軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先物取引

「どういうことなんだ、アイ? 先物取引って何さ? もっと米を買う必要なんてあるのか?」

互助会などをもう少し運営しやすくするためには、なにはともあれお金がいる。

そのためにアイが言い出したのが、米を買え、という内容だった。

だけど、それがそんなにお金稼ぎになるのだろうか?

というのも、もう季節は夏になっている。

そして、オリエント国ではバルカ傭兵団が広めたバルカ米やその上手な栽培方法を取り入れたためか、かなり豊作になりそうだという話を聞いている。

そもそも、うちは魔道具なんかを作る必要性があったのと、土地の塩害がようやく落ち着いてきたという段階なので、まだそれほど農業に手を付けられていないのだ。

なので、もともと米を買う予定にしているので作付け段階から今年の出来不出来はきちんと確認していた。

今更米を買えと言われてもそもそもそのつもりだったのだし、それでお金が稼げるのだろうか。

「重要なのは今、お米を購入するということです、アルフォンス様」

「ん? どういうこと? 米を買うんだったら、稲がきちんと実ってそれを収穫できてからになるんじゃないの?」

「違います。お米の実物を購入するという話ではありません。まだない状態で先に購入する契約を行うのです」

「……それがなにか意味あるの?」

「あります。今年は豊作であると農家も商人たちもが考えていることでしょう。もしも、このまま予想どおりたくさんお米ができれば、お米の価格はどうなると思いますか?」

「ええっと、米がたくさんできるってことでしょ。多分、今までのやり方よりも【土壌改良】の効果とバルカ米の収穫効率の良さも合わさって、これまでにないくらいに収穫できると思うから安く売られることもあるかもね」

「そのとおりです。農作物は基本的に豊作であれば安く、不作であれば高くなる傾向にあります。税として国に納める量にもよるでしょうが、農民や商人たちの多くは今年の米の値段は下がると考えているはずです」

「ふんふん。で、アイはその豊作の米が出来上がる前に買えって言いたいんだね。それは、さきに農家と契約でもしておけってこと?」

「そのとおりです。過去の情報も参考にして例年程度の金額で今年できるお米を買いとると契約を持ち掛ければ、その契約に同意する方は大勢いるでしょう。農民にとってはそのほうが高い値段で売れるのですから」

「それはいいけど、それって損しないのか? いつもよりも豊作で価格が安くなる米を、先に高い値段で購入する権利を買うってことなんでしょ? どうやってそれで稼ぎを得るんだよ」

アイの言う先物取引というのはなんとなく分かった。

要するに値段を今のうちに決めて購入を予約しておくってことなんだろう。

で、後でその米の値段がどう変わろうと、秋になったらその時の契約した値段で米を引き取る。

現物がない状態でも先に取引しておくというわけだ。

それって予約注文とは違うんだろうか?

まあ、なんにせよ先に値段交渉ありきであとから現物を引き受けるという方法なら可能だろう。

が、どう考えてもそれで今の金不足の俺の懐をうるおせるとは思えないんだけど。

「問題ありません。今年の米相場は暴騰します」

「暴騰って、値段が上がるってこと? なんでさ? 豊作だったら値段が下がるんじゃなかったのか?」

「そのとおりです。そして、豊作ではなく凶作であれば値段は上がります」

「え? つまり、アイは今年の米の出来高がすごく悪くなるって、そう考えているってことか」

「はい。今年は嵐が来ます。大きな嵐になるでしょう。農作物だけではなく、川の氾濫なども含めて大きな被害が出ると予想されます」

「嵐? ほんとに?」

先物取引をしても儲からないのではないか。

俺がそう言うと、アイは真っ向からそれを否定した。

そして、その理由が嵐にあるという。

確かに、この小国家群では大雨が降ったりもする。

そして、そのたびに小国家群がある九頭竜平野はいくつもある大きな川の氾濫によって被害を受けるのだ。

俺がこの地に来てからも、近くで小さな氾濫があったのは聞いていたし、別の小国では大きな被害があったという話もあった。

なので、その可能性がないとは言えない。

が、本当にそんな大嵐があるんだろうか。

「私はアルス様の指示により、四枚羽を用いて気象観測と天候予測を行っています。そして、それはフォンターナ連合王国のみならず、この東方などでも開始しています。その結果、今年、このオリエント国をはじめとした周辺国が嵐で不作になる可能性はきわめて高いといえます」

俺がアイの顔を信じられないというふうに見ていたのが分かったのだろうか。

その俺の疑問を払拭すべく、アイは確信に満ちた口調でそう言った。

そういえば、天気予報があったな。

天空王国であるバルカニアにいたころは、雲よりも高い場所に住んでいたからあんまり気にしたことなかった。

だから、そんなものがあったことをすっかりと忘れてしまっていた。

だけど、地上ではそうじゃないんだ。

雲よりも下にある大地は毎年、あるいは毎日天気がころころ変わる。

そして、それは地上にいる人間にはあまりにも予想がつかない。

が、アイは違うんだった。

かなりの精度で未来の天気を予測する。

その予測できる地域がいつの間にか東方にも対応していたのか。

だとしたら、今年は本当に大嵐がやってきて米が不作になるのかもしれない。

こうしちゃいられないな。

米を買って大儲けというどころか、俺や傭兵団が食べる分にも困るかもしれない。

先物取引でも、去年の残りの米でも何でもいいから今のうちに買っておこう。

俺はアイの天気予報を信じて米の買い付けを始めることにしたのだった。