

まるで爆弾が炸裂したかのような衝撃音が響き渡り、女王蟻の巨体は横倒しに転がっていた。

「先生の方が化け物じゃないですか!?」

「やかましい、とっとと追撃しろ!」

尤も、言いながらも手は緩めていなかったようではあるが。

同時に女王蟻へと駆け寄りながら、俺は頭上を翔けるルミナの姿を目視する。

脇構えを意識しているのだろう、体の横に小太刀を構えたルミナは、その刃に眩い光を宿しながら飛翔し、切れ込みの入った足を斬り飛ばしていた。

「光よッ!」

その直後、空中で身をひるがえしたルミナはその左手を勢いよく振り下ろしていた。

瞬間、空中に発生した光の槍が女王蟻の腹部へ次々と突き刺さる。

そこへと追撃を掛けるため、俺と緋真は突進し――

「――緋真、止まれッ!」

「え――きゃあっ!?」

突如として、俺たちの足元から岩塊が隆起し、容赦なく弾き飛ばそうと屹立する。

俺はギリギリで反応が間に合ったが、緋真はそうもいかなかったようだ。

岩に激突して弾き飛ばされ、地面を転がり――それでも、跳ね起きるように体勢を立て直す。

大きくダメージを受けはしたが、一撃で死ぬことは無かったようだ。

(だが、ダメージは大きいか――)

胸中で呟きながら、俺は再び地を蹴る。

眼前を塞ぐ岩塊、そしていつの間にか頭上に現れていた石の弾丸。

間違いなく、これは魔法によるものだろう。女王ともなると、他の同種とは異なり魔法まで使えるようだ。

「《斬魔の剣》……ッ!」

こちらへと降り注ぐ石の弾丸を走って躱し、道を塞ごうとする岩塊を小太刀の一閃で消滅させる。

どうやら、《斬魔の剣》は岩であろうが魔法であれば斬り裂けるらしい。

思わずオークスへと感謝しながら、俺はその先にいる女王蟻へと突撃していた。

歩法――烈震。

隆起しようとする足元を強引に踏み越え、俺は女王蟻へと肉薄する。

振り下ろしてきた前肢を回避、その勢いで体を回転させながら、小太刀の切っ先を女王蟻の目へと叩き付ける。

「《生命の剣》ッ!」

黄金の輝きを纏った小太刀の切っ先は、狙い違わず黒い眼球へと突き刺さり――しかし、深く刺さることなく停止する。

やはりと言うべきか、この怪物は眼球まで頑丈極まりないようだ。

舌打ちしながら刃を抜き取って、噛みつきから逃れるために後退し――

『シャアアアアアアアアアアアアッ!』

「ッ――――!」

羽から発せられた衝撃波により、俺の体は容赦なく弾き飛ばされていた。

どうやら、あれだけ翅にダメージを与えても、まだあの衝撃波は使えるらしい。

再びHPを削られながら吹き飛ばされるも、転倒することだけは避けて膝を突きながら着地する。

――刹那、俺の眼前へと岩の弾丸が迫ってきていた。

「っ――《斬魔の剣》ッ!」

咄嗟に反応し、青い燐光を纏う刃で岩の弾丸を斬り払う。

しかし息を吐く暇も無く次の瞬間、俺は己の足元が不自然に蠢いているのを感じ取っていた。

思わず舌打ちしながら無理やりに後方へと跳躍し――その直後、頭上から次の弾丸が迫ってきていた。

「ッ――!」

空中での回避は流石に不可能だ。

《生命の剣》と衝撃波によって削られたHPで、果たして耐えられるかどうか。

せめて被害を抑えようと左腕で頭を庇い――その瞬間、シェパードの声が響き渡っていた。

「――【ウィンドバリア】ッ!」

その声と同時、どこからか吹き付けてきた風が、俺の全身を覆う。

そして吹き荒ぶ風に岩の弾丸が触れた瞬間、その軌道は逸らされ、地面へと突き刺さっていた。

その現象に驚くものの、動揺している暇はない。着地した俺はすぐさま女王蟻から距離を取り、警戒態勢を取っていた。

ルミナと猫から飛んでくる回復魔法を受け取りながら、俺は横手にいるシェパードへと問いかける。

「助かったが……今のは何だ?」

「風属性の防御魔法です。一回だけ、確定で相手の飛び道具を防げる魔法ですよ。かかったらしばらくは効果があります。まあ、今のは効果使っちゃいましたけど」

「成程、感謝する。ついでに、もう一度同じものを頼みたい」

「了解です、クオンさん。ただ、これの詠唱には結構時間がかかるので……」

「ああ、考慮しておくさ」

一度でもあの弾丸を防げるのならば儲けものだ。それだけで、もう何度かは攻撃を加えられるタイミングが増えるだろう。

さて、女王蟻であるが、あれだけ攻撃を加えたにもかかわらず、未だに健在。

だが、足を二本奪い、左目も潰している。確実に追いつめつつあるだろう。

それに対し、奴の手札自体は厄介であると言わざるを得ない。その巨体を生かした攻撃力と防御力、酸だと思われる体液、翅から発せられる衝撃波、そして土属性の魔法。

厄介なのは、ダメージを与えたうえにこちらを強制的に後退させてくる衝撃波だ。あれさえ無ければ、もう少し攻撃の機会を増やすことができるだろう。

それに加えて、酸の体液も厄介だ。アレに武器を破損させる効果があるのであれば、そう幾度も斬ることはできない。

幸い、緋真が斬った部分は焼き斬ったような状態となっており、体液が分泌されている様子はない。

緋真が斬る分にはそれほど問題は無いようであるが――

(……何とか、可能な限り少ない攻撃で倒すべきか。であれば――)

俺は、視線を細めて女王蟻の顔面を注視する。

現在のところ、奴の顔についている傷は二つ。俺が突き刺した左目と、緋真が付けた額の傷だ。

あの女王蟻であろうとも、頭さえ潰せば殺せるはず。

であれば――

「……緋真、ルミナ! 仕掛けるぞ、俺が攻撃した場所と同じところを狙え!」

「了解です……!」

「分かりました!」

さて、先ずは相手の動きを止めねばなるまい。

俺は覚悟を決め、前に倒れ込むようにしながら強く地を蹴っていた。

歩法――烈震。

爆ぜるような音と共に急加速した俺は、降り注ぎ、隆起する岩を回避しながら女王蟻へと突撃する。

その俺の頭上を通り越えるようにして、緋真とルミナの魔法が女王蟻の翅へと向けて殺到していた。

狙うのはどちらも、緋真が 魔導戦技(マギカ・テクニカ) で傷を付けた左翅。収束する魔法は――傷ついていた左翅を、今度こそ粉砕していた。

まるでガラスの破片のように翅が飛び散る中、悲鳴を上げる女王蟻へと突撃する。

打法――討金。

突進の加速の勢いを乗せ、柄尻にて女王蟻の顎の横を殴打する。

それだけの運動エネルギーは流石に堪えたのか、女王蟻はぐらりとその体を揺らしていた。

尤も、それだけで倒れるほど容易い相手ではないが――

「崩れ、落ちろォ!」

打法――寸哮。

ずん、と地響きのような音を立て、衝撃が走る。

内部へと衝撃を伝えるその一撃は、体勢を戻そうとした女王蟻へカウンターとなる形で突き刺さっていた。

頭の中を直接揺らされ、まるで崩れ落ちるように頭を落とす女王蟻。

ちょうどいい高さまで頭を垂れたその額へと向かい、俺は小太刀を鞘に納めて太刀の鯉口を切っていた。

そして、弓を引き絞るかのように深く体を捻りながら構え――その一閃を、弾丸のように撃ち出す。

「――《生命の剣》」

斬法――剛の型、迅雷。

それは、久遠神通流には数少ない居合の業。

本来太刀で使うものではないがやってやれないことも無い。

しゃん、とまるで鈴が鳴るような音を立て、しかし目にも止まらぬ速さで黄金の軌跡のみを残しながら撃ち放たれ――女王蟻の額についていた傷跡を、正確になぞり抉っていた。

「行きます、先生……【剛炎斬】ッ!」

俺が刃を振り切り、その場から退避するのと同時、入れ替わるように緋真が飛び込み刃を振るっていた。

大上段に構えられた刀には炎が宿り、その踏み込みと共に振り下ろされた一閃は、俺が抉った傷を焼き斬り、さらに深い物へと変貌させる。

そして――

「はあああああああッ!」

斬法――剛の型、穿牙。

上空から、ルミナが小太刀を構えながら突撃する。

刃には眩い光が宿り、そして突き出す刃の型は紛れもなく穿牙のもの。

己の体重の全てまでもを込めたその一撃は、正確に抉られた傷へと潜り込み――その光を、頭の内側で炸裂させていた。

『ギイイイイイイィィィィ――――!』

眩い閃光に頭の中を焼き尽くされ、女王蟻は甲高い悲鳴を上げる。

しかし、急所を焼き尽くされてはひとたまりも無く、女王蟻はそのまま、ゆっくりとその場に崩れ落ちていた。

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》がレベル上限に達しました。《スプライト》の種族進化が可能です』

……どうやら、思わぬ形で目標を達成することになったようだ。

しかし、下手をするとこれまでで最も苦戦したかもしれない。

俺は深々と嘆息しつつも、ウィンドウを開いてルミナの情報について確認していた。