軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

561:前後する戦況

シリウスに細々と戦い方を教えながら放浪を続ける。

最も巨大な体を持つシリウスは、逆に言えばそれだけ細かい戦い方を求められる位置でもあるのだ。

これまでのように、単独で暴れさせる戦い方も勿論有効である。

シリウスは攻撃力、防御力共に高いが故に、ただ一体で戦線を維持するほどの能力を持っているのだ。

しかしながら、全ての戦いでそのような状況を求められるわけではない。

このように敵を探し求めながら行う狩りの場合、その戦い方は逆に邪魔になってしまう。

「少数を相手にした場合のシリウスの仕事は、単純に言ってしまえば、敵の隙を作ることだ」

「グルル?」

新たに出現した魔物を前に、シリウスは困惑した様子で首を傾げる。

こちらへと向かってくるのは、3メートルを超える大きさをした、巨大なワニの魔物である。

シリウスのように腕や胴から鋭利な刃が伸びており、最大の凶器である顎以外にも警戒が必要そうな姿だ。

しかし、シリウスならば、それを意に介する必要も無いだろう。物理攻撃でシリウスにダメージを与えるには、相当な威力が必要なのだから。

「まずは初手。相手がよほどの大物でもない限りは、今まで通り突撃していい。行くぞ」

「ガァッ!」

俺の許しを得て、シリウスは頭の角を前方に向けながら魔物の群れへと突撃する。

ワニたちも巨体とは言え、シリウスの大きさには遠く及ばない。

人間の感覚で言えば、やたらと刃物が付いた大型トラックが正面からアクセル全開で突撃してくるようなものだ。

その迫力に気圧されたのか、ワニたちはシリウスを回避しようと足を止める――が、既に眼前まで迫ったタイミングでは避けられるものではない。

結果、ワニの内の一体は、シリウスの鋭利な角によってその身を貫かれることになった。

シリウスの突撃に合わせて隣で走ってきた俺は、その様子を見ながら続ける。

「そして敵陣まで辿り着いたら、積極的に攻撃を仕掛けず相手の出方を確認しろ」

「グルル……ッ!」

角からワニの巨体を振り落としたシリウスは、普段通りであればすぐにでも次の獲物に突撃していただろう。

しかし、それでも俺の指示にはきちんと従う。飛び出そうとする体を抑えつけ、いつでも動ける体勢で待ち構えている。

シリウスが攻撃してこないと見たワニは、警戒しつつもその腕へと噛みつこうと前進し――

「攻撃に向かってきた奴は迎撃しろ。手が足りているなら潰していいし、そうでないなら弾き飛ばせ」

「ガァアッ!」

まず、右腕に噛みつこうとしてきたワニを、シリウスはその巨大な腕で叩き潰す。

鋭い刃の如き鉤爪は、頑強そうなワニの皮を貫いて、地面にまで縫い付けてしまった。

そのまま腕を引くように鉤爪を振るえば、その体はあっという間に引き裂かれてしまう。

だが、その光景を目にしても、他のワニたちが足を止めることはなかった。

奴らは、躊躇うことなくシリウスへと向けて襲い掛かり――シリウスは、左腕を振り払う形でそのワニを弾き飛ばした。

「いいぞ、その調子だ」

腕に付いた刃を含めて傷を負ったワニは、体勢を立て直すために動きを止めている。

無論、その状況を見逃す筈もなく、するりと近寄った俺はシリウスの付けた傷へと向けて刃を突き刺した。

既にHPを削られていたワニは、それだけで体力を散らしてその場に崩れ落ちる。

シリウスはタフであるが故に、多少攻撃を受けた程度でどうにかなるようなことはない。

しかしながら、格上の悪魔を相手にした時までその通りであるかと問われれば、それは否としか言いようがないのだ。

確かに公爵級が相手でも一撃で落とされることはないだろうが、十分なダメージを受けてしまうことはあるだろう。

その時、今のままの戦い方を続けていれば、成す術無く落とされてしまうこともあり得る。

だからこそ、どのような時でも通じる保険の利いた戦い方が重要なのだ。

「攻撃を受け止めずに済むのであれば、わざわざ受ける必要はない。相手を迎撃し、体勢を崩し、俺たちが仕留めるだけでも十分だ」

必要以上に暴れないのであれば、俺たちがシリウスの傍で戦うこともやり易い。

尾を使った攻撃がやりづらくなるかもしれないが、少なくとも腕や牙、翼を使った戦いであれば十分だろう。

そうすれば、より効率的に敵の集団を片付けることができるのだ。

「お前はただ、前線にいるだけで敵の目を引くことができる。後は攻撃を受けない程度に迎撃しながら前線を維持してくれれば、被害を減らして敵を打破することが可能なんだ」

「グルルルッ!」

そうすれば、シリウスがダメージを受ける事態は減るだろう。

それはつまり、ルミナによる回復魔法が不要になるということであり、その分ルミナが攻撃に回れるようになるということでもある。

攻撃の範囲や汎用性ではシリウスよりもルミナに軍配が上がるし、その殲滅効率はどちらも劣るものではない。

ルミナの手が空く状況となれば、戦いをより効率的に進められるようになるだろう。

(シリウスが単独で暴れなきゃならん戦いもあるだろうが、そうでないなら戦い方の修正は必須……公爵級であるデルシェーラが近付いてきているなら猶更だ。次の大規模戦闘までに、シリウスの教練を済ませておきたいところだな)

とはいえ、それがいつになるのかはまだ分からないのだが。

多数のプレイヤーがこの悪魔領まで流入し、試練を受けてレベルキャップを解放している。

うちの師範代共も、そろそろレベルキャップへの到達が見えてきている頃合いだ。

プレイヤー全体の強化は、思いのほか順調に進んでいるといっていいだろう。

(だが、悪魔共は確かに蠢動している。デルシェーラとエリザリットもそうだが、あの都市にいる悪魔も……何を企んでいるのか)

未だ大公と対面したこともないため、奴らが何を考えているのかは見当も付かない。

その裏側を読み取ることも難しいため、何とも気味が悪い状況だ。

早いところはっきりさせたい状況ではあるが――まだ、それは難しいだろう。

そんな物思いに耽っている間にも、俺はシリウスが崩した相手を仕留めていく。

緋真たちもそれに倣っているし、その様子をシリウスも観察しているようだ。

効率の良さは、シリウスも理解していることだろう。

『《致命の一刺し》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』

シリウスが最後の一体を仕留めたことで、戦闘は終了した。

まだ若干ぎこちない部分はあったが、それなりにいい戦いができたといえるだろう。

「いい感じだったぞ、シリウス。この戦い方をもう少し突き詰めていこうか」

「グルルッ!」

俺の称賛を受け、シリウスは嬉しそうに首肯する。

先の戦い方に不満があったら少し考えなければならなかったが、特に問題は無さそうだ。

次の獲物を求め、歩き出そうとし――そこで、緋真が声を上げた。

「先生、ちょっと問題が」

「何かあったのか?」

「霊峰の麓、そっちへ向けて悪魔が集団で襲撃を仕掛けようとしています」

「っ……詳細な状況は分かってるのか?」

「今調べてます」

どうやら、知り合いからメールを受け取り、そこから掲示板を調べているらしい。

しばし画面をを確認したのち、緋真は眉根を寄せつつ声を上げた。

「アルフィニールの悪魔の集団っぽいですね。今のところ爵位悪魔の姿は確認できないそうです」

「これまで南を攻めていた戦力が、あっちも攻撃するようになったか? とりあえず……それならば、今回は様子見だな」

「援軍に行かなくていいの?」

「ああ、その程度の戦力なら、俺たちが手を出さずとも何とかなるだろう。あそこにいるのはレベルキャップに到達したプレイヤーなんだから」

まあ、烏合の衆では流石に不安もあるが、『キャメロット』の連中もいるし問題は無いだろう。

それよりも気にするべきは、奴らが攻勢に出るだけの余裕が出てきたことだろう。

果たして、奴らの戦力は今どのような状況となっているのか。

悪魔側の内部の動きの方を気にしなければならないだろう。

「とはいえ、侯爵級以上が出てきたとなるのであれば話は別だ。そうなったら、手を出しに行く必要があるだろうな」

「了解です。とりあえず、こっちからは手を出さないことは言っておきますけど、侯爵級以上が出たら改めて声をかけて貰います」

しばらくは状況を観察して、場合によっては協力することとしよう。

何かあればアルトリウスから声がかかるだろうし、必要があれば向かえばいいだけだ。

全ての戦場に俺が顔を出さなければならないなど、戦況としては問題しかない。

アルトリウスたちの手腕だけで、十分に何とかできる筈だ。

「今は強化に集中する。もっと大きな戦いが起きた時――デルシェーラと戦う時、今のままじゃ戦力が足りんからな」

「他の人たちにも強くなって貰いたいところですよね」

さて、果たして他のプレイヤーの錬成具合はどのようになっているのか。

攻撃のタイミングも含め、後でアルトリウスに話を聞いてみることとしよう。