軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

賑わう街中を、シャルロッテは一人でびくびくとしながら歩いていた。

「本当に……大丈夫かしら」

ただし、その姿はいつもの格好ではない。

シャツにベスト、そして上着。ズボンにブーツ。

そして頭にはカツラを被り、男の子に見えるような化粧が施されている。

そう、シャルロッテは今、男装姿で一人街を歩いていた。

「ううう。ドキドキして、緊張するわ。でも……楽しい」

一人で歩くのも、一人で店に入るのも、人生で初めてのことだ。

「一人で歩くって、こんな感じなのね」

まるで冒険をしているような気持ちで、シャルロッテは瞳を輝かせた。

どうしてこんなことになっているのか、その事情を知るには、少し時を前に戻さなければならない。

時は、数日前へと遡る。

渓谷の調査を行い始めてからアズール様の提案で、何人かの騎士にも協力をもらっている。

私だけでなく複数人で記録することによって、ずいぶんと細かくまで調べることが出来てきた。

「一年を通して経過観察を見ていきたいわね」

大型の魔物は侵入はないが、やはり小型の魔物の侵入は時々見られる。

これらの理由はなんなのかについても調べていきたい。

「ふぅ。中々に大仕事になりそうだわ」

今はまだ成果はでなくても、十年、二十年、百年先には何かの手がかりになりえる。

シュルトンの未来のために、今私に出来る最大限のことをしてきたい。

「シャルロッテ様、そろそろ休憩いたしましょう!」

ローリーに声をかけられ、私はうなずくと、机の上の書類を片付けて、ソファへと移動をする。

香りのよい紅茶に、私は微笑みを浮かべた。

「この紅茶、お父様から?」

「そうです。シャルロッテ様のお父上様からの贈り物です。よく気づかれましたね」

「ふふふ。えぇ。父は私の好みをよくわかっているわね」

「仲がよろしいのですね。あ、そうだ。シャルロッテ様、この後、アズール様からこちらを着て、この後、一緒に過ごしてほしいとの連絡を受けております」

「あら、何かしら」

ローリーは微笑むと、楽しそうな様子で箱を持ってきて机の上へと置いた。

私はローリーへと視線を向けると、開けて開けてと言うようにローリーが指し示して来たので、箱のふたを開けた。

「あら、これ……」

「じゃじゃーん! シャルロッテ様、男装変身セット! 以前のものよりも、グレードアップしました!」

「えぇぇ?」

私が驚いていると、ローリーが言った。

「ほらほら、お着換えして、アズール様にお披露目しましょう!」

「えぇぇ? どうして?」

「ふふふ。あとからのお楽しみです!」

私はあれよあれよという間に男性に見えるよう眉毛などを書き足し、カツラを被る。

シャツの上にベストと上着、ズボンにブーツと着替えると、確かに鏡に映る自分は、普通の少年のように見えた

「こちらのベストと上着やズボンなどは特殊な素材で作られています。剣で切られても多少であれば防御します」

「え?」

「魔物の亡骸から採取した素材を使用している特注品です。魔物の加工などの技術がシュルトンでは発展しているので!」

「え……」

顔がその言葉で一気に引き攣る。

ローリーは笑顔で言った。

「アズール様が、シャルロッテ様の為に特注で作られたのですよ」

「アズール様が? どうして……」

「それはご本人から聞いてください。さぁ、アズール様がお待ちですよ!」

一体どういうことなのだろうか。

私はそう思いながらローリーに促されるままに談話室へと向かった。

談話室の扉を開けると、中ではアズール様が待っていた。

私と同じように、普段の服装ではなく、城下町に降りる用の簡素な恰好である。

「では、私はこれで失礼します」

ローリーはそう言うと下がり、私は困惑しながらも部屋へと入った。

「アズール様、あの」

このような格好で、どう話しかければいいのだろうか。

そう思っていると、アズール様はうんうんとうなずき、それから口を開いた。

「以前の時よりも、うむ。少年に見えるな」

「アズール様、これは、一体、どういう?」

首を傾げると、アズール様が言った。

「ん? あぁ。ローリーめ。説明なしに着替えさせたのか」

私は苦笑を浮かべるとうなずく。アズール様は私にソファに腰掛けるように促すと、自らも私の向かい側に座って言った。

「この前シャルロッテ嬢が男装をしていた姿を見て、そこから着想を得たのだ」

「着想?」

「あぁ。シャルロッテ嬢、シュルトンはいい国だ。皆家族のようなものだし、シャルロッテ嬢が自由に城下町くらいなら一人でも出歩ける環境にある」

「え?」

突然の言葉に、意味を理解しがたく、私はアズール様の言葉を待つ。

「シュルトンの民にとって、シャルロッテ嬢は女神だ。だからこそ君に危害を加える者はいないだろう。そして君が自由に出歩いても、皆温かく見守ってくれる」

「あの、一人で、ですか?」

「あぁ。城壁の外は難しいが、中であれば、一人で散歩に出歩いても買い物に出歩いても、大丈夫だ」

言われている言葉の意味を、飲み込むまでに少し時間がかかる。

これまで、私の世界はリベラ王国の家と城くらいのものだった。

一人で出歩いたことはないし、シュルトンに来てからも、基本はシュルトンの城の中。外に出る時は必ずアズール様が一緒だった。

アズール様は優しい眼差しで私のことを見つめて言った。

「私は、君にもっと自由に、自らの足で歩き、感じ、好きに過ごしてほしいのだ。最近は魔物もほとんど出ない。だからこそ出来ることだな」

「あの、アズール様……アズール様は私にもっと自由に、好きに過ごしてほしいと、そうおっしゃっているのですか?」

「あぁ。その通りだ。君は頑張り屋さんだから、シュルトンのことだけの為に、一生を費やしてしまいそうでな……だが、私は君に、君の人生も楽しんでほしいのだ」

「たの……しむ」

確かに、私はここ最近、シュルトンの為に出来ることはなんでもしようと考え、渓谷の調査や畑の拡大、水場の整備、そうしたところの仕事ばかりしていた。

それが私の役目だと、そう思っていた。

アズール様は、私の隣へと席を移動すると、私の手を大きな手で包み込み、言った。

「シャルロッテ嬢。私は……私は君に幸せになってほしい」

「十分、幸せです」

そう返す私を、アズール様は優しく抱きしめた。

「あぁ。そう言ってくれてありがとう。だが、きっと君が知らない楽しいことは、この世界にたくさんある。だから、もう少し自由に生きてみてほしいんだ」

「……自由に」

「あぁ。その為の男装だな」

私はアズール様を見上げると首を傾げた。

「どうして、男装なのです?」

「シュルトンの民なら、シャルロッテ嬢が男装して散歩していると分かるだろう。警護を付けなくても皆が護衛みたいなもんだ。だが、それ以外の人間からしてみれば、ただの男の子に見えるだろう?」

「あ、なるほど」

シュルトンには行商人や旅人も入ってきている。そうした人達を騙すための措置ということか。

「では行くか」

「え? どこへ?」

「ん? 散歩だよ。シャルロッテ嬢に……いや、少年シエルくんに、街を案内するよ。次からいつでも一人で出歩けるようにね」

「え? シエル……シャルロッテの偽名ですか」

「ああ。さぁ、行こう」

「はい!」

私は、アズール様と手を繋いで歩き始めたのであった。