軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

537:スキル強化と考察

全員揃って街から距離を取り、悪魔たちの追撃が無くなったことを確認して、俺は深く溜め息を吐き出した。

色々と状況が変わっていることを想定していたが、まさかああも想定外の事態が発生するとは思わなかった。

爵位持ちの悪魔の姿を確認することができなかった点も厄介だろう。あの優秀な動きをする悪魔たちが、爵位悪魔から詳細な指示を受けていたのかすら不明なのだ。

「ふーむ……厄介だな、ありゃ。偵察も難しい」

「少なくとも、派手に堂々と近付いたら同じ状況になるでしょうね」

俺の呟きに対し、アリスはシリウスを見上げながらそう口にする。

言わんとすることは分かる。シリウスはあまりにも派手すぎるせいで、こっそりと相手の陣に接近するということができないのだ。

確かに、アリス一人であるならば接近も侵入も可能かもしれないが――現状、そこまで急いでいるわけでもないし、そこまでのリスクを払う必要も無いだろう。

「ま、今すぐにあそこを攻略しなけりゃならんというわけでもないし、無理は禁物だ。対策はするけどな」

「ですね。どっちにしても、次はあそこの都市を取らないといけないわけですし」

位置関係上、次に狙う都市はどうしてもあそこになってしまう。

正直、選択肢が無いという状況は好ましくはないのだが、北西の城塞を攻めることはどう考えても不可能であるため仕方がない。

とにかく、今はできることを進めていくしかないだろう。

「とりあえず……結構スキルも上がりましたし、スキル整理しますね」

「ああ、俺の方も上限スキルが出てたな」

「私もだけど……スキルポイントが結構厳しいのよね」

とりあえず周囲に魔物や悪魔の姿がないことは確認しつつ、スキル進化の処理を開始する。

俺の場合、進化レベルに達しているスキルは《高位戦闘技能》だ。

スキル、テクニックの威力上昇やコスト削減のためのパッシブスキルで、大抵のプレイヤーは取得している便利な代物である。

上昇幅はそこまで大きくはないのだが、塵も積もれば何とやらだ。

今のところ他のスキルの進化まではまだ遠そうであるし、しばらくは通常のレベル上げに勤しむことになるだろう。

「そこまで大きくは変化しなかったか。緋真、そっちはどうだ?」

「こっちは《格闘術》と《MP自動大回復》ですね。第二ウェポンスキルもようやく第三段階ですよ」

《MP自動大回復》については、俺も保有しているスキルである。

進化先は《MP自動超回復》。単純に効果量が上昇するだけのスキルである。

とはいえ、MP消費の激しい緋真がMP回復手段を増やせることは大きいだろう。

短時間に大量のMPを必要とする場合にはポーションを使えばいいし、そうでない時は放置していれば回復する。

ちょっとした、ポーションの節約になることだろう。

「《格闘術》は何に進化したんだ?」

「《武王》ですね。また随分と大それた名前ですけど」

「《刀神》もそうだしな。まあ、スキル名なんてそんなもんだろ」

三魔剣のようなものはともかくとして、この汎用的なスキルの名前は中々に物々しいものが多い。

前回の戦いでもパルジファルがあれこれとスキルを発動している様を目撃したが、どれも名前だけではよく分からないようなスキル名だった。

まあ、名前はともかく効果は有るのだから、いちいち気にしていても仕方がない。

「正直最近はそこまで 魔導戦技(マギカ・テクニカ) も使ってませんし、ウェポンスキルの上昇は単なる威力上昇ぐらいなものでしかないんですけどね」

「お前なら上手いこと使えるだろうに、使わないのか?」

「状況によっては使いますけど、正直《術理掌握》とか紅蓮舞姫の解放の方が使い易いんですよね」

確かに緋真の言う通り、動きを制限される 魔導戦技(マギカ・テクニカ) よりは、自由度の高いそれらの攻撃の方が使い勝手はいいのだろう。

とはいえ、全く使えないということでもないため、時々使用している姿は目撃しているが。

「ま、どっちにしても格闘で 魔導戦技(マギカ・テクニカ) は使いませんけどね。打法は隙を埋めるために使ってますから」

あっけらかんとした表情で断言する緋真に、思わず小さな笑いが零れた。

こいつは自分なりに戦い方を発展させられる才能を持っている。

スキルが成長したならば、それに応じて自分の戦い方も進化させられることだろう。

ある意味、久遠神通流の中で最もこのゲームの世界に適応できているのは、他でもない緋真なのだから。

「で、アリスの方はどうしたんだ? さっきから黙ってるが」

「ん……いいえ、ちょっと予想外だったものだから。私の方は《月魔法》が上限に達したのよ」

「元から特殊な魔法ですし、どんな風に変わったとしても不思議じゃないと思いますけど?」

「まあ、それはそうなんだけどね。とりあえず、《月魔法》の進化は二択……《天月魔法》と《闇月魔法》だったわ」

アリスの報告に、思わず眉根を寄せる。

これまで、マジックスキルは分岐進化することがあまり無かったため、確かに意外といえばその通りだろう。

だが、元々《月魔法》はマーナガルムに関連するスキル。

《天月魔法》にしろ《闇月魔法》にしろ、マーナガルムに関連したワードであるし、そこまで驚くほどの内容ではないだろう。

アリスの場合はどちらを選ぶかもはっきりしているだろうし、長時間スキル画面とにらめっこをすることにはならない筈だ。

そんな俺たちの疑問を察したのか、アリスは溜め息を吐き出しつつ続けた。

「どちらを選ぶかと言われれば、《闇月魔法》一択なのだけど……どちらを選んでも、これまで使えていた《月魔法》の効果が少し変わるらしいのよ」

「へぇ……進化前の魔法にまで影響を及ぼすパターンは初めてですね」

「成程、その効果の違いまで含めて確認していたわけか」

「そうね。まあ、そこまで大きく効果が変わるわけでもなくて、単に付与効果が付くとかその程度のものだったけど」

《月魔法》は攻撃性の高い魔法は少なく、補助やデバフを掛ける効果が多い魔法であった。

敵の動きを阻害したり、姿を消したりワープしたりと、アリスにとってはそこそこに使い易い効果が多かっただろう。

その効果が変化するとなれば、アリスとしても詳細を確認せずにはいられなかったか。

「とりあえず、使い勝手もコストもほぼほぼ変化はないみたいだし、気にしないでおくわ。一応チェックは必要だけど」

「成程な。まあ、弱体化したわけじゃないのなら問題はないか」

「そうね……はぁ、スキルポイントが少ないわ。進化しそうなスキルはまだあるのに。取得コストの高いスキルを取り過ぎたかしら……」

アリスはぶつぶつと呟きながら、スキル画面を操作している。

俺はまだスキルレベルに余裕があるし、あまり気にしたことのない問題だが、アリスにとっては悩ましい問題だろう。

上限に達したまま放置しなければならないとなった場合、ちょっとしたロスとなってしまいかねない。

まあ、実際はその分の経験値が他のスキルに分配されることになるため、無駄になるというわけではないらしいが。

「スキルポイントが厳しいなら、またレベルを上げに行かんとな」

「その分だけスキルのレベルも上がるけどね。でも、さっさとスキルを進化させればその後はポイントを溜めるだけだし、間違ってもいないのよね」

「だろう? とはいえ、また狩場を見つけるところから始めないとならんけどな」

前回使っていた狩場は使いづらい状態となっているし、またこの辺りを放浪する必要があるだろう。

とはいえ、まずはやらなければならないことがあるのだが。

「とりあえず、先程のことについてアルトリウスと話しておく。次に向かう場所は、それから決めるとしようか」

「北側を回って偵察するっていう話でもありましたしね……マップでも眺めてます」

次の標的になるであろう都市と、そこに現れた奇妙な悪魔。

アルトリウスならば伝えずとも自力で情報を集めてくるだろうが、共有しておいて損は無いだろう。

すぐにあの街の攻略に乗り出すことは不可能だが、それはつまり相応に作戦を練る時間があるということでもある。

あいつがどのような作戦を立てるのか、期待させて貰うこととしよう。