軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話

アズール様との毎日は、私にとっては幸せの連続であった。

これまでは妃教育で日中の時間をほとんど使ってきた私だったけれど、シュルトン王国とリベラ王国とは根本的に違うことの方が多く、学びなおすこととなった。

ただ、以前よりも感情に余裕があるからなのか毎日が楽しく感じられた。

あと、精神的なストレスがないというのも一つの理由だろう。

リベラ王国にいた時には、妃教育を頑張らなければセオドア様に嫌われてしまうのではないかと毎日そう怯えていた。

結局はセオドア様に愛してもらえることはなかったけれど、今ではそれでよかったのだろうと思える。

アズール様は、毎日私に会いに来てはシュルトン王国についてや、自分のことについてなど教えてくれる。

真っすぐに私のことを見つめてくれるその瞳は優しくて、自分が気遣ってもらっているのだということが感じられた。

それは不思議な感覚だった。

セオドア様に気遣ってもらったのは、本当に婚約当初くらいであった。それも今考えてみれば義務的なものだった。

あの頃の私は今よりももっと幼くて、だから、ちょっとしたことで一喜一憂していた。

ただ私がいくらセオドア様に喜んでほしいと思って行動しても、結局は愛想的なものが返ってくるだけだった。

けれど、アズール様は違う。私が話したことに関して興味を持ち、一緒に話したり質問したり、時には一緒に調べてみたり。

一緒にいるだけで安心感を感じられるようになり、空気が心地よかった。

ただ、やはり魔物は頻繁に出るようで、アズール様は何度も魔物討伐へと出陣していく。

それが今はすごく怖い。

警鐘が聞こえ、私は肩を震わせる。アズール様の執務室で、シュルトン王国の流通について質問をしていた時のことであった。

一つ鐘。

つまり魔物の出現を確認初動班が動き対処しているということである。

アズール様はその時点ですぐに向かう準備をし魔物のいるところに出向くのである。

緊急事態を放ってはおけないと、アズール様は魔物が出現すればいつでも先陣を切って王城を出るのだ。

アズール様は国王であり、この国の剣。そして守護神だった。アズール様の出陣は国民を安心させる。

「シャルロッテ嬢。すまない。行ってくる」

「はい……お気をつけて」

シュルトンでの生活は本当に楽しいことばかりである。ただし、やはり魔物討伐についての日常にだけは慣れないのだ。

アズール様はすぐに支度を済ませると愛馬のテールに跨りさっそうと他の騎士達と共に走っていく。

私はただそれを見送ることしか出来ないのである。

「アズール様……大丈夫かしら」

胸の中が落ち着かず、私はシュルトン城の中にある小さな教会へと向かうと、祭壇の前で膝を突き手を合わせる。

リベラ王国では忙しさから神殿へと足を運ぶことはなかった。宗教意識も薄かったので神に祈るということもしなかった私であった。

ただシュルトン王国は天と自然の神を崇拝する国であり、わたしはアズール様に倣って祈りを捧げるようになったのだ。

天と自然に感謝し生きていることに感謝する。そんなシュルトン王国の信仰は、私にとっては新鮮であり、そして祈ることで自分の感情もすっきりとするように思えた。

だからこそ、私は祈りを捧げるのだ。

どれくらいの時間が経っただろうか。アズール様はおそらくすでに渓谷につき、戦っている頃であろうか。

「どうか、アズール様が無事に怪我することなく帰って来られますように。どうか、魔物は魔物の国でお暮しくださいませ。どうか、魔物を討伐に行った皆様が怪我をしませんように……皆が幸せに暮らせたらいいのに……」

祈りを捧げていると、たまにどうしようもなく悲しくなる。

どうして争わなければならないのか。どうしてアズール様が危険な場所へと赴かなければならないのか。

魔物は一体何のためにこちらへと来るのだろうか。これないように渓谷をふさぐことが出来たらいいのに。

争わない道はないのだろうか。

そんなことを考えていると、私はぽたぽたといつも泣いてしまうのだ。

この国に来てから、自分の感情がコントロールできなくなった。

枷が外れたように、嬉しい時には笑ってしまうし、悲しい時には涙が零れてしまう。

顔をあげた時、外を見ると雨がぽたぽたと降り始めていた。

「私がずっと泣いていたら……魔物は雨のせいで来れないのかしら……だめね。雨ばかりでは皆が困ってしまうわ」

一体どうしたらいいのだろうか。

雨はしとしとと地面を少しずつ潤わせていったのであった。

空から雨がぽたりと甲冑に落ちる。皆が魔物をどうにか渓谷の内側へと押し返し、大きく息を吐いたところだった。

「雨だ……」

「良かった。これで、魔物達は帰るはずだ」

「はぁぁ。なんだか雨の回数が多くなってきているような。気のせいか?」

魔物達は雨に濡れると悲鳴を上げて、森の中へと急いで帰っていく姿が遠目で見えた。

何をきっかけにこの渓谷を通って人の国に行こうとしているのか。理由は分からないが人を襲う以上ここを通ってもらっては困るのである。

「怪我人はすぐに救護班を呼ぶ。一か所に集まるように元気なものは手助けをしてやれ」

部下にそう指示を出したアズールは、じっと森の方を見つめながら渓谷と魔物の住む森の境界に立つ。

「なんだ?」

渓谷との境界に、薄い虹のような光がかかっているのに気が付いたアズールはそれを見つめる。

じっとこちらを見つめてくるアズールが油断していると思ったのか森の中から一匹の翼の生えた魔物が飛び出してきてアズールへと爪を振りかざした。

アズールはいつものように剣を構えて迎え撃つつもりでいたのだが、薄い虹のような光に魔物が当たった瞬間のことであった。

「ぎゃぁぁぁぁぁ」

魔物は突然悲鳴を上げて、黒い煙をあげ、森の中へと逃げ帰る。

アズールはその様子を呆然と見つめた。

「……これは、なんだ?」

突然現れた光の薄い虹のようなもの。けれどそれは揺らいでいる。

アズールが剣で触れてみたところ、特に問題がなく、甲冑をつけた腕で触ってみても何の異常もない。

それどころか、暖かく何かに包まれるような心地の良さすら感じる。そしてふわりと香ったその香りに、アズールは目を見開く。

「シャルロッテ嬢?」

そんなわけがない。

けれど何故かシャルロッテのいつもつけている香水の香りがして、アズールは驚きを隠せなかった。

アズールは魔物達が襲ってこないことを確認すると、一時戻ることに決め部隊を率いて城の方に向かい走り始めた。

馬を駆けさせていくのだが、いつもならば渓谷には吹き抜ける風によって砂が巻き上がっているのだが、風だけが吹き抜けていく。

異変に気付いたのはアズールだけではなく、皆が異様な雰囲気に緊張を露にする。

そしてアズールは視線の先に映りこんだものを見つけて慌てて馬の綱を引く。

「止まれ!」

皆がアズールに合わせて馬を止める。

アズールは馬を降りると、それに向かって歩き、そして目を見開いた。

「……これは……」

魔物の住む森に近づけば近づくほどに土は乾燥し、植物は育たない。

ここは魔物がいる地点から少しの距離しか離れておらず、その上渓谷の道だ。

太陽の光も厚い雲によって届かず、雨が降ることも稀。しかも土は乾き、植物が芽を出すことすらできないはずの地であった。

「花だ」

吹き抜ける風に、花は楽しそうに揺れていた。