軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔力の流れ

「シャーロットちゃん、準備はできたかしら?」

「はい、シャルル兄様。準備は問題なく終わっています」

「そう。いいわね。似合っているわよ、シャーロットちゃん。あなたをお嫁に出すのが惜しいくらいだわ」

「ありがとうございます」

ついにこの日が来ました。

ブリリア魔導国の第三王女である私が霊峰を越えた先にあるフォンターナ王国の人間と契りを結ぶことになりました。

今いるのはアトモス大渓谷に最も近い一番大きな街です。

私が婚姻するに当たり、ここまで兄であるシャルル兄様が身辺警護などを担ってくれたのです。

ここで、フォンターナ王国側からの迎えを待ち、歓待の宴を行います。

名目的にはブリリア魔導国とフォンターナ王国の今後の協力と繁栄を願いながらともに食事をし、酒を飲み交わす。

そして、その後に私は霊峰の向こうへと旅立つのです。

そうなれば、もうブリリア魔導国には戻れないかもしれません。

最後の時を迎えるまで可能な限り一緒にいてくれようとするシャルル兄様には感謝しかありません。

いつも女性言葉でしゃべるお兄様は少し変わっていると言えるかもしれませんが、以前私が嫌いな貴族との結婚話を断った際にかばってくれたこともありました。

あの時、王家に有利な結婚を拒否した私のために矢面に立ってくれて、アトモス大渓谷の仕事を任せてくれたのも、シャルル兄様でした。

だからこそ、今回の話に責任を感じているのでしょう。

シャルル兄様が私をアトモス大渓谷に送らなければ、今回の話はなかったのではないか。

明るく優しいお兄様が時々思いつめた顔をしているのを見て、私の心も張り裂けそうでした。

ですが、心配は要りませんよ、シャルル兄様。

私、シャーロットはきちんと最後まで自分の使命を全うしてみせましょう。

なぜなら、それが私の責任でもあるからです。

フォンターナ王国のアルスとの契約で私が持ち帰ったものの影響は非常に大きいものでした。

魔装兵器や岩弩杖との取引で得た魔法鞄や魔法剣、あるいはその他の財宝もブリリア魔導国を大きく震撼させました。

そして、魔法を使うことができるようになる、というのも衝撃を与えました。

それまでは、特別な達人がなし得る奇跡の術でしかなかった魔法を私やその部下が使えるようになったのです。

しかも、その魔法使いを増やすための魔法陣の存在すら判明しました。

その魔法陣は古代魔導文字が使用されていて非常に難解ではありましたが、段々と解析が進みました。

これで、独自に魔法使いを増やせるかもしれない。

そんな期待が膨れ上がったときです。

新たな問題が出てきてしまいました。

私の使えない魔法を使える部下が現れたのです。

ある日、なんの前置きもなく、急に新たな魔法を使用可能になったといいます。

いえ、それ自体はすでにそのような事例があるとは報告されていました。

個人の持つ魔力の量がある一定値を超えると急に魔法が使用可能になるのです。

ですが、それは今までであれば全員使える魔法は共通しており、魔力量によって使える魔法の数が決まるというものだったのです。

ですが、新たな魔法である【命名】は違いました。

私よりも魔力量の少ないはずの部下が急に【命名】という魔法を使えるようになっていたのです。

【命名】は呪文を唱えるだけで、古代魔導文字で記された名付けの魔法陣が起動するというものでした。

そして、この魔法陣を展開しながら他者に名付けを行うと、その相手に魔法を授けることができる。

わずか数日ですが、この魔法の存在に気づくことが遅れてしまいました。

なぜなら、【命名】を使えるようになった部下たちは、私や先に魔法を得ていた者が【命名】を使えるようになっていないということを知らなかったからです。

きっと、自分が使えるようになっているなら他の者も使えるようになったはずだと考えたのでしょう。

今年新たにアルスから魔法を授けられた部下のうちの一部はそう考えて、そして、新たに得た魔法を使ってみたようでした。

全員ではなく数人ですが、それでも何人かの部下が不用意に他者へ【命名】してしまったのです。

そして、その【命名】は全くなんの問題もなく成功しました。

これによって私の部下以外に魔法を使えるようになる者が出現したことになります。

これが非常に問題でした。

が、そこから新たに見えてくることもありました。

【命名】によって魔法を手に入れた者たちは喜びました。

そして、彼らには私の部下であるという責任ある立場ではなく、自由に魔法を行使しだしたのです。

つまり、彼らは遠慮なく、更に他者へと【命名】したのです。

気がついたときには、魔法を使える集団が出来上がっていました。

最初に報告を受けたときには耳を疑ったものです。

私が使えない魔法を部下が使えるようになっているとは思いもしなかったからです。

これは部下の誰よりも魔力量が多い王族であるというのが災いしたと言えるかもしれません。

私が使える魔法内でしか、部下は魔法を使えない。

そういう先入観があったからこそ、油断していました。

ですが、事態を把握したのちすぐに対処は行いました。

広がった【命名】の魔法を使用可能な集団を特定し、すぐに【命名】の使用を禁じたのです。

追跡調査を行い、誰が誰に魔法を伝授したのかを確認し、特定しました。

幸い、比較的早く気がついたおかげで、それ以上の拡散は防ぐことができました。

そして、そこでわかったこと。

それは、魔法行使者集団の発生の起点となった者の変化です。

何も考えずに安易に【命名】を使用したことを問おうと集めた者たちをみて、その者たちの魔力が先日までよりも明らかに増えていたことがわかったのです。

ここに至って、新たに判明した事実。

それは、魔法陣によって他者へと魔法を授けるという行為には、魔法を授けた者にも恩恵があるということでした。

つまり、魔法を授けた側はおそらく自分から発生した集団から魔力を得て、自己の魔力量を増やす特性があるようなのです。

あの魔法陣には今まで判明していなかった効用がある。

それがわかった瞬間でもありました。

もしかしたらアルスの狙いはそこにあったのかもしれません。

私との取引で魔法を授けることになったときから、私たちの魔力を奪うことを狙っていたのかもしれないのです。

まだまだ私たちの知らない秘密がこの名付けの魔法陣には隠されているのかもしれない。

だからこそ、なおさら今回の結婚のお話は失敗できなくなりました。

また一つ、探らなければならない情報項目が増えた私は今回の結婚を機会に調べ上げてなんとしても本国へと報告しなければなりません。

それがどれほど難しくともやり遂げなければなりません。

シャルル兄様に笑顔で対応しながらも、心の準備を整えていた私に報告がもたらされました。

アルスが乗る空飛ぶ乗り物、魔導飛行船なるものがここに到着した、と。

私を迎えにきたその魔導飛行船を出迎えるために、私は警護をするシャルル兄様と一緒にその魔導飛行船が見えるところまで出向くことにしたのでした。