作品タイトル不明
塩草
「どうかな、エルビス。土の状態は?」
「……まだ塩分が多く含まれます。この状態ではやはり当分は作物を育てられないでしょう」
バルカ村を作ってからしばらく時間が経過した。
春先にバリアントを出発して、もう今は秋になっている。
あれから何度かオリエント国の要請を受けて防衛戦に出ているが、どれも小競り合いくらいのものだった。
どうやらグルーガリア国との戦いで、オリエント国にアトモスの戦士が現れたことが知れ渡ったらしい。
下手に手を出して巨人が出てくるよりは、ほかの国を狙ったほうが得るものがある。
そう考えた者たちが多かったのか、オリエント国に攻め入ってくる国が減ったのだとバナージが言っていた。
オリエント国は最近になって魔弓の配備が終わったらしい。
それもあって、この国は以前と比べれば比較的小康状態になった。
なので、その間に俺はバルカ村という拠点をしっかりしたものにするために活動することが主な仕事になったというわけだ。
魔道具作りは順調だ。
壁で囲ったバルカ村の中で、極秘に生産される魔道具。
今はごはんを炊き上げる土鍋の魔道具のほかにも、箱型の魔道具も生産することになっている。
こっちも料理道具だ。
箱の中に食材を入れて魔力を込めれば内部が加熱される。
火を使わないですぐに温められるその箱型魔道具も人気商品としていい売り上げになっていた。
バルカ村で作った魔道具はオリエント国にいるバナージに届けている。
スーラと話し合ったとおり、これらの魔道具はバナージが研究して作り上げたものだと発表しているからだ。
そのおかげで、議会内でもバナージの株は上がっているとかなんとか。
たまに俺もオリエントに行ってバナージと話しているが、いつもだいたい上機嫌だった。
そんなこんなで生活をしていたが、なにも魔道具作りだけをしていたわけではない。
そのほかの作業として、土の状態を調べていた。
以前、ほかの国が攻め入ってこの村を拠点として使われ、そして塩を撒かれていったという話のとおり、この村の農地は死んでいる。
今のところは魔道具販売のお金でよそから食料を買っているので問題はないが、しかし、この土地をいつまでも使えない状態にしておくのはもったいない。
それに、村に住む人数を増やすためにはある程度は自給自足できたほうがいい。
「ここはダメか。で、あっちはどうだ?」
「あちらですか。あちらは問題なく育っているようですよ。やはりすごいものですね。あれほどの死んだ土地でも育つとは驚きです」
「ヘクター兄さんに感謝だね。ちょっとだけど塩草を持ってて助かったよ」
このバルカ村の農地はほとんどが死んでいる。
が、俺が住んでいる村中央の家の裏の畑では、俺たちが来てから植えた植物が育っていた。
もちろん、そこも塩で汚染されている。
が、その塩の影響を受けても育つ植物を俺は持っていたのだ。
その植物は塩草だ。
奇跡の植物とも呼ばれていた植物。
これは、ドーレン王家が使う【裁きの光】という塩の大魔法が使われた後の土地でも育つことが知られていて、しかも、植物自体が土中の塩分をため込んでくれる。
こいつを塩によって汚染された土地に植えれば、その被害を回復させる効果があるらしい。
かつて、ナージャによって滅ぼされた聖都でこの塩草が植えられたそうだ。
青の聖女と呼ばれた人が植えていた。
それをアルス兄さんが回収して、バルカニアに持ち帰っていたらしい。
その塩草を東方に行く直前に俺はヘクター兄さんから手渡されていたのだ。
魔法鞄の中に眠っていたその塩草を家の裏の畑に植えたらすくすくと育っている。
「よかった。こいつを増やしてバルカ村のあちこちに植えるようにしよう。来年か再来年くらいには農地として使える状態になるかもしれない」
「そうですね。しかし、よくこのような貴重な植物を持ってきていましたね。ヘクター様が渡したと言っていましたが」
「ヘクター兄さんにはいろんな農作物の種とか苗をもらっていたから。新しい土地に行って自分の土地を手に入れたら使えって言われたんだ。バルカニアで品種改良した作物は他の土地のよりも出来がいいはずだから役に立つよって言われたんだよ」
「だとしてもです。これは毒にも薬にもなるのでしょう? あまりおおっぴらにできないものではないのですか?」
「だろうね。だから、塩草は毒性があるってことだけしかみんなには説明していないよ。塩草に触るときには【毒無効化】を必ず使ってから触るように徹底しておいてね」
「わかっています」
奇跡の植物と呼ばれる塩草。
その根っこの部分に塩をため込む性質があり、育った塩草を収穫してそこから塩を取り出すこともできる。
けれど、その塩草には毒性もあるらしい。
直接触れるだけでも毒だけれど、それを特殊な方法で精製するとさらに強力な毒、あるいは薬にもなる。
その薬は媚薬というものだそうだ。
大きくなったらお前も媚薬を使ってみろよ、とヘクター兄さんが言っていたからそれなりの量が収穫できるようになったらアイに頼んで精製もしてもらおうかな。
これはいいものだ、とヘクター兄さんが言っていたからオリエント国でも売れると思うし。
こうして、魔道具作りと塩草による土壌回復をしながら、村づくりを少しずつすすめていったのだった。