作品タイトル不明
隊商
「よし、準備はいいな?」
「大丈夫です、アルフォンス様。積み荷の確認もすべて完了しています」
「じゃ、出発するぞ。バルカ隊商、出るぞ」
バイデンの確認が終わった俺たちは、今度こそオリエント国へと向かう。
が、そこで、一時的にバルカ傭兵団は別の姿へと形を変えることにした。
バルカ傭兵団ではなくバルカ隊商と呼ぶようにしたのだ。
これは、バイデンやスーラたちの話を聞いたことが関係している。
あまり印象のよくない霊峰の麓出身の者で構成された傭兵団では、行く先々でいろんな面倒ごとが起こるかもしれない。
なので、傭兵の集まりではなく、商人の集まりへと姿を変えることにしたのだ。
商人は売るだけの価値がある品をほかの土地へと持っていき利益を上げる。
が、どうしてもその途中に盗賊の被害などがある。
命の危険もあるし、商品をとられてしまうことで破産に追い込まれることもある。
それを回避するための方法として、隊商というのがあるらしい。
隊商というのは、複数の商人が身を寄せ合って集団で移動することで、自分たちと商品を守ろうという発想から始まったものだそうだ。
ただ、これはただの助け合いではなく、一個の組織だ。
隊商をまとめる隊長の言うことは絶対で、どの道をどの日数で通るとか、どこで休憩を入れるかなどは隊長の一存で決まる。
つまり、バルカ隊商というのは今までどおり、俺が指揮をして動くのだけれど、そこに商人とその商人の品物が含まれているということになる。
ただそれだけで、危険人物の集まりである傭兵団から商人の集団へと見た目の印象を変えてしまうのが、今回の狙いだった。
バイデンやクリスティナに声をかけてもらって、このバルカ隊商に何人かの商人が参加することになった。
彼らにとっては聞いたこともない子どもの俺の指示で動く集団は信用できるものでもないだろう。
けれど、実際に盗賊が出ていて被害があったこともある。
断る連中もいたが、参加する者もいて、一応隊商としての見てくれだけは完成した。
「やっぱり、商人だとそれなりに相手に与える印象が違うもんだね」
「そうですな。人数が膨れ上がったことで宿をとるのが少々大変ですが、それでも遠方の品々を購入したい者はいます。ただの傭兵団よりもよっぽど受け入れてくれているようですな」
バルカ隊商として出発して、さらにいくつかの町を経由してきた。
その町で、運んでいた荷物を売り、そしてその地で新たな品を買い、次の町で売る。
商人たちはどこでなにがとれて、なにが手に入りにくいのかをきちんと知っているみたいだ。
ある町では安く買ったものが、ほかの町では結構いい値段で売れているのを見て驚かされた。
それに商人というは、やはり傭兵よりも受けがいいみたいだ。
もともと、傭兵たちもエルビスが厳しく規律を守らせるようにしていたから、町に入ってもとくに問題を起こすこともないのも大きいのかもしれない。
最初は消極的に参加していた商人たちも、今は安全であるとわかって、張り切って利益を出そうとしている。
なかには、オリエントについた後も隊商を続けてくれないかという者もいたくらいだ。
「でも、商人も別にいいものではないわよ、アルフォンス君。傭兵よりはましだろうけれど、それよりちょっとましってだけだしね」
「そうなの?」
「そうよ。やっぱり人間なんて基本的にはよそ者を嫌うものだしね。それに、農民は農地でとれたものを税としてかなり厳しく取り立てられているからね。あちこちを回って、何も生み出さないのに利益だけを出す商人っていうのは、どっちかというと嫌われやすいのよ」
「商人を嫌う人もいるんだ。なんか、俺の生まれ故郷のバルカニアではそんな考えがなかったから、今まで考えたこともなかったかも」
「よっぽどいいところなのね、アルフォンス君の故郷は。一度行ってみたいわ」
「うーん、どうだろう。今は鎖国しているからね。国を閉じて外から人を入れなくなったってことで言えば、もしかしたら今後この辺の人よりもよそ者嫌いになっていくかもしれないね」
「まあ、それでもいいところってことには変わりなさそうだけれどね。あ、そろそろ地形が変わってくるわ。この辺りから川が多くなってくるからそのつもりでね、隊長さん」
「うん、了解」
バイデンの町から先は、基本的に危険なことにはあわなかった。
またどこかに盗賊がいるか探して報酬を狙おうかともおもったけれど、商人たちが反対したからだ。
わざわざ戦いにいかなくてもいいだろうと泣きつかれたのだ。
まあ、それはそうか。
積み荷を運んでいる隊商が盗賊を狙うのは立場が逆だろうし。
それに、そのうち盗賊のほうからやってくるだろうとも思っていた。
だけど、さすがに100人を超える戦闘員で守られた隊商をわざわざ狙う盗賊というのはいなかったみたいだ。
なんの問題もなく、移動を続ける。
そして、ようやく小国家群へと近づいてきた。
目的地でもあるオリエント国がある小国家群。
そこは、霊峰から流れ出たいくつもの小さな川が何本もの大きめの川になっている場所らしい。
川はときおり増水し、氾濫を起こす。
けれど、その氾濫によって山から運ばれてきた土があたりにあふれ、それが農地として優れているらしい。
いくつもの小さな国が乱立し、そして、それぞれの土地で生活を営んでいる。
そんな氾濫する大地にようやく俺たちはたどり着いたのだった。