作品タイトル不明
あの人は今
「やあやあ、待っていたでござるよ。初めまして、拙者、バナージと申すでござる」
「初めまして、バナージ殿。アルフォンス・バルカです」
「ようこそ、アルフォンス殿。ふーむ、確かにアルス殿と似ているでござるな。兄弟というのは間違いないようでござる」
「そうでしょ? よくアルス兄さんとは同一人物に見えるって言われるんだ」
「はっはっは。確かに瓜二つだ。いい得て妙でござるな」
建物の中に入り、中を進んでいき奥の部屋に入る。
そこにいた人物こそがバナージだった。
にかっと笑い、大きく両手を広げながら俺たちを迎えてくれた。
お互いにあいさつを交わして軽口をたたく。
バナージはこのオリエント国という都市国家を運営している議会に所属しているという話だった。
てっきり、もっと歳を取っているのかと思っていた。
けど、まだまだそんな歳ではないみたいだ。
グランと同じように鍛冶をしていたりするからだろうか。
見た感じ、腕の筋肉などはしっかりと引き締まっている。
多分、20代前半くらいじゃないだろうか。
「よく来てくれた、と言いたいところでござるがアルフォンス殿は本当に戦えるのでござるか? どう見てもまだ子どもで、戦場に出るような年齢ではないように見えるのでござるが……」
「大丈夫、戦えますよ。というか、そのために来たんだから」
「ふむ。確かに、女商人のクリスティナもそう証言していたでござるよ。アルフォンス殿はそこらの男が束になっても勝てぬ、と。まあ、その実力は近いうちに実戦でわかるでござろう。傭兵団には先に案内させた屋敷を滞在場所として提供するのでござる。一応、必要なものは揃えているはずでござるが、足りぬものがあれば言ってほしいのでござるよ」
「ありがとうございます、バナージ殿。ちなみに、それはアルス兄さんとの話し合いで決まっていたことなんですよね?」
「そうでござる。だが、本音をいえばもっと大勢で、それこそ傭兵ではなく軍で来てほしかったでござるよ。アルス殿と言えば、ブリリア魔導国の殿下でもあるシャルル第二王子やシャーロット王女とも対等に話し合う人でござるからな。今からアルフォンス殿が連絡を取って、アルス殿に軍を率いてきてくれるようにお願いしてもらうわけにはいかないでござるか?」
うーん。
やっぱり、バナージとしてはアルス兄さんに軍を連れてきてもらいたいという思いがあるんだろう。
それこそ、なんで子どもが傭兵を連れてきているんだと感じていてもおかしくない。
一応、アルス兄さんのことを知っているからこそ、そのアルス兄さんと事前に決めた取り決め通りの待遇を約束してくれているだけだ。
早いところ、バルカ傭兵団の働きをみせないといけないかもしれない。
「俺が言っても、アルス兄さんは来ないと思いますよ」
「どうしてでござるか? 天空王は自分の国を閉ざしたとは聞いているでござるが、しかし、昨年はブリリア魔導国に滞在していたはずでござる。絶対に国を出てはいけない、という決まりなどはないのでござろう?」
「ないですよ。けど、無理です。アルス兄さんはグランと一緒になって他のことに夢中になっていますから」
「ほかのことに夢中? しかも、グラン殿と一緒にというのは、どういうことでござる? なにに夢中になっているのでござるか?」
「多分、今頃は月に行っているんじゃないかな? 月面探索をするって言ってたはずだし」
「……は? 月、というのは、夜空に輝いているあのまん丸いお月さま、ということでござるか?」
「そうそう。そのお月さまですよ、バナージ殿」
「……意味が分からないでござる。どうやって空の上にあるあの月にまで行くというのでござるか?」
「船ですよ。なんか、宇宙船とかいうのを作って、それを飛ばして空の上まで行くらしいです。ぶっちゃけ、俺もそれがどういうものか知らないですけど」
俺の言葉を聞いて、バナージが戸惑っている。
さすがに、すぐには理解が追い付いていないんだろう。
この話を聞けば、誰だってそうなる。
どこまでが本当の話なのか疑ってしまうのだ。
だけど、これは嘘のような本当の話だ。
アルス兄さんは最近ずっと月に行くという計画に夢中になっていた。
それこそ、グランも一緒になって宇宙船とかいうのを作る研究をしていたはずだ。
そして、それは形になって実用化もできているという。
多分、今頃は月に向かって飛んでいるんじゃないかと思う。
「……よくわからないでござるが、グラン殿は今、そのようなことをしているのでござるか。いや、実は故国がこのような状況にありながらも、帰ってくる素振りのないグラン殿に一言言ってやりたい気持ちもあったのでござるが、月か……。それはなんとも、想像もしないような壮大な研究をしているのでござるな」
「ね、すごいよ、アルス兄さんとグランさんは」
「ちなみに、なぜ月に行こうとしているのでござるか? なにか理由があるのだと推測されるが、拙者には全くわからんでござる」
「えっと、言ってもいいのかな、アイ?」
「かまいません、アルフォンス様。アルス・バルカ様は月の石の収集に向かいました」
「月の石? それはなんでござるか?」
「月面で発見された鉱物です、バナージ様。特殊な効果のあるその鉱物は、月以外では入手が困難であると考えられています」
「月の石。未知の鉱物。な、なるほど。グラン殿が帰ってこないわけでござる。というか、拙者も行ってみたいでござるな」
どうやら、造り手としてグランの気持ちが分かったようだ。
この部屋にはバナージ以外にもオリエント国の人がいる。
それまでは、こちらへの対応をバナージだけに任せて一歩距離をとっているような雰囲気だった。
けれど、その空気が変わった。
全員がものすごい聞き耳を立てているのが分かる。
ありがとう、アルス兄さん。
掴みはばっちりだ。
こうして、オリエント国の中枢でバナージと会ったバルカ傭兵団はそれなりに相手に印象を与えることに成功したのだった。