軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

531:集落近辺

『《高位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』

麓の周辺まで近づいてくると、流石に人間の支配領域から外れてきているためか、敵の出現頻度が上昇してきた。

ここまで来るとルミナとシリウスだけで処理しきれる数ではなくなってくるため、俺や緋真たちも手を出している。

まあ、いつまでも移動だけというのも暇であったし、むしろ助かるものではあるのだが。

しかし、やはり苦戦するほどの相手でもない。もう少し踏み込まなくては、まともな戦いになるような相手は出現してこないだろう。尤も、その匙加減も中々難しいのだが。

ともあれ、戦闘は終了した。レベルの上昇したスキルを確認しつつ、俺はふと気になってアリスの方へと声をかける。

「そういえばアリス、さっきのスキルは新しくなったのか?」

「ああ、《トキシックエッジ》のこと? 《ベノムエッジ》の進化したスキルね」

武器に対して手持ちの毒を付与する効果がある《ベノムエッジ》。

元々毒々しいエフェクトの付与されるスキルであったが、先程放った矢は、緑と紫と黒がマーブル模様に交じり合うようなえげつない色彩をしていた。

どうやら矢に対してそのスキルを使用したらしいが、彼女のクロスボウからの一撃を受けた悪魔は、血を吐き出して痙攣し、そのまま地面に墜落して砕け散ったのである。

今までの毒では、あそこまでの効果はなかったはずだ。

「どうやら、同種の毒なら複数消費して効果を増幅できるみたいね。多少の耐性なら貫通できるみたい」

「ちなみに、さっきは何本消費したんだ?」

「三本ね。流石に、毎回これだけ使っていると消費が重すぎて困るけど」

元々、地味ではあるがそれなりに効果の高かったスキルだ。強化されたならば、アリスの攻撃力もさらに高まることだろう。

強力な敵にはあまり通じなかったタイプのスキルであったが、今なら通じる可能性もある。

流石に相手が毒を無効化するようなスキルを持っていた場合はその限りではないだろうが、試してみる価値は十分にあるだろう。

「スキル進化のポイントが心もとなくなってきたし、またレベルを上げたいところね」

「狩りをしてレベル上げってのもいいんだがな……ま、追々だな」

「ええ、今はちょうどいい感じの狩場もないし」

悪魔の警戒ラインが変わったためか、前回レベル上げに使った場所ではあまり襲撃を受けなくなってしまっている。

更に奥まで行けば同じように出現するのかもしれないが、単純にラインを下げただけではなく、何かしら動きに変化が生じている可能性も否定はできない。

悪魔の勢力図はある程度判明したとはいえ、まだその動き方を把握できているわけではないのだ。

奴らの動きについては、慎重に観察を続けるべきだろう。

「今回の偵察は狩場の捜索にもつながるだろうし、ちょうど良さげな場所を探しておくとするか」

「そうね。悪魔の支配領域に近づく以上、戦闘は避けられないでしょうし。出現のパターンはある程度分かるでしょう」

「いいですけど……あんまり無茶なことは止めてくださいよ?」

何となくこの後の展開を予想しているのか、緋真は半眼のままそう声を上げる。

その言葉に対してはひらひらと手を振りつつ、俺は遠景へと視線を走らせた。

麓の集落から少し離れた、遠征にはちょうどいい程度の距離のエリア。

俺たちの眼下にあるのは、いくつか立ち並ぶ家屋の残骸と思われる物体だった。

数としては、恐らく五十程度、小さな村といったところだろう。

「お父様、恐らく集落跡地のような場所ですが――」

「一応調べてみよう。ものが残っている可能性は低そうだが、何かしらの手掛かりはあるかもしれない」

セイランに合図を送って、地上まで降下する。

幸い、この場には悪魔の姿はないようで、降りてすぐに戦闘になるようなことはなかった。

「これは……やっぱり、元々は村ですかね」

「だな。今回は手掛かりの望みは薄そうだが」

何しろ、残骸には焼け焦げた跡が残っている。

どうやら、この村を襲撃した悪魔は炎を使う個体であったようだ。

流石に、火を使われてしまっては、木造の建築はどうしようもない。

一度燃えれば焼失するまで燃え続けるだろうし、中の人間も物も耐えられるはずもないだろう。

「これ、手掛かりとかあるんですかね?」

「文書の類はあまり期待できないだろうな……ここは恐らく、麓の集落に向けた中継地点ってところだろう。重要なのは、ここが集落に向けた中継地点であるなら、他の都市から移動してくることを前提にしているということだ」

燃えていなければ何かしらの資料が残されていたかもしれない。

だが、こうなってしまっている以上は、分かる範囲の情報を集めるしかあるまい。

「村の出入り口は四つ。一つは森の中へ――集落へ向かう道だろうな」

「残り三つは?」

「北西、南東、東北東。しっかりとした道じゃないが、踏み固められて人が頻繁に通っていた痕跡はある」

上空で見た村の出入り口まで足を運んでみれば、崩れ落ちた門の残骸に『歓迎』の文字が見て取れる。

現地人でレベルキャップに到達するような存在は少ないだろうが、そんな人物たちが一時体を休める場所だったのだろう。

「南東は、恐らく聖王国に向かう道だろうな。途中で街道に合流できる筈だ」

「じゃあ、北西と東北東は?」

「中継地点になるような街があれば御の字だな。それが廃墟と化しているか、或いは悪魔に乗っ取られているかは……一概にどちらが楽とも言えんか」

完全に滅ぼされて廃墟と化しているのであれば、その土地をそのまま利用して前線拠点を建築することができるだろう。また、悪魔が拠点として利用しているのであれば、これらを撃退して奪い、修復して利用することもできる。

どちらの方が楽であるかは――正直、微妙なところであるだろうが。

「ともあれ、ある程度の方角が絞れただけでもありがたい。北西と東北東、どちらも調べてみるとしようか」

「北西も調べるの? 正直、今の段階で攻めるには向かない方角よね?」

「まあ、そうなんだがな。場所を確認しておく程度に留めるつもりだ」

北西に向かう場合、こちらの支配地域が伸びすぎてしまうこととなる。

その場合、防衛が困難となり、間を分断されれば再び奪い返されてしまいかねない。

まずは、東北東側のエリアを奪取した方が今後も戦い易くなるだろう。

それに、西側に存在しているのは大公ヴァルフレア――弱肉強食を是とし、少数精鋭の悪魔を揃える強敵だ。

今の段階で、そちらに近づくことは避けるべきだろう。

「なら、本命は東北東ってことですね。まずは北西から調べて、その後にそっちに行きますか?」

「そうだな、メインディッシュは後に残しておくこととしよう」

距離にもよるだろうが、次の目標となるのは東北東にあるであろう拠点になると思われる。

そちらの方を密に調べるためにも、北西はざっと調べる程度にしておくこととしよう。

仮に見つかっても、そちら側の悪魔を刺激するべきではないだろうし、遠景からの偵察程度に留めておくべきだ。

そして、東北東側の拠点が見つかったならば――

「……くく」

「ちょっと、何か嫌な予感がするんですけど?」

「気にし過ぎだ。ほら、さっさと行くぞ」

眉根を寄せる緋真の言葉には適当に返し、俺はセイランを呼び寄せてその背に跨る。

破壊されたこの村には、今できることは何もない。

俺たちでは修復に関する手出しなど不可能だし、悪魔に襲われた以上は人々の死体すら残っていない。

今はただ、先を急ぐ他に道はないのだ。

「――さて、どうなっていることかね」

その小さな呟きだけを残して、俺は再び空へと舞い上がる。

まずは北西、そして東北東。どちらも地図にマークを残し、まずは北西へと向けて移動を開始したのだった。