軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

542:氷塊の掘削

アルトリウスの号令と共に、整然と並んだプレイヤーの一団から、いくつものスキルが放たれる。

青い燐光を纏うそれは、全てが魔法破壊の性質を持つスキルだ。

尤も、全ての人員が一気に攻撃したわけではない。アルトリウスが指示を出していたらしく、順番に撃つように準備しているようだ。

青い軌跡を描いて飛んだスキルの群れは、空中で沈黙する氷の塊へと殺到し――その一部を、削り取るように消失させた。

『――――』

そのスキルによって削り取られたのは、氷の大きさからすればほんの一部であるだろう。

しかし、それに対して氷塊は大きく反応を見せた。

まるでヤマアラシのように、無数の棘をその表面に出現させたのだ。

無論のこと、その先端が向けられているのは、外壁の上に立つ俺たちの方向だ。

「防壁用意!」

だが生憎と、その反応は最初から予想していた。

アルトリウスの号令に従い、控えていたタンクたちが一歩前へと出て、各々の盾を構える。

発動するスキルは《フォート・ファランクス》。集団で発動すれば効果が高まる防御スキルだ。

あの氷の塊がエリザリット――つまりは侯爵級悪魔であったとしても、相手はその分身で、しかも力の全てを扱えている状況ではない。

自動的な反撃程度ならば、このスキルで十分に防げることだろう。

そうして相手の攻撃を防いでいる間に、第二射が氷塊へと向けて放たれた。

「……確かに、効いてはいるな」

シリウスが攻撃した時、氷の塊は真っ二つになったものの、その総合的な体積が減ったわけではなかった。

修復している間は肥大化もしていなかったが、結局時間稼ぎにしかなっていなかっただろう。

対し、これらの魔法破壊スキルは、あの氷の体積を減らすことに成功している。

少しずつではあるが、氷塊の体力を削っているようなものだ。

ロムペリアの言葉の通りであるならばコアのようなものがある筈だし、そこまで届けばこいつを破壊しきれる筈なのだが――

「ちょいと、弾幕が濃すぎるな」

想像以上に、氷塊からの反撃が激しい。

山のように放たれる氷の弾丸は、確かにタンクたちによって防ぎ切ることができている。

しかしながら、その合間を縫って氷塊へとスキルを届かせることは中々に困難であった。

何しろ、魔法破壊スキルは基本的に一発の攻撃しか相殺できない。テクニックによっては複数に効果が及ぶものもあるが、弾幕が張られているため本体に届く前に効果を使い切ってしまうのだ。

あれだけの攻撃をしている以上、本体の再生が進むことはないだろうが、微々たる量しか攻撃が届かないのであれば、氷の破壊は遅々として進まないこととなってしまうだろう。

小さく嘆息し、俺はアルトリウスへと視線を向け――ちょうど、彼と視線が合うこととなった。

(考えることは同じか)

思わず口元を笑みに歪めつつ、俺はセイランへと合図を送る。

それに対し、何ら疑問を覚えた様子もなく、セイランは威勢良く鳴き声を上げながら翼を羽ばたかせた。

「敵の弾幕の中に突っ込むぞ。覚悟を決めろ、セイラン」

「ケェエエエッ!」

先ほどシリウスに攻撃させたときもそうだったが、どうやらあの氷の塊は、俺のことを認識しているらしい。

であれば、逆に俺が前に出れば、奴は俺に注目せざるを得ないということだ。

ましてや、《蒐魂剣》の一撃でも当ててやれば、奴の注意は一気にこちらへと向かうことになるだろう。

そうなれば話は単純だ。外壁側への弾幕を減らしてやれば、それだけ味方の攻撃が奴に届く可能性が高まるのだから。

俺の合図と共に、セイランは全身に強力な嵐を纏わりつかせる。

黒い風が渦を巻くように黒雲を纏うその姿は、正しく嵐の化身そのものであると言えるだろう。

そして、その強い風すらも推進力に、セイランは一気に氷塊へと向けて飛び出した。

瞬間――

『――――!』

氷の塊、その中にある意識がこちらへと向けられたことを感じる。

それと共に、弾幕の一部がこちらへ集中するように軌道を変化させた。

「やはりか……分かりやすい動きだな」

とはいえ、流石に突出しただけでこちらへと意識を集中させるとは思わなかったが。

エリザリットの意識がきちんと残っているのか、或いは奴がそれだけ執念深いのか。

どちらにしても面倒ではあるが、この程度ならセイランは余裕で回避しきることができる。

だが、アルトリウスたちの攻撃を届かせるためには、もっとこちらに攻撃を集中させるべきだろう。

そう判断した俺は、笑みと共にセイランへと合図を送った。

「クェエエ……ッ!」

強く力を込めて、セイランはその翼で空を叩く。

嵐を纏うその身の機動力は非常に高く、まるで重さを感じさせない動きで氷塊へと向けて接近していく。

無論、反応した氷塊はこちらへと向けて攻撃を飛ばしてくるが、その威力はセイランの纏う嵐を突破できない程度のものでしかない。

これならば、接近までは問題なく行えるだろう。

「《蒐魂剣》、【断魔斬】」

近づいてくる氷の塊を見据え、【断魔斬】をチャージする。

純粋な魔法破壊の威力としては【破衝閃】の方が強力ではあるのだが、あれを使うとしたら核を射抜くタイミングだ。

しかし、俺のスキルの発動を感知してか、氷塊はこちらへと向けての攻撃の密度を増した。

(俺を認識しているだけでなく、スキルの発動まで感知した? こいつ、どこまで意識があるんだ?)

喋りもしないし動きもしないため、その意識の状態を把握し得る情報が無い。

しかし、こいつは確かに、俺個人へと向けて敵意を向けてきていた。

果たして、前回のやり取りだけでどうしてそこまで恨みを買うことになったのか――それすらも分からないのは、何とも座りが悪い。

――だが、それでも。

「なら、もっとこっちに注目して貰うとするか……口を開かざるを得なくなる程度にはな!」

セイランに合図を送り、細かく飛行する軌道を変える。

それは、以前にエリザリットと戦った時の動きを参考にしているものだ。

奴があの時使っていた魔法の軌道や、その呼吸。確かに、あの時と何ら変わるものではないようだ。

(その様になってすら変わらないのは、何とも皮肉なもんだな)

エリザリットの属性は水。氷とは似通っているが、それでも魔法の扱い方は明らかに異なる。

特に、厄介だったあの泡の魔法を扱えなくなっている点は大きいだろう。

細かな氷を弾幕のように放つしかない、その姿はいっそ哀れでもあった。

「セイラン!」

「ケェエエエッ!!」

俺の声と共に、セイランは纏う黒い嵐を解放する。

周囲を薙ぎ払うように広がる黒い暴風の渦は、飛来する氷の弾丸を逸らして明後日の方向へと吹き飛ばしていった。

その隙に接近した俺たちは、氷の表面へと向けて大きく刃を薙ぎ払う。

瞬間、【断魔斬】の軌跡は空間に筆を走らせたように広がり、氷塊の表面へと深く食い込んだ。

「離脱しろ!」

「クェエッ!」

《蒐魂剣》がしっかりと効果を発揮したことを確認し、すぐさまその場を離脱する。

そんな俺たちへと向けて、先程に倍する量の氷の弾丸が殺到した。

対し、俺たちは急上昇する形でその弾丸の群れを回避する。

セイランは自分のいる位置に竜巻を巻き起こし、それを利用してグルグルと旋回しながら高所を取るように上昇していく。

自然、氷塊の攻撃は上空へと向かうこととなり――外壁側への攻撃頻度は、著しく下がることとなった。

「斉射開始! 一気に削って下さい!」

荒れ狂う暴風の中ですら耳に届いたのは、勇ましく吼えるアルトリウスの声だ。

ちらりと視線を向けた眼下では、アルトリウスの指示と同時に青い光が氷塊へと向けて殺到している。

密度の落ちた弾幕では、それらを撃ち落とし切ることなどできはしない。

特に、今回はグループを分けた射撃ではなく、総員による一斉掃射だ。

弾幕を苦ともせずに殺到したスキルの群れは氷の表面を削り、内部を掘削するように掘り進めて――どこか焦ったように、俺の方に向かってくる攻撃が止んだ。

「急降下だ――《蒐魂剣》、【破衝閃】」

纏う青い光によって、餓狼丸が長大な槍と化す。

狙うは、己が先程付けた傷。核まで届くかは分からないが、この一撃は十分な痛手となる筈だ。

そうして視線を下げた先、アルトリウスたちの傍に、俺は三人の人影を目撃した。

足元の地面に付くほどの巨大な大弓を構えるランドと、それを支えるアンヘル、そしてそれを茶化しながらもライフルを構える軍曹の姿だ。

ランドが引く矢は、それそのものが青く透き通った鉱石によって構成され、何らかの特殊なものであることが窺える。

渾身の力で弓を引いたランドは、ぴたりとその状態で静止して狙い澄まし――青く輝く矢が、閃光と化して放たれた。

斬法――剛の型、穿牙。

それとほぼ同時、急降下した俺は刀傷のついた氷へと槍の先端を突き入れた。

瞬間、爆ぜるように広がった青い光が、まるでクレーターのように氷の表面を抉り取る。

流石に中心部までは届かなかったが、氷塊にとっては大きな衝撃となったことだろう。

ほんの僅かに、アルトリウスたちへの注意が逸れ――その刹那、ランドの矢によって、全ての弾幕が吹き飛ばされると同時に、氷の中心部まで届くような深い穴が穿たれた。

「……っ!」

これには、流石に驚かされた。

使い捨ての矢なのだろうが、とんでもない性能をした一撃だ。

だが、それでもまだ氷塊が消滅する気配はない。どうやら、今の一撃では核までは届いていなかったようだ。

後、ほんの一歩。それだけが足りない――

「……今回は、手柄は奪われたか」

小さく呟き、刃を納めて離脱した、その刹那。

一発の銃声が、氷塊の中心を狙い違えることなく撃ち抜いたのだった。