軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍事演習

「御覧ください、ガロード様。あちらに布陣しているのがフォンターナ軍、そして、向こうに布陣しているのがルービッチ軍です。この後、両軍がこの平原で激突する合戦が行われます」

「……アル、どういうこと? ルービッチ家は味方になったんじゃないの? なんでフォンターナ軍ともう一度戦うことになったの?」

「ああ、ご心配には及びません、ガロード様。これは軍事演習ですよ。両軍が実戦のように戦いますが、あくまでも訓練の一環です。ですがよく見ておいてください。フォンターナ軍は旧来の軍の運用方法を行うルービッチ軍に対してどのように戦いを進めていくのか、しっかりと見ておくことが重要です」

ルービッチ家の当主ブラムスが直談判をしてから少し時間が過ぎた。

ルービッチ家の貴族としての力を示したいという熱い思いを汲んだ俺は、ブラムス率いるルービッチ家に対してその場を提供することにした。

実際にフォンターナ軍と戦うことに決めたのだ。

が、だからといってすでにルービッチ家は領地を失っている。

今、力を示したいと声を大にして叫んでいるのはルービッチ家とそのルービッチ家を裏切らずに従った騎士家の人間だ。

基本的には冬のルービッチ攻略戦で多くのルービッチの騎士は負けを認めて名を捨てて、フォンターナへと忠誠を誓っている。

なので、あまり数がいなかった。

そのため、実際に戦うとなれば両者の戦力差は明らかでまともに戦いにはならない。

そんな状態ではたとえルービッチ家とフォンターナ軍が戦って勝っても、ルービッチ家の心情は今とはほとんど変わらないだろう。

なので、俺はなるべくイーブンな戦いを用意することにしたのだ。

お互いの軍の数が釣り合うようにして、模擬戦、またの名を軍事演習として戦うことにしたのだ。

これにはいくつかの意味がある。

まずはルービッチ家に対して勝利することで軍制改革をさらに進めたかったため。

そして、もう一つはガロードの教育のためだ。

ガロードはフォンターナ王国の王家の人間であり、ただ一人の存在でもある。

そう簡単に戦場に連れていってカルロスのように危ない目にあってもらっては困る。

が、だからといって大きく成長し、何人かの子どもをつくって後継者を残すまで、一切戦場に出ることもないままというのも、それはそれで問題があった。

今の世で全く戦場に出たことも無く、戦を知らないというのもよくないのだ。

そこで、今回のことをきっかけに軍がどのように動いて戦っているかを外から観戦する機会にすることにしてみた。

フォンターナ軍とルービッチ軍が向かい合っている横から塔の上で見下ろしての観戦ならば、実際にどういうふうに軍が動いたかもよく分かるだろう。

「エランス殿もご協力ありがとうございます」

「いや、いいさ、バルカの。今のルービッチ軍にいるのは新しいルービッチ地区の統治者になった俺に従わなかった連中や訳有り者たちが多いからな。なんなら実際にあそこにいる連中が死んでも俺はかまわないさ」

「それはまた穏やかではありませんね。一応、両軍で使う武器は特殊なものになっています。衝撃を受けると赤い樹液が飛び出る木の枝を使った木剣や矢を使用しているので、その樹液で体が汚れた者は死傷者として退場することになっています。ですので、そんなに死ぬことはないでしょう」

「でも、フォンターナ軍にはヴァルキリーに騎乗した騎兵もいるだろ。ヴァルキリーの突進攻撃をくらえば無事じゃ済まないぞ、アルス」

「そうだけど、それくらいはまあ仕方がないよ、バイト兄。多少の怪我は衛生兵の訓練にもなると思って我慢してもらおう」

塔の上でガロードの他にビルマ家のエランスやバイト兄などとも話をする。

軍事演習を行うのはフォンターナ軍の二個大隊からなる6000ほどの軍だ。

それに対して領地のないルービッチ家が率いているのは、元ルービッチの騎士で本来はエランスという辺境伯の下についたはずだが反抗的なことが多かった騎士連中、あるいはワグナーと一緒にエルメス領に転封になったもののそれが不満の元ウルクの騎士、あるいはフォンターナ王国で罪を犯した者、さらにはこの軍事演習でガロードという国王の眼に少しでも自分を見てもらおうと考えた力自慢たちだった。

フォンターナ軍とほぼ同数まで無理やり数を揃えただけで練度は違うが、それでも一応数字的には互角の戦力と言えるだろう。

わざわざ軍事演習を行うのは、ガロードへの教育や軍制改革といった狙い以外にも、軍事演習本来の目的である訓練であるという面も当然ある。

同数同士の軍で合戦を行った場合、どのように勝負がつくかはその軍を指揮している将軍や指揮官の能力が大きく関わってくる。

俺も自分が軍を指揮しているときは地上から報告を受けて指示出しをしているので、こうして外から、しかも塔の上から眺めることはなかなかない機会だ。

外部から見ることで軍の動きを把握しやすく、問題点を把握できやすくもなるだろう。

今後の軍のためにも役に立つはずだ。

「ねえねえ、ルービッチ軍はブラムスが指揮を執っているんだよね? じゃあ、フォンターナ軍って誰が指揮しているの? アルがフォンターナ軍を指揮するんじゃないの?」

「いえ、違いますよ、ガロード様。この軍事演習で二個大隊からなるフォンターナ軍の総指揮を執ることになるのはカイル・リードです。軍の構成としては通常歩兵の他に騎兵、工兵、通信兵、偵察兵が存在します。それらをどのように使って軍を操り、剣聖と同等の剣術を使用するルービッチ家と相対するのか、私も注目しています」

「カイルが指揮を執るんだ。大丈夫なの?」

「大丈夫でしょう。なにせ、軍の指揮を執ることにかけてはカイルは私以上ですよ」

「ほんとう? すごいんだね、カイルは」

「ええ。では、そろそろ始めましょうか。両軍、準備はいいか。始め!」

本当は俺が出ようかなと思っていたのだが、リオンから待ったがかかった。

この軍事演習の目的のひとつに軍制改革をしたフォンターナ軍としての強さも見せたいのであれば、俺の個人技を見せることのないように、ほかの人間に軍を任せたほうがいいのではないかという意見だ。

それももっともだろう。

軍を適切に操れる者が、軍制改革を行ったフォンターナ軍を導いて勝利を掴んだほうがいい。

それもなるべく、個人の強さに頼らない戦い方をしてくれたほうがいい。

というわけで、白羽の矢が立ったのがカイルだった。

カイル自身には戦闘用の攻撃魔法は何一つない。

なにせ、カイルは【氷槍】なども使えない事務魔法だけしか持っていないのだから。

だが、これでカイルの指揮するフォンターナ軍に剣聖の剣術が魔法として使えるルービッチ軍が負ければ言い訳もできないだろう。

こうして、カイルが指揮するフォンターナ軍とルービッチ軍は平原にてぶつかり合うことになったのだった。