軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

384:武具の墓標

遠くから響いた爆音に、ふと視線を上げる。

音の方向へと眼を向ければ、少し離れた場所にある森から黒煙が上がっていた。

今のは、恐らく魔法ではなく火薬――爆弾による爆発だろう。

かなり連続した爆発音が響いていたことから、大量に作っていた爆弾を一気に起爆したものだと思われる。

魔法でそのような爆発を起こせるものは無かったと記憶しているし、そもそも音の響き方が違う。少なくとも魔法以外の手段による爆発に間違いはないだろう。

であれば――

「ありゃ軍曹か……? 何を爆破しやがった、あのおっさん」

プレイヤーを誘い込んで一網打尽にでもして見せたか。

これだからあのおっさんは怖い。たとえ一人きりになっていたとしても、決して油断できるような相手ではないのだ。

アンヘルとランドが残っていたら、どこまで大暴れしていたことか……そう考えると、序盤の内にあの二人を倒せたのは僥倖だった。

そんなことを胸中で呟きながら、俺は次なるエリアへと移動している。

四つ目のラウンドのエリア収縮が終了し、次なるエリアの収縮先が示されたのだ。

流石に、今回は要塞から外れてしまったため、移動を余儀なくされているのである。

(かなり狭まってきているし、決着が近いか)

次なるエリアは、およそ直径二百メートルほどの円になっているだろう。

隠れられる場所も少なくなってきているし、残るプレイヤーがこのエリアに集結するとなれば、これが最後の戦いとなる可能性も高い。

未だ、あの馬鹿弟子とは出会えていないが――さて、どうなっていることか。

「っと……ここだな」

次なるエリアの中央、そこにある小高い丘の上に到着し、周囲を見渡す。

今のところ、他のプレイヤーの姿は見えない。他のエリアで争っているのか、或いは隠れる場所のないこの位置を嫌ったか。

何にせよ、俺にとっては好都合だ。こちらにして見れば、後は緋真との戦いを終えれば満足なのだから。

尤も、別に優勝を逃すつもりも無いのだが。金龍王のこともあるし、勝ちを譲ってやるような理由はない。

だが、それよりも優先度が高いのは緋真のことだ。あいつの成長を確かめることこそが、俺にとって成すべき戦いなのである。

それこそが、あいつを選んだ俺の義務なのだから。

「さてと」

インベントリから取り出した武器を、丘の上に突き刺す。

今、俺のインベントリには保管庫から取得したいくつかの武器が収められている。

大半がAランク、一つだけはSランクというとんでもない武器があったものの、残念ながら刀に分類される武器は納められていなかった。

尤も、防具についてはそれなりにいいものが手に入ったため、全くの無駄足というわけでもないのだが。

ともあれ、俺は手に入ったAランク以上の武器を、目印として利用することにしたのだ。

丘の頂点に突き刺したSランクの大剣、その他Aランクの武器を無造作に丘へと突き刺し、大剣を背にしながら座り込む。

――俺はここにいる、その事実を周囲へと知らしめるために。

この場所に移動するまでに、要塞では多くのプレイヤーと戦ってきた。

目についた相手は倒し、ランクの高い武器があれば奪い取って持ってきたのである。

ちょっとした余興のために回復アイテムを削ったのはやり過ぎかもしれないが、他のプレイヤーが襲ってくればそこから奪い取れば済む話だ。

そう思いながら待ち構えていたのだが――

「……真っ先に来るのがお前たちとはな」

「ええ。貴方に挑めるこの機会を、逃したくはないと考えていましたから」

丘を登り姿を現したのは他でもない、真っすぐとこちらを見上げるアルトリウスであった。

傍に控えているのはパルジファルとマリンであり、彼が本気でこのイベントに挑んでいることが窺える。

本気で、俺に勝つことを目指して組んだパーティ。俺の実力を高く評価しているアルトリウスが、本気で俺に挑もうとしているのだ。

ならば、その期待に応えることこそが俺の役目であるだろう。

俺は笑みを浮かべながら立ち上がり、刃を抜き放つ。

「まだ他の連中は多い。俺とお前が戦っているとなれば、横槍が入るかもしれないぞ?」

「構いません。その上であなたを倒せてこそ、と思っていますから」

「くはは、威勢のいいことだ」

であれば、異論はない。アルトリウスは間違いなく強い。

そして、その仲間であるパルジファルやマリンについてもだ。

そこらの有象無象とは異なる、確かな強者――俺が認めた内の一人。

戦闘能力においては俺に劣るだろうが、集団戦での技術については馬鹿にできるものではない。

果たして、どこまでやれるのか。その実力、楽しみにさせて貰うとしよう。

「ならば、行くとしようか。お前相手ならば手加減は必要ない、本気で行くぞ」

「胸を、お借りします」

俺の言葉に頷いたアルトリウスは、パルジファルと並びながらこちらへと向けて駆けだす。

後ろではマリンが杖を構えており、何らかの魔法を準備していることは間違いない。

彼女が持っているのは、幻を発生させる類の魔法であったはずだ。

あまり視覚を信用しすぎると、足を掬われることになるだろう。

「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」

攻撃力を高め、向かってくる二人を待ち構える。

まず俺へと打ち掛かってきたのはアルトリウスだ。

複数のスキルを纏って輝く長剣は、俺へと向けて袈裟懸けに振り下ろされる。

斬法――柔の型、流水。

無論のこと、その一撃を正面から受け止めることはあり得ない。

刃を受け流してアルトリウスの体勢を崩しつつ、その体へと一閃を叩き付ける――が、そこにパルジファルのインターセプトが入った。

「《カバームーブ》!」

若干離れた位置にいたパルジファルが、瞬時に移動して俺の一撃を受け止める。

反撃に突き出された槍を回避しながら、構えられた楯へと向けて蹴りを放つ。

その勢いで相手の体勢を崩せればよかったが、流石はパルジファルと言うべきか、その程度の衝撃では小揺るぎもしなかった。

「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」

思わず笑みを浮かべつつもテクニックを発動、全身に蒼い光を纏う。

魔法によるダメージを防ぐテクニックであるが、果たしてマリンの幻術にも効果があるのか。

正直、これに関してはあまり期待できるものではないし、直接攻撃してくる魔法にのみ効果があると想定しておくべきだろう。

蹴りを放った勢いのまま距離を取れば、パルジファルの後方にいたアルトリウスから光の魔法が放たれる。

一直線に向かってくる光は、【断魔鎧】でも完全に遮断しきれるかどうかは分からないほどのものだ。

「《蒐魂剣》、【因果応報】」

飛来したアルトリウスの魔法を吸収し、刀身に纏う。

牽制程度の威力だろうが、それでも多少は威力が増すことに変わりはない。

その増加分は、次の攻撃に活かさせて貰うとしよう。

「さて、お返しだ――《練命剣》、【命輝一陣】」

アルトリウスの魔法に加え、刃に生命力を纏わせる。

飛翔する生命力の刃だが、構えているパルジファル相手には効果が薄いだろう。

故に俺は、それを左前方、誰もいない方向へと撃ち放った。

眩い黄金の輝きが空を裂き――何もなかったはずの空間から、白いローブの女が身を投げ出すように姿を現した。

「うひゃぁあ!? 何で分かったんだい!?」

「はっ、姿を隠すなら足音まで作っておけ。そこの虚像はあまりにも静かすぎる」

誰もいなかったはずの場所から姿を現したのは、他でもないマリンだ。

彼女は幻影の魔法を使って己の虚像を作り出し、その間に透明化して別の場所から俺を狙っていたようだ。

尤も、ただの虚像であるため気配も無ければ音も無い。そんな違和感の塊が突っ立っていれば、本体が別の場所にいることなど容易く想像がついてしまう。

とはいえ、咄嗟に本体の位置を疑わなければならないのは中々に面倒臭い。厄介な相手であることは否定できなかった。

「ははは……分かってはいたけど、一筋縄にはいかないよ、アルトリウス」

「分かってるよ、マリン。けど、本気で彼に挑めるような機会なんて、そうそうあるものじゃない。これを逃すつもりはないよ」

「全く……順位を上げるだけなら、彼を最後に残した方がいいだろうに」

アルトリウスにしては、あまり合理的な判断とは言えないだろう。

仮に俺を倒すことができたとしても、その時には大きな消耗を予想できる。

その状況では、アルトリウスといえども他のプレイヤーに対処することは厳しいはずだ。

マリンの言う通り、純粋にイベントの勝者となりたいのであれば、俺を後回しにすることが正解のはずだ。

それでもなお挑んできたその選択を、俺は素直に受け止めることとしよう。

しかし――

「……どうやら、他のプレイヤーも集まってきたようだな」

「っ……!」

要塞で戦っていた連中や、他から移動してきた者。

彼らは最終エリアであるここを目指して移動し、俺たちの方へと近づいてきている。

このイベントでも上位入賞が有力なメンバー、俺たちの戦いは既に彼らも捉えているだろう。

今の状況下では、横槍が入ることは間違いない。

「さて、どうする? 先にあいつらを片付けるか?」

「いいえ……このまま戦い続けます」

「成程、いいだろう」

どうやら、アルトリウスはあえて横槍を入れさせることで混戦状況を作り出し、俺の隙を狙う算段であるらしい。

正面から挑んでは厳しいとの判断だろう、それは決して間違いではない。

果たしてアルトリウスがどのような作戦に出るのか――それを、楽しみにさせて貰うとしよう。