軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

543:残った問題

最後に軍曹が放った一発の弾丸。その一撃は氷の中央にあったであろう核を正確に撃ち抜いた。

引退していたとしてもその腕は健在で、見えづらかったであろう氷の中心部を見事に射抜いて見せたのである。

軍曹は腕のいい狙撃手だ。このゲームの中でまでその腕を発揮することになるとは本人も思わなかっただろうが、得意分野を活かせているのであれば結構なことだ。

ともあれ、中心部を射抜かれた氷の塊は、全体が罅割れるようにしながら崩壊し、そして地面に衝突する前に魔法としての構成が崩れて消滅していった。

街への被害は、弾幕として放たれた氷が一部外壁を削った程度。

これならば、一日と経たないうちに修復は完了することだろう。

「何にせよ……とりあえず難は逃れられたか」

氷塊の消滅によって、街は普段通りの様相を取り戻している。

とはいえ、すぐさま警戒を解くというわけにもいかないが。

何しろ、あれはエリザリットの分身を元にした存在だったのだから。

再び出現しない保証など、どこにもないのである。

尤も、ロムペリアの話を聞いた感じからして、すぐに同じことを出来るというわけではなさそうだが。

ともあれ、今回は何とか問題を解決することができた。

しかしながら根本的な解決に至ったわけではないし、引き続き注意が必要だろう。

その辺りのことを相談するためにも、俺は一度アルトリウスたちのところへと舞い戻った。

「また無茶しましたね、先生……大丈夫ですか?」

「被弾はしてない、問題はないさ」

「それならいいですけど……」

緋真も《蒐魂剣》は使えるが、生憎とセイランほどの機動力のある飛行手段を持っているわけではない。

流石に、ペガサスであの弾幕の中に飛び込んでいくのは不可能だろう。

何にせよ、とりあえずの解決にはなったのだから良しとしよう。

「で、アルトリウスはどうした?」

「報酬を配ってますよ。特に得るものがあったわけじゃありませんけど、律義ですよね」

「相変わらずマメなことだ」

氷を破壊しても特に得られるものは無かっただろうに、わざわざ報酬まで用意しているとは。

あいつのことだからクランの所属関係なく配布しているだろうし、何とも真面目なことである。

とはいえ、本人が直接手渡ししているわけでもないし、アルトリウス自身には余裕があるだろう。

そう判断しつつセイランから降りた俺は、武器を収めながらアルトリウスの元へと向かう。

どうやら、アルトリウスの方も俺が戻ってくることを確認していたのか、笑みと共に俺を出迎え――その前に、ずかずかと歩き寄ってきた軍曹が力強く俺の肩を叩いた。

「よう、シェラート! 今回は俺の勝ちのようだな!」

「一番の功労者はランドだろうが。何だよあの矢は、それなりの出費だったんじゃないのか?」

「商会のお嬢さんから提供された試供品って奴だ。モニターにはちょうどいい相手だっただろ」

どうやら、あの青い大矢は『エレノア商会』の開発した品物であったらしい。

まあ、あれをバリスタか何かで放てば公爵級悪魔の魔法攻撃にも対抗できる可能性はあるだろう。

どのように作っているのかは想像もつかないが、相変わらず向上心の塊である様子だ。

「おかげでスムーズに解決することはできましたし、あの矢の性能も確認できました。被害も少ないですし、終わってみれば中々に都合のいい展開でしたね」

「そう言えるのはお前さんだからだな……だが、根本的な解決にはなっていないだろう?」

「ええ。エリザリットとデルシェーラ、二体の悪魔の行方は不明。今回の件で多少の消耗があったとしても、また同じ攻撃ができる可能性は十分にあります。追撃を防ぐためには、最低限エリザリットを討伐する必要があるでしょうね」

「だが、相手の位置は分からないんだろう?」

「はい。ですので……あちらで、少し話を聞いてみてください」

そう言って、アルトリウスは街の中――そのうちの建物の一つを指し示す。

どうやら、『キャメロット』の管理している店舗の一つであるようだが、どうやらそこに行けということらしい。

まあ、おおよその事情は想像できる。どうせ、あそこにあの女がいるのだろう。

「お前さんが聞かないのか?」

「エリザリットについては、僕は当事者とは言い難いですからね。それに、特に因縁深いのはクオンさんでしょう?」

「はぁ……了解だ。何か分かったらそっちにも伝える」

「はい、お願いします」

軽く嘆息し、その場から踵を返す。

おおよその状況は察したのか、付いてくる緋真も複雑そうな表情だ。

「状況は何となくわかりますが……本当に大丈夫なんですかね?」

「危害を加えられるかという点については問題ないだろう。あいつはまだ力を蓄えている最中だからな。だが、素直にこちらの要求に応えるかと言われると……」

「微妙なところよね」

それであれば、交換条件を出せるアルトリウスの方がマシだと思うのだが……まあ、あいつがわざわざ言ったということは何かしらの考えがあるのだろう。

正直あまり気は乗らないが、とりあえず会うだけ会ってみるとするか。

少なくとも、差し当たっての危険はないだろうしな。

胸中でそう呟きつつ、俺はアルトリウスの示した建物へと足を運んだ。

どうやらここは飲食店――カフェであるようだが、中は閑散としている。

まあ、先程の氷のせいで避難している面々も多かったし、それに関しては仕方のない話だろうが――

「随分とくつろいでやがるな」

「対価として受け取ったものよ。どうするかは私の勝手でしょう」

そこで一人ホットコーヒーを片手にくつろいでいたのは、予想通りロムペリアであった。

どうやら、エリザリットからは隠れつつここで待機していたらしい。

「分かってはいるだろうが、エリザリットの氷は片付けた」

「そう。魔法破壊によって崩壊させたのよね?」

「ああ、その通りだ」

「それなら、エリザリットもしばらくは動けないでしょうね。とはいえ、それで諦めるような女でもないけど」

霊峰で相対した時の姿を思い出し、その言葉に首肯する。

プライドというか見栄というか、エリザリットはとにかくそういった部分を気にするタイプの性格だった。

コケにした俺たちのことを許す気は皆無であろうし、動けるようになればまた攻撃を仕掛けてくることだろう。

「それで、一つ聞くが……ロムペリア、お前は奴の居場所に心当たりはあるか?」

「残念だけど、エリザリットは定位置を持たない……つまり領地支配を命ぜられていない悪魔だわ。自らの裁量で移動している筈よ」

「……なら、奴がまた攻撃してくる手は防げないと?」

「同じ手を取ってくる以上はね。まあ、通じなかったとなったらまた別の手を取ってくるかもしれないけど……どちらにせよ、すぐには動けないわ」

ロムペリアの言葉を聞き、しばし黙考する。

エリザリットはしばらく動けないが、逆に言えば回復したら確実に再度攻撃を仕掛けてくる。

それを待ち構えて迎撃するしか、今のところ打てる手はないか。

だが、そんな俺の考えを読み取ったのか、軽く溜め息を吐き出したロムペリアは、付け加えるように声を上げた。

「けど……デルシェーラ。あの女は支配領域を持つ悪魔よ。エリザリットが奴の協力を得ているのであれば、今はそこにいる可能性が高いわね」

「っ! あの雪女か。奴はどこにいる?」

「そこまで答える義理はないのだけど?」

「エリザリットについては俺もお前も無関係ではないだろう。いちいち邪魔をされても面倒だ――お互いにな」

「……はぁ。地図を出しなさい」

深々と溜息を吐いたロムペリアに、俺はメニューから呼び出したマップを提示する。

現地人扱いとなっているロムペリアに、果たしてこれが見れるのかという懸念はあったが――どうやら、問題なく閲覧することができるようだ。

「へぇ、女神の使徒ってこんなものを持ってるのね。便利じゃない……こっちじゃ操作できないのね」

「そりゃ流石にな。それで、デルシェーラはどこにいる」

「もうちょっと北を映して。そう……ここね、この都市だわ」

そう口にして、ロムペリアが指差した位置。

それは、先日俺たちが発見した都市の先、次に狙うことになるであろうあの場所の少し北――山に差し掛かる位置にある、巨大な交易都市を指し示していた。