軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

532:見つけた都市

村の跡地から、まずは北西に進んだ先。

霊峰を左手側に捉えながら、森の境を辿るように道は続いている。

そのまま北西に続く道は、恐らく大公ヴァルフレアの支配領域に続いているのだろう。

「それにしても、ヴァルフレアってどんな悪魔なんでしょうかね?」

「恐らくは、銀龍王に重傷を負わせたっていう黒い悪魔なんだろうが……聞いた話だけだとよく分からんな」

悪魔が帝国を攻めた際、最後に一瞬だけ姿を現した、黒い外套の悪魔。

ただの一撃で銀龍王に致命傷に近いダメージを与えたという、正真正銘の怪物だ。

しかし、その攻撃がどのようなものだったのかは判明していない。

そもそも、その当時プレイヤーはまだ帝国には到達していなかったし、何かしらの映像記録が残っているわけでもない。

目撃した現地人の証言程度しか情報が無く、能力を推察することは不可能だった。

「銀龍王と話ができれば、何かしらの情報は出てくるかもしれないが……流石に、おいそれと話ができるような相手じゃないからな」

「今分かっている範囲だと、個体の悪魔としては最も強いんじゃないか、ってところぐらいかしら?」

「群体を生み出すアルフィニールと、軍勢を率いるエインセル……どういう比較ができるのかは分からないですけど、単体でこれと同格っていうのなら……」

「流石に、そこまで極端に強すぎるってことは無いとは思うが、それでも龍王を一撃で撃ち落したことだけは確かだ。アルトリウスが 強制解放(リミットブレイク) を使ったとしても、そこまでの火力を発揮できるかは疑問だな」

銀龍王は帝国を庇うため、攻撃を避けることはできなかった。

それ故の重傷であったことは間違いないが、果たしてアルトリウスでもあれだけの傷を与えることができるかどうか。

あっさりとそれだけの攻撃を放ち、撤退したという黒衣の悪魔。

今の段階では、とてもではないが勝てる相手とは思えなかった。

「何にせよ、ヴァルフレアとの戦いはまだしばらく後だ。今は他の悪魔との戦いを想定した方がいいだろう」

「普通に考えて、ヴァルフレアだけはないですしね」

先んじて戦う相手として挙げられるのは、間違いなくアルフィニールとエインセルになるだろう。

恐らく、最も与しやすいのはアルフィニールだ。大量の悪魔を生み出す力はあるが、個々の悪魔自体の力はそれほどではない。

しかし問題は、アルフィニールの領土を奪う形で戦った場合、俺たちはエインセルとヴァルフレアの領地に挟まれることになってしまうことだろう。

大公一体を討ったとなれば他の大公も黙ってはいないだろうし、軍の運用に長けるエインセルを防ぐことは困難だ。

領地の維持は考えずに、放棄して後退することになりそうだが――まあいい、捕らぬ狸の皮算用だ。

「それよりも、見えてきたな」

「あれは……砦? いや、城塞ですかね」

「ちょっと規模は大きそうね」

遠景に映り始めたのは、灰色の城壁に覆われた巨大な都市であった。

大きさはかなりのもので、流石に大都市という程ではないのだが、都市全体が要塞化されている。

悪魔との戦いがあったためか、一部には破壊の痕跡が見て取れるのだが、それらの場所は黒い建材によって補修されている様子だ。

今まで戦ってきたような壊れかけの城塞ではなく、ほぼ完全な形での拠点となっていることだろう。

あれを攻め落とすのは、困難を通り越して無謀に近いのでは、と思えてしまう。

「もともと戦うことを想定して作られた都市のようだな。何を想定していたのかはこの際どうでもいいが……あれは厳しいな」

「そんなに?」

「どんな悪魔が主導したのかは知らないが、攻めた際に破壊されたはずの都市が修復されている。つまり、ほぼ完全な形での城塞を攻略しなけりゃならんということだ。詳しく調べてみないことには分からないが、隙のない城砦を攻めるなんて悪夢みたいなもんだ」

十全に城攻めを行うのであれば、十倍の戦力でも持ってこなければ戦えまい。

守将の能力次第でその辺りの事情は変わってくるだろうが、流石に敵が無能であることを期待するのはお門違いだ。

ヴァルフレアの領地ということもあり、あの中にいる悪魔は精鋭揃いだろう。

マトモに攻略するとなると、果たしてどれだけの時間を要することか。

「もともとこっちを攻めるつもりはなかったが、あれは無理だな。少なくとも今の段階じゃ手出しのしようがない。後回しだ、後回し」

「うーん……まあ、とりあえず地図にマークだけ付けときますね」

マップにて城塞の位置にピンを立てておき、俺たちはこの場を後にする。

上空から偵察してみてもよかったのだが、変に相手側が反応してきても厄介だ。

しばらく放置するしかないこの城塞は、触れることなく立ち去ることとしよう。

* * * * *

さて、来た道を戻って村の跡に戻ってきた。

スクロールを使って麓の集落まで戻ってみてもよかったのだが、流石に移動の短縮という理由だけでそこそこ高価なスクロールを使うのも勿体ない。

そんなこんなで戻ってきた俺たちは、そのまま東北東へと向けて移動を開始した。

場所としてはこちらが本命、果たして何があることやら。希望としてはそこそこに攻めやすい拠点があってくれることだが、そこまで上手くいくかどうか。

「こっちの方は、そこそこプレイヤーの姿が見えますね」

「敵の数が減っているのは、プレイヤーが増えているからっていうのもありそうだな」

「探索しやすいと見るべきか、獲物が減っていると見るべきか……」

「敵を求めるなら別の場所に移動すればいい話だ、気にするほどのことでもないだろうよ」

アリスの呟きにはそう返し、セイランを急がせる。

プレイヤーが戦っている状況では、こちらもあまり襲撃を受けることはない。

空中ならば、ルミナとシリウスで対処しきれる程度の数だろう。

「しかし、これだけプレイヤーが進出してきているなら、既に拠点の一つぐらいは見つけていそうなもんだがな」

「どうかしらね。この辺り、少し進んだだけで突然敵の数が増えたりするし」

「いきなり敵に囲まれても大変ですし、結構慎重に動いているみたいですよ?」

「ふむ……まあ、無茶をするもんでもないからな」

他のプレイヤーがどの程度のマージンを取っているのかは知らないが、それに従っているのであれば文句のつけようもない。

自分の実力を見誤って敵に潰されてしまったのでは本末転倒だからだ。

流石に、俺たち程の無茶を他の連中に求めるのも酷だろうからな。

尤も、俺の言葉を聞いた緋真の目には半眼が浮かんでいたが。

「そう言うなら本人が無茶しないでくださいよ」

「俺は自分に可能な範囲を見極めて戦っているからな。出来ない無茶なら即座に撤退してるだろうが」

数多くの敵と戦うだけならいいが、確実に負けると分かっている戦いまで突っ込むのは愚かとしか言いようがない。

自らの実力を正確に把握し、勝てるかどうかを判断した上で戦う。

そうしてきたからこそ、これまで生き残ってきたのだ。

「言ってる間にほら、プレイヤーの数が減ってきたわよ」

「もうか。まだ森からそう離れた位置でもないだろうに」

「レベルキャップに達したらすぐに霊峰に行ける位置ってことですかねぇ」

未だレベルキャップに到達していないプレイヤーたちにとっては、あまり強くはなく数が多いアルフィニールの悪魔はいい獲物だろう。

まあ、少々霊峰に対して気を取られ過ぎなのではと思わなくはないが、プレイヤーが強化されるに越したことはない。

さっさと真化して、最前線まで足を運んできて欲しいものだ。

「おかげで敵の数も増えてきましたね……ほら、向こうから飛んで来ますよ」

「すぐに接敵しそうだな。だが――どうやら、目的地も見えたようだ」

緋真が示した空の先、魔物と悪魔が大挙して飛んできているその先に、薄っすらとだが建造物の影が見える。

その全貌は全くと言っていいほど定かではないが、あちらが俺たちの目的地には間違いあるまい。

であれば――

「まずはこいつらを片付けて、この先に向かう。こいつらの出所を拝んでやるとするか」

「出所かぁ……やり易いところならいいんですけどね」

ぼやくような緋真の言葉には内心で同意しつつ、俺は刀を抜き放ちながら向かってくる敵の群れへと飛び込んだのだった。