軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだ出ぬ影響

「どうだ、カイル? カイザーヴァルキリーに記憶させた情報を検索する魔法はできたか?」

「無茶言わないでよ、アルス兄さん。そんなにすぐにできるはずないでしょ。まだ、全然だよ」

「そうか。まあ、それもカイルにしかできない重要な仕事だけどな。お前にはもう一つ、重要なことが待っているのはわかっているよな?」

「え、何かあったっけ?」

「おいおい。忘れてくれるなよ、カイル。もう秋になったけど、そろそろシャーロットが嫁いでくることになっているんだぞ。忘れていましたじゃすまないんだぞ?」

「ああ、ごめん、アルス兄さん。情報検索のことで頭がいっぱいだったから、うっかりしていたよ。でも、準備自体は事前に進めていたから大丈夫だよ」

「それならいい。とりあえず、俺は先に東方のバリアント城に行っておくぞ。カイルも準備が整い次第、転送魔法陣を使って来てくれ。いいな?」

「うん、わかった」

大丈夫だろうか?

どうやら、カイルのやつはかなり精力的に情報検索ができる方法を模索し続けているらしい。

が、やはりそう簡単にはできないのだろう。

毎日カイザーヴァルキリーとにらめっこしながら、ウンウンと唸っている。

そんなカイルに声をかけてから、俺はひとまず先に東方入りすることにした。

今年の春に話をまとめていたが、ようやくシャーロットがカイルのもとに嫁いでくる。

いや、ようやくというのは適切な言葉ではなかったかもしれない。

東方でも強国の一つであるブリリア魔導国の第三王女であるシャーロットとの結婚が、春に決まって秋に行われるというのはなかなかのスピード婚であると言えるだろう。

なにせ、話をまとめたあとすぐに本国に戻ったシャーロットが周囲を説得して結婚の許可をもらったのだから。

そこまでカイルとの結婚を喜んでくれるというのであれば、婚姻話をまとめた仲介役である俺も嬉しい限りだ。

この結婚は失敗できない。

王女との結婚に臨む花婿としてカイルを恥ずかしい目に合わせてはいけないだろう。

気合を入れて準備をすることにしたのだった。

※ ※ ※

「よう、エルビス。調子はどうだ? もうこの天空城には慣れたか?」

「お待ちしていました、アルス様。ええ、もうすっかり慣れましたよ。ですが、この天空城ではすることが限られているので、想像以上に暇なのが問題ですね」

「それもそうだな。でも、あのあと、結局下に降りられるようには手筈を整えておいただろ? 頼んだ仕事はどうなっている?」

「もちろん終わっていますよ。報告書を読みますか?」

天界バルカニアから転送魔法陣を使って東方へとやってきた。

そこには俺が作り上げた天空城バリアントがある。

その城主となっていたエルビスが出迎えてくれた。

エルビスが言うには、この天空城は目新しいもののすぐにすることがなくなり、飽きてしまったということだった。

まあ、それはそうかもしれない。

なにせ、巨大な街すらも含んだ土地を空に浮かせたバルカニアと違い、バリアントは城と魔導飛行船の発着場のための広さくらいしかなかったのだ。

空に浮かんだ城があるだけで、食べ物などは転送魔法陣を使って送られてくるので生きていくことはできる。

が、自給自足などは一切できないただの浮遊石の上の城での生活はさすがに辛かったらしい。

途中で泣き言を言って、俺に陳情にきたエルビスのことをさすがに突き放すのはできなかった。

もともと、全く文化の違う東方の集落であっても、スーラや他の住人に積極的に話しかけたほどのコミュニケーション能力を持つエルビスを天空城で軟禁のような生活をさせること自体が無理だったのだろう。

そう判断した俺は結局バリアント城からスーラのいる集落へと降りる手段を用意することにしたのだった。

そして、そのついでに仕事を頼んだ。

その報告書をエルビスが手渡してきたので、目を通して内容を確認する。

「思ったよりも俺の魔力量が上がっていないから、どうなったかと思ったが……。どうやら、独占する方向に進んでいるみたいだな」

「はい。そうみたいですね。調べた結果、【命名】を持つ者たちも最初は周囲の者たちに名付けをしていたようです。ですが、次第にその動きは鈍くなりました。今では自分たちの集落でのみ【命名】を使っているようです」

「……やっぱり【整地】の影響が大きいんだろうな」

「だと思います。名付けをして魔法を使えるようになる恩恵は大きいですが、その魔法を活かすには土地が必要だからです」

「なるほどな。今はまだ、【整地】する土地が余っている。だけど、それもいつかは飽和するだろうな。事態が動くとしたら、それからか」

報告書に書かれた内容についてエルビスに聞きながら話し込む。

その報告書とは、今年俺が名付けした連中のその後の行動についてだった。

俺は今年、息子のアルフォードに生前継承をした。

そして、その後に東方にやってきて、シャーロットの部下やバリアント近くの集落にすむ住人に名付けを行った。

生前継承したために、今年名付けを受けた連中はフォンターナの魔法である【氷槍】などは使えない。

さらに、俺がアイシャに頼んで【散弾】や【塩田作成】なども使用不能状態にしてもらった。

その代わりではないが、今まで使えなかった、新しく覚えた【命名】をそいつらは使うことができる。

【命名】と唱えるだけで名付けの魔法陣を出現させることができ、それによって他者へと魔法を授けることができるのだ。

【命名】という魔法が使えるようになれば、そいつらが魔法を使えない者に名付けをして、さらにその名付けられた者たちが他の者を、と連鎖していく可能性も考えていた。

そうなれば、そのつながりの大本にいる俺には魔力パスを通じて加速度的に魔力量が増大するのではないか。

そんな予想もしていた。

が、実際にはそうはならなかった。

俺の魔力量はたしかに上がった。

が、いきなり全世界の人間から魔力を吸い上げるということもなく、むしろ微増したかな? というくらいである。

ちなみに現在は【回復】の次の位階である【浄化】を使えるが、【聖域】は使えない状態だ。

なぜ魔力量が急上昇していないのか。

おそらくだが、【命名】はあまり積極的に行われていない。

理由はいくつかあった。

が、その一番の影響は魔法の種類と土地が限られている点にある。

攻撃魔法の無くなった俺の魔法で一番影響力があるのは土地を改良するための魔法だろう。

【身体強化】や【瞑想】なんかも役には立つが、それよりも【整地】や【土壌改良】のほうが受ける恩恵は大きい。

なにせ、バリアントは追放された者たちが行き着いた、霊峰の麓という険しい自然環境の中だったからだ。

畑や田を作るのにも非常に大きな労力がいる。

木を切り、土地を均して、作物を育てられるようにするのは並大抵の労力ではない。

それが、【整地】などがあれば呪文一つを唱えるだけでも簡単にできるのだ。

魔法を得た者たちはまず間違いなく、今までの苦労はなんだったんだと思いながら土地を耕し、作付けしている。

そんな者たちが、わざわざ他の土地に行き、まだ魔法が使えない者に対して「お前も魔法が使えるように名付けしてやろうか?」などと言うだろうか?

言わないだろう。

実際に、エルビスが調べた結果でもそうだった。

彼らは【命名】という魔法を持ちながらも、それを拡散することなく、農地を増やすことを優先したのだ。

おそらくはしばらくそれが続くのではないかと思う。

一所懸命農地を増やし、食料の収穫量を増やそうとする。

だが、それもいつまでも同じようには続かないだろう。

なぜなら、土地の面積というのは限られているからだ。

農地に適した場所という条件が付けばさらに限られる。

特に、この辺で稲でも育てようと思えば水も必要になるだろうしな。

おそらく、あと数年ほどしないと【命名】の使い手は増えていかないだろうと感じた。

農地を広げきり、さらに手広くやろうとして、他所の人が住む土地に向かうか。

あるいは、収穫量が増した集落を狙って他の勢力から襲われるか。

その集落がずっと今と同じように穏やかな生活を送り続けるということはないだろう。

もし、襲われた場合は攻撃魔法なしで抵抗できるかどうかも未知数だ。

まだ、【命名】という魔法を作った影響がどのように波及するかバリアント周辺でははっきりと分からなかった。

そして、シャーロットの部下に名付けしたものもそれほど広がりを見せていないのではないかと思う。

なぜなら、やはり俺の魔力量が爆発的に増えてはいないからだ。

きっと、ブリリア魔導国側が【命名】の存在に気が付き、何らかの対処を行ったのだろう。

【命名】について、なにか言ってくるかな?

シャーロットの輿入れを前に俺は天空城で物思いに耽りながらも、受け入れ態勢を整えていったのだった。