軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノルンの警告

春になった、らしい。

ここ、バルカニアにいると季節感が分からなくなってくる。

天空という場所に存在し、雲よりも高い位置にある。

それに、街中に吸氷石の像を設置して寒さもやわらげていることで、それほど気温などの変化がみられないからだ。

ただ、暦の上ではもう地上は春になっているらしい。

バルカニアの実家の寝床に横になりながら、今後のことを考える。

ミームの協力によって僕の体は毒にも強くなった。

それと並行しながら、ここでも剣の訓練は続けていた。

東方へと行くための準備はもうないだろう。

いよいよだ。

僕は天空王国を出ることになる。

理由は僕が自分の出生についてを知ってしまったからだ。

あの時はアルス兄さんに「今後の身の振り方を決めろ」と言われて、国を出て東方に行くことを決めた。

ただ、今思い返すとなんで自分が追い出されなければならないのかという思いもちょっとある。

だけど、これはこれで別にいいか、という割り切った気持ちも持っている。

というのも、バルカニアは平和すぎるからだ。

アルス兄さんやヘクター兄さんはこの平和な世界を喜んでいるらしい。

地上のフォンターナ連合王国のほうではまだそれなりに争いが起きているけれど、もうそれとは関係ないとばかりに閉じこもって安心安全な暮らしを満喫している。

気温は変化がなく、嵐が起きたりもしない。

アトモスフィアという迷宮核に相当する巨大な精霊石があることで、空飛ぶ土地なのに農作物も豊富にとれる。

それを利用して、今では肉として食べられるだけの動物も放牧ができている。

だからだろうか。

この国に住む人は基本的には生活が安定していた。

一日中、寝る間も惜しんで働かないと生きていけない、なんてこともないのだ。

けれど、それは悪く言えば代わり映えがしないということでもあった。

ただ生きているだけ。

何の刺激もない生活にも思えた。

この国には何でもあるけど、刺激が足りない。

ブリリア魔導国の留学から帰ってきて、しばらくここにいた僕が感じたのはそれだった。

迷宮に入ったことも関係しているのかもしれない。

自分の命を明確に狙って攻撃してくる相手とひりつくような戦い。

いつ死ぬかわからないあの刺激が懐かしくさえ思える。

やっぱり僕は戦いたいんだと思う。

戦場に出て戦いたい。

そして、自分の力を最大限に発揮したい。

そのためには、この国は退屈すぎる。

東方へと行けば、その思いが満たせるだろう。

(んー、駄目だろうな)

(え? 何か言ったのか、ノルン?)

(ああ、言ったさ。お前、このままだと死ぬぞ、アルフォンス)

(なんでさ? そんなのわかんないだろ)

(わかるさ。お前は確かに強いよ、アルフォンス。ただな。それはあくまでもその年齢の割にはってだけだ。年の割にはそこそこ剣の腕もあるし、魔力量も多少ある。けど、それだけだ。世の中にはお前よりも強いやつはいっぱいいる。今のお前が傭兵として人をまとめて戦場に出ても、いずれ道半ばで倒れることになる)

(大丈夫だよ。アイもいるし、ノルンだっているんだからさ)

(あの人形は確かに使えそうだったな。けど、まだ足りない。いいか、アルフォンス。お前にいいことを教えておいてやろう。上には上がいる。なのに、お前ときたらどうだ。最近は毒か何だか知らないが、変なことばっかりやっていただろ。そんなんじゃ絶対死ぬぞ)

東方へと向かうのはあと数日後。

そんな時期になってから、ノルンがそんなことを言い出した。

なんなんだよ、こいつは。

せっかく感傷に浸っていたのに、水を差すようなことを言うなんて。

けど、その内容には頷けることもある。

だってそうだろう。

僕の実力は魔導迷宮でおおよそわかっている。

騎士級や男爵級の魔装兵を倒すことはできた。

でも、それ以上の相手とは戦おうとはしなかった。

だけど、世の中にはより強い魔装兵を倒す人が何人もいるんだ。

小国家群にそのくらいの強さの人がどの程度いるのかはわからない。

けれど、ブリリア魔導国の貴族と同じように小国家群でも長い年月をかけて婚姻関係を築き上げて魔力量を高めてきた一族なんかはいるだろう。

そういう連中は生まれながらに魔力量がけた違いに多いことになる。

そして、その魔力量こそが戦力に大きな影響を与えてくる。

ノルンはそれが分かっているからこそ忠告してきたんだろう。

今の僕の強さのまま東方へと向かえば、いずれ大きな壁にぶち当たる。

それを言わざるを得ないほど、ノルンから見た僕はまだまだ準備不足だということになる。

(けど、それじゃ、どうしろっていうのさ。今だって、毎日剣の訓練もしているし、魔力量を上げるように努力しているんだよ? それだって、そんなにすぐに効果が出るもんじゃないでしょ)

(ある、と言ったら?)

(え? 何があるの?)

(強くなる方法がある、と言ったらどうする?)

(……そんな方法があるの? あるのなら、もちろん知りたい。どうするんだ、ノルン?)

(俺と契約しろ、アルフォンス。そうすれば、今よりも強くなれるぞ)

契約?

なんか急に変なことを言い出したな。

けど、強くなれる方法、か。

それが本当ならば知りたい。

そう思った僕はノルンが言い出した契約について、さらに話を聞くことにしたのだった。