作品タイトル不明
536:別動隊
「《練命剣》、【煌命閃】」
久遠神通流合戦礼法――風の勢、白影。
別動隊が回り込んできている以上、時間をかけていれば包囲されてしまう。
速攻で片付けなければ、離脱することは不可能だろう。
故に、俺は白影を発動させながら、悪魔の群れの中へと潜り込んだ。
急激に加速した俺の動きを捉え切れなかったのか、まだこちらに来た悪魔の大半が俺の姿を認識できていない。
ならば、まずはこの一手で大きく相手を削る。
斬法――剛の型、輪旋。
刃を大きく翻すと共に、生命力の刃も大きく広がる。
薄く鋭い刃は、【刻冥鎧】や《夜叉業》の効果も乗っており、ただの悪魔を倒すだけなら十分すぎる威力となっている。
その一閃によって、三体の悪魔が巻き込まれて胴から両断された。
逆に言えば、それ以外の悪魔は見事に回避してみせたのである。
(このタイミングですら反応するか。本体の性能は伴わないが、動きだけなら爵位持ちと比べても遜色ないぞ)
少なくとも、下位の爵位持ち相手であれば、集団で襲い掛かれば倒せてしまうのではないかと思うほどだ。
思わず感心しながらも、俺は更に先へと足を踏み出す。
標的は、飛び離れて着地した直後のアークデーモンだ。
「『生奪』」
白影を使っているため、相手の動きはスローモーションに見える。
故に、相手が体勢を立て直すよりも早く肉薄した俺は、振り下ろした刃で袈裟懸けに相手の体を両断した。
攻撃力は十分。与えたダメージに応じた生命力を奪い取りながら、俺はこちらへと突き出されてきた槍による攻撃を半身になって躱す。
そしてそれと同時に、突き出された相手の槍を掴み取った。
「――――っ」
声は出さないながら、槍で攻撃してきた悪魔は、反射的に槍を引こうと力を籠める。どうやら、反射的な行動は人間と変わらないらしい。
ならばやり易いと、俺は槍を引くその動きに合わせて相手へと肉薄した。
引き合おうとしていた槍を離され、悪魔は僅かに後ろへと仰け反っている。その胸へと、俺は左の拳を押し当てた。
打法――寸哮。
相手が体勢を戻そうとする動きと共に、強力な衝撃をその内側へと叩き付ける。
その一撃は相手の臓腑を確実に叩き潰し、悪魔は血反吐を吐きながらその場へと崩れ落ちた。
「《蒐魂剣》、【因果応報】」
だが、敵を一体片付けたからといって気を抜いている暇などない。こちらへと迫る乾いた音が、それを指し示している。
俺はすぐさま刃を振るい、こちらへと飛来した雷の槍を吸収した。
単純な魔法攻撃に対する対処は簡単だ。《蒐魂剣》で簡単に対処できる程度の威力であるならば尚更である。
「《練命剣》、【命輝一陣】」
振るう刃より、雷を纏う生命力の刃が飛び出す。狙う先は、俺にその魔法を放ってきた悪魔の方だ。
攻撃を倍にして返された悪魔は、素早く反応して回避しようとするが、その動きを纏わりついた亡霊が阻害する。
動きを鈍らせた悪魔には、見事に【命輝一陣】が直撃し、そこに纏わりつく雷のダメージを合わせて受けることとなった。
体を痺れさせた悪魔はその場に崩れ落ち――その背を、飛来したルミナの精霊が貫く。
確実に急所を一撃するその動きは、ルミナの動きそのものを写し取ったかのようだ。
「し……ッ!」
標的が分散したためだろう、悪魔の動きが僅かに鈍る。
とはいえ、未だに俺に対する注目度は高く、自由に動けるという程ではない。
だが――多少なりとも迷いが生じたのであれば、それだけで十分すぎる。
歩法――縮地。
響き渡るのは、砂の擦れる細かな音。
それと共に肉薄したのは、精霊に気を取られていた悪魔の一体だ。
こちらに対する注意を完全に外していたわけではないようだが、多少気が逸れているだけでも僅かに反応は遅れるものだ。
「『生奪』」
横薙ぎに放った一閃が悪魔の首を斬り飛ばす。
血を噴き出して倒れ、その体も黒い塵となって消滅する――その粒子を踏み散らしながら、更に先へ。
そうして足を踏み出す俺へと迫るのは、左右から来る二体の悪魔、そして正面から放たれた魔法であった。
タイミングは完璧。どれかに対処すれば、残る二つの攻撃がこちらに直撃することになるだろう。
――素直に攻撃へと対処すれば、の話であるが。
歩法――烈震。
こちらへと飛来した氷の魔法、その真下を潜り抜けるようにしながら駆け抜ける。
流石に完全には避け切れず、僅かに余波のダメージを負ったが、大したものではない。
そのまま正面の悪魔へと向けて走り抜けた俺は、相手の胸へと餓狼丸の切っ先を突き出した。
斬法――剛の型、穿牙。
正面から心臓を貫き、一撃の下にそのHPを散らす。
正面の相手を無力化したことを確認し、俺は即座に体を反転させた。
「《練命剣》、【命輝練斬】」
斬法――剛の型、迅雷。
消滅しかかった悪魔、その体を鞘に見立て、刃を引き抜きながら横薙ぎの一閃を放つ。
鞘からの一閃ではないため、流石に普段ほどの鋭さは無いが、それでもこちらに迫る二体の悪魔を迎撃するには十分だ。
神速の一閃は、ほんの僅かな黄金の残滓だけを中空に描きながら駆け抜け――武器を振りかざしていた二体の悪魔は、胴から真っ二つになって上半身だけがすっ飛んでいく。
だが、それを見届けることはなく、俺はすぐさま次なる標的へと視線を向けた。
斬法――柔の型、流水・逆咬。
二体の悪魔に続くようにこちらへと迫っていた一体、その手にある武器を絡め取りながら弾き飛ばし、別の方向からこちらに向かってきていた一体の顔面へと叩き付ける。
相手の動きが止まれば充分であったが、どうやら運よく切っ先から突き刺さったようだ。
武器を弾き飛ばされた悪魔は僅かに体勢を崩している。その立て直しなど認めるはずもなく、返す刀の一閃が悪魔の首を斬り飛ばした。
二体が確実に絶命したことを確認し、俺は周囲へと視線を走らせる。
(半数以上は片付けた。残りも精霊たちが来ていたおかげでほぼほぼ壊滅状態――頃合いだな)
こちらの別動隊は既に壊滅した。残る悪魔もいるが、この程度の数ならば足止めにはなり得ない。
そう判断した俺は即座に反転し、緋真たちの方へと駆けだした。
上空の敵はルミナたちが迎撃しているおかげで包囲までには至っていないし、後続の悪魔たちもまだこちらに接敵するには至らない。
もう片方の別動隊はここからは確認できないが、緋真が交戦していない以上は問題ないだろう。恐らく、シリウスによって蹂躙されている筈だ。
「ふぅ……緋真、撤退するぞ! シリウス、お前も戻ってこい!」
「了解です! アリスさんは――」
「もう戻ってるわ、行きましょう」
心配はしていなかったが、どうやらアリスも頃合いを見て戻ってきていたようだ。
ともあれ、これで包囲されることはなくなった。
次なる追撃が放たれるよりも早く、この場を離脱することとしよう。
「セイラン、こっちへ! ルミナは精霊を集結させて上空の敵を足止めしろ!」
「クェエ!」
「了解です、お父様!」
上空から戻ってきたセイランに跨り、俺の後ろには身軽に跳び乗ってきたアリスが腰を下ろす。
緋真もペガサスを呼び出しており、撤収の準備は万端のようだ。
シリウスが戦闘から離脱して走り出している姿を確認しつつ、俺はすぐさまセイランへと合図を発した。
「一気に離脱だ、行くぞ!」
「ケェッ!」
瞬間、風を纏ったセイランが一気に加速する。
振り落とされぬように体勢を低くしつつ後方を確認すれば、そちらにあるのは一気に離れていく悪魔たちの姿。
最も近かったのは別動隊の悪魔たちだったが、それらは次々に足を止めてこちらを見つめるだけとなっていた。どうやら、追撃は諦めたらしい。
ようやっと戦闘が終了したことを確認し、俺は流れるレベルアップの音声を聞きながら、深く嘆息を零したのだった。