軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話

シュルトンの生産をあげるために、アズール様は新たに王城に人を雇い、人々の心配事やこれからの農作物を育てるのに必要な用具を入手するために動き始めた。

農作物を育てる用具は、基本的に他国から流れてきてもシュルトンでは売れない為に隣国へとそのまま流れて行っていたのだが、今回からはシュルトンで買い付けることにした。

他の国とシュルトンの違いは、他の国には農作物を荒らす野生の大型の動物がいるのに対して、シュルトンには基本的には小型の生き物しかいない為、畑を荒らされる心配がないということである。

シュルトンは良い方向へときっと向かっていくはずだ。

その為にも、リベラ王国のセオドア様の一件をはやく終わらせ、セオドア様には早々に国に帰っていただきたい。

私はそう考えていた。

そしてセオドア様が来国する予定の日、私とアズール様は念入りに準備を進めた。

セオドア様がいる間にシュルトンが農業に力をいれようとしているということには気付いてほしくない。

また、シュルトンが肥沃な土地に変わっていっているなどとは絶対に気付かれてはならない。

私にとって、もうリベラは他国であり、自国であるシュルトンを守ることが最優先である。

「シャルロッテ嬢……大丈夫か?」

アズール様の言葉に、私は顔をあげると笑顔でうなずいた。

「大丈夫です。アズール様が傍にいますから」

私はそういうと、目の前にある魔法陣を見つめる。

ここで私とアズール様は初めて出会った。それが昨日の事のように懐かしい。

あの時は血の付いたアズール様に驚いた。

きっとあの時アズール様は魔物を討伐した疲れた状態で私のところまで急いで駆けつけてくれたのだろう。

それを思うと、胸の中が温かくなる。

アズール様と婚約出来たことは私にとって幸運なことだ。

今となってはセオドア様と婚約を解消できたことは、私にとっては良かったのだろう。そうでなければ、私はリベラ王国で未だに苦しんでいたに違いない。

未練はない。だからこそ私はセオドア様に会うことも別段気にしない。

魔法陣が光り始め、部屋中に光が溢れる。

そして姿が見えた瞬間、私は目を見開いた。

「シャルロッテ嬢!」

次の瞬間、赤いバラの花束を抱えたセオドア様の姿が見え、見えたと同時に私の前に跪くセオドア様が見えた。

「会いたかった……本当にすまない。こうして謝罪する機会をくれたことに感謝する」

私の知っているセオドア様ではない。

今相当に追い詰められてるのだろうか。

真っすぐに私を見てくれたことのなかった人が、今まさに私のことを真っすぐに見ているというのに、私の心は動くことはなかった。

会ったら何か感じるのだろうかとも思ったけれど、本当に何も感じない。

そのことに私はほっとしているとアズール様が私の前へと進み出てセオドア様を立たせた。

「シュルトン王国国王アズール・シュルトンだ。リベラ王国の王子を床に跪かせておくわけにはいかない。さて、客間を用意してある。そちらに移り話を伺おう」

セオドア様は突然現れたアズール様を見て、目を丸くすると、視線を彷徨わせた後にうなずいた。

「あ、あぁ。はい。初めまして。リベラ王国のセオドア・リベラです」

その様子を見つめながら、私はこの人はこんなにも弱々しい人だっただろうかと小首を傾げる。

シュルトン王国にいると逞しい人に囲まれているからなのか、セオドア様がとてもか弱そうに見える。

セオドア様は時折私の方へと助けを求めるような視線を向けるけれど、アズール様はセオドア様を案内するために横に並んでおり、そしてセオドア様を歓待するためにシュルトン王国まで来てくれたことについて感謝をしつつ会話をしている。

ちゃんと話を聞いてほしいけれど、セオドア様は何度も私のことを見つめてくる。

「あぁ、セオドア殿。その花も受け取っておこう。シュルトンでは花を愛でることも少ない。侍女に生けてもらおう」

「え? いや、これは、シャル……いや、その……はい」

アズール様の視線を受けてセオドア様はそう言うと、花束を手渡した。

男性が男性に花束を手渡すと言う姿は中々見ることのないものだったので、少し新鮮な感じがした。

アズール様はもしかしたら花が好きなのだろうか。

アズール様があまりにもいい笑顔をしていたので私はそう思った。

それならば城の庭に野菜ばかりではなく花を植えてアズール様がいつでも見て癒せるようにしたいなと私は思うのであった。

アズール様は喜ぶだろうか。せっかくだからサプライズで庭の準備を進めてみようかと思いながら、私は客間に向かって歩き出す二人についていったのであった。

客間へと着くと、私はセオドア様が好んでよく飲んでいた紅茶を用意してもらう。

するとそれを一口飲んだセオドア様は瞳を輝かせて私の方を見た。

「シャルロッテ嬢ほど私のことを理解してくれる人はいないだろうな……私の好みを覚えてくれていて嬉しいよ」

私の方を見て真っすぐにそう言うセオドア様。

向けられる好意的な視線に、私は少し気持ちの悪さを感じながら口を開こうとすると、アズール様が言った。

「はっはっは。実は紅茶の茶葉を入手してきたのは俺なのだ。セオドア殿がお気に召されたのであれば良かった」

「あ……そう、なのですね。ありがとうございます」

私と一緒に過ごしていた時とは全く違う様子のセオドア様を私は不思議に思いながらじっと見つめてしまう。

この人はこんなにも、おどおどとした人だっただろうか。

こんなにも人の顔色をうかがう人だっただろうか。

こんなにも、へらへらとした笑みを浮かべる人だっただろうか。

「いや、その……この度は来ることを快諾してくださりありがとうございます。シャルロッテ嬢……本当に申し訳なかった」

そう言って謝るセオドア様を私はどこか他人事のように見つめながら言葉を返す。

「良いのです。セオドア様には私よりももっと相応しい人がいるのでしょう。それに私は今、アズール様と婚約出来て幸せです」

心からそう伝えたのだけれど、憐みの瞳を突然セオドア様から向けられ、私は驚いた。

何故そのような視線を向けられなければならないのか。

「アズール殿……シャルロッテ嬢と最後に二人だけで話をさせてもらえませんか?」

突然そのように提案され、私は二人きりで話すことなどないし、必要もない。

アズール様も眉間にしわを深く寄せた。

「セオドア殿。話ならば二人きりの必要はないだろう」

「……乙女心が分からないのですか?」

突然セオドア様が乙女心などと言い始め、一体なんだろうかと私は首をかしげる。

「乙女心? あの、良く分かりませんが、私もお話ならばここでお聞きしますわ」

その言葉にセオドア様は驚いたような表情を浮かべるが、その後何を思ったのかうなずき、話題を逸らした。

「そうですか。あぁそうだ。手土産があるのです。用意させますのでちょっとお待ちください」

セオドア様の他にも数人の侍従が付いてきており、その人たちが荷物を準備していく。

私は一体何なのだろうかと、小首を傾げたのであった。