軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話

私とアズール様は話をし、私の能力についてはやはり誰にも話さないで秘密にすることに決めたのであった。

そしてアズール様は、一度試してみたいことがあると庭を立ち入り禁止にすると、私と二人で庭のベンチに座り言った。

「天気は、その自由自在に操れるのか?」

「え? いえ、試したことがありません。ですが、願ったら、応えてくれます」

「ふむ……でも感情は無作為に反映されてしまうのだよな?」

「えぇ。ですがこれまで、このシュルトン王国に来るまでは感情を表に出すことをしてきていないので、具体的には分からないのです」

アズール様はそれを聞いて、少し黙ると私のことを見つめた。

「……これまで、ずっと我慢してきたのか?」

「え?」

その言葉にアズール様が私のことを心配しているのだという事に気が付いた。

私は何と答えればいいのだろうかと思いながら、小さくうなずく。

「幼い頃から習慣的に感情を出さない練習をしていました。あと、私の付けている香水は母の好きだったもので、この香りをかぐと落ち着くのです」

「そうなのか」

「はい。アズール様は、この香り、嫌では、ありませんか?」

思わずそう尋ねると、アズール様は小首を傾げた。

「何故? 俺はなんだかほっとする香りだと思ったが」

その言葉に、私は良かったと思いながら笑みを浮かべると、アズール様が私の頭を優しく撫でる。

「何か心配したようだけれど、俺は君のことを否定したりしない。不安なことがあれば、何でも聞いてくれ。ちゃんと君の問いに答えるから」

真っすぐにそう言われ、私はうなずく。

「アズール様は、その、どうしてそのように優しいのですか?」

私の言葉にアズール様はふっと笑いをこぼす。

「誰にでも優しいわけではない。俺はこの国の国王だ。まぁ不毛の王国だけどな。それに我が国は領土はまぁあるがほとんどが不毛の大地。それに魔物を討伐することで国を保っている国でもあるし、華やかな貴族社会も、舞踏会もない。けれどシュルトンの男は心に決めた女性は守り愛し抜く」

「……アズール様」

「シャルロッテ嬢」

私は真っすぐにアズール様を見つめ、気になっていたことを素直に聞いた。

「アズール様は、これまで女性とお付き合いしたご経験があるのですか?」

「……シャルロッテ嬢。俺は、この国の国王だ。あのな、その……経験が豊富だと言いたいのが男の性だけれど、俺は十五の時に前王が突然亡くなったことで王位を継ぎ、それからは魔物との戦い続きでな……その……」

アズール様は頭を抱えると、大きく息を吐く。

「君が……初恋だ……あぁぁぁ! 大の大人にこんなことを言わせないでくれ。恥ずかしい。っく……」

両腕で顔を覆ってそう言うアズール様の様子に私は驚きながらも、初恋という言葉と今までの恋愛経験がないという事実に驚く。

「本当に、本当ですか?」

「本当だ。良いかシャルロッテ嬢! お願いだから、恥ずかしいんだ」

私はそんなアズール様を見つめながら、性格が悪いかもしれないけれど、顔がにやけそうになってしまう。

アズール様の初恋。そう聞くと、胸の中が温かくなって、嬉しくなる。

「ああぁぁ。頼む。他の者には言わないでくれ」

「はい。言いません」

「あぁ」

「ふふふ。アズール様、すごく手慣れている感じだったので、私、心配してしまいました」

「不毛の大地でどう手慣れろと言うのだ。それに元々俺の結婚相手は周辺諸国との繋がりが求められる政略結婚になる予定だったしな。他の国のご令嬢を迎えると言うのに、女性にふしだらという噂でも立ったら嫁いできてもらえないだろう」

なるほど、確かにそうだなと思いつつ、私はちらりとアズール様を見た。

私とアズール様はその後は私の能力について庭で少し試したりして過ごした。ずっと気になっていたアズール様の女性関係が訊けて、私はほっとしたのであった。

シュルトン王国の天候は、私の感情に反応して、どんどんと青空が広がる日が増えていった。そして雨もまた、定期的に降るようになり始め、国の人々に驚きの声が上がる。

不毛の大地だと言われたシュルトンの大地に、緑が広がり始めたと言うその良い意味での異常に、王国全土が喜びに包まれ出す。

私はそんな緑があふれ出したと言う話を聞き、今日はアズール様の馬に乗せてもらい、不毛の大地だった場所を見学しに来ていた。

「アズール様、本当にここが、不毛の大地だったのですか?」

目の前に広がるのは、美しい緑の大地であり、花々が咲き誇っている。

風に乗って、甘い花の香りが感じられ、そして蝶や蜂達が飛び回る姿が見えた。

「あぁ……君には信じられないかもしれないが、ここには君が来るまでは、蝶が飛び交うような場所ではなかった」

その言葉に、私は驚いてしまう。

「不毛の大地……では、ないですね」

「あぁ。君のおかげだ」

アズール様の言葉に私は首を横に振った。

「いいえ。そんなこと……でも……私、少し怖くなってきました」

私の言葉にアズール様が慌てて言った。

「ど、どうしたのだ?」

「いえ……不毛の大地だから、私、自分の感情を抑えずにいたのです。でも、この光景を見てしまうと……気を付けた方がいいのではと」

少しほっとしたような口調でアズール様は微笑みを浮かべると言った。

「はは。それならば心配ないと思う。俺が思うに、君は自由でいた方がいい。この大地は元々不毛の大地だ。花々が咲き誇る今が異常なのだ」

「でも」

私の頭を優しくアズール様は撫でると言った。

「それに、何より、俺は君を苦しくなる程泣きわめかせるようなことはしない。俺がそんな人間に見えるか?」

私は首を横に振る。アズール様はそんなことはしないだろう。

「ならば俺を信じろ。俺は君に辛い思いはさせない。言っておくが、俺はどこかのバカ王子とは違う」

「え?」

突然の言葉に私が驚くと、アズール様は声を潜めた。

「すまない。心の中に潜めていた思いがつい漏れた」

「え?」

「君のように可愛らしい女性に愛されていたのに、それを無下にするような男はバカな男だと俺は思う。辛い思いをした分、君は俺の傍で幸せに笑っていてほしい」

アズール様の言葉に、私は拳をぎゅっと握りしめ、それから、アズール様の胸へ背中を寄せて、体重をかける。

「……あまり、甘やかさないでくださいませ」

「ん?」

私はアズール様を見上げると言った。

「アズール様の傍にずっといたくなります。離れている時間が、もっと寂しくなります」

そう告げた瞬間、アズール様は私のことをぎゅっと抱きしめる。

大きな体に後ろからぎゅっと抱きしめられると、なんだか包まれているようで、幸せな気持ちになる。

温かで、アズール様の腕の中は安心できる。

「はぁぁぁぁ。無防備な。っく……」

「アズール様?」

「女性がこれほど恐ろしい存在だと、俺は君に出会って知った」

「え?」

恐ろしい? 私は一体アズール様にどう思われているのであろうか。

不安になって私が腕の中でもぞもぞと動くと、アズール様にぎゅっと抱きしめられて押さえられてしまう。

「あの……わ、私恐いですか?」

「違う。そういう意味ではない」

「え?」

ならどういう意味なのだろうかと私の頭の中が混乱してしまう。その時、急に強い風が吹き、私は瞼を閉じた。

そして目を開けた瞬間、風に花弁が舞い上がり、美しい光景が広がっていた。

「アズール様! 見てください! 綺麗です!」

「あぁ……まさかシュルトンでこのような光景が見られるとはな……」

アズール様の言葉に、私はそうなのだなと思いながら、美しい光景を食い入るように見つめた。

青い空に、花弁が舞い、まるで踊っているかのようであった。

「綺麗」

「あぁ」

二人で、穏やかに流れる時間の中で同じ景色を見ることが出来たことに私は幸福を感じたのであった。