軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

562:推移と招集

しばらくは狩りを行いつつ状況の推移を見守っていたのだが――どうやら、戦況は問題なく進んでいると見ていいらしい。

緋真の話を聞く限り、どうやら集落を襲撃してきた悪魔たちは、アルトリウスの手勢によってほぼ片付けられた状態であるようだ。

アルトリウスが直接指揮したわけではなく、また『キャメロット』所属ではないプレイヤーも多数混じっている状態ではあったが、それでも爵位悪魔無しの軍勢など恐れるような相手ではない。

その程度の戦力で、あの集落を落とすことは不可能だろう。

尤も――

(……それなのに何故攻撃してきたのか、っていう疑問はあるがな)

確かに、霊峰は俺たち 異邦人(プレイヤー) にとっては失うことのできない要地だ。

だからこそ、悪魔側から攻撃を受けることも決して不思議ではないだろう。

だが――何故今このタイミングで、そのような中途半端な攻撃を行ってきたのかという疑問は残る。

本気で攻めるつもりがあるのなら、爵位悪魔を動員することだろう。

逆に本格的な攻撃ではない場合、その意図がどこにあるのか。

この辺りについては、アルトリウスに話を聞いた方がいいかもしれないな。

「麓の方、とりあえず敵は退けたみたいですけど……後続がまだいるみたいですね」

「ふむ、ますますよく分からん動きだな。そっちには爵位悪魔はいるのか」

「まだ分からないです。とりあえず、現状では確認できていないみたいですね」

緋真の報告に、眉根を寄せつつ首を傾げる。

そもそも、本気でこちらの拠点を落とそうとした場合、奇襲もしくは公爵級に近い戦力を動員する必要があるだろう。

最初のタイミングで爵位悪魔を動員してきたのであれば、奇襲で集落を落としに来ていると判断することもできた。

しかし、奴らの攻撃は中途半端で、奇襲だとしても拠点を落とし切れるとは思えない戦力だったのだ。

故にこそ、不気味に思える。果たして、奴らは何を考えてこの攻撃を行ってきたのか。

「うーむ……何とも、気味の悪い」

「そこまで気にするようなことなの?」

「これまでの悪魔だったら、ここまで気にすることも無かったんだがな。しかし、今の連中は戦い方が根本から異なる。単なる無意味な攻撃と断ずるのは危険だ」

大公という、未だ謎の多い敵の最大戦力。

奴らの動きは未だ掴めないが故に、決して油断するわけにはいかない。

こちらが想像もしていなかったような手を打ってくる可能性は、大いにあるのだから。

こちらはこちらで、ある程度シリウスの特訓を行うことはできた。

とりあえず、俺たちが前線で戦っていても無茶な動きをすることはなくなったし、後は数をこなして経験を積むしかない。

状況に応じた判断ができるようになってくれれば御の字なのだが、流石に一朝一夕にはいかないか。

「ともあれ、あの街を攻撃するにもアルトリウスの意見を聞いてからにしたいことだし、しばらくは適当に――っと」

噂をすれば影、と言うべきか。そのタイミングで届いたメールは、他でもないアルトリウスからのものであった。

どうやら、街のことを含めて直接話をしたいことがあるそうだが――

「顔合わせ……?」

「……メール、何か変なことでも書いてあったの?」

「ああ、今後の作戦に向けた顔合わせ、とかいう名目での招集だ。今更顔合わせをしなけりゃならないような相手も心当たりがないからな」

「『キャメロット』のメンバーとは大体顔馴染みですしね」

基本的に、『キャメロット』の主要メンバーとは既に一通り顔を合わせている。

『エレノア商会』に関してもそれは同じことであるし、今更初顔合わせになる相手に心当たりはない。

誰か有能な人物を新たに採用したのか――どちらにしろ、分からん以上は行って直接判断するべきか。

しかし――

「何とも……嫌な予感がするんだよなぁ」

誰にも聞こえぬように零し、俺は嘆息を吐き出したのだった。

* * * * *

招集は受けたが、指定された時間まではそこそこ余裕があったため、普通に戦闘を繰り返しながら拠点まで戻ってきた。

流石にテイムモンスターたちは建物の外に、というか庭に待機させつつ、『キャメロット』がクランハウスとして利用している建物の一つに足を踏み入れる。

大体のメンバーは顔馴染みであるが故に、入るのもほぼ顔パスだ。

そうして通された先は、円卓が中央に置かれた会議室。どうやら、『キャメロット』が重要な議題を持ち出す場合は、常にこのレイアウトの会議室を使うらしい。

時間には間に合っている筈なのだが、中には既に見知った顔がそろい踏みとなっている。

唯一知らないのは、軍曹の隣に座っている一人の女性プレイヤー。だが、狐の 獣人族(ハーフビースト) であるその顔に、どこか見覚えがある気がして、俺は思わず眉根を寄せた。

「どうも、クオンさん。そちらに座って下さい」

「ああ……それで、わざわざ直接顔を合わせてまで話し合いをするってのはどういうことなんだ?」

促された席に腰を下ろしつつ、さっさと話題を切り出す。

メンバーは揃っているようだし、話を初めても問題は無さそうだと判断したのだが、アルトリウスの方は何とも曖昧な表情だ。

気が引けている、とでも言うべきか。即断即決、優れた判断力を持つ彼には珍しい表情である。

何とも嫌な予感を覚え、口を開こうとし――そこで、軍曹の隣に座っていた人物が声を上げた。

「相変わらずせっかちねぇ、シェラート。数年程度じゃ落ち着きは覚えられなかったのかしらぁ?」

「ッ……おい軍曹、何でその女がここにいる?」

「俺に当たるなよ。仕方ないだろ、スキルは間違いなく超一流なんだからよ」

「アンタはいいけどな……ああ、道理でアンヘルとランドがいないわけだ」

「ねぇ、無視は酷いんじゃない? 久しぶりの憧れのお姉さんとの再会、喜んでくれてもいいでしょぉ?」

隣で緋真が俺と彼女を見比べている気配を感じつつ、頬を引き攣らせながらその女を見つめる。

ウェーブのかかった長い金髪、狐の耳を無視すれば、成程確かに、見知った人物の姿にそっくりであった。

国連軍時代の部隊メンバー、だが現地戦闘ではなく潜入や破壊工作のプロフェッショナル。

その技術は間違いなく部隊でも随一であり、知識面でも非常に頼りになる人物であった。

――唯一、その問題しかない性格に眼を瞑れば、だが。

「黙れ クソ金髪(ブロンディー) 、お前のせいで俺たちがどれだけ苦労したと思ってる」

「いいじゃない、一夜の夢を提供してあげただけでしょ? 貴方だって――おっと、これは秘密だったわね」

「おいコラ、妙なところで区切るな。テメェとは何もなかっただろうがクソビッチ」

この女、ハッキングや破壊工作などを得意としているのだが、それ以上に変装とハニートラップが特技でもあった。

その手練手管で破滅した男の数は数知れず、稀に味方すら誑し込むのだから始末に負えない。

まあ、味方は破滅させるまでには至らなかったのだが、ランドを誘惑されたことでアンヘルはこいつのことを激烈に嫌っている。

「ご挨拶ねぇ。あ、こっちの名前はファムだから、よろしくねぇ」

「 破滅を齎す魔性(ファム・ファタール) か? お似合いだな」

「ああそれ、アンヘルにも言われたわ。私は仲良くしたいんだけどなぁ」

「あいつはあれで執念深いからな。自業自得だ」

俺からするすると罵声が飛び出してくるのが珍しいようで、アリスが目を丸くしてこちらを見ているのだが、この女――ファムとはこれが平常運転だ。

ファムからすれば、俺のこういった反応を楽しんでいるのだろうが、だからといって穏当な対応や無視は余計に調子に乗らせてしまうため、他に手段もないのである。

「はぁ……アルトリウス、顔合わせってのはこの女のことか?」

「はい、そうなります。戦力としてではなく、参謀の一人としてということになりますが」

「そうかい。軍曹に手綱を握らせておくことをお勧めするぞ。特にお前さんの傍に置くのは厳禁だ」

俺の言葉に、『キャメロット』の幹部たちは揃って首を縦に振る。

どうやら、俺が来る前に色々と会話はしていたらしく、この女が厄介であることは十分に理解できたようだ。

「で、議題は何だ? あの街についてのことか?」

「そうそうシェラート、その街。貴方がちょっかい出してた拠点のことよ」

「そのあだ名で呼ぶのは止めろ。で、あそこがどうしたって?」

「さっさと全力で攻め落とした方がいいわよ。時間をかけるだけ厄介なことになるわ」

――ファムは、ただ当たり前のことを話すように、真顔でそう断言する。

その言葉に、俺は佇まいを直し、いけ好かないこの女の声に耳を傾けたのだった。