軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 第二章最終話

その日の晩。私はアズール様と一緒にレジビア帝国で過ごすこととなった。

レクス様から正式に客人として私達は招待されたのだ。

アズール様と私の部屋は隣同士で用意され、王城本館の一室が当てがわれた。

明日には、私達を歓迎した舞踏会を開いてくれるとのことで、ドレスの調整などの準備も行ったのであった。

王城のテラスから、ハレムの一角が見えた。

あそこにいたのか。

本来なら、私はあのような鳥かごのような場所に閉じ込めておいた方がいい存在なのだろうと、自分でもそう思う。

感情が天候に反映されるなど、人知の領域を超えている。

「アズール様は……優しすぎるのね……」

人目から避け、隠し、王国の秘密として私という魔物を退ける存在を守っていた方が、国としては正解だと思う。

男装させて街を一人で歩かせるなんて、言語道断だ。

それをあえて、させてくれたのだ。

私は空を見上げた。

子どもが誘拐される事件が起こった時、私は自分の力が怖いと、恐ろしいと思った。

自分が化け物になったように感じた。

けれど、アズール様が傍にいてくれたから私は大丈夫だとそう思えた。

そして今回の一件で、私はこの力は恐れることはないのだと、そう思った。

この力は、私を守ろうとしてくれている。

水の中で美しく輝く花々は私の心を守ってくれた。

あれもまた、自分の能力の一つなのだと思う。

「この力は……一体何なのかしら」

甘い花の香りが風に乗って流れていく。

私は天に向かって手を伸ばす。

「ねぇ……私は一体、何なのかしら。答えてくれる?」

月がそれに応えるようにキラキラと煌めき、淡く輝く光が降りそそぐ。

そして私の周りを囲むように舞うのだ。

初めての不思議な光景に私は目を丸くした。

「これは……」

私は自分の髪が光に反応しているように淡く輝いていることに気が付いた。

「え? ……何?」

ただ、不思議と怖くはなかった。

それどころか、酷く懐かしい。

花の香りも、光の優しさも、風に交じる土の匂いも。

光が私を抱きしめ、私はそれに応えるように祈りを捧げた。

その時だった。

部屋がノックする音が聞こえた。扉の所へ向かうとアズール様の声が聞こえた。

「シャルロッテ。まだ、起きているだろうか」

「はい。起きています」

扉を開けてアズール様を迎え入れると、アズール様が少し驚いた表情で部屋に入ると、すぐに扉を閉めた。

「シャルロッテ……髪が輝いている」

私は苦笑を浮かべてうなずく。

「原因は分からないのですが、不思議ですよね。ただ、不思議とすごく懐かしい感じがするんです」

すると、アズール様が不安そうに私のことを抱きしめた。

どうしたのだろうか。

「いつか……君が天に攫われそうで怖い」

「え?」

天に攫われる?

「いや、天ばかりではない。君は希有な力の持ち主だ。今回のレクスの一件も含め、今後君の力を知られれば、他国は君を欲しがるだろう」

「アズール様……」

「君を誰にも見つからない場所に隠してしまいたくなる」

アズール様は微かに震えていた。

私は、アズール様をぎゅっと抱きしめながらこんなにも強く逞しい人でも、怖く思うことがあるのだなと、思った。

「隠してもいいんですよ?」

シュルトンの城の中で、アズール様に守られながら生きる。

それはそれで幸せなことだ。

するとアズール様は首を横に振った。

「シャルロッテ。私は君を、心から愛している……愛する君にそんなこと出来るわけがない」

真っすぐな瞳が美しいなとそう思った。

優しすぎる、私の愛するアズール様。

魔物と戦う時には容赦なくあぁも雄々しいというのに、私にはとてもとても優しい。

光がキラキラと天へと帰っていく。

人として自由に生きなさいと、そういわれているようだった。

髪の色が戻ると、アズール様はほっとしたように息をつく。

「私はどこにも行きません。ずっとアズール様の傍にいます」

「あぁ。私も君を奪われないように、研鑽に務めよう」

「それ以上強くなるんですか?」

「あぁ。あと、シュルトン自身の国力も上げていかなければ。今回のように、国力の差によって君を正面から取り戻せないことにならないように」

「はい。私も微力ながら頑張ります」

シュルトンでのトルトの生産量も増えた。だが、トルトだけではなく、シュルトンならではの資源も必要だ。

「考えることはたくさんありますね」

「そうだな……はぁ。ダリルと相談しなければな」

その時、扉をノックする音が響いた。

「おい。アズール。ここにいるんだろう。シャルロッテ嬢~。アズールここにいないかー」

レクス様の声に、私とアズール様は顔を見合わせて笑い、扉をあけた。

「おい。レクス。夜更けだぞ」

「いると思った。入るぞ」

「まぁ、レクス様。こんな時間にどうしたのです?」

レクス様は侍従に部屋に料理と酒を並べさせると、全員を下げ、自分はソファへと座った。

「明日の舞踏会が終わったらすぐ帰ってしまうだろう? はっきり言おう。寂しいんだ」

「「え?」」

私とアズール様は目を丸くする。

「寂しいんだ。俺は」

敢えて二度言ったであろうその言葉に、私とアズール様は吹き出して笑った。

レクス様は唇を尖らせる。

「お前らはいいよな。仲良しこよしなんだから。だが俺はこの国の王だぞ。誰も仲良しこよしなんてしねぇんだよ」

その言葉に、アズール様がレクス様の横に座ると背中をバシンと叩いた。

「離れていても、友なのは変わらない」

私もうなずく。

「えぇ。これからはシャルロッテとして、友としてよろしくお願いしますね。あぁ、もう誘拐されるのもハレムに入れられるのも嫌ですが」

はっきりと告げると、あっけにとられたようにレクス様は目を丸くしてばつが悪そうにうなずく。

「わかっているよ。本当に……申し訳なかった」

「ふふふ」

「シャルロッテが悪い顔をしている」

アズール様にそういわれ、私は笑う。

「レクス様のせいで、少し性格が悪くなったかもしれませんね」

アズール様は笑い、レクス様は戸惑っている。

その夜は、三人で飲みかわしながら、楽しく更けていったのであった。

そしてシャルロッテが眠りについたあと、アズールは彼女をベッドに運び寝かせる。

酒を二人でちびちびと飲みながら、レクスが言った。

「……本当にすまなかった。彼女を追い詰めたのは、俺だ。許されただなんて思っていない」

心の内側を吐露するレクスに、アズールは答えた。

「あぁ。俺も許していない」

はっきりと告げられた言葉。

レクスはうなずく。

アズールは両手で顔を覆い、それから深く後悔するように呟いた。

「彼女は泉に身を投げたんだ……俺は、沈む彼女を見つけた瞬間、自分の無力さを呪ったよ」

その言葉に、レクスが顔を青ざめさせる。

「なんだと……身を? そんな……」

自分はそこまで彼女を追い詰めていたのか。

レクスは酒を飲む手を止めて、うつむく。

重い空気が流れる中、アズールは言った。

「けれど、彼女はお前を許した。普通なら許せるようなことじゃない……だから、私は不思議でならないんだ……」

アズールは手に持っていた酒を一気に飲み干すと、空になったグラスを見つめながら呟いた。

「……彼女の能力については?」

「天候を操る。ってのは把握している」

「そうか……だが、それだけじゃない気がするんだ」

レクスはその言葉に、少し考えこんでから侍従が運び入れていた一冊の本をアズールへと差し出した。

「これは?」

「……レジビア帝国はシュルトンよりも歴史が長い。シュルトンの建国よりも前、その土地についての歴史がここには書かれている」

「その前?」

「……そもそも、天に祈りを捧げる乙女は、どこから現れたのか。シエルを迎えるにあたって俺も色々と調べた。そしてその一冊に行きついた」

レクスからアズールは本を受け取る。

「書かれている文章は少ない。だが、まるでおとぎ話のようだ。だが……真実なのではないか。そう、俺はシャルロッテ嬢を見て思った」

「おとぎ話……」

そこに書かれていたのは、精霊と森と魔物についての記述。

そして……おとぎ話のような、精霊と人との婚姻についての伝説。

「……精霊……」

「精霊は世界の理を超えた天地をも動かす存在」

「これは……」

「シュルトンの天に祈る、祭事の乙女とは、精霊の末裔なのではないか。そう考えれば、特殊な能力についての説明も……おとぎ話のようだがつくのだ。まぁ、これはレジビアに残る伝承の一つだから、これが真実とも限らないがな」

アズールは拳を握る。

「私は……シュルトンは……彼女を守れるだろうか」

「国力はなぁ。突然パンと上げられるもんじゃねぇ。だが攫われないようにする方法はある」

アズールが顔をあげると、レクスは二ッと笑った。

「魔物の出現が減ったとは言え、今後も確実にシュルトンの魔物を監視する役目は必要だ。故に、レジビア帝国はシュルトンの友好国としてあり後ろ盾と今後もなろう」

その言葉に、アズールは目を見開く。

「本当か」

「もちろん。これはレジビア帝国の王として同情心ではなく必要だと思ったからこその決定だ。あと、シュルトンは今後シャルロッテ嬢を幸運の女神のような立ち位置にして、天候に愛される国として売り出す方法もあると思う」

「だがシュルトンは魔物が出る。国をその方法で売り出したとして、観光に来るには危険が」

「別に観光にしなくてもいい。品物作りだ。シュルトンはそもそも魔物を使った防具や武器作りも盛んだろう。その加工技術を使って、美術品や小物へと転用することは可能だろう」

「なる、ほど」

「女神のいる国の小物ってのは、なかなかに神秘的だろ。これについては、ダリルと相談した方がいいだろうな。あと、明日の舞踏会では、レジビア帝国とシュルトンが仲がいいと印象操作をするといい」

「印象操作?」

「そうさ。レジビア帝国の王が後ろ盾となり、二人を祝福すれば、下手に手を出す者もいなくなるだろう」

「レクス……ありがとう」

「いや。……友の幸せを願える男に成れるように努力しているんだ」

アズールはレクスのグラスに酒をつぎ、自分のグラスにも注ぐ。そしてそれを掲げた。

「友に」

「あぁ。友に」

二人は乾杯し、夜遅くまで酒を楽しんだのであった。

翌日は舞踏会の準備で朝からバタバタと動くこととなった。

私はレジビア帝国の衣装に身を包んでいた。

化粧の仕方も国によって違うものだ。目元にしっかりと色を乗せる化粧を施された私は、異国の雰囲気が漂っていた。

そしてアズール様が舞踏会の前に迎えに来てくれたのだが、その衣装に、私は、ドキリとした。

胸元が見えており、アズール様の逞しさが感じられる衣装だった。

「……あ、アズール様」

「シャル……ロッテ」

私達はお互いの衣装を見て、緊張から視線を互いに逸らす。

「すすすすごくお似合いです」

「ああああありがとう。シャルロッテも、素敵だ」

お互いの衣装を逸らしてはちらちらと見つめる私達を、げんなりとした表情で見つめていたレクス様は呟く。

「そろそろいいかー。舞踏会いくぞー」

「は、はい!」

「すまない」

私達はあわあわとしていると、レクス様はため息をつく。

「アズールから、話しは聞いているか?」

「はい。レクス様にはシュルトンに対してアドバイスをいただきありがとうございます」

「いや、このくらいはいい。だが、あとは自分達の力量次第だ」

「はい。ありがとうございます」

笑顔を向けると、レクス様が、優しく微笑んだ。

「……ちゃんと笑ってくれてよかった」

心からほっとしたような様子のレクス様。

私は笑顔で言った。

「えぇ。私の笑顔は、太陽みたいなんです」

アズール様がその言葉に顔を赤らめる。

「ふふふ。レクス様の笑顔も素敵ですよ」

私がそう伝えると、レクス様が少し驚く。

「そう、か?」

「えぇ。私に最初出会った頃の、自分勝手な時の笑顔よりもかなりいいです」

「……はい」

ちょっとしょぼんとするレクス様に、私はやりすぎたかなと言った。

「冗談です。意地悪はこのくらいにしますね」

「……助かる」

レクス様と私のやり取りに、アズール様が呟いた。

「あまり仲がいいと、少し妬けるな」

「まぁ」

私はくすくすと笑い、レクス様はほっとしたように息をつく。

まだ完全に、友になれたわけではない私達だけれど、少しずつ、友達として仲良くなれていったらいいなと私は思ったのであった。

舞踏会の会場に着くと、レクス様が私達を伴い会場に入る手はずとなっている。

レクス様が入場する入り口は、他の扉とは別であり、本来であればここからは王族の方々しか入れないのではないかと私は考える。

シュルトンとの友好を示すために、今回はあえてここからの入場を許してくれたのだろうと思う。

「さぁ、行くぞ」

「あぁ」

「はい」

レジビア帝国の舞踏会とはどのようなものなのか。

私は緊張していたのだけれど、横に立つアズール様とレクス様の視線に微笑みを携える。

大丈夫。

私はシュルトンの為にと一歩を踏み出した。

たくさんの拍手が鳴り響く。そんな中、レクス様と共に会場内に進みでていくと、王族の方々の席まで進んでいく。

レクス様は堂々と人々の前に立つ。

「皆、集まっているな。今宵の舞踏会は、我が友アズールと、その婚約者シャルロッテ嬢を紹介する。レジビア帝国はシュルトンの友好国である。それは今後も変わらないことを、ここに宣言する。今日はシュルトン王国とレジビア帝国の友好を祝して楽しんでくれ」

たくさんの拍手が鳴り響く中、シュルトンとは違う貴族の方々の視線に私の背筋は伸びる。

私とアズール様はレクス様に促されて、舞踏会の中央へと進む。

この舞踏会の最初のダンスを任されている。

「緊張しますね」

小さな声で言うと、アズール様がうなずく。

「そうだな。ただ、こうして着飾る君とダンス出来るというのは、すごく嬉しい」

「まぁ。私もです」

曲が流れ始め、私はアズール様と共に踊っていく。

「まぁ、とてもおきれいね」

「シュルトン王国のシャルロッテ様といえば、シュルトンの女神と呼ばれているとか」

「あらそうなのですか」

「それにしても、女性嫌いの帝王陛下が今日はとても嬉しそうですわね」

「えぇ。シュルトン王国とは……今後もかかわりを大事にした方がよさそうですわね」

「帝王陛下も困ったものだ」

「突然色々と決められるからな。だが、とても頭の良い方だ」

「あぁ。だからこそ、我々もしっかりとし、帝王陛下のお力にならねば」

「そうだな。だが、アズール殿と仲がいいとはな」

「あぁ。シャルロッテ様とも。……惜しいなぁ。彼女がアズール殿の婚約者でなければな」

「たしかにな。だが、お二人を見る帝王陛下を見ると、今の関係でもいいのかもしれないな」

様々な会話が舞踏会中で繰り広げられていく。

ただ、想像していたよりも貴族の方々はレクス様のことを大事に思っているのが伝わって来た。

「この大国を、あの若さでまとめられるレクスは本当にすごい」

アズール様の言葉に私はうなずく。

「そうですね」

こちらを見て、嬉しそうに微笑むレクス様。

一曲踊り終えるとたくさんの拍手が鳴り響く。

すると、レクス様が私の前へと一歩進み出た。

「アズール、一曲、婚約者殿をお借りしてもよろしいか?」

その言葉にアズール様がピクリと眉を寄せるが、私を見て言った。

「シャルロッテの許可があれば」

レクス様が私を真っすぐに見据える。

「シャルロッテ・マロー嬢。どうか一曲踊る栄誉を私に下さいませんか」

ちらりとアズール様を見ると、自分で選んでいいと言うようにうなずかれ、私は覚悟を決めると、レクス様の手を取った。

「よろこんで」

レクス様は私の手を引き、会場の中央へと立つ。

会場内が一瞬どよめいたのちに、しんと静まり返る。

ゆっくりと音楽が流れ、私はレクス様にエスコートされて踊る。

「シャルロッテ嬢。前に保護した子ども達だが、全員、親元に返すことが出来たぞ」

その言葉に、私はパッと表情を明るくした。

「本当ですか! 良かった。レクス様、ご尽力下さりありがとうございます」

「あぁ……なぁ」

「はい」

曲に合わせてステップを優雅に踏みながら、レクス様は言った。

「前に希望の話をしたの覚えているか」

「子ども達の話をした時ですよね」

「あぁ。……あの時言ったことは、まだ有効か?」

その言葉に私はくすりと笑う。

「もちろん。今後もレクス様の希望を、私が祈りますね」

そう告げると、レクス様が優しく嬉しそうに微笑む。

「ありがとう」

踊りながら、素直なレクス様の返事に、私は言った。

「あらあら、悪いことをしたからか、傲慢さが少し軽減しましたか?」

遠慮されるとどうにもやりにくい。

すると、レクス様がにっと意地悪気に笑った。

「あぁ。いじめられたかったのか。そのような癖があるとは、アズールに言っておこう」

その言葉に、私はさりげなくレクス様の足を踏んだ。

「いってぇ。お前、今のわざとだろ」

「すぐに戻りすぎなんですよ。もう。でも、いつものレクス様でいいです」

「……そうか」

「あと、以前は女性が苦手ということでしたが、今はどうですか?」

私と踊っている様子からして、嫌悪感はない様子だ。

「そうだな……わからん。ただ、以前は女が気味の悪い化け物に思えたが、今は……同じ人に見えるような気がする」

「ふふふ。それは一歩前進ですね」

「あぁ……シャルロッテ嬢。人を大切に思うことは……少し分かった気がする」

真っすぐに見つめられ、私は微笑みを返す。

「友を大切にしたいと、思えましたか?」

「あぁ。その通りだ」

ダンスが終わり、私達は優雅に一礼をする。

「感謝する」

レクス様はすっきりとした表情をしていた。

落ち込んで下を向いているより、ずっといい。私はそう思った。

レクス様が私をアズール様のいるところまでエスコートすると、飲み物を手に取り、皆に向かって声を上げた。

「レジビア帝国とシュルトンの友好に乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

会場は沸き、たくさんの方々から拍手をもらった。

これからきっと、両国はさらに親交を深めていくだろう。

アズール様が私の肩を抱き、私はその横に寄り添った。

あぁ、幸せだな。

絶望が開けた先には希望がある。

私はそう、アズール様の横で思ったのであった。