軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

699:確認と新たな動き

ティエルクレスの影響で、この周辺には魔物が出現しない。

だからこそのんびりと確認していたのだが、いい加減そろそろ帰還した方がいいだろう。

まあ、その前に確かめておきたいことはあったのだが。

――完全に粉砕された瓦礫の姿を眺めつつ、俺は深く溜め息を零した。

「このテクニックは……ティエルクレス相手には役に立たなかっただろうな」

「どれも派手ですね。溜めもとにかく長いですし」

今回レベルが上がったことで新たに手に入れたテクニック。

《練命剣》は【練煌命刃】、《奪命剣》は【奪淵冥牙】、《蒐魂剣》は【破魔蒐閃】。

多少の性質の違いはあるが、基本的にはどれも似通っており、これまでのテクニックの中で最もチャージ時間が長く、攻撃範囲と威力に優れた攻撃だった。

【奪淵冥牙】だけは、以前に《奪命剣》を扱う悪魔であるブラッゾと戦った際に見たことがある。

周囲の生命力を強制的に徴収し、強大なる一撃を放つテクニックだったはずだ。

尤も、その一撃を放つ前に斬り捨てたため、正確な能力までは分からなかったのだが。

「攻撃力、攻撃範囲、発動までにかかる時間……どれもこれまでで最大だな。使いづら過ぎる」

「少なくともティエルクレスに当てられるようなテクニックじゃなかったわね」

凄まじい運動能力と攻撃力を持つティエルクレス相手に、このような大技を当てることは不可能だろう。

というか、溜めている間にこちらが斬り捨てられるのが関の山だ。

クエストに入ってしまったせいで、あと1レベルだったのにと若干の後悔はあった。

しかしこの様子ならば、テクニックを取得していても使うことはなかっただろう。

【練煌命刃】は、大量の生命力を刃へと集めて放つ巨大な斬撃だ。

攻撃は刃としての形を形成するが、その大きさは三階建ての建物の屋根ぐらいの高さにまで到達する。

この刃を形成するのにやたらと時間がかかる上に、最低でもHPの半分を消費するのだから厄介だ。

とはいえ、それだけの攻撃規模に似合うだけの威力はあるようで、間違いなく俺が持つテクニックでは最大の威力を誇る。

【奪淵冥牙】はブラッゾが使っていたのを見ていたが、周囲の生命力を強制的に徴収し、攻撃の威力へと変換するテクニックだ。

攻撃は刃を中心とした黒い渦のような形で形成され、刃を振るうと共にその一撃は正面へと向かって飛び出す。

攻撃には物理的威力に加えて生命力を奪う力があり、全てを含めれば大量のHPを吸収することが可能だろう。

言ってしまえば、物理的な攻撃力を加えて密度を著しく増した【咆風呪】だ。

そして【破魔蒐閃】は、性質自体は他二つと近しいものであるが、まだ若干使い勝手はいいテクニックだった。

テクニックを発動するとしばらくの間は周囲に魔法吸収領域を形成し、そこに入ってきた魔法を分解して吸収することができる。

そして吸収した攻撃の威力を上乗せし、形成した刃で相手を攻撃することができるのだ。

性質は【因果応報】に近いものではあるが、魔法一つしか吸収できない【因果応報】に対し、こちらは複数の魔法を同時に吸収することができる。

多数の魔法に同時に狙われている状況下においては、普通に選択肢に入るテクニックだろう。

尤も、やはり溜め時間は長いため、高速戦闘中にはとても使えたものではないのだが。

「ふむ……上位の悪魔を相手に使えるテクニックなのかどうか。公爵級の攻撃を返せるなら十分に強いんだがな」

「変身した後は完全にレイド戦ですし、そういう時には使えそうですね」

「強いけど、使い所を選ぶテクニックねぇ……隙さえ作れば何とかなるんじゃない?」

「簡単に言ってくれるもんだな。そりゃ、隙があれば差し込みはするが」

使いづらいとはいえ、強力なテクニックであることに変わりはない。

確実に決められるタイミングがあるならば、積極的に狙っていくべきではあるだろう。

ともあれ、これで確認すべきことは全て終わった。

喫緊の課題は無いとはいえ、目的だったアイテムも手に入ったことではあるし、そろそろ拠点に戻っておくべきだろう。

「報告事項はアルトリウスに送ってるし、特に用事もないな。エレノアのところに行くとするか」

「これで成長武器も★10ですね。どんな性能になるのか……」

「節目のレベルだと何かありそうだし、今回は期待できるかもしれないわね」

「確かにな。新しい切り札になればいいが」

まだ大きな動きはないとはいえ、ドラグハルトは間違いなく戦争の準備をしているだろう。

公爵級悪魔の中でも、奴は明らかに別格だった。あいつと戦うことを考える以上、今の時点ではどうしても力が足りない。

それに、奴と戦うということは、同時に大公級との戦争に突入するということでもある。積極的に力を蓄えねばなるまい。

「それじゃあ、スクロールで戻るぞ。忘れ物は無いな?」

「アイテムも回収してますから」

「シリウスも縮んでるし、大丈夫でしょ」

「よし、それじゃあ戻るぞ」

全員に確認しつつ、帰還のスクロールを発動する。

これだけの遠征をした後としては随分とあっさりだが、旅行の後はそんなものだろう。

スクロールの発動と共にエフェクトが俺たちの体を包み込み、俺たちは一気に前線拠点となっている都市へと帰還する。

デルシェーラによって氷漬けにされていた都市ではあるが、最低限の都市機能は急速に復旧され、今では多数のプレイヤーが利用する最前線となっていた。

そんな街の中心、石碑の前まで転移した俺たちは、すぐに石碑を使って聖王国のシャンドラへと移動しようとし――

「――ドラグハルト陣営への参加者を募集しています! 希望者はこっちへ!」

――耳に届いた声に、足を止めた。

エレノアたちが設置したであろう石碑の広場、その一角。

石碑の前を占拠するような形で声を上げているには、見覚えのないプレイヤーの集団であった。

特にクランの証となるようなものを身に付けているわけではない、顔も見た覚えのない一団。

まあ、あまり人の顔を覚えるのが得意というわけではないのだが、それでも並んで戦った相手であれば何となくは覚えているものだ。

しかし、あの連中は一度たりとも目にした覚えのない――恐らくは、最前線には出ていなかったプレイヤーだろう。

「緋真、何だアレは?」

「いや、知らないですけど……言葉の通りなんじゃないですか?」

「敵側に付いてプレイしようってタイプの連中ね」

フードの下から連中を睨み据えつつ、アリスは低い声でそう呟く。

俺たちの邪魔になりそうという点もあるだろうが、アリスは元々プレイヤーキラーを狩るプレイスタイルを取っていた。

ああいった連中は、アリスにとっては獲物に近しい存在であるのだろう。

俺はそんな彼女の様子に思わず嘆息しつつ、軽く肩を叩いて告げた。

「ああいうのが出てくることは最初から分かっていただろ。気にする必要もない」

「後で邪魔にはなるでしょう?」

「それに時間をかける方が勿体なかろうに」

そもそも、敵側に付くという行為もゲーム的に許容されている以上、奴らは犯罪者プレイヤーというわけではない。

まあ、女神もそのようなクエストを発行するということはないだろうが。

ともあれ、大義名分もない状態で手を出せば、こちらが犯罪者扱いだ。

仮に狩る手段があったとして、どうせ生き返るのだから大した効果もない。まさに時間の無駄だろう。

だが、そんな俺の想いとは裏腹に、その連中の方がこちらの姿に気が付いたようであった。

「っ……ね、ねえ、《剣鬼羅刹》、クオンさん!」

「あん? 何だ、何か用事か? こっちはこれから行くところがあるんだがな」

呼び止めてきたのは、連中の中の一人。盗賊タイプの姿をした女性のプレイヤーであった。

やはり見覚えのない姿で、恐らくは初対面だろう。

正直無視しても良かったのだが、名指しで呼び止められては如何ともしがたい。

まあ、本当に最低限度程度の礼儀は払っているようであるし、少し話を聞くぐらいならいいだろう。

「そ、そのっ! 貴方もこっちに参加しない!?」

「……は?」

しかし、告げられた言葉に、俺は思わず眼を見開いてそう呟いていた。

まさか、アルトリウスの仲間であり、悪魔からあれだけ敵対視されている俺に対し、そのような誘いを吹っかけてくるとは思わなかったのだ。

流石に予想外過ぎて二の句を告げられなかった俺に、そのプレイヤーはまくしたてる様に続ける。

「『キャメロット』のアルトリウスに使われているんでしょう? クエストの度にあんな無茶な戦いを……こっちはそんなことはしないわ! 私たちはあの男とは――」

「ああいい、分かった。それ以上は口にするな。斬らねばならなくなるんでな」

――切っ先を首元へと突き付け、そう告げる。

俺が抜いた瞬間を認識できなかったのだろう。女は目を見開いて硬直し、口を閉じた。

街中であるため斬るつもりは無いが、それ以上を口にしていたなら、さっさと決闘を申し込んでいたところだ。

その女と、後ろにいた賛同者の連中。それら全てを睥睨して、俺は告げる。

「アルトリウスは俺が戦友と認めた男だ。お前たちが誰に付こうが、どんな主張をしようが勝手だが……俺の前で、俺の認めた男を侮辱するなら、相応の覚悟をして貰おう」

「な……ぁ……」

「都合のいい勝手な妄想に毒されたか? まあ、悪魔に与するというのであれば勝手にするといい。だが――」

手を捻り、餓狼丸の腹で女の首を持ち上げ、その瞳を覗き込むようにしながら告げる。

これは戦争なのだ。たとえ知らなかったとしても、その事実だけは変えることはできない。

「――戦場で相対したなら、お前たちは俺の敵だ。それを理解し、覚悟した上でクエストに臨むことだな」

それだけ告げて餓狼丸を納刀し、踵を返す。

背後で腰が抜けて崩れ落ちたであろう音が聞こえてきたが、気にする必要もないだろう。

ドラグハルトに付くならば、俺は敵となる。それを理解できたならば十分だ。

「まったく、私たちにああ言う割に、自分は派手なことをしちゃうんですから」

「別にいいだろ。ほら、用事を済ませに行くぞ」

軽く嘆息し、石碑に触れる。

さっさと成長武器を強化して――後は、時間の許す限り強化を進めるか。

ああいった動きがプレイヤーの間にも見え始めている。あまり時間的な余裕はない。

やれることは、今のうちに進めておかなければならないだろう。