軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109:砦攻め

一対多の戦いにおいて注意すべきことは何か。

効率よく、少ない手数で殺すというのは以前に実践した通りであるが、もう一つ意識すべきことがあるのだ。

つまり――一対一で戦う、ということである。

剣という武器は、当然ながら一人を相手にして使用するものである。

剛の型の業には、時折複数を同時に斬るようなものも存在しているのだが、それは非常に稀なパターンだ。

根本的に、剣は複数を同時に相手にするには向いていない武器なのである。

ならば、どのように対処すればいいのか――

「ここは都合がいいな……一列に並んで順番に死んでいけ」

城壁の上は、それほど広いスペースは確保されていない。

人が三人ほど並べば余裕が無くなるほどだ。

つまるところ、人間より大きい体を持つレッサーデーモンたちでは、横並びになって戦うことは難しいのだ。

結果として、連中は城壁の上の通路に詰まったまま、順番に一匹ずつ斬り捨てられていくことになる。

何しろ、後ろが詰まっているのだ。迫ってくる俺から逃れられるのは最後尾だけである。

しかも、今の俺は強い殺気は放っていない。一番後ろにいる悪魔共は、まだ俺の存在を関知できていないだろう。

俺から逃れるためには、城壁の上から飛び降りる以外に道はない。それはそれで、梯子を掛ける余裕ができるため好都合なのだが。

「――《斬魔の剣》」

飛来してきた水の魔法を斬り捨て、次の一歩で相手に肉薄する。

横薙ぎに放った一閃は、後ろに逃れようとして背後の悪魔に衝突したレッサーデーモンの首を半ばまで斬り裂いていた。

派手に噴き出る血が周囲を緑に染め上げ――それを目くらましに、身を沈めた俺は更に奥にいた悪魔の腹へと刃を突き入れていた。

「『生奪』」

二色の光が纏わりついた刃で傷を抉り、刃を上向きに変える。

そして、斬り上げるように刃を引き抜けば、臓腑を掻き回した刃が、引きずり出すかのように大量の血を撒き散らす。

崩れ落ちていく二体の悪魔を左右に殴り飛ばしつつ、更に前へ。

だが、それを見計らっていたかのように、頭上から大剣が振り下ろされていた。

斬法――柔の型、流水。

受け流した一閃が、床に衝突し轟音を上げる。

そのまま返す刃にて一閃を放つが、若干浅い。胴に深い傷を負わせたものの、致命傷には至らないだろう。

故に俺は、そのまま悪魔の懐へと肉薄し――その傷へと、右の手刀を突き入れていた。

『ギ、ァァアア……ッ!?』

「ほう。内臓は人間と同じか――分かり易いな、殺し易くて助かるぞ」

小さく笑い、臓腑を掴んで引きずり出し――そのまま思い切り引っ張って、体ごと砦の内側に投げ捨てる。

血と内臓を撒き散らして絶命した悪魔を視線で追って、俺はふと、奇妙な物体を目にしていた。

レッサーデーモンが落ちた先からは少々離れるが、砦の中庭、訓練場となっていた場所の中央付近。

そこには天へと向けて屹立する、巨大な黒い結晶体の姿があったのだ。

「なんだありゃ……?」

打法――流転。

こちらに斬りかかってきた悪魔の一撃を篭手で反らし、ついでに足を掛けて城壁の上から叩き落としつつ、あの奇妙な物体の様子に眉根を寄せる。

以前この砦に来た時には、あんなものは存在していなかった。

ということは、あれは悪魔共がこの砦を制圧した後に設置されたものなのだろう。

正体はよく分からんが、俺たちにとってはあまり都合のいい存在ではなさそうだ。

(ぶっ壊すか? だが、今はこの場を離れられんしな……)

打法――影仰。

殴りかかってきた悪魔の拳を体の内側に入り込むようにしながら回避し、下から掬い上げるように放った拳で相手の顎をかち上げる。

衝撃を受けてたたらを踏み、顎を上げた体勢で動きを止めたレッサーデーモンに対し、俺はその首筋へと刃を押し当て――

斬法――柔の型、零絶。

上半身の回転運動だけで、その首を斬り飛ばす。

城壁の上を転がっていく悪魔の首は無視し、俺は嘆息交じりに改めて悪魔の方へと向き直った。

あの結晶体も気になるが、今はここの確保を優先しなくてはならない。

「《斬魔の剣》」

飛来してきた風の砲弾を正面から真っ二つにしつつ、相手の喉へと刃を突き入れる。

そのまま刃を横に振るって血管を切断しつつ、俺はちらりと左側を――城壁の外へと視線を向けていた。

梯子部隊の連中は、既に城壁に取り付き始めている。

うち、半数は既に登れるだけの余裕を確保できているだろう。

実際、最も門に近い辺りの梯子については、既に城壁へと掛けられ――そこを、手を使うことなく駆け上ってきた緋真が、勢いよく城壁の上へと身を躍らせていた。

「お待たせしました、先生!」

「おう、よく来た――《斬魔の剣》」

刃を振るい、悪魔の首を落としながらスキルを発動、俺へと砦の中庭から飛んできた魔法を斬り裂き、ついでに矢を弾き返す。

悠長なことであるが、ようやく砦の内側も動き始めたらしい。

中央の建物から、続々と悪魔が姿を現しているようだ。

まだ数はそれほどではないが――このまま内側から援護されるのも面倒だ。

「緋真、交代だ。俺は内部の敵の対処をする」

「ッ――了解です!」

打法――破山。

相手の攻撃を弾いた上で肉薄し、肩甲骨を押し当てる。

次いで徹した衝撃が、目の前の悪魔を、その後ろにいた個体ごと後方へと弾き飛ばしていた。

恐らく絶命しているだろうが、確かめている暇はない。

俺はそのまま城壁の内側へと身を躍らせ――眼下にいた悪魔を巻き込みながら、地面を回転しつつ勢いを殺していた。

俺の全体重を掛けたため、悪魔の首は180度以上回転している。既に絶命したそれは放置し――こちらへと放たれた矢を振るった刃にて弾く。

豚面の塵共が、生意気にも弓矢など使うか――

「邪魔はさせん――『生奪』」

上と違い、こちらは一対一で戦うことは難しい。

だがその代わりに、自由に動き回れるだけのスペースがあった。

小さく口元を歪め、地を蹴る。顔面を射抜こうと飛来した矢を首の動きだけで躱し、そのまま横薙ぎの一閃で首を断つ。

そして頭部を失い膝から崩れ落ちようとする体の背後へと回り込めば、その死体へと数本の矢が突き刺さっていた。

数が多くて面倒ではあるが、弓矢による攻撃は動いていればそう当たるものではない。

見てから対処しても十分間に合うし、当たるものだけ処理すれば十分だからな。

「し……ッ!」

歩法――烈震。

死体の陰から飛び出し、《魔技共演》を使いながら接近した悪魔の首を飛ばす。

やはり、HPをあまり削られなくなるのは実に便利だ。

これのおかげで継戦能力も上がったし、《収奪の剣》もかなり使い勝手が増したからな。

体を左右に揺らしながら駆け、悪魔を斬りながら直進。

庭に植えられていた樹を盾にしながらさらに進み、別の標的へ。

こちらを狙う悪魔よりも、城壁の上を狙っている連中を優先的に排除しつつ、俺は例の黒い結晶を観察していた。

(ここまで接近しても動きはないか……だが、悪魔共はあれを護るような動きを見せているな)

砦の内部から姿を現した悪魔たちの内、一部はあの黒い結晶を護衛するかのように立ちはだかっている。

やはり、あの黒い結晶は悪魔共が設置したものに間違いはなさそうだ。

その正体が何なのかは掴めないが、あれを狙われるのは連中にとっては都合の悪いことなのだろう。

隙あらばぶっ壊してやりたい所であるが、今はまだその余裕はない。

まずは、城壁の上を確保しなければならないだろう。

(『キャメロット』の連中は……そろそろ上がってきているか。なら、確保は時間の問題だ)

城壁の上では乱戦が発生している。

それはつまり、既に多くのプレイヤーが梯子を上って上まで到達しているということだ。

城壁の全てを確保することはまだ難しいだろうが、少なくとも門の周囲は確保できている状況だ。

であれば、そろそろ門を破る作業が開始されるだろう――そう考えた、瞬間だった。

――とんでもない轟音と共に、巨大な門が吹き飛ばされたのは。

「な……っ!?」

足を止めることは無かったが、それでも突然の轟音――どう聞いても爆弾が炸裂したようにしか聞こえなかった音には驚かされた。

門の方へと視線を向けてみれば、そこにはひしゃげて吹き飛んだ門扉、それを成したであろう巨大な杭――それが内側からバナナの皮のように爆ぜている姿があった。

「……いやお前、一体何をしたんだよそれ」

聞こえるわけもないが、思わずぼやくようにそう呟いていた。

いや、状況は理解できる。ここまで届いているこの臭いは、間違いなく火薬によるものだ。

知識と技術さえあれば黒色火薬の作り方などそれほど難しいものではないが――まさか破城槌に火薬を仕込んでいたのか。

しかも、門が一気に吹き飛ぶような量を。とてもではないが、それを作った奴は正気だとは思えない。

とは言え、その破壊力によって一撃で門を破れたことは事実。

爆発の衝撃で転倒していたアルトリウスたちも、何とか気を取り直して立ち上がり、後方へと向けて声を上げた。

「今です、攻撃を!」

『感謝する! 往くぞ、突撃ッ!』

今の惨状の直後で動揺せずに動けるのは、素直に感心すべきだろう。

爆発の衝撃でひっくり返っていた割に、アルトリウスはまるで気にした様子も無く作戦を続行していた。

そんな彼の言葉を聞き、グラードたちも動き出す。

列を成しながら破壊された門を超えてきた彼らは、素早く三人一組で目についた悪魔へと襲い掛かっていた。

「……おおよその所は、仕事は完了か」

城壁の上を狙っていた悪魔を片付け終え、俺は刃を拭って吐息を零す。

思っていた以上にあっさりと進んだのは、ここまで爵位持ちの悪魔が出てこなかったためだろう。

これだけの拠点なのだ、男爵級悪魔の一体や二体はいるかと思ったのだが、今の所その姿は見えない。

砦の内部で籠っているのだろうか?

何にせよ、まだ警戒を解けるような状況ではない。まだ爵位持ちがいる可能性は十分にある。

とは言え――軍の機密なども含め、砦の内部は騎士団の管轄だ。

あまり積極的に干渉することも難しいわけだし、しばらくは様子見だろう。

軽く肩を竦め、俺はアルトリウスたちの方へと足を進めていた。

「よう、また無茶なことをしたもんだな」

「それはエレノアさんに言ってほしいんですが……まさかあんなものまで開発していたとは」

「火薬を作っていたことは知ってたんじゃないのか? この間のイベントでも使っていたようだし」

「それを破城槌に仕込むのは予想外ですよ。それも、あんな量を」

「急ぎの作成だから、試験的なものだったのよ。あそこまで破壊力があるとは思っていなかったわ」

一緒に爆発に巻き込まれかけたらしいエレノアが、嘆息しながらそう口にする。

そりゃまあ、あんな無茶な破壊力があると分かっていれば、使うにしてももうちょっと気を使っていたか。

一体、火薬を作ったのはどんなプレイヤーなのやら。

思わず苦笑を零しつつも、俺は近づいてきたエレノアに声を掛けていた。

「なあエレノア、お前さん、あれが何なのか分かるか?」

「あれって……あの黒い結晶のこと?」

「ああ。悪魔が護っているようだし、何か連中にとって重要な物のようだが」

「初めて見たわね。ちょっと《鑑定》してみるわ」

護衛と思われる悪魔たちは、既に騎士たちと交戦状態だ。

数の上でも騎士たちの方が多いし、程なくしてあそこまで到達できるようになるだろう。

だが、あれの正体を知っておいても損はあるまい。

俺の言葉に頷いたエレノアは、視線を細めて黒い結晶を凝視する。

《鑑定》のスキルを使うには、確か《識別》よりも長い時間対象をフォーカスしなければならないのだったか。

だが、その分だけ効果は高い筈だ。俺が《識別》を使ってみても全く情報を読み取れなかったが、彼女なら何かしら分かるだろう。

「――『子爵の魔器』」

「……子爵? それが、あの結晶の名前なのか?」

「ええ、名前以外はほとんど詳細不明だわ。だけど――名前だけでも分かる、どう考えても危険な代物だわ!」

名前からして、子爵級悪魔にでも関連する代物なのか。

もしも、子爵級をこの場に呼び出すようなアイテムであるならば――

「拙い……グラード殿! あの黒い結晶は危険だ!」

「ああ、分かっている! 総員、回収は考えなくていい、あの黒い結晶を破壊するんだ!」

俺たちの言葉に同意して、グラードは騎士たちに結晶の破壊を命じる。

指示を受けた騎士は、護衛の撃破もそこそこに黒い結晶へと向かい、その長剣を突き刺そうと突撃して――

『――ああ、全く。使えぬ眷属共だ』

――黒い結晶から生えた手に、攻撃を受け止められていた。