作品タイトル不明
関係性
「ただいま、スーラ。盗賊を倒してきたよ」
「おお、お帰りなさい、アルフォンス様。ご無事でなによりです。……ほう、あの子を、クリスティナを仲間に引き入れたのですかな?」
「え、わかるの、スーラ? うん、そうだよ。最初は街とかでの買い出しなんかをスーラに頼むつもりだったんだけどね。さすがにちょっと無理そうだし」
「申し訳ありません。いささか、自分の体のことを甘く考えすぎていたようです。長旅は思った以上に堪えますな。ですが、そうですか。確かにクリスティナであればそのあたりの仕事をうまくこなしてくれるでしょう。信頼してもいいと思います」
盗賊を退治して、一度バイデンが治める町まで戻ってきた。
この町にはスーラが残っていたので、まずはそこに戻って合流する。
スーラはさすがに長旅が体に堪えているようだ。
ヴァルキリーに乗って移動しているから歩いているわけではないけど、それでも結構疲れるからな。
盗賊を退治した時に商人用の馬車を手に入れたし、そこにスーラを乗せたほうがいいかもしれない。
「けど、スーラはそんなにクリスティナのことを信頼しているんだね」
「そうですな。まあ、我々のような霊峰の麓に住んでいる者とまともに取引してくれる相手というのがそもそも貴重なのです。ほかの土地の者からすると、われらはかつての咎人の末裔であり、汚らしい存在にでも見ているようですからな」
「そこまでひどい感じなんだ?」
「ええ、そうです。そして、もしかすると今後アルフォンス様も体験することになるかもしれません」
「え、そうなの?」
「はい。このバルカ傭兵団の構成員はみな霊峰の麓出身ですから。いかに、アルフォンス様が霊峰を超えた先の王国の人間であると言ったところで、小国家群に住む者たちはそれを素直には信じないでしょう。むしろこの傭兵団は咎人たちの集団だと認識するはずです」
「ってことは、オリエント国についても信用度が低い状態から始まることになるってことか」
「そうなるかと。ですが、そこで一人でも信頼できる取引相手がいれば話はだいぶ変わってきます。クリスティナはもともと我々に対しても分け隔てなく接する子でしたし、あの子自身は霊峰とは関係ない出自です。小国家群でもいくつか取引先があるでしょうし、うまく間を取り持ってくれることでしょう」
なるほど。
どうやら、霊峰の麓に生まれたという事実だけでかなり差別されてしまうみたいだ。
だから、バリアントで魔法を手に入れた人たちもその力を使って人の多い街中に出ていくよりも、自分たちの村に残ったんだろう。
スーラはそのことをわかっていた。
だからこそ、自分もこの傭兵団についていくと言い出したんだろう。
オリエント国に行くまでの宿の問題だけではなく、向こうについてからのことも心配していたのだと思う。
事前にアルス兄さんがオリエントの連中と取り決めをしていたとはいえ、傭兵たちの出自でどうしても変な差別を受ける可能性があったからだ。
けれど、ついてきたものの老骨には堪えた。
そんなときに、自分の代わりをやってくれそうなクリスティナという存在を俺が仲間に引き入れたことがうれしかったらしい。
よかったよかったと言いながら、クリスティナのところへ向かっていき、なにか話し始めた。
きっとこれからしっかりと働くようにとかなんとか言ってくれているに違いない。
「スーラ殿の言うことは間違いありませんよ、アルフォンス殿」
と、スーラが離れた後、俺に話しかけてくる人がいた。
どこから聞いていたのか知らないけれど、この町を治めているバイデンが部屋に入ってきてそう言う。
ちょうどこの部屋についたときにさっきの話が耳に届いたんだろう。
「バイデンさんはあんまり差別とかはしないみたいですね」
「まあ、スーラ殿らとはそれなりに長い付き合いがありますしね。ただ、この町の住人には霊峰の麓に住む者たちのことを嫌っている者も大勢いますが」
「そうなんですか。なんか意外です」
「そうでしょうか? 我々も人のことは言えませんが、彼らは貧しい。厳しい環境下で暮らしているゆえに、森などで生活の糧が得られなかったときどうすると思いますか? ここらの畑に実る収穫物を奪いに来ることがないわけではありません。こう言ってはなんですが、獣みたいなものと思っている者もいるのですよ」
「へえ。そうなんだ。よくそんなことがあって、バイデンさんはスーラと仲良くやれていますね」
「実は私の祖父が町を治めている時代は霊峰の麓の者たちと結構争い合っていたのですよ。ですが、私の父の代でそれを方針転換しましてな。毛皮や錦芋虫の生地など、食料と交換できるものを持ってくればそれに見合った取引を積極的に行うようになったのです。簡単なことではありませんでしたが、長い時間をかけて少しずつ関係が変わってきました。そうして次第に争いの数は減り、お互いの印象も以前よりは変わりつつあるのですよ」
「なるほど。お互いの利益を用意して、争わせなくさせたってことですか。バイデンさんのお父さんは賢かったんですね」
「自慢の父です。私もその父に恥じぬようにそうありたいものですな。さて、それはともかく、盗賊退治お疲れさまでした、アルフォンス殿。エルビス殿に聞いた場所へと人を向かわせて確認を取りにいっています。確認が終わり次第、報酬をお支払いいたしますので、今夜はゆっくりとお休みください」
「わかりました。ありがとうございます、バイデンさん」
改めて、人間関係というのはいろいろあるんだなと思った。
きっと、こんなことを言いつつもバイデンも畑を荒らされたときには怒り心頭になったりもするんだろう。
でも、それを抑えてスーラたちと取引を続けてきたからこそ、いい関係を築けている。
しかし、そう考えるとオリエントまでたどり着いたら、そういう心配事も待っているのかもしれない。
ただ戦うだけじゃなくて、お互いが信頼できる関係になれるかどうか。
あるいは、取引を通じて双方が利点を共有できる関係を築けるかどうかが重要になるのかもしれない。
傭兵団の運営は強さやお金の面だけじゃなくて、ほかにもいろんな苦労がありそうだ。
スーラやバイデンとの話でそんなことを考えつつ、まあ、あとのことはその時に考えようと気持ちを切り替えて確認作業が終わるのをゆっくりと待つことにしたのだった。