作品タイトル不明
作戦の要
「目的の材木所は、川を船で下っていくことになるでござる。一直線に川を下り、材木所に侵入する。そして、保管している柔魔木をかっさらい、持ち帰る。作戦としてはそれだけでござる」
「雑だなあ。その作戦、本気なんですか、バナージ殿?」
「本気でござるよ、アルフォンス殿。ただ、この作戦にはいくつかの問題があるのでござる。一つは、川を下ればそれなりに早く目的地には到着することができる、が、その逆は難しいということでござる」
「川下りはあっという間に終わるけど、川を逆流して素早く昇ってくるのは難しいってことですか?」
「そのとおりでござる。なので、輸送隊を動かすつもりでござる。奪った柔魔木を運ぶための者たちを用意しておくのでござる」
本気か?
船にどれだけの人間が乗れるか知らないけれど、多分そんなに大量には乗れないんじゃないだろうか。
いくつも船を出すにしても限りはある。
動ける数なんてそんなに多くないんじゃないだろうか。
それなのに、戦わない輸送隊を用意するのか。
戦闘部隊に負担が大きくなりそうな計画に思えた。
それに、柔魔木を奪った後もただの移動だけで終わるはずがない。
うまく材木所を攻略できたとしても、追手がかかるはずだ。
材木所は川の中州にあるらしい。
そこから、木を運び出し、運送しようとしているということは、当たり前だけどこちらの足が鈍る。
そこを追いかけられて後ろから狙われることになる。
「うーん。厳しそう。追手を振り切る方法とかは考えているんですか?」
「もちろんでござる。というよりも、今だからこそこの作戦が実行できると思ったのでござるよ。この作戦を実行する気になったのは、バルカ傭兵団が来たからなのでござる」
「うちの傭兵団が来たから? 傭兵がいるから材木所を襲うことになったっていうのは、よくわかんないんですけど……」
「正確に言うと傭兵団そのものではないのでござるよ。この作戦の中心は、そこにいるアトモスの戦士イアン殿の存在が大きい。どうか、彼の力を貸してほしい。巨人化することができるアトモスの戦士がいれば、追手を振り切ることができるはずでござる」
なるほど。
そういうことか。
俺たちがここに来るまでに事前にクリスティナたち商人から話を聞いていたんだろう。
バルカ傭兵団のことを。
そして、そこにはアトモスの戦士であるイアンがいることを。
イアンは今は普通の人間だ。
だけど、アトモスの戦士は巨人化する力を持っている。
身長5mくらいまで、一時的に体を大きくすることができるんだ。
そして、その体は決して見せかけだけのものではない。
大きくなるぶんだけ、筋肉の量が変わるんだろうか。
大きな体で非常に強い力を持っている。
確かに、アトモスの戦士であれば奪い取った材木を普通よりも早く、大量に運び出してしまうことができるに違いない。
それに囮にもなる。
巨人化しているイアンが材木を持ち去ろうとしていたら、どうしても目立つだろう。
追手はイアンを追いかけてくるはずだ。
普通の人間よりもはるかに強いアトモスの戦士は、きっとものすごく狙われるはずだ。
もしそこで、イアンとは別行動する者がいたらどうだろうか。
奪った材木を運ぶ者たちが分かれて行動した場合、アトモスの戦士がいるほうを無視してもう片方を追いかけるなんてことは相手もしないだろう。
どうしたって、相手はイアンに集中せざるを得なくなる。
背中を襲われたらたまったものではないのだから。
なんとなく、バナージの考えが読めた。
奪った柔魔木を持って帰るだけの簡単な作戦だというが、その狙いは急にこのオリエント国に現れたアトモスの戦士の力を最大限に活用するつもりなんだろう。
アトモスの戦士イアンを使った作戦がピタリとあえばそれでいい。
そうだったらなんの問題もなく、大量の柔魔木を手に入れることができるのだ。
それに対して、イアンが集中攻撃されて柔魔木を持って帰ることができなくとも問題はない。
イアンが追手をひきつけ、大暴れしている間に、別動隊が柔魔木を持って帰るだけなのだから。
たとえイアンがいなくなったとしても、もともとこの国にいた者ではない。
貴重な戦力がこれからも使えなくなるかもしれないが、ここで使うだけの利点が大きいと思っているんだろう。
そんなイアンの犠牲すらも視野に入れた作戦なのではないだろうか。
ちらりとイアンのほうを見る。
イアンはどう思っているんだろうか?
だが、俺が心配しながら見たイアンの顔はいつもどおりだった。
バナージの言葉を受けても、何一つ動揺している雰囲気がない。
それに、別に怒っているというわけでもなかった。
あえていうなら、いつもある日常的なことだ、という雰囲気だろうか。
もしかしたら、アトモスの戦士という稀代の傭兵一族にとっては、こんな危険な賭けの作戦に放り込まれるのは日常茶飯事なのかもしれない。
あるいは、自分は絶対に負けないという自信からだろうか。
俺と目が合ったイアンがこくりとうなずく。
これは、イアンからは特に意見もなく、この戦いに参加するかどうかは俺が決めていいということなんだろう。
俺に一生ついていくとかなんとか言っていたし、多分そうだと推測する。
……やるか。
たしかに、危険かもしれない。
だが、どうせこのくらいの危険な賭けにも勝てないようでは、この先俺たちはやっていけないだろう。
であれば、なにも迷う必要はない。
こうして、イアンを囮として活用する材木所攻略作戦が行われることになったのだった。