軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174:ベルゲン南門

時折遭遇する悪魔を不意討ちで片づけつつ進むこと十数分。

俺とアリスは、ようやくベルゲンの南端、巨大な門の場所まで到達した。

まるで、天井の高いトンネルのような様相。街側、そして外側の両方の門が閉ざされたこの空間は、殆ど光が差し込んでおらず、薄暗い闇を湛えている。

そして――面倒なことに、この広い空間には何体かの悪魔が存在していた。

「四体か……奥側に二体、こちら側に二体だ」

「面倒ね。どうしたものかしら」

この場にいるのはレッサーデーモンであるため、倒すこと自体はそれほど問題ではないだろう。

厄介なのは、数が多い点。そして、それらが離れた位置に存在している点だ。

どちらかのグループを、反応を許さずに殺し切ることはできるだろう。

だが、もう片方はそうはいかない。俺たちが片方を片付けたところで、もう片方の連中が気付き、仲間を呼ばれる可能性が非常に高いのだ。

既に目的地が目の前であるとはいえ、敵に見つかることだけは避けなければならない。

さて、いかにしてこいつらを片付けたものか――

「クオン、二手に分かれましょう」

「それは……いいのか、アリス?」

「ええ、時間をかけるだけリスクは高くなる。急ぐのであれば、それが最善よ」

アリスの言葉に、俺は視線を細める。

それは確かに、俺も考えていたことであったからだ。

敵が二手に分かれているのであれば、こちらも二手に分かれて対応する。

至極単純な結論ではあるのだが、それを実行することは決して容易い話ではない。

反応を許さず、二体の悪魔を片付けなければならないのだから。

俺であれば、それも不可能ではないだろう。だが、アリスは果たしてそこまですることが可能なのだろうか。

その問いを込めて見下ろせば、アリスはフードの下で淡く笑みを浮かべてみせた。

「この位なら、いつもやっていたことよ。任せて頂戴」

「……了解した。頼むぞ、アリス」

「ええ、そっちもお願いね」

確かに、彼女はこれまで一人でPKを狩り続けてきたのだ。

その実力は確かなものであるし、任せてみてもいいだろう。

そう決断した俺は、餓狼丸を鞘に納め、重心を落として構えた。

「俺が向こうをやる。アリス、こちら側は任せたぞ」

「了解。任せたわよ」

視線を合わせて頷き合い、意識を集中させる。

そして、タイミングを合わせ――俺たちは、同時に地を蹴った。

歩法――至寂。

足音を消し、高速で駆ける。

この広い空間では身を隠し続けることもできないが、ほんの僅かでも反応が遅れてくれればそれで十分だ。

その僅かな隙に悪魔二体へと肉薄した俺は、確実に殺すために刃へと生命力を込める。

「《練命剣》――【命輝閃】」

斬法――剛の型、迅雷。

暗闇に黄金の軌跡を描いた一閃が、僅かな残光を残して振り抜かれる。

それと共に眼前にあった二つの首は刎ね飛び、噴き出した血が水音を立てながら崩れ落ちた。

そしてそれとほぼ同時、異常に気付いたもう二体の悪魔が反応し――片方は、その直後に崩れ落ちた。

暗闇の中で僅かに煌めいたのは、小型の投擲用ナイフ。

それが突き刺さった悪魔は強力な麻痺を受けてその場に崩れ、隣で発生した異常に最後の悪魔は驚愕の声を上げる。

――そして、そこに反応してしまった時点で終わりだ。

「背中、がら空きね。刺し易そうで何よりだわ」

背後に回り込んだアリスが、悪魔の心臓へと刃を突き立てる。

《ペネトレイト》を発動した刺突の一撃は、正確にその急所を抉り、命脈を断ち斬っていた。

確実に殺し切ったことを確認したアリスは、麻痺毒によって動けなくなった悪魔へと改めて刃を突き立て、とどめを刺す。

四体の悪魔はそのまま塵となって消え去り、暗闇の空間に静寂が戻った。

「ふぅ……何とかなったわね」

「悪魔があと一グループ多かったらできなかった芸当だったな。まあ、上手く行ったのだからそれでいい」

中々に綱渡りではあったが、上手く事を運ぶことができた。

後は、目的である跳ね橋の鎖破壊を達成するだけだ。

薄暗くはあるが、既にこの状況にも目が慣れてきている。俺は周囲を見渡し、両側の壁際に備え付けられた梯子を発見した。

「確か、巻き上げ機は梯子の上の部屋にあるという話だったな?」

「そうね。どうする、二手に分かれる?」

「流石にリスクが高い。発見されかけている状況ならばともかく、今はそこまで急ぐ必要も無いだろう」

無論、ゆっくりしていていいわけでもないのだが、強引に事を進めるほどの状況ではない。

まずは、確実に鎖の破壊をこなすとしよう。

俺は首肯を返してきたアリスを伴って梯子を上り、上にあった小部屋の内部を確認する。

そこに悪魔がいないことはあらかじめ気配を探っていたため分かっていたが、部屋の内部構造まで把握できていた訳ではない。

直接その内部を確認すると、そこには簡素な机と椅子と箪笥、そして壁際に備え付けられた大型の機械が目に入った。

どうやら、これが鎖の巻き上げ機のようだ。

「思っていたよりも機械的な見た目ね。これ、スイッチで上げたり下げたりするのかしら」

「仕組みは良く分からんが……鎖が見えてるんだ、目的を果たすのに困りはしない」

回転する機構で鎖を巻き上げる構造となっているらしいその機械からは、太く頑丈そうな鎖が壁の向こうへと伸びている。

この鎖を破壊できれば任務は完了だ。しかし、巨大な跳ね橋を引き上げるだけあって、実に頑丈そうな鎖である。

いかな餓狼丸と言えども、これを素で破壊するのは流石に難しいだろう。

「これね……クオン、例の腐食毒は?」

「これだ。これの元になった魔物には苦労させられたが、果たしてあれがどこまで強化されているんだかな」

取り出したのは、小瓶に入ったオレンジ色の液体。

アルトリウスが渡してきた、女王蟻の体液から生成した腐食毒だ。

全部で四本あるが、両側の鎖を破壊しなくてはならないため、ここで使える数は二本だけ。

果たして、その二本で破壊することができるのか――まずは、試してみるとしよう。

密封していた蓋を開け、立ち上ってきた刺激臭に顔を背ける。

揮発性はそこまで高かった記憶はないのだが、この凝縮された酢のような臭いはあまり嗅いでいたいものではない。

俺は瓶の腹の部分を持ちつつ、ゆっくりとそれを傾け、少しずつ腐食毒を鎖へと垂らした。

瞬間――

「ぬ……」

「凄いわね。それに、酷い臭いだわ」

腐食毒が鎖に触れた途端、白い煙が立ち上り始める。

薄暗い中ではわかり辛いが、腐食毒が触れたところから鎖が削れているようだ。

成程、大した効果だ。あの女王蟻と戦った時にこれと同じぐらいの効果があったら、あっという間に刀を潰されていただろう。

耳障りな腐食音と共に、鎖はゆっくりと溶け落ちてゆく。そして一本を使い切ったところで確認し、その状態を見て俺は唸り声を上げた。

「ふむ……一本半、といった所か」

「足りそうね。二本あれば十分じゃない」

「いや、一応取っておくとしよう。少し離れていろ」

アリスに告げて、俺は餓狼丸を抜き放つ。

これが餓狼丸以外の刀であれば、腐食毒を掛けた所に振るうなどと言う真似はしなかっただろう。

だが、この刀は耐久度を持たない、破損しない刃だ。餓狼丸ならば、この弱った鎖を斬り裂いたとしても問題はない。

一応念の為、持ち運び用の飲み水で鎖を洗い流した上で、大きく刃を振り上げる。

狙うは一点、腐食毒によって削り取られている鎖だ。

「【スチールエッジ】……《練命剣》――【命輝閃】」

攻撃力を高めた状態で放つ、全力の一撃。

相手が頑丈極まりないこの鎖であったとしても、断ち斬ることはできるはずだ。

斬法――剛の型、白輝。

黄金の輝きを纏う一閃を、弱った鎖へと向けて振り下ろす。

輝きにて部屋の中を照らしたその一閃は、正確に弱った鎖へと食い込み、それを一撃で断ち斬っていた。

これを相手にするだけであれば、鎧断を使う必要もない。

と言うより、鎧断はあくまでも、様々な材質でできた具足をその材質に合わせて力加減を調整するという術理だ。

ただ力を込めて斬るだけならば白輝で問題はない。

跳ね橋を支え続けていた頑強な鎖は、弾けるように断ち斬られた。

それと共に、壁の向こう側から軋む音が響く。跳ね橋が支えを一つ失ったためだろうが――

「拙いな、考えが足りていなかったか」

「今の音のこと?」

「ああ、下手をしたら敵が近づいてきかねない」

今はまだ派手な音は響いていないが、異常を感じた悪魔共が近づいてきたとしてもおかしくはない。

このタイミングで悪魔共に寄ってこられるのは少々都合が悪いのだ。

となれば、急いで反対側の鎖も破壊しなくては。

舌打ちしつつ、俺は鉤縄を取り出して梯子が続いていた踊場へと駆け出して身を乗り出す。

「ちょっと、クオン!?」

「急いで反対側も破壊する。アリス、退路の確保を頼む」

「……了解、早く終わらせてよ」

軽く嘆息したアリスは、飛び降りるように梯子から階下へと降りていく。

それを見届けることなく反対側へと鉤縄を伸ばした俺は、手すりを強く蹴ってそちら側へと跳躍した。